病室にて |
作者:
果奈
2007年12月22日(土) 16時48分48秒公開
ID:19nIWIYtIuQ
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・・・・ガチャリ。 ドアの開く微かな音で病室の静寂は途切れた。その音のした方向には僕のよく知っている顔。 「大丈夫か? 成歩堂。」 相変わらずのぶっきらぼうな言葉。そこに立っていたのは言うまでもなく御剣だった。どうやらかなり疲れているようだ。顔がいつもにまして蒼白だ。 「ああ、だいぶ良くなった気がするよ。」 実際、ボクは堀田院長(本物)も驚くほど順調に回復していた。正直、あの高さから落ちて生きているのは奇跡らしい。風邪しか引いていない。まったく、運がいいんだか悪いんだかわからない。 「熱も下がってるみたいだし、大丈夫だよ。」 「ム、そうか・・」 そう言いながら御剣はベッドのそばに来た。 当然ながらここは病室。壁や床、カーテンだって白い。この空間の中で見剣で御剣の紅はとても目立つ。いまさらながら派手な色の服だ。 ・・ボクの青も似たようなものか。 ふと見てみると、御剣の手には花があった。白くて小さな花だ。名前は知らないけど。 そうして見ているともうひとつ気がついた。御剣の手の中に弁護士バッジがあることに。 「どうだった?弁護席に立った気分は?」 そう聞いたとたんに御剣の顔はさっきよりさらに白くなる。・・どうやらかなり死にそうになったらしいな。 「キミがいつも冷や汗ダラダラで死にそうになっていた理由がよくわかった。」 ・・ひどい言われようだ。ホントの事だけど。 「だが、1度でも父と同じ席に立てて良かった。」 「・・・・・・・・・・」 御剣がなにかつぶやく。お礼なら聞こえるように言ってほしい。 「御剣、ありがとう。お前のおかげで助かったよ。」 今日の審理はムチがとび、人が飛ぶというなんとも過酷なものだったらしい。御剣に頼んでいなかったらどうなったかわからなかった。 「礼にはおよばん。ワタシはキミという抜け落ちた駒の代わりをつとめただけだ。あの場所に立つのはワタシではないのだ。」 やっぱりキザなところは変わっていないみたいだ。そういいながら弁護士バッジを出す。 「コレはキミに返そう。本来ワタシが持つべきものではないのだ。」 手の中の光るバッジ。この中にはいろいろな思い出がある。それの中に御剣も入れたんだろうか。 「ああ、そうだな。」 「もう一つ、コレもな。」 コレは勾玉、か。 「人のココロの中など見るべきではないな。さいころ錠が出るたびにワタシはそう思ったな。」 「確かにそうかもな。」 でも、さいころ錠じゃなくてサイコ・ロックなんだけどな。でもそこはつっこまないでおこう。 ついでに、さっきから聞きたかったことがあるけど・・。コレを聞いてもいいんだろうか? 「御剣、その花は?」 「ム、コレか。コレは、その、・・見舞いだ。」 「それはわかってるんだけどさ。いや、あのさ・・その花の名前、何? 」 御剣の表情が明らかに変わった。やっぱり、聞くんじゃなかった。後悔が僕をおそう。 「キミが花に疎いのは知っていたが、まさかここまでとはな・・。そこのパソコンででも調べておけ。」 そんなに有名な花なのか? コレ・・ 「調べたらさっさと来い。葉桜院まで送る。」 そういって御剣は花を置いて出て行ってしまった。 とりあえず調べてみることにする。インターネットの花の辞典を使ってみた。 スズラン ユリ科 原産国 ヨーロッパ 花言葉 幸福が戻ってくる なるほどね。やっと御剣のやったことの意味がわかる。幸福が戻ってくる、か。きっと、真宵ちゃんのことを気にしてたんだろう。相変わらず素直じゃないみたいだ。 だけど、戻ってくるのを待ってるだけじゃ始まらない。ここで待ってるだけじゃ、何も変わらない。自分から動かないと何も変わらないんだ。 ボクは急いで服を着替え、御剣のもとへ向かっていった。 |
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