逆転の友情A |
作者:
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2007年08月12日(日) 21時14分31秒公開
ID:00GKSe/Oc/g
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『お姉ちゃんへ 元気ですか?あたしは元気です。 ようやくこっちの生活にも慣れてきました! あたし科学部に入ったんだ。一人じゃできない実験とかいっぱいできるし、こ問で校長のスミス先生も優しいしもう最高! 友達もたくさんできたよ。 今日は特に仲のいい二人を紹介します!写真を入れたので見ながら読んでね。 まず一人目は、メアリー。写真の右側にいる子です。 メアリーは美人でとても頭がいいです。成積もいつも学年トップ!まるでお姉ちゃんみたいだよね。 クラブはあたしと一緒で科学部なんだ。 二人目は、ルーシー。写真の左側にいる子です。 ルーシーは運動神径がとってもいいの。それに努力家だから、すでにこの歳にしてもうテニス部のエース! 最近はこの二人と仲がいいんだ。っていうか、元々この二人の仲が良くて、そこに入れてもらった感じだけど。 でも一見正反対のこの二人が親友だなんて不思義だよね。 じゃあ、今日はこれくらいにします。また手紙書くからね。 茜より 』 あたしはさっきまで書いていた手紙をもう一度読みかえしている。 大丈夫! 誤字はない……と思う。わからないところはひらがなにしたし。 この前はちょっとな……と封筒に手紙と写真を入れながらあたしは思い出していた。 あまりのお姉ちゃんらしさに今でも笑ってしまう様な出来事を。 ――だって。 いくらあたしの手紙に誤字が多いからって、わざわざ添削して送りかえすことないじゃない! しかもご丁寧に漢字の意味まで書いて! ふん!どうせあたしはお姉ちゃんみたいに賢くないもん。 でも昔みたいなお姉ちゃんに戻ってくれて本当によかった…… この時あたしは知らなかった。 ――こんな平和な生活をぶち壊す大事件が起こるということを。 ――人間の心に芽生えた悪意はそう簡単には消し去れないということを。 ――そしてそれを乗り越えてこそ本当の友情をつかみとることができるということを。 A茜の初捜査 4月3日 午後3時 教室 「あれ? 財布がない! 朝、ジュース買った時はちゃんとあったのに」 放課後の教室。これからクラブに行こうとしている生徒や、そろそろ帰ろうかという生徒で混雑している中、事件は起きた。 ルーシーの財布が消えた!? あたしたち――あたしとルーシーとメアリーそして数人のクラスメイト――はすぐに教室の中を探し始めた。 机の下、ロッカーの裏、掃除道具入れの中。 最初はみんなすぐに見つかると思ってた。なのに、全然見つからない! ちゃんとすみずみまで探したのに、どうしてないの? みんなの顔から徐々に笑顔が消えていく。 するとその時、小さいけれどよく通る凛とした声でメアリーが言った。 「ねえ、テニスコートに行く途中に落としたってことはない?」 そうか! ルーシーはテニス部。しかも、毎日朝練や昼練もかかさずしている。 ということは、途中で落とした可能性も十分ある! というわけで、あたしたちは早速テニスコート付近を探すことにしたの。 同日 午後3時28分 テニスコート裏 倉庫前 ――だけど、現実はそんなに甘くなかった。 「……ない、ね」 元々ここ――テニスコート裏はそんな広いスペースではない。 ここだとすれば5分も探せば見つかるはず。 「……じゃ、どこにあるっていうの?」 クラスメイトのナンシーがため息をつく。 テニスコート内ならとっくに届けられているはず。ルーシーはテニス部のエースだから後輩さん達にも顔が知れている。 みんなの思いを代弁したようなそのセリフに思わずみんな黙りこんでしまったその時。 「みんな、ごめん」 その空気に耐えられなくなったのか、ルーシーが口を開く。それでなくても優しいルーシーのことだから申し訳なく思っていたのだろう。 「全然大丈夫だよ、気にしないで。だってあたしたち友達じゃん」 「だけど……」 ルーシーが呟く。 みんながなんとなく静かになってしまったその時、あたしは一つの可能性に気づいた。 「ね、もしかしたら職員室に届けられてるのかもしれないよ」 「あ、そうかも」 「なーんだ」 ナンシーやその他のクラスメイトが喜ぶ中、メアリーひとりだけが黙っている。 まさか、もしかしてもう見てきた、とか。でもずっと一緒にいたはずなのに、いつ? 「実は、みんなで教室を探している時に職員室に行ってきたの……」 メアリーのうかない顔をみているといやでもわかった。 「なかった、ってことか……」 どうしよう。これ以上探すところなんて思いつかない。 うーん――悩んでいるうちに、あたしが今まで考えてもみなかった可能性が頭の中をよぎる。 ……もしかして。落としたんじゃなくて盗まれた? みんな同じようなことを考えているのだろう。頭から水をぶっかけられたような顔をしている。 「まさか」 複数の声がかさなった。 「盗まれた?」 考えているだけなのと実際に声に出すのでは重みが全然違う。 あたしは今それを痛感した。 耳で聞いてしまった途端、急に現実味が増す。 「たぶんその可能性が高いと思う」 今まで黙っていたメアリーが言う。メアリーのことだからきっと、とっくにこの可能性に気づいて考えていたんだろうな…… だけど、もしそうだとしたら一体誰が? 何の目的で? 「とりあえず、教室に戻ってみんなにきいてみましょう。それで何もなかったら、みんなのかばんの中を調べるわ」 メアリーって本当にしっかりしてるな……と思いつつあたしは教室へ向かった。 同日 午後3時45分 教室 「だれかルーシーの財布知らない?」 あたしは大声で聞いた。 その声に驚いたのかみんなこちらを見る。 「大丈夫?」 「探すの手伝おうか?」 なんて声がとびかう。この後の展開を知らないみんなは純粋に心配してくれているみたいだ。 「実はね、盗まれたかもしれないの」 あたしの嫌な予感があたり、メアリーが発したその言葉にクラスの空気が凍りついていく。でも、メアリーはめげたりなんかしなかった。 「みんなかばんの中をみせてくれない? もちろん私たちも見せるわ……いいえ、私たちからみせる。お願い。みんな協力して」 いつも静かなメアリーがいつになく必死なのをみてみんな考え込んでいるようだ。けれど願いが願いだけになかなかうんといってくれる人はいない。 もうだめかな、とあたしが内心あきらめかけたその時、救いの手が差し伸べられた。 「いいんじゃないの? 協力するわ」 そういったのは社長令嬢、容姿端麗、成績優秀なエミリー。ルーシーによるとピアノも弾けるらしい。あたしは聞いたことがないけれど。 いつもレースでふりふりの――御剣検事以上にひらひらしている――ピンクの服を着ていて、あ、そうそう白いレースの手袋は彼女のトレードマークだ。 そのお嬢様的雰囲気のせいか人気も高い。メアリーに勝るとも劣らないくらいだからそうとうだ。 ちなみに、本人達に自覚があるのかどうかは不明だが、このクラス――いや学年の男子のほとんどはエミリーかメアリーのファンだ。 そのエミリーの鶴の一声によってメアリーはクラスのほとんどを味方につけた。 そういうわけで、全員のかばん調査が始まった、のだけれど。 結論から言うと、みんなのかばんを調べる必要はなかった。 だって。こともあろうに財布は、私から見せるといったメアリーのかばんから出てきたんだもの。 メアリーがそんなことするはずがない。 あたしはそう信じていたけど、他のクラスメイトはよってたかってメアリーを責めだした。メアリーが必死にやってないと訴えるのも無視して。 「ちょっと待って! メアリーはやってないって言ってるじゃない! なんでそんなこと言うのよ!」 あたしは抗議した。だけどそんなこと聞いてくれるわけがなかった。 「じゃあ、どうしてあいつのかばんから財布が出てくるんだよ」 「それは……誰かが罪を着せようとした、とか」 「誰かがそんなことしたって証拠でもあるの?」 そう言われてはあたしも黙るしかなかった。 どうすればいいの? どうしたらメアリーを助けられるの? あたしはパニックに陥りかけた。だけどその時お姉ちゃんの言葉を思い出した。 (この前の事件、科学捜査で救われたことがあったじゃない) (茜、立派な科学捜査官になって帰ってきてね) そうか、科学! あたしはいつも持ち歩いている科学捜査道具を取り出した。 さあしっかり捜査してメアリーの無実を証明するぞ! あたしははりきって捜査を開始した。 |
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