小さな誓い
作者: 果奈   2008年01月13日(日) 00時02分51秒公開   ID:19nIWIYtIuQ
  1月1日 1時17分 大通り

 たくさんの人。周りを見ても人しか見えな
い。
 今日は元旦。初詣の日なのだからまあ当然といえば当然だが、普段はそんなに混み合わないはずの通りでさえコレだ。人ごみに流され、身動きが取れない。無論、この2人も例外ではなかったのだが‥
「なるほどくん、待ってよ〜。」
「そんなこと言われてもね・・・・」
 成歩堂と真宵も近所の神社に初詣に来たのはいいが、帰りに人の波に流され、半分はぐれそうになっていた。
 人の流れというものは予想以上に手ごわい。少ししかない距離を詰めるのに、成歩堂は相当の時間を要した。
 苦労して波を逆流したというのに、目の前にはふくれっ面の真宵がいた。
「も〜、置いてかないでってば!」
 真宵がこの間にかなりひどい目にあったことは見て取れる。初詣だから、といって用意した振り袖はやや乱れていた。
「あっ!」
 振り袖の状態に気がついた真宵は肩を落として落胆していた。
「うう・・せっかく用意したのに・・。」
「も〜、なるほどくんが置いてったせいだよ!」
 真宵は成歩堂に理不尽な怒りをぶつけている。彼女の中では成歩堂が全面的に悪いことになっているらしい。
「それに関しては異議あり、だよ。真宵ちゃん。」
 真宵の表情が怪訝な顔になる。
「え〜、何で何で? なるほどくんが置いてったせいでこんなふうになったんじゃない。」
 真宵はこういうが成歩堂は真宵のことを置いていった気は全くなかった。初詣の帰り、後ろをふと見てみるとついて来ているはずの真宵はなぜか自分のはるか後方に。意図的に置いていったのではなく、真宵が人ごみに流されてしまっただけだ。
「まず、ボクはわざとキミを置いてったわけじゃない。それとついでに、キミの体型は
小柄なほうだ。人の波に流されてしまった、と考えるほうが自然だと思うね。」
「え! だけど―」
 真宵は食い下がる。しかしそれに間発もいれず、成歩堂はトドメをさした。
「それに、あの人ごみの中ではボクだって身動きが取れなかった。つまり、意図的に真宵ちゃんを置いていくことは不可能だ。」
「・・・・・・・」
 どうやらグウの音もでないらしい。彼女も薄々は成歩堂のせいではないとわかっていたようだ。
「でもでも、置いてかれたのは本当だもん。だからなるほどくんが悪いの!」
(やれやれ・・)
 成歩堂は内心苦笑していた。こうなることを予想していなかった、と言えば嘘になるが。
「それじゃあただの屁理屈じゃないか。」
「いいの! ヘリクツだって理屈だもん!」
「いや、それが屁理屈なんだけどな・・」
 これではいつまでたっても埒があかない。法廷では恐怖のハッタリ男といわれる成歩堂はコレでも実力派の弁護士だ。だが、それも理屈が通ればの話。理屈を屁理屈で返す真宵には正直かなわなかった。
「じゃあ今度ははぐれない様にするからさ。それならいいだろ?」
「?」
 そういうと成歩堂はいきなり真宵の手を握った。
「わわっ」
「? これではぐれることもないだろ?じゃあ行くよ。」
(どうしよう・・心臓がばくばくしてる。)
 真宵にとって成歩堂は兄であり、弟であり、頼れる存在のはずだ。というかそうだ。なのになぜ今、こんな感情を持ったのか自分でもわからなかった。
 成歩堂の手はやはり当然なのだろうが、真宵のものよりも大きい。だが、それが成歩堂が異性である、ということをハッキリ感じ取らせていた。
(大きくって、あったかい手だ。でも、今まで気づかなかったのはどうして?)
毎日のように一緒に過ごしていたのに、気づかないことはまだあって。でも、それを感じるのは少し恥ずかしくて、くすぐったい。
「そういえばさ、真宵ちゃん。」
「ん? なに?」
 今まで無言だった成歩堂が口を開いた。
「ハイ、コレ。」
成歩堂の手から渡された、それは―
「おまもり?」
 真宵の手の中にあったのは、小さな淡い桃色のお守りだった。
「ったく、真宵ちゃんは何回も事件に巻き込まれるんだから・・」
「もしかしてさ、アタシのために?」
「うん、もうこれ以上真宵ちゃんが、危険な目にあわないように。」
 確かに真宵は犯人され、誘拐され、と悲惨な人生を送り続けている。普通だったらもう死んでるレベルだ。成歩堂にも何回も助けられ、迷惑をかけた。
「・・・・ありがとう、なるほどくん。」
 これが真宵の精一杯の言葉だった。こんなとき、どうしてうまく言葉が出ないのだろう。のどに何かがつっかえたようになって、これ以上の言葉が出てこない。
「いいんだよ、お願いだからもう心配かけないでくれよ?」
「うん、大事にする。もう絶対心配かけない様に、がんばる!」
 事務所への道がいつもより長く感じる。
 窮屈だった人ごみも、いつの間にか居心地がよくなっていた。
 この手の感触を、ぬくもりを感じられるから。
 この手を失わないためになら、どんな努力だっていとわない。
 今ここにある手を離さないようにしよう。 月明かりのキレイな夜。真宵はそう心に誓った。

■作者からのメッセージ
ナルマヨお正月ネタ!です。いろいろあって微妙に季節はずれになってしまいましたが。ほんわかした感じにしたかったのですが、どうでしょうか。二人の幸せを本気で祈ろうと思います。

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