切り裂かれた逆転19
作者: 10join   2007年10月05日(金) 17時23分24秒公開   ID:BaKjuKOI7.w
同日 午後4時25分 烏賊様家前
 烏賊様さんの家って思ったより遠いんだな。無限君と零樹君のフリットのような運転でも20分以上かかった。普通だったらもっとかかるんだろう。
「本当はもっとスピード出るんだけどな。」
「姿現しみたいに速攻でつくんだよ。」
「あれはどっちかっていうと移動キーじゃないの。」
 無限君たちはそんなことを言ってるけど姿現しと移動キーって速度の違いがあるのか?違いは移動するのに呪文を使うか呪文であらかじめ行き先が決まったものなのかどうかっていうことぐらいだろう。それとちょっと時間差があるくらいだ。少なくとも安全性で言えば移動キーのほうが高いな。ばらけるようなことはない。しかも姿現しは意識を集中させないとできないらしいし、年齢制限もある。ちなみにこのネタはわかる人にはわかる。
「そんなことより早く中に入ろうよ。」
 真宵ちゃんの言う通りだ。とにかく中に入って話を聞くのが先だ。とりあえずチャイムを鳴らして事情を説明したらすぐに入れてもらえた。

同日 午後4時25分18秒 烏賊様家
 あのやりとりで18秒しかたってないのか。でも25分ちょうどにちょうどについたわけでもないだろうしもっと短いかもしれない。
「あの、烏賊様の娘の英里です。あなたがバロンの事件の弁護士なんですか?」
 そう言ったのは大学生ぐらいの女の人だった。ところどころ烏賊様さんに似ている。当然整形前だ。整形した後の顔に似ていることは普通ありえない。どうでもいいけどなんで父が殺された事件とは言わないんだろう。
「はい。弁護士の成歩堂です。突然で悪いんですけど烏賊様さんって誰かから恨みを買ってるっていうことはありませんかね。」
「どういう意味ですか?」
 英里さんは不思議そうな顔をした。それはそうだろう。世間ではバロンは美術品を盗み出して、その過程でジャまな人を自らの快楽のために殺す切り裂き魔のような強盗殺人犯だ。どうして怪盗なんて名がついてるかも普通は知らないんだろう。
「実は調べてたら事件は必ず烏賊様さんがいる所で起こってるんだ。怪盗なんて似合わない名前はそれを隠すために名乗らせたものなんだよ。だから烏賊様さんに恨みを抱えている人を知らないか聞きたいんだ。」
 空悟君がかなり簡潔にまとめてくれた。確かに先にそういうことを説明した方が良かったな。
「さあ。父の仕事のことはあまりわかりません。それにこの頃会ってないですし。」
 このごろ会ってない?一体どういうことなんだろう。

「仕事のことなんてどうでもいい。別に知ってる範囲でいいよ。例えば結婚寸前まで行った人とかいないか?」
「その人の子供に赤い仮面をプレゼントしたとか言う話はないの?」
 英里さんはかなり驚いたような顔をしていた。それはそうだ。ぼくでさえそんな話は聞いたことがない。この事件が起こる前に知っていたっていう可能性もない。それなのにどうしてそんなことが言えるんだろう。しかも英里さんの顔を見る限り明らかに図星のようだった。一体どうやってわかったんだ?
「やっぱりあの時何か見えてたんだね。」
 紫音ちゃんが意味ありげにつぶやいた。一体彼らの紫色の瞳に何が映ったって言うんだろう。それにあの時って一体いつなんだ。
「え、ええ確かにそんな人もいました。確かに私が小さいころにその人の子供に赤い仮面をプレゼントしていたようです。あのころは私も母を亡くしていて、その子も父を亡くしていたようです。それで5年前に再婚まで行きそうだったんです。」
 結局再婚はしなかったっていうことか。それにしても5年前に一体何があったんだろう。どうしてそんな所まで行って取りやめたんだろう。
「詳しくはわかりません。確かなことは父がその人に莫大な借金を残していなくなったことだけです。どうやら連帯保証人かなんかにされたらしくて。それから私は一度も父にもその人にもその子供にも会っていません。彼らは私の前から突然いなくなったんです。」
 つまり烏賊様さんが殺されたのはお母さんが裏切られたのと、借金をおしつけられた恨みのせいかもしれないってことか。真相はわからないけどとりあえず証言書を書いてもらうことにした。

「あのその人の写真って今あるんですか?」
 春美ちゃんが尋ねた。
「あります。これがその写真です。」
 そう言って渡された写真には4人の人が写っていた。整形する前の烏賊様さんのとなりにいるのはおそらく話にあった女の人だろう。そばにいる女の子は多分英里さんだ。そしてその前に赤い仮面を持った男の子がいた。最近どこかで見たような気がする。だけどそれが思い出せない。とにかくこれはなにかの手がかりになるかもしれない。

写真 烏賊様さんと再婚寸前にいったという人と子供たちの写真。赤い仮面を持った男の子はどっかで見たような気がする。

「その子の名前を思い出すことは出来ないんですか?」
「名字はわかりません。私はその子のことをこーせいって呼んでました。本当は違うようですがそう読める漢字でした。」
 こーせい?わからないこともないような気がする。本当にその子がバロンの正体なのか?確かに恨むのもわかるような気がする。でもそのために何人もの人を犠牲にできるのだろうか。
「多分そういう恨みが別人格を制御できないほどに強くしたんだろう。だからそいつあは復讐の過程で人が殺されるのを止めることができなかった。多分そいつはもう殺人を犯す気はないだろう。でも別人格はどうなんだろうな。」
 空悟君が分析した。つまりバロンの方の人格が暴走してあれだけの事件になってしまったということなんだろう。
「お願いします弁護士さん。あの人を止めてください。そうしないとあの人はもっと傷つくことになります。それにどれだけ多くの人が犠牲になるか考えたくもないです。」
 英里さんが涙を流して頼んだ。言われるまでもない。絶対に防人さんを救ってバロンを止めるんだ。ぼくたちはそんな決意を新たにしながら切札美術館に戻ることにした。そろそろ流さんもセキュリティを解いてるはずだ。それが役に立つかはわからない。でもとにかくやるしかない。ぼくはそうするしかないんだ。
                            
                                つづく 
 
■作者からのメッセージ
次回で探偵パートが終る予定です。

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