切り裂かれた逆転22 |
作者:
10join
2007年10月27日(土) 15時22分52秒公開
ID:BaKjuKOI7.w
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「キミは知らないかもしれないけど烏賊様を知っているかどうかはかなり重要なことなんだよ。」 サーベ検事は武羅布さんに向かって言った。王冠には見た所まだ目立った変化はない。表情よりも感情が出やすい王冠に反応がないということは今は平常心なんだろう。 「なぜですか?この事件はバロンが犯人なんでしょう。バロンはいままで無差別に人を襲ってたんじゃないんですか?」 「いいえ。実はバロンが狙ってたのは烏賊様さんだったんです。他の人を巻込んだのは自分の殺人衝動を満たすのと、目的を隠すためにやっていたというのがこの法廷での一番有力な説なんです。」 ぼくの言葉に武羅布さんは驚いたようだ。その表情からは図星をさされたから動揺しているのか、それともいっていることがあまりにも意外だったのかは判断がつかない。 「おもしろい考えですね。それでぼくが被害者と関係があるということで呼ばれたわけですか。それにちゃんとした動機もある。でも殺そうとまでは思いませんよ。」 武羅布さんは認めるつもりはないらしい。それはそうだ。それを認めてしまったらかなり不利になる。 「へえ。じゃあそこらへんの所を証言してもらおうか。オレも興味があるんだ。」 ここから先はサーベ検事も知らないらしい。まあ無理もないか。だって取り調べの時も烏賊様さんのことは知らないって言い張ってたらしいからな。 「それでは証人。証言してください。」 《烏賊様を殺す動機》 〈確かにぼくの母は被害者に捨てられました。〉 「待った!あなたはどうしてそれを隠そうとしたんですか?」 「別に事件と関係がないと思ったからです。わざわざ死んだ人のことを悪くいうこともないでしょう。」 正論だ。烏賊様さんが直接の狙いだったということをまだわかってなかったんだから、言う事もないと思ってもおかしくないだろう。 「うまくかわされたね。でも何度も被害者との関係を聞かれておかしいとはおもわなかったのかな。」 真宵ちゃんがいうことはかなり的を射ている。でもバロンの狙いが被害者だと知っていたという証拠も、聞かれた理由に気付いていたと言う証拠もない。ここはスルーするしかないみたいだ。 「とりあえず続けてくれ。」 〈それに多額の借金も残されてました。〉 「待った!それはいくらぐらいだったのですか?」 「わかりません。かなりの借金でした。某エクソシストの元帥といい勝負なんじゃないでしょうか。」 武羅布さんがそれだけってことは英里さんはどれだけ借金を背負わされてたんだろう。 「たかが10億7629万8031円だろとか言うんじゃないか?」 なんでサーベ検事がそこまで細かく知ってるんだよ。しかもなんだよその最後の31円は。 「クリムゾンジャックがみたらしい通帳に一度にそれだけ振り込まれてたんだよ。」 サーベ検事はそういうけど、31円って銀行に振り込めるのか?それとも単に昔の日本のお金の単位なのか?だとしたらかなりすごいことになるぞ。 「そんなことはどうでもいいですから先に進んで下さい。」 裁判長が珍しく進行役をやっている。いやもちろんそれが普通なんだろうけどここではほとんど検事に持って行かれているからそう感じるんだろう。 〈でも今さらになって殺す気はないですよ。〉 「待った!でもバロンが出て来たのってあなたのお母さんが逃げられた上に借金を押し付けられた時期と同じなんですよ。それまで運良く烏賊様さんが生きていられたからじゃないんですか?」 「まだぼくがバロンって決まったわけでもないのに憶測を並べたてないで下さい。」 武羅布さんの言う通りまだこの段階では決定的証拠は出ていない。少なくとも法廷の中ではそんなものはまだ出ていない。 「本当にキミは今さらだなんて思ってるの?まだ恨みを抱えてるってこともあるんじゃないのか。」 サーベ検事が言っても武羅布さんは全く動じなかった。 「それはあるかもしれませんけど、殺すことはないですよ。」 武羅布さんはまだ殺意を否認し続けている。次の証言でどう転ぶんだろう。 〈それともぼくが彼に殺意を持っていたという証拠はあるんですか?〉 「待った!本当にそんな証拠はないって言えるんですか?」 「そんなハッタリで動揺を誘おうっていうなら無駄ですよ。」 武羅布さんはかなり自信ありげだ。でもこいつを使えば誰かに殺意があることははっきりと証明できる。 「異議あり!だったらなんであなたの部屋にこんなものが落ちていたんですか?」 そういってとりだしたのは赤い糸が首に巻いてあるワラ人形だ。わかる人にはなにかわかるかもしれない。 「そのワラ人形が一体どんな意味をもっているんですか。」 裁判長は見た事ないのか?まあ無理はない話だけど。 「例えば裁判長が弟にかなりの恨みがあったとします。」 「わたしは別に弟に恨みはないですぞ。そりゃ髪があっちのほうが多いのは気に入りませんけど。」 例えばの話だって。それに裁判長の場合髪があっちのほうが多いって言うけど裁判長完全にハゲじゃないか。 「それで深夜にだけ開く地獄通信ってサイトに弟の名前を書くとねえ。」 サーベ検事がかなりもったいぶって言った。 「どうなるんですか?」 「地獄少女って名乗る女の子が現れてそのワラ人形を渡すんですよ。」 「それでその首の赤い糸を引いたときあんたの弟は・・・。」 「地獄に流されるんですか?」 裁判長もどうやら話の流れが見え始めたようだ。ちなみにマンガは全く読んだことがないからこれ以上のことは知らない。 「でもぼくが誰かに恨みを持ってるとして、どうして烏賊様さんを狙ったものだとわかるんですか?使ったならそもそも残ってるはずがないし、胸に印もないですし、仮に地獄を覗けたとしても名前はないですよ。」 「ここにこんな証言書があるから読んでみなよ。おもしろい事が書いてあるよ。」 そう言うので見てみると、1週間ほど前、烏賊様宏と言う名前が地獄通信に書き込まれたようだ。それでそこに行ってみると、そこはボロアパートの一室で、本棚にあるミステリー以外ぐちゃぐちゃな部屋だった。それで呼んだらしい青年にワラ人形を渡したが、使われないまま烏賊様が死んだと言う。え?これってまさか? 「なんであなたがそんな物を持ってるんですか?それって地獄少女本人の証言でしょう。」 「だってオレ王子だもん。」 これはどうやら聞いても無駄なようだ。 「確かに頼んだのはぼくしかいないようですね。でもだとしたらおかしなことになりますよ。どうして使わないでわざわざ殺すようなマネを?それにぼくはそんなサイトの存在バロンが出てくる前から知ってました。なんでそれを使わないで他の人まで巻込むようなことをしなければならなかったんですか?ぼくなら真っ先にそうしますよ。」 ぼくはそんなものこの世界にあるって初めて知ったぞ。でも武羅布さんがそうでも関係ない。問題はバロンがそう考えていたかどうかだ。 「バロンはそうは考えなかったんじゃないの。ただ自分の殺人願望をなんとかしたいって思いだけだったんでしょ。」 真宵ちゃんがいうことが一番正しいと思う。 「それでは話がおかしくなりますぞ弁護人。あなたは証人がバロンだと主張したいのではないのですか?」 「証人はバロンであってバロンではありません。少なくとも今はバロンの人格ではないのでしょう。」 「それはつまり証人が多重人格者ということですか?」 裁判長やけにものわかりがいいな。話がかなりはやいぞ。 「確かになにかを切り裂きたがる別人格はあります。仮面を被らないと出てきませんけど。確かにあいつならそれくらい考えるかもしれません。でもそれでも決定的証拠とは言えないでしょう。」 武羅布さんはかなり動揺しているな。多分自分の別人格がやったことに傷ついているんだろう。でも立ち止まるわけにはいかない。絶対防人さんの無罪を証明してやるんだ。 つづく |
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