you must go your own way |
作者:
楠木柚子
URL: http://kijyou.rakurakuhp.net
2011年04月09日(土) 19時28分17秒公開
ID:yLLCUB0mdcQ
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「マヨイ」と赤文字で書かれたレシートを裏返す。そこにある日付こそが、決定的な証拠となるはずだった。 成歩堂は、額の汗を拭うと、控え室の壁にもたれ掛かる。 (――――ありがとうございます、千尋さん。) 実のところ、この証拠品があっても、小中を有罪に持ち込める自信は無かった。あのずる賢い男は、またナニか口実を考えてくるかもしれない。 「‥‥‥‥。」 ――――少し、不安になる。 どんなに望んでも、自分は彼女のようにはなれない。人間の暗い面を浮き彫りにしてしまう法廷にあっても、目に痛いほど明るく輝く、最愛の師匠のようには。 (‥‥貴女のようには。) どうせ届きやしないのだ。一番憧れているものになんて。 ため息をつき、レシートを、頭の上に翳し、蛍光灯の光に透かして、成歩堂は気付く。 「ん?」 見慣れた、流れるような筆致がある。死の直前に書いたのだろうか、ところどころが、震えている。 ――――千尋の字、だった。 とても、小さな文字だったので、目をこらさなければ読むことは出来なかったが、その言葉を認識した瞬間、成歩堂の目に光が宿る。 これは‥‥彼女が残した最後の言葉。本当の、遺書だ。 「弁護人、時間です。」 再開の時が、迫る。 成歩堂の目に、もう迷いは無かった。 「弁護側、準備は完了しております。」 冷静に、そう告げると成歩堂は証言台に立っている小中を睨み付け、正面の検事席にいる幼馴染みを睨み付けた。 ‥‥確かに、ほくは、貴女のようにはなれない、千尋さん。 けれど、それで良い。 成歩堂は手の中のレシートを握りしめる。 頼れる師匠の死。あくまでも逃げようとする真犯人。罪に問われている無実の少女。 この状況を知ってか知らずか、彼女の遺した言葉は、ただ一言。 ――――"you must go your own way" 貴方の道を、進みなさい、と。 確かに、貴女のようにはなれなかった。なろうと望んでも、なれなかった。 ‥‥きっと、それは仕方のないことなのだ。 だから、ぼくはぼくのやり方を貫く。決して、足を止めずに、ひたすらに前だけを向いて。 貴女は、そのことを伝えたかったんですよね、千尋さん。 貴女は、妹を最後まで見守ることが出来なかった。‥‥だから、ぼくを遺していった。 ぼく自身のやり方で、彼女を守ること。ただ、それだけを望んで。 ――――今、ぼくに出来ること。それはただ、彼女の無実を信じて、師匠のように、不敵に笑い、叫ぶことだけ。たとえ、真実がナニ一つ分かっていなかったとしても。 「異議ありッ!」 ――――"you must go your own way" 成歩堂は、思い切り机を叩いた。 |
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