Sekai No jumin history 2006-7(SS)vol.2
作者: 世界の住民   2007年08月27日(月) 22時01分08秒公開   ID:X3VGA/8VXOs
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1、古き良き検事局

 
 それは、御剣 怜侍という天才が生まれるずっと前の話……


 某日 某時刻 検事局


「さあ……諸君!今年のベスト・オブ検事は……」
 検事局長の趣味で始まった、このベスト・オブ・検事授賞式がこの年もある。
 現在も続いているようだが……(もちろん、御剣、狩魔が賞を独占)
「……狩魔 豪!」
 その瞬間、検事たちはため息をついた。
 この男、かれこれ検事になってから、この賞を逃したのはたったの2回。
 一回……若手であり、粘り強さで評判の、亜内 武文検事。
 そして・・もう一回は・・・・

「どうしたんだね?亜内?そんな顔をするな・・・」
 その男の名は、綾原 晃三。検事局若手三強(綾原、亜内、狩魔)
 かなり軽い男だといわれているのだが、実は、この賞は、有罪判決にした確率で決まるものである。綾原は、無罪か有罪かを、立件する前に調査するのだ。
 そして、警察にいろいろ注文をつける。
 だから、彼もまた、無敗検事である。
「全く!狩魔のやつ、あくどいことを……」
 そして、この男は亜内 武文。検事局の若手三強の一人である。
 リーゼントが特徴的で、なかなかの実力だ。
「ふん! 狩魔は完璧主義!」
 そして、三強最高の男にして、天才検事、狩魔 豪。完璧を追い求め、立件された事件をすべて有罪にしてきた。
 彼には黒いうわさが耐えない……

「さあ!狩魔くん!演説を!」
 検事局長が呼びかけると、狩魔は壇上にあがった。
「諸君、我輩は、このような賞をとり真に光栄である。我輩は、どんな事件でも有罪にするのだ! どこかのふぬけた検事は、立件した事件を調べるようなことをしておるが、そんなものは無用! 以上だ」

「あ、あいつ!なんてことを!」
「ははは……豪らしいじゃないか」
 もちろん、綾原のことを狩魔は言ったのだ。彼は、三強と呼ばれるのがたまらなくいやなようだ。
「な、なぜ!我輩が、こんな連中と一緒にされるのだ!」
 いつも、こう言っている。そして、彼はまだ20代でありながら、今度の局長選挙に出ようとしていた。
 この時代の、東京の検事は、約500人。彼らの得票で決まるのだが、だいたいは、成績のいい検事がなる。つまり、成績からすれば、狩魔に決まりだが。この男、ひどく検事たちの評判がわるい。
 穏健で、どこかカリスマ性のある、綾原をおす声が多いのだ。

 しかし、当の本人はというと……

「ははは、どうかね? 食事でも?」
「え、わ、私ですか?」
 そこへ、亜内がやってきた。
「おい! なにやってるんだ! 女性検事を誘うな! バカ! 行くぞ!」
 亜内が綾原の手をひっぱる。
「おいおい、なんだよ……いいではないか」
「ふざけるな!お前、局長になれるかも知れないんだぞ!」
 すると、綾原が笑った。
「おいおい、言ったはずだぞ、亜内。私は局長にはならんと……」
「なぜなんだ?」
 ふと、綾原が真顔になる。
「いいかね? 局長は権力者だよ。そんなものに価値はあるかね? 権力というしがらみのせいで真実を追求できなくなったら、終わりだぞ」

 やれやれと、亜内がため息をついた。

 ――その一週間後、地裁にて――

「ははははっは!弁護士!貴様ごときに立証不可!」
 狩魔が弁護士に言った。
「く、くくう……」
その弁護士は、もはや言葉につまってしまった。
「もう、よろしいですか? 弁護士」
 裁判長が言った。
 その時、被告席から、叫びが聞こえた。
「お、俺じゃない! そ、そいつは……その検事は、証拠を偽造したんだ!」
 傍聴席がざわつく。
「ほ、ホントですか!狩魔検事!!!」
 裁判長が驚いて聞いた。
 
 すると、狩魔は、いつも見せる不敵な笑みをうかべた。
「くっくっく。被告の言葉と、我輩の言葉……どちらを信じるかですな」
「そ、それもそうですね! 被告人! 不規則発言は控えてください!」
「そ、そんな……」
 そして、狩魔が華麗なお辞儀をした。
「さあ、裁判長……判決を、下したまえ!!」
「そ、そうですね! ……では!」

           −有罪ー


「そ、そんな! 俺じゃない! やってないんだよ!」


 それを傍聴席から、いやな顔をして見ていた検事がいた。綾原だ。
「また、豪は……真実を覆い隠したのか……」
 そして、となりの席の亜内が言った。
「え、どういう意味だ?」
 綾原が、時に見せる、あの真剣な顔をした。
「私はね、思うのだよ。法廷とは、真実を見つける場所だと……」

「ほう……我輩の裁判にけちをつけるのかね?」
 後ろには、狩魔検事が立っていた。
「ああ、そうとも」
 綾原が正直に答える。すると、狩魔が笑い出した。
「ははは! 昔と変わらんなあ……晃三!」
「な、二人は知り合いなのか?」
 亜内が聞いた。
「そうだ、大学のときに」
 綾原がその質問に答えた。
「ふん!腐れ縁とはこういうものを言うのだ!晃三! いいか、我輩は貴様など認めんぞ! 断じてな!」
 そう言うと、狩魔はきびすをかえして廊下のほうに出て行った。


同日 検事局

「これで、どうかね?」
 狩魔は、札束をある有力検事に渡した。
「おお! 素晴らしいね! 狩魔くん!」
「くっくっく、何がなんでも……我輩に勝たせていただきたい」
「ああ……心配するな!」
 有力検事と狩魔が握手した。

 それから、数日後。検事局、綾原執務室


「さて、まずはこの書類からいくか……」
 綾原は、警察の書類、およびどれだけの証拠をつかんでるかをチェックしていた。彼は冤罪がないように、常に立件された事件は目を通している。
「ふうむ。これは証拠不十分……よって……不起訴」
 綾原は警察局に連絡をする。

「もしもし。警察かね?」
「は、はい!どなたですか?」
「検察局の、綾原だ。」
「ま、またですか。綾原さん……こんどはなんですか?」
「うむ。実はね……ちょっと○×△事件の担当刑事を呼んでくれ」
「は、はあ。ちょっとお待ちください」
”またですか”か……綾原は思わず笑ってしまった。

「はい! 代わりました! 古藤です!」
「おお! 古藤くんか! 綾原だよ!」
「え?あ、綾原さんですか?」
「なんだね? そのため息は?」
 にやにやしながら聞く。
「いやあ……こんどは何ですか?」
「実は、○×△事件についてなのだが……」
「ああ!それは、すいません! 他の検事にかわりまして……」
「な、何! それは誰だ!」
「か、狩魔検事という方です……」
「な、なんだと! 今すぐ代えろ! 亜内あたりにしたまえ! 早くしろ! あの男はだめだ!」
「そ、そうですか。わかりました」


 ふう、と、綾原はため息をついた。
 危ない危ない、あと少しで罪なき人が犠牲になるところだった。
 亜内なら、真実を見つけることを優先してくれるはずだ!


 その後、○×△事件の裁判

 担当検事は狩魔だった。あの男が力で押しつぶしたのだろう。
 もちろん、被告人は有罪。
 綾原が見たこともない証拠品が連発した。明らかに、証拠をでっちあげたのだ。
「くっくっく、残念だねえ。弁護士」
 またあの不敵な笑みを浮かべた。その時、被告人は大粒の涙を流していた。

 その後、彼が豪によって死罪になったのは言うまでもない。



(お前を検事局長にするわけにはいかない!検事局全体が、貴様のやり方になる!
それだけはさせん!
 どうやら……戦わなくてはならないようだな……お前と!)



 狩魔が有罪にした事件から、一週間後

 この日、いよいよ検事局長の選挙日である。実は、検事局長選挙は、候補者がその日に発表される。制度としては、推薦人が一人必要で、実際、推薦人は選挙で講演をする。
 狩魔は、この日のために、多数の検事に、ワイロを与えていた。


そして、会合の日のこと

 検事総会室は騒然となっていた。すると、検事局長がぱん、と手をたたく。
「さあ! 諸君! 静まりたまえ!」
 すると、検事たちは黙った。
「さあて! 今日は検事局長選挙だ!」

その言葉を聞いた瞬間、いやな顔をする検事がいた。亜内だ。
「くそ! 結局、狩魔なのか!」
 亜内が悔しがっている。
「いやあ、やってみないとなあ」
 その隣で、綾原は普段と変わらぬ表情で座っていた。
「綾原! お前やっぱりしなかったのか!立候補!」
 亜内が大きい声を出した。綾原は何も語らず、ただ沈黙していた。

 そして、検事局長が紙を取り出した。候補者名の紙だ。検事局長は、ゆっくりと話し始める。
「では、これより……候補者を発表する」
 検事たちが緊張し始める。綾原はそのままの態度をくずさなかった。
 局長が、候補者を読み上げ始めた。
「一人目……狩魔 豪!」
 狩魔が立ち上がり、みんなにお辞儀し、壇上にあがった。顔には満面の笑み。そして、綾原の方を見て、笑った。
「くそ〜 狩魔ああああ」
 亜内が悔しがっている。また、会場は、ため息と歓声が混じっていた。

 狩魔は、一見嫌われてそうだが、検事のなかには完璧主義検事もいた。彼らは、狩魔のグループに入り、狩魔と同じようなことをしていた。彼らは、「狩魔軍団」と呼ばれていた。

 不思議なことに、急に狩魔の表情が険しくなる。理由はもちろん、「一人目」の部分だ。
狩魔は、有力検事をみんな金、脅しで立候補をあきらめさせていた。

 局長は続ける。
「さて、実はもう一人……いるのだよ」
 すべての検事がおおっと歓声を放った。
「では、発表しよう!」
 検事たちがつばをごくりと飲む。

「その名、第二の候補者は!」





「その名……第二の検事は……綾原 晃三!」
 その瞬間、反狩魔派からは歓喜の声があがった。綾原は立ち上がり、一礼して壇上まで来た。
「き、貴様!」
 狩魔は、いままでに見せたこともないくらいの表情だった。
 そして、工藤局長が宣言した。
「さあ!これで候補者は以上!これより、休憩に入る!」

 ここで、ブレイクタイムだ。
 亜内は急に上機嫌になっていた。
「おおい! すごいぞ! 綾原!」
 綾原はあまりおもしろくなさそうだ。
「ああ……」
「どうした?元気ないぞ?」
「本当はあまり、こういうのは嫌いなんだが……」

「では? なぜ?」
 亜内が聞いた。
「ああ、あの男が検事局長になるとならば……話は別だ!」
 ふと、綾原が横を見ると、すごい形相で狩魔が歩いてきた。綾原とすれ違う瞬間……

「貴様はおろかだ……」
 狩魔は一言、言って去っていった。そして、休憩が終了する。

「さあ! それでは選挙を始めよう!
 まず手順の説明からだ! いいかね、まず、候補者が演説をする。そして、両候補者が討論をする。その後、候補者その場指名の推薦人が、候補者支持を訴える。そして投票だ!」
 工藤検事が一気に言い終えた。そして、綾原と狩魔を手招きし、壇上に上がらせる。
「さあ!まずは声明を発表せよ! では、狩魔くんから!」
 狩魔はマイクを握った。

「諸君。まずはあいさつをさせていただく。狩魔 豪だ。よろしく……
 我輩が追い求めるのは完璧のみ!それがなければ、検事の意味がない!
 いいかね?我輩は完璧な検事局をつくりたいのだよ!
 諸君らの賢明な投票を期待する」
 狩魔軍団から拍手が巻き起こった。工藤局長がマイクを受け取る。
「さあ、次は綾原くんだ……」
 マイクは綾原の手に渡った。
「こういうのは苦手なのだが・・・
 こんにちは!綾原だ!よろしく!
 ひとつだけ、話させていただく。それは”真実”について、だ。真実なくして、この世はありえない。真実のみが、素晴らしく、美しい! 真実をもみ消すような裁判であってはならない!私は真実を追い求める検事局を作りたい!
 以上……」

 反狩魔の検事たちが拍手した。
 そして、局長が二人を壇上の席に座らせた。
「次に、自由討論だ。時間は、ふむ……10分だ!」
 そして、補佐の人が二人にマイクを渡した。
「きっかり10分!では、スタート!」


 ここで、綾原は手を上げた。そして、マイクを持って、こう言った。
「……議論に意味があるとは思えないのです。二人の意見は全く違う」
「確かに。我輩もこのような愚か者と議論する気にはなれん」
 狩魔も賛同する。局長は不服そうだったが、議論することなく投票に突入することになったのである。


同日 休憩室

 綾原が一人でコーヒーを飲んでいると、亜内が走ってきた。
「おい! 綾原!」
 綾原は亜内のほうを見た。だが、その目は今まで亜内が見たこともない、
真剣そのものの表情であった。そう、女性をナンパしたり、ふらふらしたり
する様子もない。これが彼の本当の姿なのだと、亜内は悟ったようだ。
「やあ……亜内……」
 綾原はかなり緊張していた。今まで一度も表舞台に立ったことがない彼に
とって、これは未知の世界だろう。
「大丈夫か? もう投票だけなんだぞ?」
「勝つ見込み。あるだろうか?」
 初めて、綾原が不安そうな顔をする。若手ながら、狩魔と同じく一度も負けたことのない彼が見せたことのない表情だった。

⇒To Be Continued...

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