CAN YOU CELEBRATE?
作者: 天音   2007年12月23日(日) 14時23分49秒公開   ID:1HWLnWYBLOM


 Can you celebrate? Can you kiss me tonight?
We will love long long time
 永遠ていう言葉なんて 知らなかったよね……




「はい、もういいですよ。とってもお綺麗です」
 そう言うと、ぺこりと頭を下げて女性は部屋を出て行った。私も軽く頭を下げて、お礼を言う。ドアが閉まると、そっと鏡に近づいて自分の姿を見た。
 真っ白で豪華なドレス。……そう、ウエディングドレス。幼い頃からずっと憧れていた。
 父に英才教育を叩き込まれながらも、少女らしい部分だって一応持っていた。検事になることが目標だったのは間違いないけれど、それ以上にこうして好きな人と一緒になることが夢だったもの。
 鏡に映る自分の姿を見て、少しだけ微笑んでみる。

 思えば、ここまでに何年かかったのだろう。
 彼と出会った時、私はまだ2歳だった。彼は、9歳。
 突然休暇を取って、アメリカに帰ってきた父が、彼を引き連れて来たのだ。
 簡単な紹介だけ。「弟弟子ができる」といわれ、リビングに行くと彼が立っていた。彼は名前だけいうと、頭を下げた。
 たったそれだけだったのに、ひどく衝撃的だった。

 彼は私にとって、愛情の対象でもあったし、それと同時に嫉妬の対象でもあった。
 完璧主義者であった父は、娘である私だけを“後継者”にするのかと思っていた。それなのに父は、彼を弟子として迎え入れた。私にとって彼は、父の関心を持って行ってしまう憎い弟弟子。
 年の差があるから仕方ない、というのは言い訳にならなかった。私はつねに完璧で、最高でなければならなかったのに。彼はいとも簡単に私に追い付き、そして、抜いていった。私はずっと、彼の背中を追うしかなかった……だからどうしても憎かった。
 でも、それ以上に彼のことが好きだった。母は私を産んですぐに亡くなってしまったし、姉は家を出て行ってしまった。父は私を“娘”として可愛がってくれたことなんてなかった。……誰にも愛されていなかった私を、彼は愛してくれたの。
 夜、寂しいといえば一緒のベッドで寝てくれた。密かに努力していることを知っていたし、また、それを誉めてくれた。人に初めて誉められて、愛された。――そのとき、どれだけ嬉しかったか。
 幼い頃、彼はそんな存在だった。私たちはまるで兄妹のように生活していたのを、覚えている。

 それが年を重ねるにつれ、兄妹としての愛情から男女としての愛情に変わっていった。
 幼い頃は何も考えず、ただ側にいただけで。何の緊張もなかったし、お互い遠慮も無かった。7歳差があるといっても、彼もまだ小さな子供だったし……異性であることもそんなに意識していなかったから。
 でも、やっぱり彼が“大人”になって、どんどん立派になっていくとそれは変わっていったのね。
 身体的にも精神的にも、彼は私を完全に超えてしまった。まだ嫉妬は残っていたけれど、彼に抱きしめられると幸せで。胸が高鳴って、ちょっぴり緊張して。
 いつのまにか彼は、私の中で大きな存在になっていた。
 彼が日本に帰ってしまうときは、本当に哀しくて……どうしようもない寂しさが私を襲ったものだ。もちろんそんな感情、世間には見せられなかったけれど。だからこっそり日本での彼の活躍ぶりを知っては、微笑んで見たり。

 ――と、ドアを叩く音で私は現実に戻される。
「入ってもいいだろうか?」
 彼の声だ。




 遠かった怖かった でも 時に素晴らしい
 夜もあった 笑顔もあった どうしようもない風に吹かれて
 生きてる今 これでもまだ 悪くはないよね




 妙に白いタキシードが似合っている彼と、やって来てくれた友人達と少し談笑する。
 普段からフリルのついた服を着ている彼だけれど、今日は特別。腹立たしいほど余裕がある、法廷での顔はどこへ行ってしまったのか。平然を装いつつも、緊張しているようだった。
 その様子を友人達にからかわれて、少し不機嫌になりつつも笑う彼の姿が、眩しく映る。

 彼は、そう。鈍感でどうしようもないくせに、人一倍傷つきやすい。完璧であるようで、地震を怖がったり、とんでもないほど不器用だったり。冷酷だという人もいるけれど、本当はとても優しいの。
 私はそういう彼が大好きなのだけれど。その優しさ故に、彼は失踪してしまうこともあった。
 3年前のクリスマス。彼が被告席に立つことになった事件で、彼は……18年前、彼のお父様が亡くなった事件の真相を知ることになった。
 私と彼が一緒になる上で、この事件を持ち上げて反対する人だっていた。……私たちは、この事件を受け入れて、そして乗り越えなければならない。
 彼のお父様を殺した犯人は、私の父。愛して、尊敬して止まない父だった。
 その事も含めて、信じていた人から度重なる“裏切り行為”を受けた彼は、1年ほど失踪してしまった。
 ……その事を知らされたときは、目の前が真っ暗になった。
 日本の検事局から送られてきたのは、たった一枚のメモ。彼が書き残していったものだった。私はそれを見た瞬間、体中の力が抜けて座り込んでしまった。壁にもたれて、暫くなにも手に付かなくて。
 「どうして……」それだけが頭をまわった。何回も電話やメールをしたし、誰の力も借りず自分で何日も探しても、それでも彼は見つからなった。
 彼がいなくなって私がまず思い知らされたのは、会えなくても彼は私の中に存在していて、ずっと支えてくれていたということ。哀しみが限界を超えて、涙も出なくて……どうしようもなかった。
 八つ当たりだとしかいえないけれど。彼を死に追いやったとして、彼の友人である弁護士を憎んだ。そして、彼への愛しさを無理矢理憎しみに変えてしまった。今までのことはすべて夢だったんだと言い聞かせ、日本に渡った。

 そして私は日本で、彼と再会した。
 私の中であまりに大きくなりすぎた彼。彼への想いを切り捨てきることができずに、私がアメリカに帰ろうとしたとき、彼が引き留めてくれたのがどれだけ嬉しかったか、言葉で表せない。
 嬉しさのあまり涙が溢れてきて、夢中で彼に抱きついた。彼が帰ってきてくれて、今ここにいるんだということが本当に幸せだった。

 それからまた彼は、世界各地を飛び回る多忙な生活を送るようになり、私もアメリカに帰った。また1年後、厄介な事件が起こって日本に帰ってきたのだけれどね。

「そろそろ時間でございます。新郎新婦は、準備をお願いします」
 案内が入り、私と彼は目を合わせ微笑みをかわしてから、ゆっくり歩き始めた。




 間違いだらけの道順 なにかに逆らって走った
 誰かが 教えてくれた

 wo 思い出から ほんの少し 抜け出せずに
 たたずんでる 訳もなくて 涙あふれ 笑顔こぼれてる




「もう少しですから、ちょっと待っていて下さいね」
 とりあえず彼だけ先に入場して、私を待っている。一旦扉が閉められ、拍手の音が少し小さく聞こえた。
 ブーケを握り直して、深呼吸。高鳴っている胸を、なんとか落ち着かせようとするのだけれど、上手くいかない。……まぁ、当たり前かしら。
 普通は隣に父がいるのだけれど、私の場合はいない。父はすでに、自らの罪を償うために亡くなった。少し寂しいけれど、大丈夫。私には彼がいるから。
「それでは、新婦の入場です。拍手でお迎え下さい!」
 中から声がした。扉の開閉を担当している従業員が、私にニッコリ微笑む。
 ゆっくり扉が開き、中の様子が視界に入った。天井から光が差し込み、ステンドグラスの模様が床に映っている。とても幻想的で綺麗。両脇にはたくさんの人がいて、みんな拍手で迎えてくれていた。
 そして中央には、彼の姿。
 カーペットの上を歩き、彼のもとへ。
「……とても綺麗だ」
 そっと耳元で、彼が囁く。思わず頬がゆるんだ。賛美歌や美しい演奏を聴きながら、また思い出す。
 ついこの前、日本に帰ってきたとき、彼が私に行ってくれた言葉を。法廷で、しかも裁判中に。あんな堂々と、さらりと言ってしまうのだから吃驚してしまった。
「それでは結婚宣言をいたします」
 彼がどんな気持ちであの言葉を言ったのか、よく分からない。ただ仕事の相手としてなのか、それとももっと深い意味を込めて言ってくれたのか。
 あまり感情を表に出さないから、どう反応して良いか分からなかったじゃない。今だって、そう。嬉しそうにはしてるけれど、私みたいに手が震えるほど緊張しているのかどうか……ホント分からないんだから。
「あなたは良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、妻を想い、妻のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」
 牧師の問に、彼は何の迷いも無く答える。
「はい、誓います」
 キッパリと言い切る彼は、やっぱり格好いい。彼が誓ったら、今度は私の番だ。
「あなたは良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、夫を想い、夫のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」
 私はしっかり牧師の目を見て、確かに隣にいる彼のぬくもりを感じながら、言い切った。
「はい、誓います」
 言った後、嬉しさがまた込み上げてきた。
 そして結婚誓約書への記名。まず最初に彼が名前を書いて、ペンが私に渡される。
 几帳面に書かれた彼の名前。綺麗なのだけれど、少しクセが抜け着れていない。時々角張っていたり、丸まっていたりするその字は彼をそのまま表しているようで、なんだか不思議な気分になった。
 その下に、私の名前を連ねる。一点一画もおろそかにしないように、ゆっくり丁寧に。私は生まれてからずっと、父を尊敬して、名字に縛られてきた気がする。それなのに今、こうして名字を変えるの。……彼が、私の中で一番だから。
 もう彼から離れないように。彼を誰にも渡さないように。

 記名をしてペンをゆっくり置くと、今度は指輪が出てきた。サイズの違うふたつの指輪。中心にはめ込まれたダイアモンドが、キラキラと光っていた。
 そのうちの大きい方を手にとって、彼の左手の薬指にはめる。指輪自体もとても綺麗なものだけれど、彼がするとさらに輝いて見える。
 そして彼が、残っている小さな方を手にとって、私の指にはめる。優しく、でもしっかりと。彼が手を離した後も、何秒か手を見つめている私がいた。
「では、誓いのキスを……」
 ゆっくり彼が私に近づいてきた。ヴェールをめくって、私の肩に手を置く。
 私は目を閉じる。


 ねぇ、あなたはこう言ってくれたわよね。私に、「君は最高のパートナーだ」って。
 あなたは私にどんな想いで言ってくれたのかしら?

 私はあなたに相応しい女になれるように、どんな意味でも「最高のパートナー」になれるように努力するから。
 あなたが私の中で最高であるように、あなたの中で私が最高になれますように。

 ……昔も今も、そしてこれからも。
 ずっと愛してるわ、怜侍。


 そっと唇を重ね合わせたとき、祝福の鐘の音が教会中に響き渡った。




 Can you hold me tonight? Let't a party time tonight
Say good bye my lonelly heart
 永遠ていう言葉なんて 知らなかったよね
 ふたりきりだね 今夜からは どうぞよろしくね

Can you celebrate? Can you kiss me tonight?
We will love long long time

 I can celebrate...
■作者からのメッセージ
 みなさんお久しぶりです。本当にお久しぶりの天音です。
 ここ2ヶ月以上、作品を投稿できず申し訳ありませんでした。生きてきて初めて……ともいえる、大きなスランプで、文章がなかなか打ち込めなかったんです。
 長編はストップし、本当に申し訳ありませんでした。この場を借りてお詫び申し上げます。でも必ず完成させます。

 それで2ヶ月ぶりに書いたのがこれです。あうう……元々低かった文章力がさらに落ちてしまってスミマセン↓↓
 先日、部活の顧問の先生が結婚され、それを思い浮かべてミツメイの結婚式です。引用したのは安室奈美恵さん(作詞作曲:小室哲哉さん)の「Can you celebrate?」――この曲、大好きなんですよ☆彡
 今回のは最後に名前を出し、あえて最初の方は誰の結婚式なのかは伏せてみました。冥視点で、御剣とのこれまでも書いてみたんですけど……。あと、今回はできるだけ短く!を意識してみました。いつもダラダラ長いので(笑)

 3の「最高のパートナー」発言と安室ちゃんにはとてもお世話になりました<(_ _)>
 では、久しぶりの天音でした。良ければ感想とアドバイスをよろしくお願いします。

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