裏切りの逆転@
作者: 藤田綾美   2007年08月17日(金) 17時24分10秒公開   ID:.EmyXsSRm5E
7月5日 午前9時47分 地方裁判所 被告人第2控え室

今日もぼくと真宵ちゃんはここにいる。なぜかって、シゴトだよ、シゴト。
昨日真宵ちゃんと春美ちゃんとレストランに行ったら、殺人事件があって。ウェイトレスで気難しい美人、篠原彩音さんが逮捕されてしまった。
気難し屋で、何かとぼくに突っかかってたけど、こんなんでちゃんと弁護できるかな?

同日 午前10時 地方裁判所第2法廷 

「ただいまより篠原彩音の法廷を開廷いたします!」

裁判長が薄汚い木槌を思い切り振り下ろす。被告人席の篠原さんは、ムスッとした表情で座っている。

「それでは御剣検事、冒頭弁論を」
「うム。了解した」

御剣は資料を片手に、冒頭弁論を始めた。もう一度事件の全容を聞いて、頭の中で整理をつかせないと。ぼくは真剣に聞いた。

「事件はとあるレストランのトイレで起こった。洋式便器の個室の中で、小室洋介氏が腿と背中を刺されて死んでいたのだ。
第1発見者は被告人の妹で、一緒に働いていた篠原彩華氏。ドアと床との隙間から血が流れているのを見つけたらしい」

やっぱり、何度聞いてもこれでは密室殺人だ。

「被害者の解剖記録を証拠として提出しようっ」
「わかりました。受理します」
「では、最初の証人――通報されてかけつけた糸鋸圭介刑事に入廷してもらおう」

証言台に、イトノコさんがやってきた。

「証人、名前と職業を」
「はっ。自分は糸鋸圭介、捜査一課の刑事をやってるッス!」
「では、まず何故篠原彩音を逮捕したか。その理由を証言してくれたまえ」

いよいよ始まるぞ、尋問が!
隣を見ると、真宵ちゃんが意味ありげに篠原さんを見つめている。どうしたのかな……。

「被告人を逮捕した理由? そんなの簡単ッス! 凶器のナイフに篠原彩音の指紋がついてたッス! はっきりくっきりと!」

なんだって? まさかそれだけの理由で逮捕したとか……?
ぼくの気持ちを代弁するように、篠原さんが鼻で笑ったあと言った。

「あら、何でここで弁護士から異議がないの? まあいいわ、代わりにあたしが言う。
コートの刑事さん、まさかそれだけの理由であたしを逮捕したの?」
「そんなわけないッス! 妹の彩華さんの証言では、朝アンタが何度もナイフで空中を刺すまねをしてたそうじゃないッスか! 明らかに殺人の練習をしてたッス!」
「異議あり! そんな理由で逮捕するなんて……ヒドすぎますっっ!!」
「残念だが――」

ずっと黙っていた御剣が口を開いた。法廷にいる全ての人の視線が御剣に向けられる。

「そこの刑事が見落とした点が一つある。……目撃者がいたということを」
「な、なんだってええええええええ!!!?」

ぼくが言うと、御剣はふっと笑い、両手を広げた。

「では、その目撃者を入廷させよう!」

証人とイトノコさんが入れ違いになる。
証人は、携帯をいじり、ハデなメイク、色んなトコにハネた茶色の髪、とても短いスカートを履き、10cmぐらいはありそうな赤いハイヒールを履いて、上はヘソを出してるチビT。
ギャル。その言葉が一番妥当であろう証人だった。

「証人、名前と職業を」
「あ、ミッちゃんじゃん。やっぱカッコイー! あ、あたしのこと聞いてんだっけ? 真鍋沙羅、職業は、んー……ギャルかなー。因みにピッチピチの18でぇーす♪てゆーかヨロシクー、そこのギザギザさん」
「は、ギザギザさん……? ぼくのことでしょうか……」
「つーかほかに誰がいるわけぇ? しかもナニ、その隣の女のコ。結構カワイイけど、見た目チョー怪しいよ?」
「ひ、ひどい! 妖しくなんてないもん!!!」
「ふーん。ま、いーけど」

沙羅さんはケータイをいじりながら、適当に返事をしている。
見れば、御剣も困ったような顔をしている。

「そ、その……ミッちゃんとは、私のことだろうか?」
「そーに決まってんじゃーん! 噂に聞いてたけど、かわいいとこもあるんだね?」
「ムッ! う、うムムムムムム……」

ハハハ……相当困ってるな、御剣……。
裁判長が木槌を叩き、

「とにかく証言をお願いします。目撃したことについて!」
「はーい、しょうがないなあ」

沙羅さんはケータイを閉じて、ポケットに突っ込む。

「あたしさ、店長の愛人なんだぁ。それで、一昨日の夜から昨日の朝もあの店にいたの。
で、事件の日にレストランに友達と食事に行ったの。それでトイレに行ったら、被告人の女のヒトが便器の上に立って血まみれの男のヒトを天井との隙間から隣のトイレに投げ込んだの……。
女のヒト、背が高かったから、顔もはっきり見えたよ。そこのヒトだったもん!」
「待った! 何でその時点で警察に通報しなかったのですか?」
「だってさ、あんまりいきなりの出来事だったし、見間違いかと思ったから……」
「それならばつじつまは合う。犯行は実に大胆なものだったのだ」

御剣が気を取り直したように言い放つ。

「なるほどくん、早くムジュンを……」
「ダメだ……」

ぼくは頭を抱え、資料に顔を突っ伏して呟いた。真宵ちゃんの声が虚しく聞こえる。

「なるほどくん……?」
「ダメだ……わからないよ……カンペキな証言だ。ムジュンどころかゆさぶるスキさえもないよ……」
「……」

遂に真宵ちゃんも黙り込んでしまった。声が聞こえない。
すると、御剣の声が響き渡った。

「弁護人は被告の弁護を放棄したものと考えられる。裁判長、さっさと判決を」
「は、はい。では被告人・篠原彩音に判決を――」

ダメだ……このままでは判決が下される。かと言って、得意のハッタリはもう効かない。証拠品も全くないし……。
ぼくは頭をかきむしった。そのときだった。

「待ってください、裁判長!!!」

聞き覚えのある、凛とした声が法廷に美しく響いた。ぼくは思わず顔を上げる。御剣と裁判長が驚いたような顔で弁護人席を見つめている。
しかし、ぼくを見ているわけではないようだ。ふと隣を見ると、そこには真宵ちゃん……いや……彼女は!!

「千尋さん……!?」
「なるほどくん、諦めちゃダメ! 発想を逆転させるの。そして、被告人の非協力的なあの態度から推測するの。犯人は誰なのか? そもそも被告は無実なのか? それを!」

被告が……無罪か有罪か……。
そんなこと、聞いてもいないじゃないか!!
彼女はずっと非協力的な態度で、昨日も留置所で話を聞きに行っても自分の経歴をちょろっとしか話してくれなかった。
もう、心のどっか奥底で彼女は絶対に「無実」だと思い込んで、そんなこと聞きもしなかった。
もう、迷わない!

「裁判長、お願いします!! 10分間でいい、休廷をお願いします!!」

ぼくは頭を下げた。隣で千尋さんが「それでいいのよ」と言わんばかりに微笑んでいる。裁判長は悩んでいる様子だったが、やがて木槌を振り下ろしてくれた。

「いいでしょう。ここで10分間の休廷をとります!」

■作者からのメッセージ
初めまして、藤田綾美と申します。
小説を書くのは初めてではありませんが、逆転裁判の小説を書くのは初めてです。変なところもあるかもしれませんが、よろしくお願いします。

すいません、修正させていただきました。沙羅の証言の部分です。

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