第8話 はぐれる2人
作者: 邪神   2012年07月11日(水) 19時38分38秒公開   ID:LsmXA1cmAZk
9月29日 午後22時04分



須田恭也と名乗る男がオーロラの壁の向こうへ消えた瞬間、俺は意識を失った。

(あの男は何者だったんだ?)

意識を失っている最中、俺は先程会った茶髪の男が言っていた、「この世界で何をすべきか」について考えていた。

「…し、正志、正志っ!」

クレアが俺の身体を揺さぶりながら声を掛ける。俺は両目をゆっくりと開けた。

「…っ!クレアか……」

クレアに揺さぶられながら俺は呟いた。

「大丈夫?」

俺は「ああ」と返事を返しながら、須田恭也から託されたグレネードランチャーの炸裂弾と火炎弾と冷凍弾の3つを彼女に渡した。

「俺は大丈夫だ。それより、これを受け取ってくれ」

「えっ!?ええ、ありがとう……」

弾丸を受け取った後、クレアはずっと俺の目を見つめていた。

「なんだ?」

俺が尋ねるとクレアは顔を赤くしてそっぽを向いた。

「なんでもないわよ」

辺りを見渡した俺はレオンがいないことに気づいた。

「レオンはどこだ?」

「あなたが気を失ったからハンカチを濡らしに行ったわ」

クレアはそう言うと愛銃のブローニングHPに弾丸を装填した。

よく見ると近くにゾンビが3体ほど倒れていた。「こいつら、クレアとレオンが倒したのか?」

「そうよ。正志が急に倒れた後、そこのドアを突き破って現れたから、あなたの『頭部を撃て』というアドバイス通りに片付けたわ」

クレアが笑顔でサムズアップをした。

俺は彼女にサムズアップを返し、ゆっくりと立ち上がった。

レッグバッグからサムライエッジを取り出し、ガムを再び口に放り込んだ。

「それ、ガム?」

クレアが物欲しそうな目で聞いた。俺は頷いた。

「…欲しい?」

俺が聞いた瞬間、クレアは再び顔を真っ赤にしてモジモジしながらコクッと首を縦に振った。

「はい、ライムミント味だけど」

ガム2粒を彼女の手のひらにそっと乗せた。受け取ったクレアはゆっくりとガムを1粒口に入れた。

「ありがとう、おいしい」

照れながらクレアは口をモグモグさせている。

「それはそうと、レオンはまだか?」

俺はクレアに尋ねた。すると彼女は浮かない顔をして「そういえば遅いわね」と答えた。

その時、クレアのジャケットから「ピピッ」というけたたましい電子音が鳴り響いた。

「あれ?」

(確かこの音は、ゲームでクレアがレオンからもらった通信機の音……!)

クレアが通信機のボタンを押して会話に応じた。

「こちらクレア、レオン遅いわよ!今どこにいるの?」

クレアが通信機に向かって問いかけると激しい雑音が聞こえた。

『クレア、今屋上にいる。早く来てくれ!』

レオンの叫び声が聞こえる。

「どうしたの!?」

『屋上にヘリコプターが突っ込んで炎が警察署全体を包み込んでいる!』

通信機からは彼の叫び声と水が大量に流れる音が聞こえてくる。恐らく通信機でクレアと話しながら、水で炎を消そうとしているのだろう。

「わかったわ、すぐ行く!」

クレアがそう返事して通信を切った。

「クレア、こっちだ」

俺はクレアの腕を掴んで走り出した。

「えっ何!?」

「こっちに屋上の道がある、急ぐぞ!」

俺は走ってそう言いながら、ゲームの『バイオハザード2』で覚えたラクーン警察署の地図を頭から引っ張り出していた。

途中、ロビー真上の2階通路に出た俺たちは1階に続く梯子を下ろし、先へと急ぐ。

「まだなの?」

クレアが叫んで尋ねる。

「もう少しだから」

見えてきたドアを蹴り飛ばして開けると、そこは2階の待合室だった。


ソファーに置かれていたハンドガンの弾丸を掴み取ると俺たちは再び走り出した。

待合室のドアを蹴り飛ばし先へ進もうとすると、俺とクレアから見て左側の廊下が火の海だった。

「レオンは大丈夫かしら?」

「大丈夫さ、俺達が助けるんだ!」

俺達は火が回っていない方のドアを開けた。すると先が長い廊下に出た。

目の前にはまたしても大量のゾンビがいた。見たところ5体ほどはいるだろうか。

「さっさと片付けるぞ、クレア」

「そうね」

俺はショットガンを、クレアはグレネードランチャーを取り出しゾンビ達に向けた。


何発もの銃弾がゾンビ達に向かっていき、壊死した体を貫通する。

凄まじい銃声がした後、ゾンビ達は倒れた。

俺は警官の制服を着たゾンビの体を調べた。ポケットからハンドガンとショットガンの弾丸を発見し、ハンドガンの弾丸をクレアに渡した。

「さあ、急ぐぞ!」

ショットガンからサムライエッジに持ち替え俺達は走り出した。

一本道の廊下を過ぎた後、俺達から見て左に道が別れていた。

サムライエッジに持ち替え、俺達は左の道へ進んだ。

最後まで進むと金属製のドアがあった。






それを蹴破ると冷たい風を肌に感じた。

(よし、外に出た。確かここの階段を上がって……)

クレアと目の前にある階段を進んでいく。それにつれ何かが燃えているような悪臭が鼻を刺激した。


「これ使って。煙を吸いこんだら大変なことになる」

ズボンのポケットからハンカチを取り出してクレアに手渡した。

クレアが首を縦に振って口にハンカチを当てた。


(あの男が言っていたことが本当かどうかはわからない……。だけど、元の世界に戻ることが出来ないんなら、クレア達だけでも助ける!)


なるべく息をしないようにしながら、慎重に前に進む。ふと空を見渡すが、真っ暗だった。


階段を上がり終わった俺達はハンドガンを構えた。

目の前に、壊死した体が炎に包まれているゾンビとリッカーの大群が姿を現したのだ。


「ちっ……!ここにも居やがったのか!?こんな数、俺達2人じゃ対処しきれないぞ!」

「正志、どうする!?」

追い詰められた声でクレアが叫んだ。


見た限りでは、俺達の目の前にゾンビが、そのすぐうしろにリッカーがいるようだ。

俺はサムライエッジをゾンビ達の頭に向けて言った。

「クレア、安全な場所に引き返せ。俺はゾンビだけでも片付ける。君はレオンに連絡してくれ」

俺はサムライエッジのトリガーを引きゾンビ達の頭部を撃った。

「でっ、でも…………」

クレアが口ごもった。俺はゾンビの頭部を撃ちながら叫んだ。

「早くっ!!!」


「正志はどうするのよ!?」

クレアが叫び返した。俺はサムライエッジに弾丸を装填し言った。

「……俺も後で必ず戻る。約束する。だから早く行けっ!!」

クレアと言い争っている中で10体ほどのゾンビは倒したが、数は増していくばかりだった。


『この世界を救うことが出来るのは、“全て”を知っているあなただけだ』


先程聞いた須田恭也の言葉が、ふと俺の脳裏をよぎった。

(須田、教えてくれよ。世界を救うって、一体どういう意味なんだよ!?)

俺はゾンビ達の頭部を撃ち続けた。頭部を撃たれたことで生命活動を停止した凄まじい数のゾンビが、次々に地面に倒れていく。

俺はうしろを見た。クレアの姿は見当たらない。どうやら無事に引き返したようだった。






――その時だった。

ザクッ……。

腹部に激しい痛みが走った。苦痛に耐えながら下を見た。1匹のリッカーが俺の腹を長い爪で刺していた。

ハアアァァァァァァァァ…………………。

唾液を垂らしながらリッカーは長い爪を立てた。その表情は笑っているようにも見える。

「ぐっ……」

俺は痛みと戦いながらショットガンを取り出し引き金を引いた。

――バン…!

ショットガンをリッカーの頭部に向けて撃った。銃弾が頭部を貫通し、大量の血液と脳髄が飛び散る。

「ごほっ!がはっ…!」

あまりの痛みに俺は倒れた。そして、大量に吐血した。吐き出した血が地面に広がる。

なんとか立ち上がり、ショットガンの弾を撃ちつくすまで俺はトリガーを引き続けた。

「……チクショウ、チクショオォォォォォォォォっ!」

無我夢中に叫んでショットガンを撃ち続けた。弾丸が無くなったら、また装填しなおして…そんな動作を俺は何回も続けた。

(だ、ダメだ……。もう身体が…、意識がもたない。…もうダ…メ…だ………………)

しかし、体力が限界を迎えていた。俺は腹部に手を添えた。大量の血がべっとりとつく。

できる限りの力を使って先程通ってきた鉄製のドアを開け、廊下に戻って閉めた。

俺はゆっくりと壁にもたれかかって崩れ落ちた。

(…ク…レ……アの……奴、無事…に逃げ…られ…たか…な……?)

そんなことを心の中で思うと、クレアの優しい笑顔が目に浮かんだ。

そしてそれを最後に、俺の意識は闇の中に消えていった………………。
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