(SO3)惚れ薬パニック 後編 | |
作者:
シウス
2009年05月11日(月) 23時39分41秒公開
ID:vCN5uSAl5bc
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「あれ? ひょっとしてマリアの誕生日って知らなかった?」 『……………………』 二人は絶句した。そしてそれは、次第に『唖然』から『呆れ』へと変わってゆく。おそらくマリアはリーベルがどのような気持ちで指輪を渡されたのかを理解していながら、あえてマユに婚約指輪について説明したのだろう。おそらく、他の人にも説明しまくっているはずだ。彼女は、リーベルが自分で、地球での指輪をプレゼントする風習に気が付くのを待っているのだろう。 「……ねぇ、フェイト。この場合はどうすればいいと思う?」 ソフィアがフェイトに尋ねる。それにフェイトは…… 「マンガとかだったら『こんな奴は放っておこう』って言うけどさ、でもやっぱりこういうときは……」 「教えてあげた方がリアクションが面白いよね♪」 二人が何のことを言っているのかは分からないが、どうやら自分のことを言っているということだけを、リーベルは理解した。それも自分が相当鈍感だということを。 (……何だ? 今の『♪』は……。そしてこいつらの、やけにニヤニヤした表情はいったい……。いったい俺が何をしたって言うんだ?) 考えては見たが、答えは見つからなかった。 二人が不気味な笑みを浮かべながらリーベルを見る。リーベルは何か嫌な予感を感じた。 ソフィアは言った。 「そう言えばリーベルさんはクラウストロ人だから、地球のことはあまり知らないですよね。実はですね、地球で男の人が恋人に指輪を送って、自分も同じ指輪を嵌めるというのは……」 「……いうのは?」 「プロポーズすることを意味しているのです!!」 大きな声でソフィアは宣告した。 「…………………………」 きっかり30秒、リーベルは声を出せなくなった。 プロポーズすることを意味しているのです―――― 頭の中で言葉の意味を何度も反芻する。 「………はぁ!? そ、それって、その、あ、えっと……えええええぇぇ!?」 「そうそう! その反応!!」 と、ソフィア。 「ちょ、ちょ、ちょ……ちょっと待ってくれ!! そういうお前らはどうなんだよ!?」 顔を赤くしてリーベルが、フェイトとソフィアの指に嵌められた指輪を指す。それに対してフェイトは、 「ああ、これ? そうなんだ実は僕達、結婚するんだ」 そう言ってソフィアを自分の方に抱き寄せる。ソフィアはくすぐったそうな、それでいて嬉しそうな笑顔を浮かべていた。 「そ、その歳でか!?」 「いや、僕もソフィアも、まだ学生だからね。正式に結婚するのはまだまだ先だよ」 「その点、リーベルさんもマリアさんも19歳でしたよね? 子供が出来たら写真を送って下さいね。学校のみんなにも紹介しますから」 って、お前が在学中に俺は出産かよ!? というツッコミを入れる余裕など、今のリーベルには無かった。『マリアと付き合っている』ことに関して指摘されても赤面しないぐらいに成長した彼だが、さすがにここまで来ると顔が真っ赤になっていた。 と、その時。 「ちょっと、まだなの!? さっきから何を話してるのよ!?」 外で待っていたマリアが痺れを切らせて戻ってきた。その後ろにはマユも控えている。 「あっ、マリア。ちょうどいいところに来たね。実はリーベルが……」 フェイトが声を『少〜しだけ』ひそめながら、マリアに何かを伝えようとする。その様子を見てソフィアは、込み上げてくる笑いを必死になって堪えた。そこでリーベルが叫ぶ。 「わー!? わー!!? わー!!!? 待て待て待てっ!! 待つんだフェイト!!! そっから先は言っては……」 「あははははは!!」 堪えきれなくなったのか、とうとうソフィアは爆笑した。 「ちょっと、何なのよ!? ソフィアも笑ってないで何とか言いなさいよ!!」 瞬く間に工房内はパニックに陥った。 交易都市ペターニ。 一度は混乱を通り越して混沌という状態までに陥ったこの町は、やはり今日も平和だった。 そしてマユはふと気が付いて、ポツリと洩らした。 「あれっ? 何か忘れているような気が………」 場所は移ってパルミラ平原。アリアスとペターニに挟まれたこの地は、人通りは皆無とまで言わなくとも、ほとんどない。その為か、このようにディプロが着陸していても目撃される事は、まず無い。ましてや長い間、人々がこの地を幾度となく通ることによって出来上がった『道』から相当離れた草原ともなれば、それも当然の事である。 なぜココにディプロが着陸しているかだが、それは彼らを見送りに来た人間―――マユの提言によるのである。彼女いわく、『兄でも乗ったことのある星の船を、一度は見てみたい』という理由から、ディプロはココに着陸しているのである。 見送るのはマユだけではない。これからディプロに乗って帰る彼ら……の仲間であるネル、アドレー、ロジャーもいる。わけあって彼らはシランドの町やサーフェリオに帰っていたそうだが、さすがに見送りには来てくれた。 「あれ? 団長とリーベルさんは?」 マユが兄に気を利かせて、『お兄ちゃん』という言葉を避けながら口を開いた。 「ああ、アルベルの奴さらなら『世話になったな』とか言って、先に帰ったぜ。リーベルはディプロの発進準備の最中だ」 クリフが事も無げに言う。ディプロに居た者ならば皆、転送装置を使って故郷へと帰還したアルベルを知っていた。 「別れの挨拶さえも次げずに去りました。どうやら彼は、かなりのテレ屋さんのようですね」 ミラージュが、いつものポーカーフェイスとは異なる、本物の微笑みを浮かべながら言った。 「アイツらしいんじゃ……ないかい?」 ネルが引きつった顔で言った。誤解しないでもらいたい、彼女は笑いを堪えているのである。アルベルの事を『テレ屋さん』などと言えるのは、世界広しと言えども、恐らくミラージュだけであろう。 と、そこで今度はフェイトが、皆を見渡してから口を開いた。 「さてと、アイツの話はそれくらいにして……ネルさん。アドレーさん。マユさん。そしてロジャー」 一人一人の名前を、ゆっくりと呼んでいった。ロジャーだけ『さん』付けしないと怒り出しそうなので、最後に『そして』という単語を付けることによって、何とかロジャーの気を引く。案の定、ロジャーは怒ったりなどせず、それどころか両腕を組んで『えっへん』などとほざいている。 フェイトが続きの言葉を口にした。 「みんな、今までありがとう」 彼が言ったのは、それだけだった。だがその言葉には、今までに幾度となく死線を乗り越えてきた仲間への感謝が込められていた。それに続くかのように、他の者達も口を開いた。 「ああ。アタシからも言わせてもらうよ。アンタ達と出会えて、本当に良かった」 「ワシも同じ意見じゃ! 世の中が、まさかこれほどまでに広いとは思いもせんかったわい!!」 「未開惑星保護条約をあれだけ無視してまで、様々な物を御覧になられたのですから、それも当然なのでしょうね」 と、相変わらず礼儀正しい喋り方をするのはミラージュ。 「フェイトさん、ソフィアさん。今度は―――いつ来られるのですか?」 マユの問いに、フェイトとソフィアは……いや、マユ以外の誰もが急にニヤニヤしはじめた。中には『おいおい、誰か教えてやれよー』などと囁きあう者さえいた。 戸惑うマユに、ソフィアが優しく語りかけた。 「その事なんだけど……実は来年の今ごろ、ここで同窓会でもしようって考えてるの。だから次に会えるのは、そう遠くはないはずだよ」 「そうだったんですか!? 私はてっきり、何年も会えなくなるんじゃないかと……」 最後の方は、声がだんだんと小さくなっていったせいで、皆の耳には届くことはなかった。と、その時、 ピピピピッ! ピピピピッ! 辺りにマリアの左腕のセットに内臓されたアラームが鳴り響いた。続いて、 『こちらマリエッタ。リーダー、そろそろ離陸の準備が整いました。今から転送収容しますね』 「じゃ……これでお別れね」 マリアが言った。それをきっかけに、先程から口を開いていなかった者達も口を開く。 「ま。また来年にでも会えんだけどな……」 と、クリフ。 「またな〜!!」 千切れんばかりに短い腕を振るのはロジャー。 「今度はアタシのサーカス団のみんなも連れてくるからね〜」 『…………!?』 マリアを筆頭とするクオークのメンバー全員が、一斉にスフレを凝視する。スフレの言う『今度』とは、来年の同窓会のことを言ってい るのだろうか? 貧乏ながらも、同窓会の経費はクォーク持ちなのである。 「ええ。楽しみにしてるね、スフレちゃん」 マユが嬉しそうに頷く。急いでマリア達が否定しようとした次の瞬間、マリア達は蒼い光に包まれた。 光が無くなった時にはもう、そこにはマリア達の姿は無かった。 そして目の前では、ディプロがゆっくりと上昇し始める。ディプロは一定の高さまで来ると、今度は後方から蒼い光を噴射しながら前進し、加速していった。 「行ってしまったね……」 もう見えなくなってしまったディプロに対し、ネルが呟いた。 ディプロが去った方向を見つめたまま、マユは今日1日の出来事を思い出していた。悲惨な目にはあったものの、けっこう楽しくもあった。が、 「あ……あああああああっ!!」 突如、マユは大声を上げた。とんでもない事を思い出したからだ。 「な……何なんだい、一体!?」 ネルが睨み、 「いくらワシでも、今のは心臓が止まるかと思ったわい」 筋肉マッチョが自分の胸に手を当て、 「マユ姉ちゃん、脅かすのはやめてほしいじゃんよ……」 ロジャーが、どんな小さい音でも拾う耳を手で押さえる。 だが三人の文句は、もはや彼女の耳には入ってなどいなかった。マユは呆然と呟いた。 「お兄ちゃんに例のシュークリームを渡したままだった……」 『お兄ちゃん?』 同時に問い返されるが、マユは返事をすることができなかった。 「寄るな動くな騒ぐなクソ虫阿呆おおぉぉ!!!」 大声で吼えながらアルベルは、危ない笑顔さえ浮かべながら漆黒兵達を斬りつけていった。心なしか、斬りつけられる兵士達もどこか危ない、恍惚とした笑みを浮かべながら倒れてゆく。 いつの間にか、修練所内を疾走しながら屋上にまで来てしまっていた。ここへ来るまでに何百人という兵達を斬って来たおかげで、もう 大分兵の数が減っていた。 「テメェで最後だ!!!」 最後の一人を切り伏せた。実際は今斬った奴も含めて全員斬ってきたつもりだが、実はその全てがただの峰打ちだった。 「ハァ…ハァ…ハァ…」 肩で息をする。大分疲れているハズだが、なぜかその目だけは爛々と輝いていた。我を失った目だ。降り続ける雨が心地よい。 「どうだ、思い知ったかクソ虫共!!」 と、そこでアルベルは、手に持ったクリムゾンヘイトを高く掲げ、まるで血を吐くような声で叫んだ。 「正義はぁ……絶っっ対に、勝ぁつのだからなぁッ!!!」 どこかで聞いたことのあるような台詞を言った直後、クリムゾンヘイト目掛けて雷が落ちてきた。 アルベルと、そしてクリムゾンヘイトの悲鳴が、カルサア修練所を震撼させた。 |
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