切り裂かれた逆転最終話
作者: 10join   2007年12月08日(土) 14時34分13秒公開   ID:lBGY4c4qTNg
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「しっかりしなさいよなるほどくん。サーベ検事がすごいヒントを言っているじゃない。もしかして気付いてないの?」
 隣から懐かしい声が聞こえた。見てみるとやっぱり千尋さんがいた。思った通り春美ちゃんが霊媒しているようだ。
「でもお姉ちゃん。あれってサーベ検事がふざけていったんじゃないの?」
 真宵ちゃんのいう通りふざけているとしか思えない。アヒルにでもはかせろなんて。オウムなら話はかなり変わってくるんだけど。でもサーベ検事の王冠はなんか変な光を放っていた。まるで早く気付けとでも言っているようだった。
「なるほどくん。赤いラピスラズリのモデルって一体なんだったかしら。」
 え?それはもちろん・・・あ。ああああああああああああああああ!

「どうしたんですか成歩堂君。変な叫び声なんてあげて。」
 口に出した覚えは全くないんだけどな。まあいいや。
「サーベ検事のおかげでわかったんですよ。赤いラピスラズリの隠し場所が。」
 ぼくがそういうのを聞いて、裁判長が目を丸くしていた。他の人達もよくわかっていないようだ。無限君達や、子羊宿さん達は別として。
「どういうことですか?サーベ検事はアヒルに証言させたらどうかってふざけて言っただけでしょう?」
 確かにそうとるのが普通だ。だけどサーベ検事はそういう意味で言ったわけじゃないはずだ。
「オレは尋問しろって言ったんじゃない。吐かせろって言ったんだ。血塗られた赤い卵をね。」
 かなり物騒な比喩だな。でも血塗られたっていうのは間違ってはいない。あれはかなり黒い歴史がついて回っているものなのだから。

「ま、まさかあなたたちは・・・。」
 裁判長はようやくぼくが何を言いたいのかわかったようだ。
「そう。バロンはそのアヒルに赤いラピスラズリを飲み込ませたんです!」
 ぼくがそういうのを聞いてほとんどの傍聴人は騒ぎ出した。それはそうだろう。普通に考えたらそんな結論には至らないのだから。
 カッ!カッ!カッ!
「静粛に!静粛に!」
 初めてこのシーンが書かれた気がするのはぼくだけだろうか。
「な、なななにをバカな。そ、そそそんな方法普通思いつくわけがないでしょう。そうだっていう証拠はあるんですか?」
 そう言いながらも武羅布さんはかなり動揺している。やっぱりぼくの考えは間違っていないようだ。

「証拠ならありますよ。くらえ!」
 ぼくはそう言って本棚の写真を取り出した。もちろん武羅布さんの部屋の物だ。
「その本棚がどうかしたんですか。なんかミステリーが多いようですが。シャーロック・ホームズの冒険だけはないようですな。」
 裁判長も相当ミステリーが好きなようだ。写真みただけでシャーロック・ホームズの冒険がないなんてこと普通わからないぞ。
「おそらく読まれては困ると思ったんだろう。青いガーネットを。まあ、知っている人がいたのが運のつきだけど。」
「ああ。その話ならもちろん知っています。確かどこかの伯爵夫人の持ち物だった青いガーネットが盗まれて、それを偶然ホームズが見つけて犯人を割り出したんですよね。確か守衛の拾って来たガチョウの・・・。」
 そこまで言ってようやく裁判長も気付いたようだ。
「アヒルにも餌袋ってあるんですか?」
「普通の鳥類にはあります。」
 話によってはペガサスにだってある代物だ。あくまで例外だけど。作者が劉さんに皮しか食べない北京ダックで餌袋の話をさせたのはこのためだったのか。
「しかもパースって英語で財布だしな。まあ主に女物をさす言葉らしい。」
 サーベ検事は英語圏出身っぽいのにかなり適当だ。それにしても女物ってことはパースってメスなのか?まあ作者はそこまで考えてないかもしれないけど。

「確かにバロンがぼくの別人格だったら、青いガーネットを読んでそういうトリックを知っているかもしれないですね。でもだからってどうしてバロンがそうしたって言えるんですか?」
 武羅布さんはかなり必死になっている。
「根拠ならありますよ。くらえ!」
 そしてぼくは紙をとりだした。いうまでもなくあの日記をコピーしたものだ。
「こ、これはバロンの犯行ですか。まるでホームズの事件を見ているようですな。おどる人形から始まって、人間猿や最後の戦いまでありますぞ。今回もそうだとすると青いガーネットのトリックを行う可能性はかなり高いと言えるでしょう。」
 なんで見ただけでそこまでわかるんだろう。まあいい。これで追いつめた。後は赤いラピスラズリを取り出すだけだ。

「どうやって取り出すの?」
 真宵ちゃんが素朴な疑問を言った。そ、そんなののどでも切り開いたらいいんじゃないのか?
「生きたままかい?」
 それはない。まずどうにかして・・・
「人のペットを勝手に殺すんですか?」
 裁判長までおいうちをかけてきた。ま、まさか武羅布さんがペットのアヒルを選んだのって・・・
「動物愛護団体から苦情が来ますよ。」
 そ、そうか。あの話で青いガーネットが出て来たのはクリスマス用のガチョウだった。だから青いガーネットの時はもうとっくに死んでたし、首をしめてもそうしないと食べられないっていう理由で許された。でも今回の事件では生きていて、しかも他人のペットだ。いくら飼い主が怪しいとはいっても、ヘタに殺す事はできない。でもどうする?生きたままのどから赤いラピスラズリを取り出すことができるのってクリムゾンジャックぐらいしか・・・クリムゾンジャック?そうか。これはひょっとするといけるかもしれない。

「サーベ検事。今アヒルはどこに?」
「ちゃんと連れて来てあるよ。」
 それはそうだろうな。アヒルが隠し場所だって先に思いついたのはサーベ検事なんだから。
「今すぐ連れて来て下さい。試したいことがあるんです。」
 それを聞いて、サーベ検事の王冠がかなり光を放ち出した。
「わかった。方法があるならすぐにやってくれないか。後2、3分しかないんだ。」
 それを聞いてさっきから感じていたことが確信に変わった。あいつには読めていたんだ。今日の法廷がどうなるか。

「それで成歩堂くん。そのアヒルを連れて来てどうするんですか?まさかこのままのどを割くとか・・・。」
 そんなことはさっき出来ないって言ったばかりだろうが。
「後1分だ。やるんなら早くしてくれないか?」
 サーベ検事がアイツのために時間調節をしている。これは早くしないといけないみたいだ。はっきり言って作者の書く話は、一見意味がない物が実はかなり重要だったり、重要に見える物が、なんの意味がなかったりはする。それはわかっていた。
「わかりました。くらえ!」
 でもこれが最後の切札になるなんて全く考えもしなかった。

「なんなんですか。その白くて丸いものは。一見薬に見えますけど。」
 確かにこれは薬だ。そして、この薬がこの事件の解決に結びつくらしき物なんだ。
「これはのどに物がつまった時に飲ませる薬らしいです。これを使えば、のどを刺激して、それを吐き出させる物だと言う事です。それに胃の中の物も出さないですむようですよ。」
 なんかかなり自信がないんですけど。まあいいか。とにかくこうするしかないみたいだしな。
「それで赤いラピスラズリを吐き出させるわけか。かなり不確実だけどやってみるしかないみたいだね。あと30秒切ってるみたいだし。」
 どうやらやるしかないみたいだな。ぼくは1つしかない錠剤をアヒルのパースののどの奥に投げ込んだ。
「グワッ!グワッ!」
 投げた錠剤はまるで小説のようにパースののどに吸い込まれて行った。そして、何かを吐き出しそうな動きをした。
「10、9、8、7」
 サーベ検事のカウントダウンと共にのどの奥から赤い物が見え始めた。
「6、5、4、3」
 みんなもサーベ検事に続いて言った。それと同時に、のどから赤い宝石が吐き出された。
「2、1、0」
 その時あの歌が流れて来た。前のはBGMだけだったけど、今回は歌詞がついている。なぜなら、今回はアイツの本来の出番だからだ。

「時計の針が予告の時間を告げた時、現場に黒い疾風が吹き荒れる。」
 かなり微妙な歌詞のような気はするけど、ぼくはその時確かに黒い風のようなものが通り過ぎたのを感じた。
「マントがはためく音と共に、獲物はそこから消え失せる。」
 その瞬間、落下中だった赤いラピスラズリがその場から消え去っていた。
「全てが終わった後に、浮かび上がる影は、地獄からやってきた道化・・・」
「ヘルジョーカー!」
 そこには漆黒の衣装に身を包んだ道化師がいた。その手は愛おしげに赤いラピスラズリをふいていた。
「ごくろう成歩堂弁護士。やっとこいつを取り戻す事ができた。」
 相変わらずキザな口調で言って来た。それにしても普通宝石をこいつ呼ばわりするものなのか?ぼくには全然わからない。
「どうだい証人。これでようやく終わりにできるみたいだね。」
 サーベ検事が武羅布さんに優しくそう言った。武羅布さんはその時本当に救われたような顔をしていた。まるで長い悪夢が終わったように見えた。
『ここでちょっと武羅布視点いくぞ。』
 え?このタイミングでいくのか?
『いいだろ別に。それじゃスタートだ。』

 本当に不思議な感覚だ。今自分がバロンであることが完全に証明されたのに、ぼくは喜びで満ちている。ぼくはもともと復讐を果たしてくれるという条件で、バロンに体を貸した。でも最初に烏賊様を取り逃がした時、あいつは自分の感情を満たすために、たまたま目撃していた人を切り裂いたんだ。ぼくはそれから復讐をあきらめようとした。これ以上関係のない人を巻込むわけにはいかないからだ。だけどあいつを止めることはできなかった。ぼくの手は勝手に仮面に伸びて、あいつを呼び覚ましてしまうからだ。しかもあいつは始めに美術品を盗んだことをいい事に、自分の目的を盗むことだと偽ったんだ。それに気付いたのは、あいつが殺した後滝に落とした刑事ぐらいだったようだけど。でもそんなことはどうでもいい。刑務所に閉じ込められたらいくらあいつが出て来てもどうにもならない。やっとこれで終わらせられるんだ。
(キサマは本当にそんなことで我をとめられると思っているのか?)
 体の内側からあいつの冷たい声がした。そしてぼくの左手は仮面があるはずの所へと勝手に伸びていった。

『それじゃあ戻すよ。』
「や、やめろおおおおお。ぼくはもうこれ以上誰も殺したくないんだ。」
 武羅布さんは叫び声を上げながら手を懐に持って行った。その手はかなり震えていた。まるでそうするのを拒むように。まさかこれって・・・
「バロンが体をのっとろうとしているってこと?」
 多分真宵ちゃんの言う通りだ。つまりバロンが懐に手を入れているってことはつまり・・・
「当然コイツを探しているんだろう。」
 ヘルジョーカーは驚くほど冷静に答えた。でもそんな余裕はないんじゃないのか?もし仮面をつけてバロンが出て来たら・・・あれ。今この人なんて言った?コイツってまさか?
「赤いラピスラズリとバロンという名の仮面をいただく。完全に予告状通りだね。」
 そういうヘルジョーカーはあの赤い仮面を指先で回していた。こうなったらもうバロンに武羅布さんの体をのっとることはできない。武羅布さんはかなりうれしそうな顔をしていた。これで本当に全て終わっ

「あれ。なんかぼくの中からバロンが消えたような気がするんですけど。」
 え?それってバロンが完全にこの世から消え去ったってことなのか?でもそれを聞いたヘルジョーカの顔は青ざめていた。
「ま、まさかあいつここにいる誰かの体を奪おうとしているのか?」
 え?そんなことができるなんて話聞いた事なかったぞ。でもこの場には仮面を持ち歩いている人なんて絶対にいないと思うんだけど。
「仮面なんてなくたっていいんだ。オレたちの元の人格の心は生まれつき2つの部屋に分けられていて、オレたちは仮面という鍵を使わなければ出て来られない。でも普通の人に取り憑いた場合、分けられていないから取り付いたら完全に相手の意識をのっとることができるんだ。」
「そ、そんな。一体誰に取り付こうとしているんですか?」
 あれ。いつの間にか春美ちゃんに戻ってるぞ。どういうことだ?

「あんたたちの目には見えないだろうけど、バロンは生き霊みたいな物になって誰かに取り付こうとしてるんだ。」
「それでその誰かを守ろうとして千尋さんが憑いていた春美ちゃんの体から抜け出したってわけだ。」
「「物理的な物じゃ倒すことはできないからね。」」
 無限君と零樹君がそう言った。幽霊が見えているような口調だ。それに無限君は左目を、そして零樹君は右目を押さえている。これってまさか・・・いやありえない。彼らが出て来たのは作者がその話を読む前だったはずだ。でも作者なら後でそういう設定くらい付け足してもおかしくないか。

⇒To Be Continued...

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