寝息と夜風とそれから二人。 |
作者:
花音
2007年09月29日(土) 23時26分02秒公開
ID:MJU6bixH3oc
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「うーん、困った……」 心のそこからの呟きを、思わず俺は声に出してしまった。 ここは成歩堂なんでも事務所。外が暗くなってからもうずいぶん経つ。 事務所には俺とみぬきちゃんの二人だけ。成歩堂さんは、どこかへ行ってしまった。 しかも、みぬきちゃんは俺の肩により掛かったまま小さな寝息を立てている。 周りには空き缶が散らばっていて、はっきり言って酒臭い。 どうしてこんな状況になってしまったのかというと。 それは少し前に遡る事になる。 「「「カンパーイ」」」 手に持ったグラスを、少し高く上げる。 成歩堂さんと俺はビールで、みぬきちゃんは成歩堂さんオススメのグレープジュースで。 なんでも、みぬきちゃんがビビルバーで働き始めて7年目が今日なのだそうだ。 ……というのは言い訳で、実はただ騒ぎたかっただけなんじゃないかと俺は思っているんだけど。 「ほらほらオドロキ君も、もっと飲んで飲んで」 「そうですよ、オドロキさん。宴会は飲まないと!」 二人にせかされて、俺はビールを半分ほど飲む。 実を言うと、苦いからあんまり好きじゃないんだよな、ビール。 とか言ってると、子供みたいだと馬鹿にされるのが悔しいから言わないだけで。 「ぷはー、おいしいね、パパ」 「ああ、おいしいねみぬき」 俺がコップの半分飲む間に、すでに二人は二杯は軽く飲んでいる。 みぬきちゃんはジュースだからいいとして、成歩堂さんはいいんだろうか?ビールだぞ。 心の中で様々なつっこみを入れつつも、なんだかんだ言って三人だけの宴会は楽しかった。 ――成歩堂さんがあの時、急に出て行ったりしなければ。 三人ともそこそこに飲んで、お腹もみたされてきた頃。 ♪♪♪〜♪♪〜♪♪♪♪〜 突然流れ出した、かすかに聞き覚えのある電子音のメロディー。 「あ、電話だ」 いつか法廷で見た、ずいぶん古い携帯をとりだして成歩堂さんは席を立った。 〜数分して〜 「ごめん、オドロキ君。ちょっと急用が出来て行かなきゃ行けなくなった。 すまないけど、留守番と後かたづけ頼めないかな」 「いいですけど……成歩堂さん、結構飲んでましたよね。 いいんですか?そんなにアルコール入ったまま、人と会って」 心配した俺に、成歩堂さんは軽く笑って、いってきますと部屋を出て行った。 成歩堂さんが飲んでいた、ビールの缶を俺に手渡して。 ビールの缶には“ノンアルコールビール”と派手に印刷がされている。 ……相変わらず、何を考えているか分からない人だな。 「オ〜ドロ〜キさ〜ん、何やぁってるんですかぁ?」 みぬきちゃんの声。呂律が回って無くて、明らかに聞くだけで、いつもと違う事が分かる。 振り向いて顔を見てみると、どことなく赤らんでいる。と、いうか赤い。 「も、もしかして……」 考えられるのは、ただ一つ。嫌な予感がして、俺はみぬきちゃんの足下に転がっている空き缶を見た。 ビールの空き缶に混じって、一缶だけはいっていたのは……葡萄のチューハイ。 「みぬきちゃん、もしかして……これ、飲んだ?」 「はぁい。あまくておいしかったですよぉ」 さすがにこの時は成歩堂さんをちょっと恨んだ。 いくらなんでも紛らわしい物は入れないで欲しい。親として。 成歩堂さんも悪いけど、みぬきちゃんも当然ながら悪い。 ちょっとだけ怒ろうと思ったその時―― 「おぇ、きもちわるぅ」 赤かった顔をとたんに青くさせて、みぬきちゃんが言った。 手を口に当て、今にも吐きそうだ。 「ああっ、そういう時はもういっそのこと吐いちゃった方がいいから……ってわぁ! ここじゃだめだって!!えっとトイレトイレ!」 〜しばらくお待ち下さい(by作者)〜 なんとか後始末を終えた俺は、半ばふらふらになりながら戻ってきた。 俺だって結構飲んでたんだけどな、お酒。 それにしても缶チューハイ一個だけで酔うって、相当お酒弱いんだろうな。 「おどろきさぁ〜ん、まだきもちわるいです〜」 同じくふらふらになって戻ってきたみぬきちゃん。 「そういう時は大人しくしなきゃだめだろ!ほら、座って座って」 俺の隣にみぬきちゃんを座らせて、ようやく一息つく。 酒臭さが残らないようにと、開けた窓からそよそよと冷たい夜風が入り込んで、 これはこれで気持ちが良い。酒の臭いこの状況がなければ。 そういえばさっきまで苦しそうにしてたみぬきちゃんの声が聞こえないな、と 横を向くと。 「すぅ、んにゃ……」 ね、寝てる!?しかも、ものすごく気持ちよさそうに。 「お、おーい?みぬきちゃーん?」 軽くゆらしてみても、ぺちぺちと叩いてみても反応はない。 気持ちよさそうに寝ているのもあって、おこすのもなんだか可哀想だ。 こうして、今。 相変わらずみぬきちゃんは熟睡中で、成歩堂さんも帰ってきていない。 「はぁ……」 自然とため息がこぼれ出る。この人達に関わると、ろくな事がない気がする。 いつもいつも巻き込まれて、損をするのはなぜか俺一人のような気もするし。 でも、嫌じゃないな、なんて時々思うようになった。 肩から伝わってくるみぬきちゃんの体温が、一人きりじゃないっていってくれるみたいだ。 だんだん、まぶたが重くなってくる。 そういえば夜もだいぶ遅かったっけ、と気がついた時にはもうまぶたはすっかり閉じきっていて、 強烈な眠気が襲ってくる。 大きな欠伸を一つすると、俺はそのまま寝入ってしまった。 妹が出来るってこんな感じかな、なんて思いながら。 |
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