番外編 正志の秘密
作者: 邪神   2012年07月06日(金) 19時53分29秒公開   ID:ruLD3r9Qyus
【PAGE 1/2】 [1] [2]


?月?日 ??時??分
※西山樹里が登場。時系列は物語の途中で、「正志の世界」での出来事になります。



正志達がラクーン警察署で捜索をしていた時と同時刻、正志の世界の日本のとある地方に一組の親子がいた。

綺麗な川が流れている田舎だろうか、その場所にある和風の豪邸の庭でその親子は遊んでいた。

「ほら、翔(カケル)!キャッチボールして遊ぼう」

女性が大人用のグローブを左手にはめて、子どもに言った。

「うん、お母さん遊ぼう!」

子どもが元気良く答えて女性の所に向かう。翔と呼ばれたその子どもには、正志と女性の面影があった。

女性は子ども用のグローブを息子に渡し、体に当たっても怪我を負わない柔らかいゴムボールを手に取った。

30歳半ばには見えない若々しい美貌、茶色のサラサラしたショートヘアにスラリとした長身の抜群のスタイル。左手の薬指に米粒大ほどのダイヤモンドが付いた指輪をはめている。彼女の名前は西山 樹里(ニシヤマ ジュリ)、正志の義理の母親である。年齢は36歳。

男の子の名前は西山 翔(ニシヤマ カケル)、正志と樹里の間に生まれた息子。年齢は5歳。

樹里は翔を連れて自身の実家に里帰りしていた。といっても樹里の両親は既に病死しており、この世にはいない。そのため、家には樹里達しかいなかった。

(正志、1人で大丈夫かしら)

キャッチボールをしながら樹里は心の中で心配な口調で呟いた。

樹里は大学と仕事が両方とも休みで暇が出来た正志に「一緒に行こう」と提案したが、彼は笑顔で「たまには2人だけで楽しんできなよ」と言って断ったのだ。大学で法律を学びながら司法書士の事務所で仕事もこなしており、それに加えて育児も両立しているため、疲れが溜まっているのも理由の1つだった。

(後で電話しよう)

心の中でそう決めた樹里は、キャッチボールを続けた。

「お母さん、お腹すいた」

翔がボールをグローブに入れながら言った。

「よし、そろそろご飯にしようか。家に戻ろう」

樹里は翔の手を優しく握り、家の中に連れて行った。

翔をリビングのソファーに座らせると、樹里はズボンのポケットから携帯電話を取り出した。

待ち受け画面には西山一家が笑顔で写っている画像を設定している。これは翔が3歳の誕生日を迎えた年に3人で旅行に行った際に撮影したもので、樹里のお気に入りの1枚だ。

「翔、ちょっと待っててね。ご飯すぐ作るから」

樹里は翔の頭を優しく撫でると、キッチンに向かった。翔はリビングで子供向けのテレビ番組を見ていた。

携帯の電話帳を開き、その中から「西山正志」の項目を選んで通話ボタンを押した。

『お客様がおかけになった電話番号は電源が切られているか、または電波の通らない場所におられます。改めておかけ直しください』

(……出ない。また後でかけなおそう)

しかし、電話は繋がらない。寝ているのだろうか。

樹里は携帯をポケットに入れ、冷蔵庫の扉を開けようとした時、頭に声が聞こえてきた。

『……すか?……ますか?聞こえますか?』

樹里は辺りを見回した。しかしテレビを見ている翔以外は誰もいない。

「誰かいるの?」

樹里が呟くと心に返事が帰ってきた。

『聞こえたんですね』

返事が聞こえたと同時に、周囲が黒く染まっていく。

「こ、これは……」

樹里は立ったまま呆然としていた。すると目の前が光に包まれ、その中から白いワンピースを着た1人の女性が姿を現した。

「あっ、あなたは……!」

樹里は自分の目を疑った。現れた女性が自分と瓜二つだったからだ。正確には樹里を一回り若くした感じだった。

「驚きました。本当に私にそっくりなんですね」

女性も樹里を見て言った。

「あなたは一体?」

樹里が尋ねると、女性は深くお辞儀をして答えた。

「はじめまして、大倉 詩織(オオクラ シオリ)と申します」

大倉詩織、樹里はその名前に心当たりがあった。正志から聞かされていた記憶がある。

「もしかして、正志の幼馴染で恋人の……?」

樹里の言葉に詩織が驚いた様子を見せた。

「……!知っているんですか?」

詩織が言うと、樹里は首を縦に振って答えた。

「正志から聞かされたことがあるの。幼馴染で恋人だった女の子がいて、結婚まで誓い合っていたと……。でも正志の本当の両親の“力”で殺されてしまったって」

樹里の言葉に詩織は頷いた。

「その通りです。私達が10歳だった時、財閥の御曹司だった彼に別の財閥の令嬢との結婚話が上がりました。そこで当時彼と親しくしていた一般市民の私が邪魔になり、家族ごと誘拐し抹殺したんです」

詩織の言葉には悔しさと怒りが混じっていた。

「そのことを偶然知った正志は、あなた達を助けるために監禁された場所に向かった。でもその途中に事故に遭って記憶喪失になり、私と私の元夫があの子を助けたのよ」

樹里は言った。

「私と夫との間には子どもがいなくてね、正志を気に入ったこともあって養子としてあの子を引き取ったの」

樹里の言葉を詩織はじっとして聞いていた。

「そうですか……。彼が私を救おうとして」

そう呟くと詩織は下を向いた。表情を窺うことは出来ない。

「あなたには話さないといけないわね。それからどうなったのかについて」

樹里がそう告げると、詩織は「ええ、お願いします」と答えた。

「正志を引き取った時、私は24歳だった。それから6年後、あの子が高校生になって私が30歳になった時に私の夫・西山 翔一(ニシヤマ ショウイチ)が他界して、私は無気力になって何もやる気がおきない廃人のような状態になったの。私が働かなくなったから、正志が司法書士の資格を取得して、定時制の高校に通いながら司法書士の事務所で働き始めて……」

樹里は丁寧にゆっくりと説明した。

「ここからの話はあなたにとって辛いことかもしれないけど、聞いてもらえるかしら?」

樹里は警告する口調で尋ねると、詩織は言った。

「聞かなくても大体分かります、あなたのお子さんを見ていれば……」

詩織の予想は樹里が警告したことを意味する重要なものだった。

「夫を亡くした年のクリスマス、正志は私にこう言ったの。『母さん、俺は母さんと父さんに言葉では言い表せないくらい感謝してる。孤児だった俺を引き取ってここまで育ててくれたから。だから俺は恩返しがしたい。今の母さんを何とかしたいんだ。俺が母さんが負った心の傷を癒して、元の優しい元気な母さんに戻すから。父さんがいなくても俺が傍にいるから、寂しい思いはさせない』って……。そしてその晩、私と正志は“結ばれて”、禁断の関係になった」

樹里の最後の言葉の意味は詩織にとって悲しさを大きくさせるものだった。

「正志の献身的な支えで私は立ち直れた。そして私は妊娠して、息子の翔を出産したのよ」

「正志くんらしいですね」

樹里の言葉に詩織はゆっくりと言った。

「正志が大学2年生になった年、あの子の本当の両親が彼の居場所を見つけて連れ戻しにきたの」

「安永財閥の当主・安永真司とその妻・安永美紀ですね」

詩織が答えると樹里は頷いた。

「本当の両親と再会して記憶を取り戻した正志に、安永夫妻は財閥に戻るよう言ったんだけど、あの子は『俺の両親は平気で人殺しをするような奴らじゃない。俺の両親は西山家の人達だ。それに樹里と翔を置いていく気はない』と言って、それを拒否したのよ」

「私のことも思い出したんですか?」

詩織は一番聞きたかったことを尋ねた。樹里は頷いた後、再び話し始めた。

「そうよ、でもそれだけじゃない。あの子の両親が財閥の力を使ってあなたとあなたのご両親の命を奪ったこと・自分があなた達を救いに行こうとして事故に遭い記憶を失ったこと・もちろん最愛のあなたのこと……全てをね」

「彼は私のことについて何か言っていましたか?」

詩織の問いに樹里は息を呑んで答えた。

「『俺はあいつのことが好きだ。だけど、それは昔のことだ』と言っていたわ」

詩織はうつむいて再び何も話さなくなった。

「でもね詩織さん、正志はあなたのことを今でもずっと愛してると私は思うのよ。そうじゃなければ実の両親率いる財閥を潰したりしないわ」

「どういうことですか?」

疑問に思った詩織が尋ねる。

「両親と再会した後、記憶を取り戻した正志は財閥があなた達家族を殺害した証拠を集め始めたの。凄まじい執念で……。それから2年後、充分な証拠を集め終えたあの子は、それをマスコミ各社に匿名で公表したのよ。当時、財閥は業績が落ちていたこともあって、それがキッカケで倒産・崩壊したわ」

正志の執念によって財閥は崩壊し、彼の実の両親・安永真司とその妻・美紀は殺人教唆の容疑で、大倉家を直接殺害した夫妻の部下は殺人容疑で逮捕され、現在刑務所に収監されている。夫妻の部下は裁判で死刑判決を受けた。裁判を傍聴していた樹里は、判決を聞いた直後に正志が呟いた「詩織、おじさん、おばさん……仇を取ったよ」の言葉を未だに忘れられない。

「そうですか、よく分かりました。今の正志くんの状況を知ることができて安心しました」

詩織は顔を上げて笑顔を見せてそう言った。

「私もあなたに何もかも話せて少しスッキリしたわ。でも、私はあなたに謝らないといけない」

樹里の言葉に詩織は驚いた。

「なぜですか?」

「義理とはいえ親子関係だったのに、一線を越えた末に子どもを身篭ってしまい、結果的に私はあなたから正志を奪ってしまったことになるから」

樹里の言葉に詩織は首を横に振った。

「失った記憶を取り戻したうえで、正志くんはあなたを選んだのでしょう?それなら2人の間に私が入ることはできませんから」

詩織は閉じていた目を開けて言った。

「1つ聞いてもいいかしら?」

樹里が尋ねた。

「何でしょう?」

詩織が聞き返す。

「あなたは死者のはずよね。今のあなたは幽霊なの?」

「昔はそうでしたが、今は違います。説明すると長くなりますが、聞いていただけますか?」

詩織の言葉に樹里は笑顔でゆっくりと頷いた。

「まずこの地球の核(コア)には、あらゆる記憶が結晶になった泉があるんです」

「あらゆる記憶?」

樹里が聞き返すと詩織はゆっくりと頷いて話し始めた。

「はい。例えばカブトムシのそれぞれの種類の記憶の結晶や車のそれぞれの種類の記憶の結晶があります。人間1人1人の記憶の結晶もあります。もちろん、あなたや私のも……」

詩織は話を続けた。

「その記憶の結晶の泉の力はとてつもなく強大な力を持ち、制御しないと結晶の力が邪悪化して暴走する危険があるのです。それを制御できるのは、結晶の巫女と呼ばれる者のみ」

詩織の言葉に樹里はじっとゆっくりと耳を傾ける。

「10年前、死亡した私は死者の世界を彷徨っていました。しかし、先代の結晶の巫女の力によって生き返り、巫女の座を継ぎました」

「なぜあなたが継いだの?」

樹里が尋ねると詩織は答えた。

「先代の巫女が不治の病に侵され、自分にはもう時間がないと悟ったからです。しかし、後継者に相応しい人物が見つからず焦っていたところ、私を見出して生き返らせたんです」

詩織は指をパチッと鳴らした。すると黒い上空に映像が映し出された。

「先代の巫女はこう言いました。今の現代で1人の人をあそこまで一途に愛せるのは珍しい。私はそんなあなたに巫女の座を継いでほしい……と。しかし、生き返った代償は大きく…あれを見てください」

詩織は映像の方を指差した。樹里はそれをゆっくりと見つめた。

洞窟のような場所に広大な湖が広がり、その中心に緑色の光に包まれた膨大な数の記憶の結晶が泉として広がっていた。泉の下には人が1人暮らせるほどの設備が整っていた。

「泉の力を制御しなければならないため、あの場所から永久に出ることは出来ません。すなわち、巫女は命が尽き役目を次の巫女に譲るまで、地球の核に閉じ込められたままになるんです」

「あなたは巫女の座に就いたために、正志に会うことができなかったの?」

樹里が尋ねると、彼女は頷いた。

「生き返ったことを私は彼に伝えたかったのですが、巫女の座に就いた以上それはできなかったんです」

詩織の言葉に樹里は笑みを浮かべて言った。

「でもそしたら、私は正志に会えなかった。翔にも。だから私はあなたに感謝してるの。あなたにとってはすごく嫌で残酷なことかもしれないけど」

樹里の言葉に詩織は首を横に振った。

「いいえ。伝えることができなかったとはいえ、彼を危険な目に遭わせてしまったのは私のせいです。彼を愛する資格はもうありません。それにこの話とは別にあなたに話さなければならないことがあります」

「何かしら?」

樹里が尋ねると詩織は語り始めた。

「『バイオハザード』というホラーゲームをご存知ですね?」

詩織の質問に頷いた後、樹里が言った。

「ご存知も何も正志が大好きなゲームよ。それがどうしたの?」

「正志くんは今、その『バイオハザード』の全てが本当に存在する並行世界にいます。世界の崩壊を防ぐ戦士として」

⇒To Be Continued...

■一覧に戻る ■感想を見る ■削除・編集