逆転の車窓から
作者: null   2007年09月29日(土) 18時58分43秒公開   ID:HdorcZsN1FU
プシュー...
…タタン、タタン、ガタタン
”つぎは … です。…線ご利用のお客様は お乗換えです。
…を出ますと、次は … に止まります。”


電車は、住宅街の間を ひた走っている。
連なる屋根の上に溶け残った雪が、午後の光を反射して 街は眩しく、
車内にも、ガラス越しに 強い光が差している。

【逆転の車窓から】

「いやぁ、こっちのほうへ出てくるのなんて、久しぶりだよ。」
「成歩堂さん、電車すら乗らないんじゃないですか。普段。」
「はっはっは。」

オレは いま、成歩堂さんと並んで、電車の席に腰掛けている。
きょうは 星影先生の事務所へ招ばれているのだ。二人して。

…ちら、と隣を盗み見る。
首をひねって窓の外を眺めていた成歩堂さんが、こちらを向き直る。

「…うん?ぼくの格好について、なにか言いたそうだね。」
「あ、ハイ。やっぱり目が慣れなくて。」
「失礼だなぁ。人を、 万年パーカー男 みたいに。」
さも心外、といった風に見返されて、言葉に詰まる。
(でも、オレが入所してから、パーカー以外を着てるとこ見たことないぞ!)
「ぐ、青いスーツじゃないんですね。」
「うん、あれはね。目立つから。
…授業参観とか行事の雰囲気には 合わないんだよね。
よかったら、譲ろうか。青いスーツ。」
(…突っ込みどころが多すぎて)
コメカミを揉みながら、半笑いでオレは
「遠慮しときます。」
と、だけ言った。

はは、と笑う 今日の成歩堂さんは、
グレーのスーツに白いシャツ、青いネクタイ姿で
無精髭も きれいに剃っている。
(もちろん、あのニット帽だって被っていない。)
…そして、膝には、大きな紙袋。

「そういえば、お歳暮何にしたんです?」
「やー、初めて郵送じゃなく 持参だから、迷ったんだけどね。結局、例年どおりにね。」
「はぁ。」
(それで、中身は なんなんだ!)
この人は、いつも こんな調子だ。
訊いてる意味が判っていないんじゃない。
絶対ワザとで、楽しんでるんだ。(人の反応を。)

「まぁまぁ、君は、ひ孫弟子にあたるようなものだし。
帰りに分けて持たせてくれるかもよ。中身が気になるなら。」

■P2

おや、と思う。
「食べ物なんですね?」
尋ねると、成歩堂さんは眉をしかめた。
「…世の中には、石鹸をお歳暮に贈る人だっているよね。
分けて持たせてもらったら、君は食べてしまうのかな?
ウチは、そんなにも薄給かな。」
「う、スイマセン。オレが間違ってました...。」

いつのまにか、オレたちの乗る電車は地上から地下へと乗り入れていて、
窓の外は、真っ暗だった。
都会に向かうにつれ、車内はだんだんと人で混んで来る。
腰掛けているオレたちの前に、老夫婦がやってきて、
成歩堂さんが自然な仕草で席を譲った。
オレも慌てて、席を立つ。

「あぁ、オドロキ君。」
「ハイ。」
腕を伸ばし、網棚に紙袋を載せながら、成歩堂さんが言う。
「最も少ない回数の質問で、中身を知る方法、判るかな?」
「?」
不意の問いに、成歩堂さんの顔を見返す。
(最も少ない回数の質問で、中身を知る方法...?)
「うん、ロジカルにね。」
(ロ、ロジカル...。)
オレは眉間に指をあて、考え込み始めた。

■P3

電車が駅に着くと同時に、扉が開き、
オレたちは 人波にまぎれて、ドアから吐き出されるようにホームへと足を踏み出した。

「…スイマセン、降参です。」
改札へ向かう途中で、成歩堂さんの背中に声をかけた。
「うん?」
狭いホームには、少なからぬ人が溢れていて。
先を歩く成歩堂さんと少し離れてしまったせいで、声が届かなかったみたいだ。
「こうさんです!!」
「ワッ!」
日ごろ鍛えた大音声の成果か、
何人ものビジネスマンや キャリアウーマン風の女性がこちらを振り返る。
「オドロキ君。ここで発声練習するのは、やめたほうがいいみたいだよ。」
振り返って苦笑する成歩堂さんに追いついて、言い募る。

「だって、オレが何を言っても、「ちがうなあ。」の一点張りで。」
「あぁ、さっきのはなし。…やー、ほんとうに違うから、仕方ない。」
人の波について、改札を抜け、地上への階段を上がる。


「正解はね…
 「何が入っているんですか?」
…って、聞けばいいんだ。」


「ず、ズルイですよ!そ、それに、ロジカルにって…」
「ズルくはないよ。質問の数は1つだし、間違ってないよね。
筋も 通ってるさ。
…オドロキ君、目的は、真実を知ることだよね。
ぼくたちは、そのためにトリッキーな手段をとることが多いけれど、
それは、目的じゃないんだ。
…最短経路を試してみるのも、大事なことだよ。」
(……!)
「……はい!」

■P4

そのとき、オレたちは 階段を上がりきった。
(目を刺すような、日光が眩しい。)
地上には、圧倒されるようなビル街が広がっていて、沢山のスーツ姿の人が行き交っている。
勝手知ったる、という風に すたすたと歩き出す成歩堂さんに、慌てて 付いて行く。

…ふと、通り過ぎた異様な風景に目を奪われた。
コンクリートとガラスで出来た巨大なビルの1Fが、
ぽっかりと、歩道と地続きの空洞の吹き抜けになっている。
そして、その吹き抜けの入り口には、
なぜか、灰色の大きな鳥居が鎮座している。
鳥居に続く奥の空間には、赤い神社が見えているけれど、
それが、どう見てもビルの敷地内に収まっている。

思わず足を止めてしまったオレに気付いて、成歩堂さんが戻ってきた。

「ビルと一体化した神社、やっぱり不思議だね。」
「えぇ、なぜか調和していて。外国には、なさそうな景色ですね。
…ラミロアさんの目が落ち着いたら、連れてきてあげたいです。」
「…ほんとに、そうだね。あぁ、言い忘れてた。」
「?」
成歩堂さんに身振りで促されて、歩き出す。
「事前に星影先生には電話で伝えたんだけど、ぼくは用事があって中座するから。
君は、残って ゆっくりさせてもらうといいよ。」
「や、オレも一緒に帰ります。あんまり、話も長くはもたないし。」
「やー、君になくても、先生のほうには話があるかもしれないよ。」

星影事務所の入っている、高層ビルに着いた。
噴水のあるエントランスを抜けて、
大理石の敷き詰められたエレベータホールでエレベーターを待つ。
「…」

「どんな話なんでしょう?
成歩堂さん、知ってるんじゃないですか?」
ニヤっと笑って、成歩堂さんを見上げて聞いてみた。
ちょうどそのとき、エレベーターがやってきたので、二人で乗り込む。
「はっはっは。学んだね、最短経路。」
成歩堂さんは、愉快そうに笑って言い、星影事務所の階のボタンを押す。

「…でも、答えてもらえるとは、限らないよね。」
(うっ。せっかく言ってみたのに。)
ガクっと肩を落とすオレ。
「ちょっと意地が悪かったかな。
えーっと、これだけは言っておこうかな。
 ---君が良いと思うようにしたらいい。応援する。
異質なものどうしでも、結構うまくいったりするものだよ。あの、神社みたいにね。
…ちなみに、ぼくは丁重に辞退しているよ。」
「えっ!?」

成歩堂さんがなんのことを言っているのか、
判らず慌てるオレの頭上で、目的階に着いたことを知らせるベルが鳴った。

♪チーン

■P5

(どうしよう、星影事務所に勧誘されてしまった...。)
夕暮れの街を、
お歳暮のおすそ分けで頂いたビールの詰まったポリ袋を片手に、
悩んで歩くオレのその後は また、別の話。
■作者からのメッセージ
師弟の会話と、現実の風景のなかを動くオドロキ君たちを書いてみたくて、書きました。

星影事務所の場所のモデルは 虎ノ門です。

なんとなく連作になってしまいましたが、
とりあえずこれで打ち止めです。
(書いていて、普段と違う脳を使うかんじが、大変たのしかったです。)
読んで下さったみなさん、ありがとうございました!

9/29
牧さんに頂いた批評をもとに、全般に描写を書き足しましてみました^_^
神社は…描写に自信がなくって、紹介してるページのリンクを下に貼っておきます。
(は、反則ですね...。)

enjoy TOKYO --ビルと一体化した神社?!
http://www.enjoytokyo.jp/id/capaII/95065.html

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