第22話 T+Gウイルスと怪物 | |
作者:
邪神
2012年07月07日(土) 20時01分05秒公開
ID:ruLD3r9Qyus
|
|
「傷を完全に治癒した。痛みは引いたと思うが、どうだ?」 「ああ、もう大丈夫だ。ありがとう」 光平の問いに答えて礼を言いながら、正志はゆっくりと立ち上がった。 「そういえば、エイダはどうした?姿が見えないようだが…」 正志がそう言うと、クレア達は辺りを見渡した。さっきまでいたエイダの姿がない。 「どこに行ったのかしら?」 クレアが言うと正志はサムライエッジを握りしめながら言った。 「まあいい、放っておこう。あの女は俺達の助けがなくても生き残れる」 正志がそう言うと、クレア・レオン・ベンが驚いた。 「どういうこと?」 「どういうことだ?」 「どういうことなんだ?」 正志はiPhoneを取り出し、アプリ『バイオハザードアーカイブ』を操作し「エイダ・ウォン」の項目を開いて光平に言った。 「光平、これを壁に映してくれないか?須田がやったみたいに」 光平は頷いて指をパチッと鳴らした。すると、正志のiPhoneから映像が映し出された。 「エイダ・ウォン…あの女は何も知らない民間人のように見えるが、本当の正体はバイオハザードを引き起こしたアンブレラと敵対関係にある企業・HCFの産業スパイだ。しかもエイダ・ウォンという名前は偽名で、本名はユリア・モンロー。ゲームに登場する彼女は、レオン…君と因縁がある」 正志が丁寧にそう説明すると、クレア達は困惑していた。壁には、『バイオハザード2』『バイオハザード4』『バイオハザード アンブレラ・クロニクルズ』『バイオハザード ダークサイド・クロニクルズ』で彼女が登場するシーン・戦闘を行うシーン・他の登場人物と会話をするシーンが映し出されている。 「俺とあの女が?」 レオンが言うと正志は頷いた。 「ああ。簡単に言えば、敵同士だけど愛し合った“男と女”の関係かな」 正志が言うとクレアと光平が顔を真っ赤にした。レオンは汗を垂らしながら焦ってしどろもどろになっていた。ベンは「ヒューっ!」と口笛を吹いた。 「皆にはこれだけ言っておくよ。今度再会したら、俺はあの女を殺すつもりだ」 「一体なぜだ?あの女はゲームの『バイオハザード』じゃ、そんなに危険な存在なのか?」 正志の衝撃の言葉に、まず光平が聞いた。正志はiPhoneを再び操作し始めた。 「危険な敵でもあるし、時には役立つ味方の場合もある。実際、味方の時は危機に陥ったレオンの命を救ったりしている」 正志が言うと、クレアが言った。 「なら別に殺さなくてもいいんじゃない?」 「だが、危険な敵の時は自分にとって邪魔な存在…つまり不穏分子を容赦なく始末したり、生物兵器を回収したりする。それにあの女はベン…あんたの命を奪うつもりだ」 正志は冷酷な口調で言った。 「何だと!?」 ベンが言った。 「俺はあんたを必ず助ける。それを邪魔する奴は、たとえレオンの命を救う人間だとしても許さない」 正志は首にぶら下げているペンダントを握りながら言った。 「それに、俺はもう1人助けたい奴がいるんだ」 正志はiPhoneを再び操作しながら語った。 「誰なの?」 クレアが言った。 iPhoneから映像が映し出された。映像には白衣を着た金髪の女性が写っている。30代前半だろうか。 「アネット・バーキン。シェリー・バーキンの母親で、T+Gウイルスを作り出したウィリアム・バーキンの妻。そしてアンブレラの研究員でもある」 映像が途切れて、正志が言った。 「そういえば、お前やけにアンブレラ社や関係者の情報に詳しいな。それに、さっきは“ゲーム”の彼女はとか言ってたし……。一体何者だ?」 ベンが不思議そうに正志に尋ねた。 正志は語った。ベンやクレア・レオン・エイダがゲーム『バイオハザード』の登場人物で、自分は『バイオハザード』がゲームとして存在する世界から来たことを。 「俺がゲームの登場人物だと……」 ベンは正志が言ったことがまだよく理解できない様子だった。無理もない。 「信じられないようだが、本当のことなんだよ。俺が放り込まれたこの世界は、その『バイオハザード』の全てが本当に存在する場所」 正志はゆっくりと語った。 「俺が大学生のはずなのにアンブレラの情報に詳しかったのはそのためだ」 正志がそう言っている中、光平はある能力を使ってこちらを窺っている何者かの視線を感じ取っていた。「幻視」といって、他人の視界を盗み見ることが出来る力だ。 「正志、話は後だ」 光平が凄みを含んだ口調で言った。 「光平どうした?」 「誰かが俺達の話を盗み聞きしている。誰だ!?」 光平が小型ナイフを取り出して、視線の主に向かって投げつけた。 「ひっ…!」 ナイフが壁に突き刺さると同時に悲鳴が上がった。 「お、お前は…!」 視線の主を見た正志が呟いた。 ナイフが突き刺さった先には1人の女性が立っていた。金髪のショートヘアに30代前半と思われる顔立ち、白衣を着ていた。 「おい、西山。あの女はアンブレラの……」 「ああ、アネット・バーキン。シェリーの母親であり、ウィリアム・バーキンの妻でもあるアンブレラの研究員だ」 ベンの問いに正志は頷きながら答えた。 「おい、アンブレラの研究員が俺達に何の用だ?」 正志はそう言いながらアネット・バーキンがいる場所まで歩いた。 「な、なぜ!私の名前を……」 アネットがうろたえながら尋ねた。 「……。聞いていたんだろ、俺たちの話を。表情を見ればわかる。説明する必要はないと思うが」 正志はゆっくりと冷静な口調で言いながら、壁に突き刺さったナイフを外して光平に手渡した。 「そうね。シェリーが死んだっていうのは本当なの?」 「ああ、本当だ。警察署を捜索している途中で俺と彼女…クレア・レッドフィールドが見つけて保護したが、ゾンビに噛まれてTウイルスに感染していた。感染後の症状が出始めていて、ワクチンもない状況じゃ手の施しようがなかった。その直後、ゾンビ化して俺が頭部を撃ってトドメを刺した。全て遅かった」 落ち着き始めたアネットが静かに尋ねると正志は丁寧に答えた。 「本当なのね。ごめんなさい、シェリー……」 「後であんたに話がある。しばらくそこで休んでおくといい」 アネットは崩れて泣き始めた。クレアが彼女の元に駆け寄ってハンカチを出した。 アネットは号泣していた。クレアが彼女を宥めている間、正志はiPhoneを扱っていた。 アドレス帳から「西山樹里」の項目を選択し、通話を設定する。しかし、通じることはなかった。 (世界が違うから通じるわけないか。樹里の奴、大丈夫かな?まさか俺がこんなことになっているとは思わないだろうけど、早く元の世界に戻ってお前の手料理が食べたいぜ) 正志は心の中で毒づきながらため息をついた。すると光平が日本語で話しかけてきた。 「おい、正志。その電話の画像の女性は誰だ?」 「えっ?ああ、見られちまったのか。俺の内縁の妻、いわゆる事実婚」 正志が答えると光平は感心した様子を見せた。 「へえ。じゃあ、画像の子どもは?」 「俺と彼女の息子。名前は翔(カケル)」 正志は冷たい口調で答えた。ある複雑な事情と隠された過去・秘密から、正志は家族の話題に触れられることを嫌っている。 「なんか聞いちゃまずかったか……?なら悪かったよ」 正志の普段とは違う口調に何かを察知したのか、光平が謝った。 「いいや、気にするな」 正志はiPhoneをポケットに押し込み、ガムを口に放り込んだ。 「だけどな正志、いつかは話してくれないか?」 光平が言うと正志は頷きながら腕時計を見た。日付は30になっている。この世界に放り込まれてから1日が過ぎたのだ。 「時間がない。さあ、先へ進もう」 正志はサムライエッジに弾丸を装填しながら言った。 「どうする気なの?」 「この地下にアンブレラの研究所がある。そこにはラクーンシティの外へ繋がる列車が配置されている。それに乗って皆で脱出するんだ」 クレアが聞くと正志は真剣な表情を浮かべて答えた。 「もう誰も傷つけさせたり、殺させやしない。親しい人の屍を超えていくのは、“もうたくさん”だ……」 そう呟く正志の胸に、かつて命を落とした大倉詩織・末期のガンが原因で死亡した養父の翔一・父親達が作り出したウイルスが原因でゾンビ化し正志にトドメを刺されたシェリー・バーキンの姿が映った。 「アネット、あんたに話したいことがある」 正志は留置所の椅子に座って泣きやんでいるアネットに話しかけた。 「何?」 「シェリーが首にぶら下げていたペンダントに、T+Gウイルスを入れたのはあんただな?」 正志の問いにアネットの動きが止まった。 「だが、俺が破壊した。たぶん、アンブレラは今頃ウイルスを狙ってタイラントを投入しているだろうが、もう無意味だ。それに俺はT+Gウイルスを自らに投与して怪物化したあんたの夫と戦ってわかったことがある。今回のウイルスは改良されていたものだろ?」 正志の質問にアネットは動揺したが、何も答えない。正志は言葉を続けた。 「だが、俺はT+Gウイルスの弱点を知っている。俺と俺の仲間達なら、あんたの夫を止めることができる。俺達に協力してくれないか?シェリーやこの街の人々のためにも……」 正志の必死の説得にアネットは顔を上げて言った。 「弱点って何?」 「まず1つ、あの電磁バリアだ。あれはどんな攻撃も無効化する究極にして厄介な能力だが、最初に戦った時に奴は頭部にバリアを張ることができていなかった。そのおかげで俺は奴の頭にこのマインスロアーの攻撃を加えて、一時的に撤退させることができたんだ」 正志の言葉にアネットはおろか、クレア達も驚いた。あの激しい戦いの中で正志がそんな弱点を見つけていたなど、思いもしなかったからだ。 (ゲームの『2』関連作品には、『ガンサバイバー4』に登場する“あの武器”は存在しない。だが、世界が変わりはじめてるなら、この世界には存在するはずだ。それに『サイレントヒル』の並行世界で手に入れたあの鍵は、たぶんこのために使う物のはずだ) 正志は心の中でそう考えていた。その武器はT+Gバーキンを完全に倒すために必要な物なのだ。 「奴は俺の攻撃を受けて目を潰されたはずだ。だが完全に倒したわけじゃない。倒すためにはあのバリアを消す必要がある。それにはある武器が必要なんだ」 正志は丁寧に説明した。 「荷電粒子砲のことね」 アネットが立ち上がりながら言うと正志は頷いた。 「俺はそれがある場所の鍵を持っている。頼む、教えてくれ」 正志が言うと、アネットは少し考えた表情を浮かべて言った。 「本当にウィリアムを倒してくれるのね?」 正志がアネットの手を握りながら頷くと、それに合わせてクレア達が頷いた。 「案内するわ、ついてきて」 アネットは一言そう言うと、歩き始めた。 「行くぞ」 正志が言うと、クレア達が再び頷いた。 その様子を映像として見ている者たちがいた。周囲は真っ黒でどこなのかはわからない。 モニターには下水道に向かう正志達の様子が映されていた。モニターの光で漆黒のサングラスと左目から頬にかけての大きな傷跡が照らされた。 「フッフッフッ……。楽しませてくれるな、クレア達よ。それにウィリアムはクレア達をひきつけるための役目を十分に果たしてくれている。これでオレ達の計画は更に先へ進むな」 サングラスを掛けた男が冷たい微笑を浮かべながら言った。 「そうね。そういえば、『鬼武者』の並行世界から科学者が訪ねて来ていたわよ」 黒いオーラを身に宿し黒のワンピースを着た若い女が空中に浮かびながら、サングラスを掛けた男に言った。 「ああ、ギルデンスタンか。“闇の巫女”、今は忙しいと後で伝えてくれ」 サングラスの男が余裕の口調でそう言った。 「わかったわ。それと体の調子はどう?」 「上々だ。“幻魔”の血・“神代美耶子”の血とT・ウロボロスウイルスが完璧に適合している。まさか適合するとは思わなかったが……。いずれ最強の力が目覚める。このオレの顔に傷跡をつけた光平と匹敵するほどの力がな」 闇の巫女と呼ばれた女が言うと、サングラスの男は満足そうな口調で答えた。 「そう。なら、戦闘データを取りたいから、例の実験体を投入しましょう」 「暴君の追跡者か……。鋏む帝王の出番はまだだが、今まで以上に楽しくなりそうだな。オレを飽きさせないでくれよ、クレア達」 「やっぱりあなたって深い闇に染まった悪人ね、“ウェスカー”……」 男と女は会話した後、耳障りになるような笑い声を上げた。男の目は闇の中では目立つ血を表す赤に光っていた。 |
|
| |
■一覧に戻る ■感想を見る ■削除・編集 |