第14話 底知れない闇 | |
作者:
邪神
2012年07月05日(木) 20時59分05秒公開
ID:ruLD3r9Qyus
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?月?日 ??時??分 ロウソクの炎だけが灯る薄暗い病室に、俺とキットはいた。 「じゃあキットも、あの白ワンピースの女に選ばれた7人の戦士の1人なのか?」 今や愛銃となった「STARSサムライエッジ」に弾丸を装填しながら、俺はキットに聞いた。 「ああ、そうだ。あの女はオレのことを、『サイレントヒル』の並行世界を救いし者とか言ってたな」 キットは綺麗に整えられているベッドに座って答えた。 「俺も選ばれた1人さ。『バイオハザード』の並行世界を救うための戦士としてね」 俺はサムライエッジをレッグバックに入れ、白ワンピースの女から託されたサブマシンガンを取り出した。 「君もか。元の世界ではどんな職業に?」 キットがハンドガンに弾丸を装填しながら尋ねる。俺はぶっきらぼうに返事をする。 「そこそこ良い大学に通う4回生さ。法律を勉強していた」 元いた世界で俺は法陵大学という、名門大学の法学部に通うごく普通の大学生だった。 「オレは刑事事件専門の弁護士だった」 そう言いながら、キットは俺にある物を見せてくれた。 それは向日葵と天秤が象られたバッジだった。これは自分が弁護士である資格を示す大事な物だった。 「本物の弁護士バッジだな。俺は検事になるつもりだったんだけどね」 『バイオハザード』の並行世界に放り込まれなかったら、2日後に俺は司法試験を受けるはずだった。 「検事か……。どうして検事に?」 キットが聞いてくる。俺は淡々と答えた。 「被害者の味方になってあげられるのは検事しかいないだろ」 俺の言葉にキットは頷いた。 「オレが弁護士になろうと思ったのは、孤独な人の味方になってあげられるのは弁護士しかいないと思ったからだ」 キットは弁護士バッジを財布に入れて言った。 「だが俺は有罪判決よりも、真実を追求する検事になりたいと思ってる」 俺の言葉に嘘はなかった。 「そうか」 キットは笑顔を見せながら一言呟いた。俺は赤の書を取り出した。 『病院屋上に向かえ。そこに生存者がいる』 開いたページには新しくそう書き加えられていた。 「『サイレントヒル』に詳しいあんたなら、これわかるか?」 俺はそう言ってキットに赤の書を見せた。 「これは……赤の書か。どこで手に入れた?」 キットは赤の書を眺めながら聞いた。 「この世界に来た時に俺のすぐ側に落ちていたんだ。たぶん、あの白ワンピースの女が俺のために置いてくれたんだろうな」 俺が言うとキットも「そうだろうな」と相槌を打った。 「この日記の持ち主のジョセフ・シュライバーは、『サイレントヒル4』に登場する重要キャラクターだ。『3』にも名前だけなら登場する」 キットの話によると、ジョセフ・シュライバーは『サイレントヒル』に登場する悪の宗教集団を調べていたフリーのジャーナリストで、既に死亡しているとのこと。『サイレントヒル4』の主人公であるヘンリー・ダウンセントに、俺が持つ赤の書を通じて知恵を授けた人物でもあるらしい。 「とりあえず屋上に行ってみよう。生存者がいるなら救出しなければいけない」 俺の言葉にキットは頷いた。病室のロウソクを吹き消し、俺達は部屋を出た。 廊下は相変わらず血の臭いが漂っている。俺は吐き気を抑えながら先に進んだ。 「西山、君はたしか『バイオハザード』の並行世界を守る戦士だったな」 キットが尋ねる。俺は頷いた。 「その君がなぜ『サイレントヒル』の世界に?」 銃とライトを構えながらキットが聞く。 「あの白ワンピースの女に試練を与えられたんだ。『バイオハザード』の世界で起きる戦いに必要な武器とやらがこの世界にあるらしく、それを入手してこいだってさ」 俺はそう答えながら先へと進む。すると俺の持っている「ノイズの聞こえるラジオ」が音が鳴り響いた。 その音は非常ベルの音量をさらに上げているように聞こえるほどうるさかった。 「敵だな!?気をつけろよ西山」 キットが拳銃を構えながら俺に言った。 「わかってるさ」 一言呟いた俺は何か黒く光るものを持っている人影に気がついた。 そしてその人影の正体が、赤の書に記されていた「拳銃を持った個体のパペット・ナース」だということに気づいた。 「キット、すぐそこにいやがる!しかも拳銃を持っている個体だ」 俺は敵がいる方向にライトを向けた。 すると拳銃を持ったパペット・ナースの姿が浮かぶ。 「くそったれ!」 俺は叫んでサムライエッジの引き金を引く。パペット・ナースは俺達に照準を定め撃ってきた。 バンっ!!! 敵の放った銃弾は正確に俺達に当たろうとしたが、間一髪俺達は廊下の柱の陰に隠れた。 (もしかしてあいつら、闇の中でも俺達の姿が見えるのか?・・・だとしたら厄介になるな) 俺はサムライエッジに赤外線スコープを取り付け、キットに言った。 「キット、ここは俺に任せてくれ」 キットが頷き、俺は柱の影から飛び出した。 「くらえ!」 横にジャンプしながら、俺はパペット・ナースに弾丸を撃ち込んだ。 敵が倒れる音が聴こえると、その方向に俺はゆっくりと近づいた。 「大丈夫だぜ、キット。パペット・ナースは俺が倒した」 俺がそう告げると、キットは警戒した様子でこちらにやって来た。 「助かったぜ、サンキュー」 俺はナースから拳銃を奪い、先へと進んだ。 黒い闇が俺達を覆い尽くしている。懐中電灯無しでは何も見えない。 (これが、“闇”なのか?) 俺はサムライエッジに弾丸を装填し、懐中電灯の光を照らした。 しかし、光を照らしてもすぐに闇がそれを覆い隠してしまうため、懐中電灯は全くの無意味だった。 「くそったれ!先が見えない。どうすればいいんだ?」 キットが俺に言った。俺は赤の書を取り出した。 『暗黒の闇に包まれると即死してしまう。それを防ぐには、アルケミラ病院の建物全体に光を灯すしか方法はない』 赤の書には綺麗な文字でそう記されていた。 「キット、赤の書にはこの建物全体に光を灯すしかない…そう書かれている」 懐中電灯の光をキットに向けながら俺は言った。 「光……?電気のことか!?」 キットが俺の方に振り返り言った。 「そうみたいだな。この病院に電力室はあるのか?」 俺はキットに尋ねた。 「いや、ゲームの『サイレントヒル』に登場するアルケミラ病院には電力室なんて場所は存在しない」 キットは断言した。俺は再び赤の書を見た。 『地下一階に電力室がある。闇が蔓延する前に急げ!』 新しいページには荒々しい文字でそう記されていた。 「キット、電力室は地下だ。急ごう!」 俺はサムライエッジからH&K MP5に持ち替え、後ろにいるキットに言った。 「わかった!」 俺達は地下へと続く階段を降り始めた。 3階から一気に階段を降りる。スタミナは奪われてゆく。 するとラジオから、敵が接近していることを知らせる音が鳴り響いた。 「ちくしょう……!またパペット・ナースか」 キットが叫んだ。俺は懐中電灯の光を周囲に照らした。 「くそ!大量にいやがる」 俺達がいた3階の方から5体のパペット・ナースがこちらに向かって来ていた。 「キット、先に行け。ここは俺に任せろ!」 H&K MP5を手にした俺はパペット・ナースに向けた。 「わかった、西山も早く来るんだぞ」 キットは俺にそう告げ、先に階段を降りて行った。 「くらえ!」 俺はパペット・ナースに向かってH&K MP5を発砲した。 大量の銃弾がパペット・ナース5体に命中する。ナース達は絶命した。 『正志、早く地下に行って!闇があなたの方に向かってくるわ』 白ワンピースの女の声が聞こえた。俺は上を向いた。 闇が蔓延し始めている。これに巻き込まれたら俺達の命はない。 H&K MP5に弾丸を装填し、俺は再び階段を降り始めた。 「B1F」と記された扉を開けた先にキットがいた。 「……はぁ、はぁ。待たせたな、キット」 俺が声を掛けると、キットは振り返った。 「遅かったな西山!って、おいおい……大丈夫か?」 キットが笑いながら言った。 一気に階段を駆け降りたためスタミナを急激に消耗していた。 「疲れたよ。だいぶ体力を使っちまった……」 俺はゆっくりと深呼吸をして息を整えた。 「電力室を見つけたぞ」 キットが拳銃に弾丸を装填しながら言った。 「本当か!?」 俺が尋ねるとキットは頷いた。 「早く電気を付けないと……」 キットはそう言いながら俺を電力室に案内した。 「ELECTRIC POWER ROOM」と記されたプレートの付いているドアをゆっくりと開けた。 「真っ暗だな」 俺はそう呟くと懐中電灯の電源をONにした。 「ブレーカーを探そう」 キットの言葉に俺は頷き、ブレーカーを探した。 「あったぜ!キット」 俺はブレーカーの小さな扉を開けた。 「よし、一緒に付けよう!」 キットがやって来たのを確認して俺は言った。 キットが笑顔で頷く。 息を合わせて、ブレーカーのスイッチをONにした。 すると病院内に眩い輝きが灯った。 「やったな、西山!」 キットが俺の肩を叩きながら言った。俺は安堵の表情を浮かべて返事を返す。 「正志でいいよ、俺達は仲間だろ?」 俺の言葉を聞いてキットは笑い返した。 「そうか……。わかったぜ、正志」 俺はH&K MP5からサムライエッジに持ち替えて、再び赤の書を開いた。 『屋上に向かえ。そこに生存者と武器がある』 ページに記された内容を確認した俺はキットにもそれを見せた。 キットが懐から拳銃を取り出し弾丸を装填した。しかし、何かに気づいて動作をやめた。 「正志、そこに何か落ちてないか?」 キットが指を指した所には、1冊の日誌のようなものが落ちていた。 「これは……?」 俺は手に取って読んでみた。 『4月20日 当病院敷地内において、身元不明の男性を発見・保護した。男性は全身に火傷を負っており、意識不明の重体。体には数えきれないほどの触手のようなものが生えており、ひどく焼け焦げた跡も見られる。なお、髪型は金髪のオールバックで左胸辺りにサングラスが突き刺さっているのを確認』 日誌の内容を読むうちに、ある男の存在が俺の頭をよぎった。日誌に書かれている“身元不明の男性”とやらが、ある意味で俺が一番よく知っている男なのではないかという確信が近づきずつあった。 そんなことはありえないと思いつつ、俺は続きを読んだ。 『4月21日 信じられないことだが、例の身元不明男性の傷がみるみるうちに回復している。触手のようなものは体の中に消え失せてしまい、存在を確認するのは不可能。他の医師や看護師の意見もあり、念のため男性を屋上の隔離病室に収容することを決定した。交代で男性の監視を行うよう、職員に通達しなければならない』 日誌を読んでいるうちに、俺の体が震え始めていた。 「どうしたんだ、正志?」 俺の様子がおかしいことに気づいたキットが聞いた。 「ちょっと待っててくれ」 一言返すと俺は日誌の続きを読み始めた。 『4月22日 男性の意識が回復した。名前を尋ねると、彼は「アルバート・ウェスカー」と名乗った。精密検査で特に異常は見られず、身長190cm・体重90kg・血液型はO型と判明。ウェスカー氏によると年齢は48歳とのことだが、身分がわかる物を一切所持していないため、事実なのかは不明。まだ監視を続けるようにと職員に通達を』 (そんなバカな……!あいつはクリス・レッドフィールドとシェバ・アローマに倒されて、完全に死亡したはずじゃないか。どうなってやがる!?しかも、何であいつが『サイレントヒル』の世界にいるんだ……?) 俺は日誌の次のページを開いた。 『4月23日 もう終わりだ!日誌を書くことができるのも、恐らくこれが最後だろう。ウェスカー氏は普通の人間ではない。彼の“暴走”により、私を除く病院職員や入院患者は全滅した。私はとんでもない奴を保護してしまった。彼の暴走はもはや誰も止められない。身を隠してはいるが、私もいずれ殺されるだろう。この日誌を電力室に隠しておくことにした。この日誌を見つけた人は警察や軍に連絡してほしい。彼を止めなければ、犠牲者は増え続けていくだけだ。頼む、誰か彼を止めてくれ……。 マイケル・カウフマン』 日誌はそのページで終わっていた。俺は震えながら、日誌を閉じた。 「キット、わかったぞ。この病院で一体何が起きたのか……。これを見てくれ」 俺は日誌をキットに渡し、ジャケットのポケットから手帳を取り出した。 「アルバート・ウェスカー……?」 キットが目を細めながら呟く。 「屋上に行こう。何かわかるはずだ」 俺はサムライエッジの銃口にサイレンサーを装着し、キットに言った。 「ああ……」 キットも何かを察したのか、真剣な表情を浮かべている。 (ありえないはずだ……。“あいつ”は確かに……) 俺達は電力室を出て、階段をゆっくりと昇って行った。 嫌な予感はしていた。 並行世界というこの状況は、ありえない不可能なことも可能にすることができる。 俺はそれを理解し、わかっていたはずなのに……。 ⇒To Be Continued... |
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