第15話 試練の終わり
作者: 邪神   2012年07月05日(木) 20時59分28秒公開   ID:ruLD3r9Qyus
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電力室で見つけた、マイケル・カウフマンという名前の人物が書き記した1冊の日誌。

キットが言うには、マイケル・カウフマンというのは病院の院長を務めていた男性のことらしく、ゲームの『サイレントヒル1』にも登場するとのことだった。

彼が残した日誌には『サイレントヒル』には絶対に存在するはずがない、“ある人物”の名前が記されていた。

日誌の文面から推測するならば、病院の敷地で重傷を負った状態で発見・保護されたその人物が“何か”を引き起こし、病院の職員や患者を殺害して全滅させたと考えるのが妥当だろう。

俺とキットは“その人物”が収容されていたという屋上の隔離病室に向かっていた。

「そういえば、正志に聞きたいことがあったんだ」

屋上に続く階段をゆっくりと進んでいく途中、キットが聞いてきた。

「なんだ?」

キットの顔を見て俺は言葉を返す。

「恋人はいるのか?」

その質問を聞いた瞬間、俺の頭に1人の女の子が浮かんだ。「正志くん」と俺の名前を呼んで、俺とよく一緒に遊んだ1人の少女。

「いたよ。ガキの頃によく遊んだ幼馴染の女の子なんだけどな」

俺はズボンのポケットからパスケースを取り出してキットに見せた。パスケースの中には、一枚の写真が収められている。

「ほら……この子さ」

俺は喋りながら写真の右側に写っている少女を指差した。

「なかなか可愛いな……。名前は?」

キットがパスケースを俺に返しながら聞いた。

「詩織さ。大倉詩織」

俺はパスケースをポケットに戻しながら答えた。

「詩織っていうのか。今はどうしてるんだ?」

キットがニヤニヤ笑いながら言った。

「天国で安らかに眠っている……。くだらないことがキッカケで起きた、“ある事件”に巻き込まれて殺されたんだ」

俺は目頭が熱くなるのを感じながら答えた。

「そうか……。くだらないことが原因で起きた事件に巻き込まれて大切な人を亡くしたっていうのは、オレと同じだな」

キットがボソッと喋る。

「じゃあお前も誰か大切な人を……?」

俺はゆっくりと話しながら尋ねる。

「9・11……世界同時多発テロでな」

キットは首からぶら下げているペンダントを俺に見せてくれた。

(世界同時多発テロか……。甚大な数の犠牲者が出て大惨事になったな。逃走した首謀者のビン・ラディンはまだ捕まってないんだっけ)

心の中でそんなことを考えながら俺はペンダントを見た。

それは写真を保管できるロケットと呼ばれるタイプのネックレスだった。

写真には茶髪の綺麗な白人女性が穏やかな笑みを浮かべて写っている。かなりの美女だ。

「オレの妻のミシェルだ」

キットにロケットを返し、俺は再び歩き始めた。

「そろそろ屋上だな」

建物でいうと4階にあたる扉にたどり着いた。

ゆっくりと銃を構えながら俺達は扉を開けた。

「こ、これは……!」

屋上に足を踏み入れた俺達が見たものは、凄惨な光景だった。

引きちぎられた人間の手足があちこちに転がっていたのだ。大量の白衣や看護服などが周囲に散らばっていることから、その手足はアルケミラ病院に勤める医師や看護師のものだったことがわかる。

「惨すぎる……」

キットの一言に「そうだな」と返し、懐中電灯の光を照らした。

地面にはどす黒く変色した大量の血の跡が広がっていた。

「この跡を見るかぎりじゃ、だいぶ月日が経っているようだが……」

俺の推測の言葉にキットは頷いた。

(やっぱりこれは“奴”の仕業か……?しかし、一体何のために?)

俺はサムライエッジを握り締め、キットと共に奥にある扉に進んだ。

「気をつけろよ。何が起きるか、わからないからな」

俺はキットにそう言いながら、懐中電灯の光をその扉を照らす。

ゆっくりとドアノブを回すと、ガチャリという音が聞こえた。鍵は掛かっていないようだ。

「行くぞ!」

扉を勢いよく開いて中に侵入する。

しかし、室内に誰もいなかった。

隔離病室は窓が一つも無い殺風景な部屋だった。医療機器や点滴などはそのまま残されている。

「おい正志、メモみたいなのが置いてあったぞ」

キットが言いながら数枚の紙切れを俺に渡した。

安全のため病室に明かりを灯さず、俺は懐中電灯の光をメモに照らしてそれを読み始めた。

『憎きクリスとそのパートナーのシェバにロケットランチャーを連発されて倒されたオレは、溶岩の深い底に落ちた。あの時のことを思い返してみると、初めての死を覚悟した。
しかし奇跡的にオレは生きていた。目覚めた場所は病院だった。医師の話によると、病院の敷地で倒れていたオレを発見し保護してくれたらしい。オレ自身は重度の火傷を負っているが、ウロボロスウイルスを投与したため直に回復するだろう。しかしここがどこなのか、溶岩に落ちたはずのオレがなぜ病院の敷地内にいたのか……情報を集めなければならない』

メモを見て俺は確信する。このメモを書いた人物が“奴”だということに。

「まだ続きがあるみたいだ……」

俺はメモの続きを読んだ。

『看護師から渡されたパンフレットで、この病院が「サイレントヒル」という名の街にあるということがわかった。オレの記憶が正しければアメリカ合衆国にサイレントヒルという街は存在しないはず……。一体どういうことだ?
体の傷が完全に回復した。隔離病室に監禁されていたが、情報を集めるため抜け出してサイレントヒルの図書館に行くことにする』

俺はメモのページをさらに読んだ。

『病院から渡された服を着たままだと怪しまれるため、街を歩いている途中に見つけた洋服屋と靴屋に立ち寄り、店主を殺して服と靴を奪い図書館に向かった。しかし、残念ながら役に立つような本は見つからなかった。
しかし、不思議なことが起きた。時間が止まってしまったかのように、周りが固まり動かなくなった。周囲は真っ暗になり、黒いオーロラが現れて中から全身を黒い服で覆った謎の女が出てきた。八尾 比沙子(ヤオ ヒサコ)と名乗ったその女は、オレが今いる場所が『サイレントヒル』というホラーゲームの“全て”が本当に存在する並行世界……つまりパラレルワールドで、崩壊したアンブレラや憎きクリス、ラクーンシティなどが存在する世界ではないと語った。
女の言葉によると、クリスとシェバがロケットランチャーを連発しそれが溶岩の底に被弾したことで地球の核にある時空の壁に穴が開き、そこにオレが落ちたため「サイレントヒル」の並行世界に来てしまったらしい。女はオレにそれを伝え黒いオーロラの中に再び姿を消し、周囲のおかしな状況も元に戻った。オレは病院に戻った』

俺はメモの最後のページをめくり、読み始めた。

『病院の医師達がオレのことを執拗に嗅ぎまわっているようだ。ここにもう用はないし厄介なことにならないうちに邪魔な虫ケラどもを排除することにした。病院を脱出した後は、あの女が言っていたことが本当かどうかを確かめるため警察署にでも行くことにする』

オレはメモを読み終わったすぐにそれをメチャクチャに破り捨てた。

「ウェスカーめ……ゲームと変わらないクズ野郎だ!」

俺は激しい怒りが込み上げてきた。奴はこの世界でもゲームの『バイオハザード』と同じく、見境なく人を殺す自己中心的な男だったことに関しての怒りだ。

「『バイオハザード』をやったことがあるからオレも知ってるよ。アルバート・ウェスカーのことはな」

キットが俺に言った。

「そういえば、屋上に生存者と武器があるんだったな。探そう」

俺は赤の書に書かれていたことを思いだし、キットに告げた。

キットも頷く。

しかし、室内を詳しく調べてみたものの、何も見つからなかった。

「おい正志、ここを見てみろ……隠し扉だ」

キットが本棚を指差して言った。

大きい本棚が2つ置いてあり、俺達から見て右側の本棚は数冊の本が置かれていた。

左側の本棚は大量の本がびっしりと並んでいた。

「この右側の本棚を横に動かせるはずだ」

キットが言いながら本棚をゆっくりと動かした。

すると鉄製のドアがその姿を現した。

「なんで隠し扉があるってわかったんだ?」

心の中に疑問を抱いていた俺は尋ねた。

「この本棚を見てだよ。右側の本棚は本が少ししかないのに、左側の本棚は大量にあるのは妙だろ?これは本棚を動かしやすくする役割を果たすと同時に、隠し扉をカモフラージュする役割も果たしているんだ。昔に読んだなんかのミステリーコミックでそう書いてあった」

キットが答える。

「行ってみよう」

俺達は扉の奥に足を踏み入れた。

扉の奥は真っ暗で何も見えない。懐中電灯無しでは進めないほどだった。

「一体この先に何があるんだ……?」

キットが苛立つように言う。

俺達が歩いて約30秒ほどで終点が見えてきた。

そこは何かの実験部屋になっていた。懐中電灯の光を照らすと、壁などの至る所に大量の血が付着していた。

(何かの実験室か……?)

部屋の中央にはベッドが2つ置いてあり、真ん中には椅子が俺達のいる方向に背を向けて置かれていた。

俺は椅子を調べた。すると、誰かが座っていることに気づいた。

「あの〜……すいません」

俺が声を掛けると、椅子に座っている何者かが動いた。

「ん……」

懐中電灯の光を当てると、その人物の姿が浮かび上がってきた。

金髪のショートヘアに整った顔立ち、オレンジ色のベストにミニスカートを履いている女性だった。

「シェリル・メイソンだな」

キットが言った。

「知ってるのか?」

俺が尋ねる。

「知ってるもなにも、彼女は『サイレントヒル3』の主人公だよ。ゲーム内では偽名を使ってヘザーと名乗ってるけどな」

俺はキットの言葉に驚きながら、女性の肩を叩いて起こした。

「試練はこれで終了、お疲れ様。待ちくたびれたわよ。西山正志」

シェリル・メイソンが俺に言った。

「なんだと……?」

驚いた俺が尋ねる。

「白ワンピースの女の使いで、あなたを待ってたのよ」

シェリルが言った。

「あの女の?」

「そうよ。受け取りなさい、これが武器よ」

そう言って渡されたのは、何かの液体が入った透明の小ビン・注射器・鍵だった。

「これは……?」

「T+Gウイルスのワクチンとワクチンを打つために必要な注射器、武器が隠されている場所の鍵よ」

シェリルが言った。

「じゃあ、俺は『バイオハザード』の並行世界に戻れるのか?」

俺が尋ねるとシェリルはゆっくりと頷いた。

「そうか……。キット」

俺はキットがいる方に振り返って言った。

「どうした?」

キットが笑って返事を返す。

「短い間だったが、世話になった。ありがとう、楽しかったぜ」

「こちらこそありがとう。楽しかったよ」

俺が手を差し出すとキットも手を差し出した。

しっかりと手を握り締めて握手をする。友情の証でもある。そして赤の書をキットに渡した。

『正志、お疲れ様。さあ『バイオハザード』の並行世界に戻すわよ』

白ワンピースの女が聞こえた直後、俺の体が輝き始めた。

「西山正志、『バイオハザード』の世界に戻ったら、『SIREN』の世界出身の神田光平という日本人の青年があなたを待ってる。彼があなたをサポートしてくれるわよ」

「わかった」

シェリルの言葉に俺は返事を返す。

「キット、頑張れよ」

俺が言いながらサムズアップをするとキットも返した。

そして、俺の姿は消えた。




「キット、これからは私があなたを助ける」

シェリルが言った。

「そうか、頼んだぞ」

キットが拳銃に弾丸を装填しながら言った。

「彼にまた会えるといいわね」

シェリルが正志が消えた場所に目をやりながら呟く。

「そうだな」

キットが言った。
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