エースの災難
作者: 10join   2007年09月08日(土) 15時09分53秒公開   ID:BaKjuKOI7.w
10月 16日 午後3時40分 切札美術館前
 我が輩は巡査である。名前はまだない。
(なんで名前がないんだよ。しかもこれじゃ前の千円札の猫の小説の冒頭じゃないかよ。今時我が輩なんてネウ○か狩魔豪しか言わないだろ。少なくともここの読者が知ってるなかではだけどさ。)
 これは失礼。俺様はトレースエース。仮面の絵札の一員で、変身能力がある。顔や姿はもちろん、思考回路やクセなんかも完全にコピーできる。もっとも某怪盗のようにわざわざなる人を殺す必要は無い。鉢合わせさえしなければなんの問題もないからな。自分が本物のように見せる自信は有るけど、会った人にドッペルゲンガーに会ったんじゃないかって余計な心配をさせるからな。
(ぼくは嘉匁蓮恩。トレースジャックの表人格だ。仮面を被ってないときはいつもぼくが出ている。もう1人のぼくが巡査になっているのは当然バロンの事件の捜査状況を探るためだ。なりきる必要なんかないけどさ。)
 まあ巡査の顔なんて誰も覚えてないからな。それにしても俺様は一体いつまでこうしてないといけないんだ。なんかかなり暇なんだけど。

♪〜〜〜〜〜〜〜
 ずいぶんタイミングよく携帯がかかって来た。相手は流だ。あいつから電話がくる時はいつもろくなことがない。
(確かに。いつも仕事おしつけられるからな。とにかく出てみたら。)
ピッ。
『エースか?確か今切札美術館にいるんだったよな。』
「そうだけど。なんかあるのか?」
『実は烏賊様のことを聞き出して欲しいんだ。多分オバチャンが知ってると思う。烏賊様に熱を上げてたからな。』
 あの伝説のオバチャンがか。あの惚れられた相手は一人以外はみんな死んでいるっていう?なるほどじゃあ烏賊様は死神に見入られたから殺されたのか。
「そんなこと言ってもどうやって聞き出せばいいんだ?」
『御剣検事にでもなれば楽に聞き出せるだろう。』
 しゃーない。気が進まないけれどやるしかないか。俺様はすぐに御剣になりすまして切札美術館に入る事にした。

同日 午後3時41分 切札美術館
「あら。エース君。レイジの姿なんかして一体どうしたの。」
 いきなり煉さんが聞いて来た。メイのお姉さんで、何度か会った事がある。
「ム。一体なんの話だろうか。私はまちがいなく御剣・・・冗談だよ。どうせ本物がメイとニューヨークでデートしてることはわかってんだ。本人は気付いてないみたいだけどさ。」
 実はなりきるときそういうことも頭に浮かんで来るんだよな。まあ本人が気付いてなくてもわかることはある。
(まああの人鈍感だしさ。気付いてないのも無理は無いかもな。)
「今はオバチャンの話を聞く事が先決なのだ。とりあえずしばらくは御剣として扱ってはくれないだろうか。」
 もうすでになりきってるな。
「わかったわ。あたしもその話を聞かせてもらうけどね。」
 交渉成立したみたいだな。とにかくオバチャンは一体どこにいるんだろう。

「ミッチャーン。会いたかったよ。」
 探すまでもなく黄色い歓声が響いて来た。それを聞いたら背筋に悪寒が走った。
「あ、ああオバチャン。何ヶ月ぶりだろうか。」
「そんなことは忘れたヨ。それより誰だいその女。」
 正直あんたにはどうでもいいことだって言いたくなるんだけど。
「ム。私の姉といったような所だろうか。一応。」
「一応ってなによ。一応って。」
 そんなこと俺様に言われても困るんだけど。
(それにしても姉のようなものって言っても否定しないんだな。どうやら御剣検事もそう思ってるみたいだな。)
 そりゃ俺様がそういう読み取りをしたから当然だけどさ。

「実は今回の被害者の事を聞くように検事局から言われたのだ。だから信頼が出来る証人としてあなたに話を聞きたい。そのことについて答えていただきたい。」
「わかったわよ。ミッチャン。」
 どうやらオバチャンは全く疑いを持っていないみたいだ。
「まず被害者は誰かに狙われていたような素振りを見せていただろうか。」
「さあねえ。後を付け回していた時には見なかったけど。」
 それは立派なストーカー行為じゃないのか?まあそんなことはどうでもいい。とにかくいなかったか、もしくは見つけられてはいなかったって言う所か。
「では整形か何かをしていたという話を聞いた事は?」
「ああ。あるヨ。」
 え?そんなこと人に話すようなことなのか?
「つきまとったら烏賊様ちゃん照れちゃってね。もとはブサイクだから整形したっていってたよ。でもアタシャそんなこと気にしないって言って上げたんだヨ。」
 きっと内心すごく落ち込んだんだろうな。
「ではこういった話を証言書にまとめてくれないだろうか。」
「分かったヨ。」
 
 これで証言書は手に入れたな。それじゃもう帰るか。
「では私はこれで。」
「え。もっとゆっくりしていってもいいんだよ。」
「仕事があるのだ。しかたないだろう。」
「待ってミッチャーン!」
 オバチャンが後ろから猛スピードで追いかけて来た。俺様もすごいスピードで走ったけど、オバチャンは全く衰えない。なにかないかとポケットを探していると、前盗撮男からなにかのエサに出来ると思って買った御剣の写真が出て来た。その中の一枚を遠くに向けて投げた。
「ミッチャーン。」
 そう叫びながらオバチャンは写真の方に向かって行った。その間に俺様は陸上界のスターと言われた光雷に化けてようやく逃げる事が出来た。本当に死ぬかと思った。御剣なんかに化けるんじゃなかったな。
(というよりさ。もしかしたら写真出すだけでよかったのかもしれないよ。)
 しかもかなりの取り越し苦労じゃないか。もう御剣になってオバチャンの前には姿を見せたくない。俺様はそう思いながらアジトまで大学生で世界記録を更新した足で帰って行った。
       
                                 おわり




 
■作者からのメッセージ
一応番外編です。来週は本編に戻ります。多分。

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