その後のデメトリオ2 前編 | |
作者:
シウス
2009年08月23日(日) 22時07分15秒公開
ID:aHRW0JRkfp6
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ユリウスは複数ある荷物袋の中から、白い棒状の物体を取り出した。 フィエナは何も言わない。アリアス村に着くまでの三日間、野宿する際に、ユリウスが何度も“それ”を加工している姿を見ているからだ。そして完成したのは、村に着いた日の昼頃。 「出来たばかりで、まだ吹いてなかったよね。―――その竜笛」 「ああ。一応、穴の開けるときに位置には気をつけたから、普通の笛みたいな音階が出せると思う。あとは竜笛そのものが持つ音色が気になるだけだな」 「何か吹ける曲ある? あたし、聖歌以外にも民謡とか、旅芸人から教えてもらった曲とか吹けるけど」 「俺だっていくつか吹ける曲があるさ。ってか、フィーも旅芸人から教わってたの?」 「うん。陽気なお兄さん―――って、今じゃ中年かな? とにかく気に入った人には、自作の曲を教えて回ってるんだって」 「―――もしかして、それってこんな曲だったか?」 ユリウスは竜笛を横にし、端に口をつけ、ゆっくりを吹き始めた。 ゆっくりと明るく、陽気な曲が、柔らかな音色でもって奏でられる。 フィエナは驚いて目を見開くが、次第に目を閉じて聞き入り、安らかな笑顔になっていった。 「……いい音ね。これが竜笛かぁ。それに―――ああ……この曲だ。あたしが子供の頃に聞いた曲だよ。あのお兄さんが言ってた。『これはペターニとかサーフェリオのイメージに合う曲だ』って。街のBGMにしたいくらいだって言ってたわ……」 「俺もその意見には賛成だな。たしかにあの街のイメージに合う曲だと思う」 しばらくの間、何曲か吹いてみる。途中、フィエナと交代して、互いに知っている曲を披露しあった。 そして感想は。 「んー、確かに良い音なんだけどなぁ……」 「なんか、あれだよね。木材とか動物の毛とかで作られた一般的な楽器より、少し上くらいの音質ね。名器とまでいかなくとも、ちょっと値の張る楽器ほどではないわ」 「でも幅広い音が出せるんだぜ? 『怒り』とか『喜び』とかの感情を表現しやすいって言われてるし」 「あははっ。なんかゼノンが言い分けしてるっぽいね」 「ぷっ……確かに……」 「そんなこと言ったら、ゼノン怒っちゃうよ?」 「そしたら吠えるんだろうな。こんな感じに?」 ユリウスはふざけて竜が喉を鳴らすイメージに合わせて、プーという気の抜けた音を出そうとした。全ての穴を指で塞ぎ、軽い気持ちで息を送り込み、 『グルルル……ヴヴヴゥゥゥゥ……フシュー』 フィエナと、吹いていたユリウスがポカンとした顔になった。通常の獣とは明らかに異なる唸り。その中に混じる、獣の殺意と知性を持つものの殺意とを合わせたような感情。挙句の果てに『フシュー』というエアー・ドラゴン独特の呼吸音。 ついで隣の部屋から、幼い女の子の声で、 『お父さん、お父さん! いまお化けの唸り声が聞こえたよっ!!』 『Zzz……うーん、どうせ気のせいだろう?』 『違うもん! 本当だもん!』 フィエナとユリウスはゆっくりと視線を合わせる。そして、 「ぷっ……」 「は…はは……」 声を押し殺し、静かに笑い続けた。 翌々日の朝9時。 日がだんだんと高い位置へと昇り始める頃。 昨日の昼下がりに到着した行商人は到着した。その馬車の数は3台。しかも大型の馬車ときた。1台を3頭が引き、また各馬車にも商人たちが2〜3人ずつと護衛の兵士、僅かに旅人が乗っていた。 積荷はアリアス村の倉庫へと運ばれ、それらは特産物を持たないアリアス村(戦争が起こる前までは、いくつかの野菜と、狩人が獲ってくるカルサア山道にしか生息しない動物の干し肉、そして近くの浜辺で生産される塩が財源だった)の貴重な物資となる。 しかし行商人たちの仕事は、物資をこの村に運ぶだけではない。 隣国アーリグリフの、ここから一番近い街であるカルサアから輸入された物資をアリアス村で保管し、それを行商人の手でペターニやシーハーツの王都であるシランドまで輸送するのも、彼らの仕事である。 「さってと……それじゃあ出発だな」 「おうよ。俺達の旅の道中に、アペリスの加護がありますよーに」 やけに気の抜けた会話をする二人の兵士が、出発寸前の馬車の中に乗り込んできた。彼らが、この馬車の護衛の兵士なのだろう。ほかの馬車にも、同じように兵士が乗り込んでいるはずだ。 と、そこで二人の兵士の視線が、馬車に乗せてもらっている旅人―――ユリウスとフィエナの視線とぶつかった。 「ああ……!」 「あんたら!」 「あのとき酒をおごってくれた……!!」 「あなた達は!」 四人の声が、見事にハモった。 ユリウスが尋ねる。 「あんたら……昨日、この馬車が来たときに、護衛の兵士の中には居なかったはずじゃ……」 すると兵士の片方―――短く刈った黒髪の男が笑いながら、 「いやいや。行商人を護衛する『ついで』でな、こうやってアリアスとペターニとの人員を交代するようにしてるんだ。ペターニとシランドの間でもやってるぜ?」 もう一人の赤い髪の兵士も頷き、 「何事も無駄を省いてコスト削減―――不景気や今みたいな緊急時に培われるものだが、そういう時が終わった後でも役立つからな、こういうのは」 その言葉を聞き、フィエナは意味ありげな笑みを、口元に浮かべた。馬車の中には彼女にとっての知り合いがいなかったので、村を歩く時につけてた顔を覆っているフード付きマントは無い。 彼女は悪戯っぽく問い掛けた。 「あら、ずいぶんと格好良い格言ね」 すると黒髪の兵士は笑いながら、 「だろ? いやー、これを言った俺ってばチョー天才―――」 「言ったのは六師団『水』の副団長だよ。今の副団長じゃなくて、3年前に戦死した方の」 赤髪の兵士が、黒髪の方よりも大きな声で言い切った。 恨みがましそうな黒髪の彼の視線を爽やかに受け流しつつ、赤髪の彼は語りつづけた。 「前の『水』の副団長……それなりに有名な人でさ。俺は見たこと無いけど、なんでもアイデアを出す事に秀でた人だったみたいなんだ」 言葉にして言うなら、簡単な事かも知れない。 しかし実際にやってみると、それが途方も無く難しいことなのだ。 それは遠い先進惑星で言うところの、『企業理念』に関わる特技でもある。 もちろん、ただアイデアを出すだけでは、サボりでしかない。だが彼女の場合、コスト削減にしろ、現状問題への対策にしろ、参謀などとは異なった『ひらめき』を持っていたのだ。 ユリウスが、そっとフィエナに目を向けると、ちょうど目が合い、彼女は照れくさそうに笑った。 ついでとばかりに、フィエナは質問する。 「あ、そういえば今の『水』の副団長って、誰がやってるの?」 答えはあっさりと返ってきた。 「ああ、あの人だよ。レベッカ・ファーレンスって人」 一瞬、フィエナの目が驚きに見開かれたのを、ユリウスは見逃さなかった。だがすぐに彼女が笑顔になっていくのを見て、すぐに安心する。おそらくは彼女の友達か後輩だろう。 広い平原を馬車がゆっくり―――人間の徒歩よりは遥かに早い―――と進み、平原の中に小さな湖が現れた。 馬を止め、行商人たちが馬を労わりながら水を飲ませている。 ユリウスは、馬車の中で会った黒髪の兵士に問い掛けた。 「なぁ、水棲生物は魔物化してないのか?」 その質問は最もである。兵士は不思議そうな顔をしながら答えた。 「ああ。なぜか分からないんだが、水ん中の生き物は魔物化しないんだ。水そのものに、あいつらの波動みたいなのをカットする効果があるかもしれない―――ってのが、研究者の意見だな」 と、そこで少し離れたところから、赤髪の兵士が走ってきた。 「なぁ、いま聞いたんだけどよ。今夜はここで野宿するらしいぞ」 言った直後に、今度は別の兵士と行商人のリーダーが、手で作った簡易メガホンを口に当て、今夜の野宿を告げていた。時間はすでに午後4時。まだ空は明るいが、早いうちに寝床を確保する必要があったので、この湖を選んだらしい。 ちなみにだが、ここパルミラ平原は年に2回、この広大な平原を挟むようにして流れる川が氾濫し、大量の土が自然に入れ替わるようになっている。その時期を見計らって畑を耕すものも多い。 そして何より、その増水によって毎回と言って良いほど、湖の位置が大きく変わる。 『こないだまでは、ここに湖があったのに……』と思っても、後の祭りである。湖の数も、その位置も、毎回大きく変わり、次に変わるのは半年後の増水まで―――という事になっている。変わらないものがあるとすれば、ぽつぽつと点在する『高木』と、レンガを並べて作られた『街道』だけである。 「さーてと……晩メシまで薪(まき)拾いでもすっかぁ」 「じゃ、俺は魚釣ってくるわ」 「あ、俺も」 「あんまり遠くに行くなよー。あと魔物には近づくなー」 などなど、行商人や兵士たちが言って、全員がバラバラに歩き去っていった。 続いて何人かいる旅人の中で、子連れの家族が2組いた。その中の父親同士が仲が良いのか、 「じゃ、俺たちも薪拾ってくるか」 「そうだな」 それに続けて母親たちが、 「じゃあ、あたし達は料理の準備をしましょ」 「あたいらの腕の見せ所だね」 当然ながら、子供たちでも仕事が回ってくるわけではあるが、 「えー、僕たちずっと馬車の中に居たから遊びたいよー」 「あたしもピートと一緒に遊びたいー」 やっぱりダダをこねた。 すると黒髪の兵士が鎧を脱いだ姿―――ランニングシャツとハーフパンツ姿で近づいていき、 「よっし。じゃあ兄ちゃん達と食べれる木の実を探そう! 木登りできっか?」 「うん!」 「あたしもー!」 そんな光景を眺めて微笑みながら、親たちは兵士に礼を言う。 「ほんとにすいませんねー」 「いやいや。お安い御用ですって」 黒髪の兵士が屈託無く笑って答えると、赤髪の兵士が爽やかに笑いながら、 「気にしないで下さい。こいつ、頭の出来が子供レベルなだけなんで」 「なんだとコノヤロー!」 少し離れたところから眺めていたユリウスとフィエナは顔を見合わせ、 「じゃ、俺たちも木の実でも取りに行くか?」 「……そうね。木登りできない大人って、結構多いもの。―――ユリーもできるよね?」 「当たり前だろ? 木よりも高い空を飛べるのに、木登りができないわけ無いだろ?」 「じゃあ大丈夫ね」 そう言って、散策を始めた。 パルミラ平原は、基本的に高木が少ない。 高木といっても何十メートルもあるタイプではなく、時おり民家でも生えている、『子供が木登りするには最適な高さの木』といったサイズがほとんどだ。 そんな高木が少ないといっても、見渡す限り見当たらないというほどでもない。 数十メートルおきに一本といった感覚で、あちこちに点在している。 ユリウスとフィエナは、あの黒髪と赤髪の兵士、そして二人の子供と一緒になって木の実探しに興じていた。 フィエナが言う。 「あっ! この木、ブルーベリーの木だよ!?」 子供の頃にさんざん木登りでもしてたのか、物凄く興奮しながらフィエナが叫ぶ。 ブルーベリーとは、遠く離れた地球の果物とは全く異なり、一粒の大きさが地球で言うところのリンゴ並みのサイズがある。果物としての食べ応えは、充分すぎるほどだ。 ユリウスは、その木を眺めながら顔をしかめ、 「こりゃあ……子供たちに上らせるのは危険だろ?」 「でも私たちには楽勝でしょ?」 子供たちはフィエナが指す木を眺め、ちょっと複雑そうな顔をしていた。ここらへんでは珍しいくらい、背の高い木である。 しかも高いだけではない。その木は何メートルもの高さに達して、ようやく枝分かれが発生しているのだ。―――つまり、その高さまで足がかりが無いのである。 すると黒髪の兵士がヘラヘラと笑いながら、 「俺だって負けてないぜ? ガキの頃、近所の貴族の屋敷に成っているブルーベリーの実を盗む天才だったんだからな……ッ!!」 「―――つまり、お前は泥棒の達人でもあったんだな……」 赤髪の兵士が呆れながら呟く。 そして彼は溜息を吐き、目の前で黒髪の兵士とフィエナが木を登る競争する光景を眺めながら苦笑し、隣に立つユリウスに話し掛けた。 「あんたの奥さん、楽しそうに笑うんだな」 「そういうあんたの相棒だって、無邪気で、それでいてずいぶん楽しそうだな。それに―――あんただって楽しそうに見えるがな」 「―――ははっ。確かにな」 ユリウスは気になっていたことを訊ねた。 「あんた―――何か吹っ切れたような顔してる」 「へぇ……分かるのかい?」 「俺も似たような顔してたからな。つい最近だ。相棒が死んだときだがな」 すると赤髪の兵士は驚いた顔をして、とんでもないことを口にした。 ⇒To Be Continued... |
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