切り裂かれた逆転23
作者: 10join   2007年11月03日(土) 14時46分57秒公開   ID:BaKjuKOI7.w
「動機の話はもうこれくらいでいいだろ。この事件に話を戻そうか。」
 サーベ検事は冷静に言った。王冠にも全く反応がない。ちなみにいつも王冠で気持ちを読んでいるのは、サーベ検事がいつもポーカーフェイスで表情が読めないからだ。
「そんなこと言ってもあそこには行った事はありません。」
 武羅布さんはそういうけど本当にないのか?切札美術館って有名だからけっこう来場者は多いと思うんだけど。
「調査した限りでは来場者名簿には名前がなかったし、防犯カメラにも写ってなかった。まあヘタに来てそれがわかったらまた烏賊様に逃げられるって考えた可能性もあるけどね。」
 そうなのか。でもウソをついてる可能性はある。一応尋問してみようか。
「まあ意味はないかもしれないけど証言してもらおうか。もう時間もないからな。」
 時間?一体なんの話だろう。まだそこまで時間たってないのに。
「もしかして検事局になにか来たのかもしれないよ。何かはわからないけど。」
 案外真宵ちゃんの言う通りなのかもしれない。前の裁判でもある人物がある物を検事局に届けていた。そしてアイツは確かに裁判所に姿を時間通りに姿を現した。でもそれはあくまで証言したのが警察関係者で、それの存在を知っていたから時間が調節できたからだ。いくらアイツでも今回はそこまで計算できるのか?ぼくにはわからない。
「それではとにかく証言して下さい。」
 裁判長がめずらしく進行役をやっている。いつもは明らかに検事の働きが大きいからそう感じるだけなんだろうけど。

《犯行が不可能な根拠》

〈さっきもいったようにあそこには行っていません。〉
「待った!その根拠は?」
「検事さんも言ったでしょう。名簿にも防犯カメラにもぼくが来たなんていう根拠はないんでしょう。」
 確かにその話は聞いた。でも「武羅布公成」として来ていなくても、それはたいした問題じゃないんだよ。
「問題はバロンとして行った事があるかなんだもんね。」
 ご名答。真宵ちゃんにもそれはわかっているようだ。
「とにかく証言を続けてくれ。」
 やっぱり進行役は裁判長ではなくサーベ検事がするようだ。

〈それに行ったとしてもぼくには不可能ですよ。〉
「待った!どうしてそう言いきれるんですか?」
「切札美術館ってヘルジョーカーの物でしょう。セキュリティはしっかりしてるはずでしょう。」
 確かにそうだ。そう判断してもおかしくはないか。一応辻褄は合う。
「続きを聞かせてくれ。」
 なんでサーベ検事は続きがあるってわかるんだろう。休憩もないから証言を聞く事なんてできるはずないのに。

〈それに被害者の部屋は展示室を横切った所にあるんですよ。〉
「待った!どうして行った事がないのにそんなことまで知ってるんですか?」
 これは重要な手がかりかもしれないぞ。でもサーベ検事は全く動揺した様子もないし、王冠にも変化は見られない。なんでだろう。
「テレビで見たからそれくらいは知ってますよ。」
 なるほど。サーベ検事はそう答えるのを読んでいたわけか。確かにテレビで見ていたとしてもおかしくない。あんなボロアパートでも一応テレビはあったし、電気も流れていたからな。
「ふーん。それで?」
 サーベ検事はかなり適当になって来ている。どうやらあまり期待はしていないようだ。

〈どうやったら行きと帰りで一回ずつしか見つからないで帰れるって言うんですか?〉
「待った!つまりバロンは2回見つかったって言いたいんですか?」
「え?それもテレビでやっていましたけど。」
 他の証言ならそれでごまかせるかもしれない。でも武羅布さんが犯したミスはあまりにも致命的な物だ。
「へー。被告人がバロンに気絶させられたってテレビでやってたんだ。初耳だよ。あんたその話信じたんだ。」
 そう。今のところ世間では防人さんがバロンだということになっている。それなのに今の段階で防人さんがバロンに襲われたなんて話が出てくるはずはない。もし出たとしても、防人さんが罪を逃れようとしてそんなデマを言ったと思うのが一般的だ。オバチャンの目撃情報は信じるにしても、今バロンが2回目撃されたなんて言えるのはバロン本人だけのはずだ。

「た、多分聞き間違いをしたんです。それともなにかぼくが現場に行った証拠でもあるんですか?」
 決定的とは言えないかもしれないけど、可能性は示せるかもしれない。
「くらえ!これを見て下さい。」
「これはあのわけのわからないダイイングメッセージですか?これは意味がないハッタリなんじゃないんですか?」
「いいえ。ハッタリではありません。ブラフです。つまりこれは証人の名前を指していたんですよ。」
 勢いだけでそう言ってしまった。少し無理なような気もしないでもない。
「異議あり!そんなのこじつけにすぎないんじゃないのかい?」
「異議あり!それでは被害者は意味のないダイイングメッセージを残したっていうんですか?」
「異議あり!そもそもこれがどうしてダイイングメッセージだって言い切れるんだい?単に適当に書いただけかもしれないだろ。」
 確かに証拠ファイルにも書いてあるなダイイングメッセージ『?』って。確かにこんな物について語り合ってもしょうがないのかもしれない。

「もう少しマシな証拠はないのですか?」
 ならこれでも使うか。
「くらえ!これならどうでしょう。」
「これはアヒルの羽ですか?」
「そうです。現場に落ちていました。それにこの羽はなくなっていた警備服からもかなりの量が見つかっているんです。」
 裁判長はなんでそんな物が武羅布さんと結びつくのか全くわからないようだ。でもサーベ検事はぼくが言いたい事がわかっているようだ。
「証人もアヒルを飼ってるんだってね。確かパースとかいう。でもそれが同じアヒルだって言い切れるのか?」
 ぼくにはなんとも言えない。でもこれから調べればわかることなんじゃないのか?
「それにもし同じアヒルだとして、どうして証人はわざわざアヒルを現場に持ち込む必要があったっていうんだい?」
 え?それは変装がバレないように体型をごまかすためなんじゃないのか?
「その前提がおかしいんだよ。どうしてバロンは侵入する前から体型をごまかすことなんて考えたんだ?もし防人を知っていて変装したんだとしても、どうして他の警備員に見つかった場合を考えなかったんだ?場合によってはそんなことする必要はないだろ。それにもしごまかすにしても別の物を使うだろ。なんでわざわざアヒルにする必要があったんだよ?」
 うーん。これも決定的とはいえないかもしれない。かなり無理があるけど、偶然武羅布さんのアヒルが窓から飛び込んで来たから使ったとも考えられるからだ。今の所アヒルにこだわっていてもムダなようだ。こうなったらこいつを使うしかないか。

「くらえ!防人さん。これに見覚えは?」
「わ、私ですか?」
 突然話をふられたのであわてたようだったが、ぼくがつきつけた物を見て顔色を変えた。
「間違いありません。私がバロンがしてたのはその仮面です。」
 やっぱりこの赤い仮面だったんだ。これは決定的な証拠だと言えるだろう。
「どうしてそんなことが言えるんですか?そんな仮面どこにでもありますよ。」
「傷の位置が同じだからだろう。」
 そう。武羅布さんが見せた赤い仮面はまぶたの下にわずかな傷があった。ちょうど防人さんが証言した通り。
「だからなんなんですか。もとからあったのかもしれないでしょう。」
 残念ながらその証言は通らない。こっちにも証拠はあるんだ。
「異議あり!それはありえないんですよ。これを見ればすぐわかるでしょう。」
「へえ。仮面を持っているのが証人か。確かに傷は見当たらないみたいだね。」
 そう。この傷は少なくとも武羅布さんのお母さんと烏賊様さんが別れた後についた物だっていうことははっきりしている。
「偶然だってことは考えられませんか?同じ所に傷がつかないとは限りませんよ。」
 武羅布さんは口をすべらせてメスで切られたとは言わなかった。そりゃそうか。そんなのテレビであったなんて言えないからな。

「結局状況証拠しかないじゃないですか。今のどこに決定的な証拠があったって言うんですか?」
 確かに武羅布さんが言う通り状況証拠だけだ。それも大半は意味がわからない。
「せめて赤いラピスラズリでも出て来たら状況が変わるかもね。どうする?アヒルにでも吐かせるか?」
 サーベ検事が皮肉っぽく言った。どうやってアヒルにかくし場所を聞き出そうっていうんだろう。オウムなら別だけど。なにを言ったらいいのか思いつかない。ぼくはここまで追いつめたのに終ってしまうのだろうか。
          
                                 つづく
 
  


 
■作者からのメッセージ
次回で終わる予定です。ホームズを読んだ人ならどんな結末か大体わかるんじゃないかと思いますが、ばらさないでください。感想少ないのでそこまで心配しなくていいような気はしますけど。

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