逆転の友情B
作者: non   2007年09月30日(日) 16時41分41秒公開   ID:8SJhEwN5IXw
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 小さいころからずっと、お姉さまに憧れてきました。
 お姉さまは優しくて、お友達が多くて、皆さまにとても慕われていました。賢くて、勉強もいつも一番をとっていらして、スポーツもピアノもなんでもできる、とっても自慢のお姉さまでした。
 お姉さまのようになりたくて、だから人一倍努力して勉強もスポーツもピアノも頑張って一番をとってきました。そしてお姉さまが自分のことのように喜んでくださることが嬉しくて、もっと頑張っていました。なのに……
 突然、本当にそれは突然の出来事でした。
 目の前で……目の前でお姉さまがいなくなってしまうなんて……幼かった私はその現実を認められなくて、ただひたすら――今まで以上にひたすら努力して一位をキープしてきました。そうすることで自分の中にお姉さまが生きている気がしたからです。
――だけど。
 もうそろそろ限界だったのかもしれません。
 きっとどこかでわかってはいたのだろうけれど、それを認めてしまうのが怖かったのです。
 認めることで失うものがあまりにも多くて、自分がどうなってしまうかわからなかったから。
 認めた途端私の中のお姉さまが消えていなくなってしまいそうだったから。
 私がもっとバカで単純ならよかったのでしょうね。素直に認めてしまえばこんなことにはならなかったわ。
 中途半端に賢くて、プライドだけは人一倍高くて……
 お姉さまのようになりたかっただけ。ただそれだけなのに、いつの間にかお姉さまはずっと遠くなってしまって、気づけばとんでもないことを考えていたりして……
 あの子達のせいではない。
 そんなことは随分前にわかっていたはずなのに、憎いと思ってしまう自分が嫌でした。
 どうしてあの子達が生きていてお姉さまが……
 そう思うと殺してやりたいと思うほど腹がたつ自分が怖くもありました。
 だけど、お姉さまはこんなことされない――何度そう思っても止まらなかったわ。
 その思いはあの子達が私を抜いて、勉強やスポーツで一位をとるようになって爆発しました。
――もう我慢できないわ!
 私の中で感情を抑えていた何かが消えてなくなってしまった気がしました。

B姿をあらわした悪意

同日  午後4時2分  教室

「いい加減にしてよ! メアリーはやってないって言ってるのに」
 被害者であるルーシーがそう言ったおかげで、クラスメイト達は静かになった。だけど、みんながメアリーを犯人だと思っていることに変わりはない。いくら静かになったって、それじゃあメアリーは救えない。
「お願い。後十分だけ教室にいて」
 その間にメアリーの無実を証明してみせる。そのためには、なんとしてでも証拠を見つけないといけない!
 ありがたいことに、みんなはしぶしぶ教室に残ってくれた。さあ、時間がないから急がないと!
 あたしは道具を広げだした。こういうときに役立つのはやっぱり指紋検出用具! この間の事件で御剣さんにもらったものだ。
 財布の指紋を調べてメアリーの指紋がなかったら? メアリーがやってないっていう何よりの証拠になるじゃない!
 誰か他の人の指紋が出てきたら? そいつが真犯人に決まってる!
 とにかく財布を調べてみよう!
 調べられそうな指紋は全部で8個。
 アルミ粉をふりかける、吹き飛ばす、そしてとれた指紋を照合する。この作業もこれで8回目。ここまで、ルーシーの指紋しか出てきていない。これでメアリーの指紋がなかったら大丈夫のはずだし、もし違う人の指紋が出てきたら大収穫のはず……だったんだけど。
「えええええええええええええーっ?」
 あたしは思わず大声で叫んでしまった。みんながこちらを見ている。
「なんでもない」
 と言ってごまかしたけど、どうしてメアリーの指紋がついてるの? 指紋がついてるってことは、財布をさわっているはずだし――だとしたら、いつさわったんだろう? メアリーに聞きたいけど、クラスメイトに囲まれているから話せる状況じゃないし……
 まあ、メアリーのかばんの中にあったんだから何かの拍子にさわった可能性もあるし、そんなに気にすることもないか。
 あとで何かわかるかもしれないからとりあえずメモしておこう。
 えーと、ルーシーの財布にはメアリーの指紋がある、と。
 でもどうしよう。他に何か証拠はないのかな――あ、そうだメアリーのかばん! 真犯人は絶対メアリーのかばんにさわってるはず。メアリーに許可取れないけど……ま、いっか。メアリーのためには一刻も早く手がかりを見つけないといけないし。
というわけで、勝手にメアリーのかばんを借りてきた。何か手がかりはないかな……あれ? なんだろうこれ。何か白いものがかばんのファスナーのところに挟まってる。
 あたしが見つけたのはレースの切れ端の様な物だった。おかしいな――メアリー、レースのもの持ってたかな? それにこんな感じのレース、絶対どこかで見たことあるんだけど――ダメだ、思い出せない。
 念のために指紋を調べておこう……あっ! この指紋メアリーのものじゃない! いったい誰のものだろう?
 この前は御剣さんが関係者の指紋サンプルをくれたけど、今回は学校内の事件だから自分で指紋サンプルを作らないといけない。
 必要ないと思ったから、メアリーとルーシーしか取らせてもらわなかったけど、こうなると全員の指紋が必要かな。
「ねえ指紋とってもいい?」
「悪いんだけどちょっと指紋を……」
 クラスメイト達に聞きまわる。なかなか取らせてくれない人もいたけれどなんとか説き伏せ、クラス全員35人分の指紋サンプルを手に入れることができた。
 地道に照合すること十分。あたしは思ってもみなかった結果に心底驚いた。どうなってるの? どうしてエミリーの指紋がついてるの?
 言われてみれば、あのレースはエミリーが日頃愛用している手袋のレースによく似ていた。あたしがさっき思い出せなかったこともそれだろう。
 事件にどう関係しているのかはわからないけど、証拠になるかもしれないから、一応メモしておこう。
 メアリーのかばんのファスナーに挟まっていたレースの切れ端にはエミリーの指紋がある、と。
 他にかばんに手がかりはないみたいだ。指紋もついていない。犯人がふき取ったのか、自然に消えてしまったのか。かばんの外側はともかくファスナーにもついてないっていうのは少し不自然な気がする。
 どうしよう。手がかりといってもレースのほかには何にもないし、そのレースにしたって何の意味があるのかわからないし……
 そもそも、盗むチャンスっていつなんだろう? ルーシーはどこに財布を置いていたのかな? ルーシーの財布盗んでメアリーのかばんに入れる。3分もあればできる作業だろうけど、誰もいないときを見計らってやらないといけないし……
 とりあえず、ルーシーに話を聞いてみよう。
「ねえ」
 あたしは近くで心配そうに見ていたルーシーに声をかけた。
「財布ってどこに置いてたの?」
「朝ジュース買った後は、ずっとかばんに入れてたはずだけど」
「そのかばんは? ずっと教室に置きっぱなしだったのっ!?」
「え? うん。そうだけど……それがどうかした?」
 あたしの勢いにおされたのか、困惑ぎみにルーシーは答えた。
 ずっと教室に放置されていた――ということは、教室に誰もいない時なら盗めるってことだよね。今日は、5時間目の体育以外は教室を移動しなかったし、その体育だって見学者も遅刻者もいなかったから――メアリーに盗むチャンスなんてないじゃない! あ、でも真犯人がこのクラスの人なら、そいつにも盗むチャンスないんだ……
 どうなってるんだろう? 真犯人は違うクラスの人なのかな? でも、そうだとしてもいつどうやって盗んだの? 普通、他のクラスの人がこのクラスにいたら怪しまれるはずだし――やっぱりこのクラスの人だろうな……でも、いったい何のために? どうしてわざわざメアリーに罪を着せたんだろう?
 わからないことが多すぎるよ……少し整理してみよう。
 まず、朝7時半ごろ。ルーシーが教室に荷物を置いた。
 そして、8時前後。このころから教室には人が増える。
 8時半。朝のHRが始まり、そこからはずっと授業。
 ということは、犯人は7時半から8時前の教室に誰もいないときに盗んだってことだよね。そして、メアリーのかばんに入れるのは……近くの席の人なら簡単にできるはず。7時半をまわれば、校内に人が来はじめるし、やっぱり犯人はこのクラスの人しかありえない。
 いつも朝はやく来る人、そして財布に指紋がつかない人、メアリーの近くに座っている人。
 この条件を完璧に満たすのはやっぱりあの人しかいない!
 どうしてこんなことをしたのかはまだわからないけど……とにかくもう10分以上たったし、こうなったらあたって砕けるしかない!

同日  午後4時15分  教室

「やっぱりメアリーは犯人じゃない! それをこれから証明するからっ!」
 あたしはクラスメイト達にむかって叫んだ。
 いちかばちかの大勝負だけど、メアリーはやってないんだから大丈夫。きっと真実はみつかる。
「メアリーに盗むチャンスなんてなかったの! だって――」
 と、あたしはみんなに説明した。
 メアリーが学校に来たのは8時すぎ。その時間にはかなりの人がいるから、盗むのは無理だってこと。授業が始まってから盗むのはメアリーに限らず無理だってことを。
「でも、授業中だってすきをねらえば……」
「仮にすきをねらって盗めるとしても、メアリーには無理よ。ルーシーとメアリーの席はこんなに離れているんだもの」
 そう、メアリーとルーシーの席は教室の窓側と廊下側。どう考えたって届くはずがない。
「だからメアリーが盗むことは不可能なのよ!」
 あたしはそう言い切った。実際メアリーに盗むチャンスはなかった。論理的に考えてもそうだし、何よりほとんどずっと一緒に行動してたんだもの、盗めたはずがない。
「だけど……それじゃあ誰がこんなことをしたっていうの?」
「そうだよ。あいつじゃなかったら誰がやったっていうんだよ!」
 クラスメイト達が口々に言う。
 できることなら言いたくなかった。だけど、こうなったら仕方がないな……
「たぶん真犯人はこのクラスの人だと思う」
 あたしは思い切ってその言葉を口にした。
「ち、ちょっと待ってよ! じゃあ茜には犯人がわかったっていうの?」
 ナンシーに問いつめられて、あたしはうなずいた。
「……うん。たぶんその人にしかできない」
 そういった途端にクラスの空気は再びこおりついた。予想はしていたけど……やっぱりやりにくい。ここからは、もっと慎重にかつ一気にいかないといけない! ひとつ間違えた瞬間、全てが終わる。
 あたしは再び口をひらいた。
「……みんなもわかると思うけど、これは他のクラスの人には不可能なことなの――」
 そう。財布はずっと教室にあった。もし他のクラスの人が出入りしていたら、確実にあやしまれる。仮に、朝だれもいないうちに盗めたとしても、メアリーのかばんに入れることはこのクラスの人しかできない。いや、もっと言うならばメアリーの近くの席の人にしか無理だ。
「――そして財布を盗めたのは、ルーシーが教室にかばんを置いた朝の7時半からみんなが来る8時前の間しかないの」
 そこであたしはみんなを見渡した。そして、一回深呼吸をしてから続きをきりだした。
「いつもその時間に学校に来ている人はだれ? そして、メアリーの近くの席なのはだれ?」
 あたしの言わんとしていることに気づいたのか、みんなの顔がこわばった。そしておそるおそると言ったように振り返ってある人物を見つめた。
――きっとこの事件の犯人であろうその人を。
 あたしはその人にむかって言った。
「どうしてこんなことをしたの、エミリー?」
 それでも何も言わないエミリーのもとに、再びみんなの視線が集まったそのとき、エミリーは口を開いた。
「宝月さん、私がそんなことをしたっていう証拠でもあるのかしら? そんな状況証拠なんてどうとでも言えることよ。例えば……そうね、私が今ここで朝メアリーを見たなんていうこともできるのよ」
 その声はあくまでも冷静で……おそろしかった。
 そのあまりのおそろしさに、あたしはしばらく黙り込んでしまった。
 たぶん間違ってはいない。エミリーはこの事件の犯人だ。状況も証拠もすべてがエミリーを指し示している。
 でも、だったらなぜ今まさに告発されているって言うのにあんなに冷静で落ち着いていられるんだろう。
 あたしに告発されることくらい、痛くもかゆくもないってことなの?
「……かね、茜? どうしたの? ぼーっとして。証拠あるよね?」

⇒To Be Continued...

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