第21話 留置所での戦い
作者: 邪神   2012年07月06日(金) 18時32分46秒公開   ID:ruLD3r9Qyus
9月29日 午後23時37分
エイダ・ウォン登場。



署長室の地下に隠されていた部屋で、G成体をなんとか撃破した俺達は下水道へ繋がる道がある留置所に向かっていた。

「ここにベン・ベルトリッチという男がいる。そいつを助けるぞ」

俺が言うとクレア達は頷いた。

「そのベンって男は何者なの?」

クレアが聞いた。

「フリーのジャーナリストさ、凄腕のね」

俺が答えると、クレアは納得した表情を浮かべた。

俺はポーチの中から元の世界で愛用していたスマートフォン・iPhone(アイフォーン)を取り出し、あるアプリを開いた。

そのアプリは俺が独自に開発した物で、『バイオハザード』の登場人物・クリーチャー・舞台の詳細な説明文と立体映像・画像が見れるもの。説明文は英語に翻訳することも出来る。

俺はアプリの中から『2』に登場するG成体を選択した。すると説明文と画像が画面に浮かび上がる。

画面に映っているG成体と先程戦ったG成体を頭の中で比べてみる。

(やっぱり違う。あのG成体とゲームに出てくるG成体はほとんど別物だ。やっぱり世界が崩壊し始めたことですべてが変わり始めているってことなのか……?だとしたら厄介になる。全ての結末を知っている俺がいても、その結末が変わってしまったら対処しきれなくなっちまう)

俺はiPhoneをポーチに入れて心の中でずっと考えていた。

「ねえ正志。1つ聞きたいことがあるんだけど?」

「なんだ?」

クレアが尋ねた。

「ゲームの世界の私って何者なの?恋人とかいるの?」

彼女の言葉に俺は頭の中からゲームの知識を引っ張り出して答えた。

「初めてゲームに登場した時は、この世界の君と同じ女子大生だったよ。最後に登場した時はバイオテロや薬剤被害者の救済を行うNGO団体・テラセイブに所属している。恋人はいないけど想い人はいたよ」

俺が言うとクレアは驚いた表情を浮かべた。

「私がNGO団体に……正直言って驚いたわ。それで想い人ってどんな人?」

クレアが尋ねてきたので、俺はiPhoneのアプリを開いてその“想い人”を選択して彼女に見せた。

「こいつがゲームの世界の君の想い人さ。名前はスティーブ・バーンサイド(Steve Burnside)。アンブレラ社主任研究員のアレクシア・アシュフォードに殺害された。年齢は当時17歳」

俺が丁寧に説明すると、クレアが言った。

「年下なの!?私、年下は性別認識圏外だからムリね」

クレアの言葉に俺は驚いた。年下はダメという設定がゲームの彼女にはなかったからだ。

「正志、ゲームで俺はどんな人間なんだ?」

今度はレオンが聞いてきた。

「初めて登場した時は同じ新人警官だったぜ。最後に登場した時点でアメリカ合衆国大統領直属の凄腕エージェントになってる」

俺はiPhoneをポーチに戻して答えた。

「俺がエージェントか……。想像できないな」

レオンが驚いた口調で呟いた。

「まあ世界が変わり始めてるから、クレア達の未来もゲームとは変わってしまう可能性も充分に考えられるけどな」

正志が銃に弾丸を装填しながら言った。

「正志は恋人いるの?」

呟くようにクレアが言った。

「え……恋人?……いないよ、今はね」

動揺した正志の心にかつての恋人・大倉詩織と義理の母兼妻・西山樹里がちらつく。しかし首を振ってその幻影を消した。

「ふーん……」

その直後にクレアが小声で「良かった」と呟いていたことに正志は気がつかなかった。

通路を奥に進むと駐車場が見えてくる。正志はサムライエッジを構えなおした。

(ゲーム通りなら、あの“スパイ美女”と会うことになるわけだが……。どうなるかな?)

すると、周りからガサガサという音が聞こえてきた。

(この音は……ゾンビ犬か!?)

物音の正体に気づいた正志は3人に言った。

「気をつけろ!ゾンビ犬だ!」

3人が頷き銃を構えた。

そして、正志の予想通りの怪物が姿を現した。

Tウイルスに感染しゾンビ犬と化したドーベルマン。俊敏な動きで敵を捕らえて肉を喰らう怪物だ。

「動きが速いから気をつけろ!」

正志の言葉に3人が頷く。

6体のゾンビ犬が素早く飛び上がり襲い掛かってきた。4人は攻撃を避けて銃撃を開始した。

ゾンビ犬の素早い噛みつき攻撃を軽い身のこなしで避けた4人は、的確に銃弾を命中させていった。

「ふう……、これで全部片付けたな」

地面にゾンビ犬の亡骸が横たわると、光平が呟いた言葉に正志達が頷く。

「ちっ、またか」

正志が苛立った口調で言った。30体ほどのゾンビの大群が姿を現したからだ。

「これじゃあ弾丸がいくらあっても足りねえな。みんな離れてろ、俺が始末する」

光平が言うと正志達は後ろに下がった。

「どうするつもりだ?光平」

「変身するんだよ、“光の戦士に”……」

正志が尋ねると光平は苦笑して答えた。

「みんな、後ろにさがろう。危険だ」

光平の言葉の意味を察知した正志の言葉にクレアとレオンが頷いた。

「ねえ正志、光の戦士って何?」

クレアが尋ねてきた。

「『SIREN』の世界に存在した光の創造神の血や創造神が作り出した光の篭手の力を覚醒することで変身できる戦士のことだ。光平は創造神の血を引く最後の生き残りで、光の篭手も持っているから二つの力を同時に覚醒させることが可能なのさ」

正志の丁寧な解説にクレアとレオンは感心しながら光平を見た。

光平は全身に力を込め、自身の体に流れる創造神の血を覚醒させる。

光平の体が黒色のオーラに包まれる。

「はあぁぁぁぁぁぁ!」

体が黒いオーラに包まれ、肌が変色して目の色が赤に変わる。頭からは4本の金色の角が現れた。

凄まじいエネルギーと爆風が発生し、光平は光の戦士に変身した。

「こ、これが……凄まじき光の戦士。これほどまでとは……!」

光平が変身した光の戦士の圧倒的な力に正志が絶句する。

「危ないから離れてろよ」

背中に背負っている闇斬り極光剣を手に持った光平が背を向けたまま正志達に言った。

「いくぜ……!」

光平が闇斬り極光剣に力を込めると、剣身が眩い光に包まれた。

素早く動きながら剣でゾンビ達を薙ぎ払い次々と倒していく。

剣が再び眩い光に包まれる。

「飛び散れ、光よ!」

光平が叫ぶと同時に剣から無数の光が飛び散り、残ったゾンビ達に放たれる。

「これが……光の力!」

クレアがあっけらかんとした様子で呟いた。

光を浴びたゾンビ達は消滅し、その魂だけが残った。

光平はゾンビ達の魂を光の篭手に吸収し、変身を解除して元の姿に戻った。

「ふう」

ゆっくりと深呼吸をした光平が正志達のいるところへ戻ってきた。

「お待たせ、さあ行こうか」

「ああ、ご苦労さん」

光平の言葉に正志が答え、4人は先に進んだ。

留置所に続く扉に近づいていた時、銃声が聞こえた。

(今の銃声、もしかして“あいつ”が……?)

正志は銃声が聞こえた方向を向きながら確信する。銃を撃った人物が、レオンと因縁がある“女スパイ”だということに。

「見て!ゾンビ犬が」

クレアが指差すと、ゾンビ犬が銃声が聞こえる方向に走っていくのが見えた。正志達は急いで後を追った。





正志達が追った先には、襲ってくるゾンビ犬を見事な腕前で次々と撃ち殺していく女がいた。

正志はその女が誰なのかはもちろん知っていた。ゲームの『バイオハザード』で何度も見たことがあるからだ。

全てのゾンビ犬を片づけたと安心したのだろうか。その女は舌で唇をペロリと舐めて立ち上がった。

しかし、隠れていた最後の1体が女に飛び掛かろうとした。正志は急いで愛銃のサムライエッジを構えて引き金を引いた。

正志が放った銃弾がゾンビ犬に命中し、絶命した。

「大丈夫か?」

そう言いながら正志は右手を差し出した。女はゆっくりと手を握り返しながら立ち上がった。

「ええ、ありがとう」

女が小声で一言呟いた。

正志はサムライエッジに弾丸を装填し、レッグバックに入れてショットガンを取り出した。

「ベン・ベルトリッチを探しているんだろ?俺達も彼を探してるから、ここは協力しないか?」

「……別にそれでもいいわよ」

正志がそう言うと、女は少し考えた後返事をした。

「俺は西山正志、日本人だ。よろしく」

正志は笑顔を見せながら挨拶をした。

「エイダ・ウォンよ、よろしく……」

冷たい表情を浮かべたままのエイダは無愛想に答えた。

こうして正志達はエイダ・ウォンと出会ったのだった。
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