(SO3)惚れ薬パニック 前編 | |
作者:
シウス
2009年05月11日(月) 23時27分06秒公開
ID:vCN5uSAl5bc
|
|
「そこまでよっ!! 観念しなさい!!」 突如、聞き覚えのある声が聞こえたと、フェイトが思ったとたん―――― カカッ――――!! 光が視界を焼き尽くした。どうやら閃光弾―――それもスタングレネードのように一撃で大勢の人間を気絶させる強力な物―――を誰かが放ったらしい。 奇跡的にも咄嗟に目を閉じることによって、難を逃れたフェイトが見たものはというと―――― 「…………!?」 そこらじゅうに倒れている人、人、人―――― 「間に合ったわね!」 ふと声が聞こえた方を見た。近くの建物の屋根の上に、自分の良く知った人物が立っていた。 「マリア!?」 フェイトが思わず叫ぶ。するとマリアは屋根から飛び降り、まるで猫のように地面に着地した。 「マリア!! いったい何が起こってるん――――!?」 「フェイトオオォォ!! 逢いたかったああぁぁぁ!!」 駆け寄って尋ねたとたん、何故かいきなり飛びつかれた。 「ちょ、ちょっとマリア!? どうしたんだよいったい―――」 「うふふふ。 もぉう離さな〜い!」 そのときフェイトは気が付いた。マリアの瞳が正気ではないことに。彼女の蒼く美しい瞳の中で、なぜか渦巻きが回っている気がした。 フェイトは自分の胴に回されたマリアの腕を力任せに引き剥がし、とりあえず逃げることにした。このまま放っておいたら襲われかねない。 「あっ! ちょっとフェイト!? 待ちなさい!!」 虚をついて逃げ出したのだが、仮にもマリアはクラウストロで育った身体だ。逃げ続けるフェイトとの距離を、強靭な脚力でぐんぐんと追い詰めてくる。 (まずいっ!! 追いつかれる――――!?) その時。 「おい、フェイト!!」 フェイトの前方に、茶色の髪をツンツンに立てた青年が立ちはだかっていた。 「リーベル!?」 そう、リーベルだ。どこから現れたのか、そこにはリーベルが立っていた。 リーベルが自分を睨みつけている、フェイトはそう感じた。まあ、それも仕方の無いことだろう。リーベルが愛してる女性が、自分を追いかけ続けているのだ。それにリーベルはマリアと婚約していると聞いた。確かにリーベルの指には銀色の―――いや、白金の指輪が嵌められていた。そういえばさっき見たとき、マリアの指にも同じものが嵌められていたと思う――――今はそんなこと考えている場合では無かった。 とりあえずフェイトはリーベルに向かって弁明した。 「待ってくれ、リーベル!! これには理由があるんだ!!」 「わかっている。お前は何も悪くは無い。今のうちに逃げろ!!」 「えっ? あ、ありがとう。助かったよ」 やけに物分かりの良いリーベル。彼の視線はフェイトにではなく、マリアに向けられていた。 フェイトは一瞬戸惑ったが、別に問題無いと思い、リーベルの脇を素通りしようとしたとたん、リーベルはヒップホルスターからフェイズガンを二丁抜き、マリアに向けた。一見、無造作に見えるこの動作が、実は恐ろしいほどの命中率を発揮する。命中率が伴ってこそ『早撃ちのリーベル』なのだ。 「ってちょっとリーベル!? ま、待て! 早まるな!!」 だがフェイトの制止を聞こうとはせず、リーベルは躊躇無くトリガーを絞った。しかし―――― カチカチカチカチカチカチッ!! カチカチカチカチカチカチッ!! エネルギー切れだったようだ。フェイトはそっと胸を撫で下ろす。だが今の引き金を引く速さは尋常ではなかった。片方のフェイズガンにつき、1秒間に6回は『カチッ』と鳴っていたのだ。本来、フェイズガンという武器は半端じゃないほどの反動がある。クラウストロ人でも高い命中率をかねそろえながら、あんな射撃が出来る者などそうそう居ないだろう。スティングとこの男を除いて。もしフェイズガンにエネルギーが残っていたらと考えるとぞっとする。 「ハッ! リーベル、自分の武器は常に手入れをしておかなくちゃいけないじゃない」 追いついてきたマリアがリーベルを鼻で笑った。そして彼女も愛用のフェイズガンを抜き、リーベルに向けて躊躇無く引き金を引く。だが――― カチッ! カチッ! カチッ! 乾いた音だけが虚しく響き渡る。今度はリーベルが嘲笑した。 「おいおいマリア〜。人のことを言う前に自分の方どうにかしたほうがいいんじゃないか?」 「な、なあリーベル。何が起こってるんだ? いったいお前とマリアの間で何があったんだ?」 フェイトが弱々しく質問したが、あっさりとシカトされた。 「ぐっ! どこまでもナマイキね、リーベル!! どうでもいいから、さっさと『私のフェイト』をこっちに渡しなさい!!」 「そうはいくか!! フェイトはな――――」 (何がどうなってるのか分からないけど、とにかく助かるよ、リーベル……) 「フェイトはな……俺のモンだ!!」 「(そうそう)……って、違うだろおおおぉぉぉぉ!?」 本当に何がどうなっているのだろうか。思わずフェイトはリーベルの後方へと逃げ出した。走り去るフェイトの背中にリーベルが声をかける。 「とにかく何処かへ隠れろ!! 安全が確保できれば出てきていいからな!!」 (二度とお前なんぞの前に現れるかあぁぁ!!) 裏路地に向かって走るフェイトの耳に、重い音が響いてきた。どうやら2人が肉弾戦を始めたようだった。自分をめぐって―――― 「僕がいったい……何だっていうんだよおおぉぉぉ!!?」 いつかどこかで叫んだような気もするフェイトの悲痛な叫び声が裏路地に響き渡った。 そのころカルサア修練所。 ここは多くの漆黒兵達が、日々の訓練をする場所である。ペターニとは違い、こちらでは雨が降っていた。かなり湿度の高い状態である。 そんな修練所内を、アルベル・ノックスは疾走―――いや、爆走していた。 ペターニを発った後、彼はクリフ達に頼み、ディプロの転移装置を利用させてもらってここへ帰ってきたのだ。普通に徒歩で帰ろうものなら数日を要する距離である。この時ほど、発達した文明の道具とは素晴らしいものだと思ったことは無かった。 だが今はそのようなこと考えている余裕など無かった。 「隊長おおおぉぉぉ!!」 「待ってくださいぃぃぃ!!」 「やめんか、お前達!! 隊長は俺のものだ!!」 背後から必死にラブコールを送る漆黒兵達。妹から貰ったシュークリームを食べてから数時間後、ずっとこの調子である。先ほどのシュークリームに惚れ薬か何かが入っていたのだろうか? いや、そもそも惚れ薬など存在するはずが無い、アルベルはそう思っていた。 とうとう行き止まりまで追い詰められた。もう逃げ場が無い。 「追い詰めましたぜ。隊長ぉぉぉ……」 「く、来るな……何が目的なんだ?」 「何って……決まっているじゃないですかぁ……」 下品な笑顔をアルベルに向けながら、その兵は笑った。他の兵達も同じような表情をしている。だが本来、この手の奴らがこの表情を向けるべき相手は、夜道を一人で歩く、若くて美しい女性に限られるはずだ。間違っても、男にむけるものではない……。 頭の中で恐怖が一定の量を越え、アルベルは何かがプツンと切れる音を確かに聞いた。 「フフ……フフフ………」 不気味な笑い声が、アルベルの口から漏れた。同時にスラッという音を立てて、クリムゾンヘイトを鞘から抜き出すクリムゾンヘイト自身が『オー、アイラブ・アルベル』などとほざくが無視。 「ククク……フハハハハハッ!! 寄るな! 騒ぐな!! くたばれ阿呆ぉぉ!!!!」 正気を失ったアルベルは、クリムゾンヘイトを片手に、漆黒兵達に向かって突っ込んでいった。 |
|
| |
■一覧に戻る ■感想を見る ■削除・編集 |