逆転を結ぶ橋 2 | |
作者:
流月氷龍
2007年08月01日(水) 19時02分51秒公開
ID:d8l1MhGI.wI
|
|
オレは、巴さんの言葉の意味が解らなかった。 ――は? 『会場内の人間関係を知る必要があるでしょう』? まさか、この会場内に居る人々の全員が互いをどう思ってるか調べろって言いたいんですか? それはちょっと、無理が―― そう言おうとしたとき、まことさんがいきなりスケッチブックに絵を描き始める。 絵を描き終えるとそれをオレに見せた。――その絵はなにやら、考え込んでいるような表情の絵だった。 「…だから、それをすぐに知る方法があるのかもしれませんね…」 本当かよ。それはそれで凄い。 もしかしたらみぬきちゃんやオレやラミロアさんみたいに『見抜く』力を持ってる人が居るのか? ――人間関係を見抜ける人。 巴さんがそれに答える。 「ええ、それに間違いないでしょう。」 本当に?どこに居るんだその人。 と言うか巴さんもまことさんも、どうしてオレが何も言ってないのに答えられるんですか。 「解りやすいのよ。…すっごく。」 ――ヒドイな、みんな。 とにかく、早くその人間関係を見抜ける人を見つけなきゃな。 そうでもしないと――なんだか、事件が解決できそうもないから。 でも被害者のデータも一応知っておいた方が良いか? とりあえず、茜さんに聞いてみようか。 「あの、茜さん。被害者の解剖記録とか、凶器とかは…」 「ああ、さっき貰ったよ。はい、これ」 <五月雨 翡翠の解剖記録> 鈍器で殴られ失血死。 死亡推定時刻は8時15分から8時40分の間。 <壷> 事件の凶器であろう、青い壷。 底が割れており血がついている。 「五月雨さん――壷で殴られたんですか。」 「そうみたいねー。壷の底でガツンと一発。」 でも、なんかひっかかるな。 頭を叩いたくらいで割れる壷だったら簡単に死ぬだろうか。 逆に言えば、この壷が人を殴り殺せるほど硬い壷だったとしたらなんで割れたんだろう。 しかもそんな壷だったら相当重いだろう。紫ちゃんが犯行に使えたのか? 「この壷、丈夫だけど意外と軽いのよねー。だから残念だけど…どうも、紫ちゃんでも犯行ができたってことになるわね。」 確かに――持ってみたら、結構軽いな。これなら女性でも片手で持てるんじゃないか。 こう、底の方を持ってガツンと――あれ? 壷の底で殴られたんだよな? じゃあ、やっぱり膨らんだ上の方を持って殴った訳か…なんでそんな面倒な事したんだ。 まぁこの際、それは置いておくとして。 「あの、事件現場の部屋――調べさせてくれませんか?」 「いつもならダメって言うけど――今回は特別だから良いよ!んじゃ、おいでよ。」 オレ達は、茜さんに率いられて事件現場へ行く事にした。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ――同日、午前10時13分、事件現場。 オレとまことさんは、そして茜さんは事件現場に入った。 ――事件現場には死体の様子を再現しているロープと証拠品が置いてある。 まずこの部屋の特徴を整理しよう。 この部屋には廊下側と外の壁側のふたつ、窓があり… 天井には通気口、残りは向かい合っているイスと丸テーブルに壷が置いてあった棚。 ちなみに棚は実は二つあって、一つは窓の側に置いてあってもう一つは今言った壷の置いてあった棚。 そして後者の方の棚の右隣には、白くて大きい…白鳥の像がある。 あとこの事件現場の部屋は、よっぽどのことがない限り使わない…言わば『空き部屋』だったらしい。 だけどパーティ当時は控え室みたいなものに使われてて、色々な人が出入りしたらしい。 でも…事件発生当時は偶然五月雨さんと紫ちゃんしか居なくて、犯行が出来たのは紫ちゃんだけだった…らしい。 ――そんなの、きっと嘘っぱちだ。紫ちゃんがやってるはずがないんだから! さて、ここは精一杯捜査を始めるか! まず、気になるのはやっぱり――あの大きな白鳥の像だよな。 あれって一体なんなんだろう?どうも、大理石で出来ているわけじゃないみたいだけど。 「あ、それね。お姉ちゃんがこの前こんな形の像をオーダーメイドしたの。それのレプリカなのよ、発泡スチロールで出来てる。置く場所がないからここに置いてるの。」 なるほど。じゃあ近々、こんなような形の像がここに届くんだな。 ――値段は想像つかないくらい高いんだろうな、きっと。 とにかくこのこと、よく調べておこうか。 <白鳥の像のレプリカ> 事件現場に置いてあった、巴さんがオーダーメイドした像のレプリカ。 発泡スチロールで出来ている。 それじゃやっぱり証拠品はタテからヨコからよーく見てみなきゃな! えーっと、どれどれ―― 「わっ!」 「な、何よ!」 これは――凄いな。下に倒してみると、オレでもしゃがめば像の中に入れるかもしれないだけの大きな空洞があるぞ! ――ってか、なんでこんな空洞があるんだよ…。 「うわー、これは凄いな。なんでわざわざ空洞なんか彫ったのかなあ。」 ――そこは事件に関係ないと仮定して。これはちょっと重要事項かもな。 情報を付け足しておこう。 <白鳥の像のレプリカ・追記> 下から見ると大人でもしゃがめば入れるだけの空洞がある。 「でもおっかしぃなぁ…。」 ん? 何がおかしいと思うんだろうか、茜さん。 もしかしたら、元々レプリカの下には空洞がなかったとか―― 「つい昨日、大理石でできた本物の像が届いてここに置いたはずなんだよねー。お姉ちゃんもそう言ってるよ。」 え。じゃあ、本物の像は一体どこに消えたんだろう? そして――誰がなんで、本物の像をレプリカに入れ替えたんだろう? 考えられる可能性としては――犯人しか居ないよな、やっぱり。 犯人が隠れる場所を確保するために本物とレプリカを入れ替えて隠れた。 そう考えるのが自然だけど――な。 それにもう一つ謎が。大理石と発泡スチロールじゃあ、重さが異常なくらい違う。 よく大理石を運べたなー。そうなると、紫ちゃんの可能性は―― 「もしかしたら、こん中に本物があるかもしれない…。」 茜さんがそう言ってレプリカの隣の壁をずらそうとし始める。 ちょ、茜さん、何をしてるんですか――すると! なんと壁が動いて、その向こうにもう一つ像が現れたじゃないか! 「やっぱりね。これ、本物の像よ。」 うおー、やっぱり。これは――大理石だな。 しかし大理石だと動かしづらいんじゃないか? 少なくとも、短時間では動かす事が―― 「……オドロキさん、像の下に……」 まことさんがかすかに言う。像の下? ――あ! 像の下にはローラーが置いてある。そうか、これがあれば簡単に像を押すことができる! 「あ、そのローラーね。まだ置く場所が決まってないからローラーの上に置いたまま動かしやすいようにしておくんだって。お姉ちゃんが言ってた。」 成る程な…。じゃあ、簡単にこれを使う事ができた、と。 <白鳥の像> 大理石製。巴さんがオーダーメイドしたもの。 ローラーの上に置いてある。 「でもおかしいなぁ、この物置は…意外と目立たないから、控え室とだけ使っていたら気づかないはずよ?――あ」 あって――茜さん、何か思い当たる節があるのかな。 ――なんだかちょっと、嫌な予感がしてきた――流石にあの時ほどじゃないけど、さ。 ちょっと聞いてみるか――心臓に悪いけど。 「あの、茜さん…その物置、紫ちゃんと茜さんだけが知ってる――なんてこと、ありませんよね?」 「うわ。流石は成歩堂さんちの子。よくわかったわね。」 ――本当なのかよ!それってかなり不利じゃないか。 「そ、この物置の存在はお姉ちゃんと私と紫ちゃんだけが知っているはずなの。このままじゃあ不利ね――どうすんのよ、一体。」 「……偶然わかった、なんてことは……?」 ん?今ふっとまことさんが言った言葉――結構重要なんじゃないか! 偶然。一応物置なんだから、偶然物置の存在を知ったってことも有り得るよな? 「あ、そっか。確かにね、この物置――目立たないけど、実際触ってみれば誰でも解るんだよね。犯人は最初は物置の存在を知らなかったけど、偶然解った。そう考えればいいわけか!」 そうか、そう言うことか。それなら紫ちゃんでなくてもこの物置を使える。 ――まことさん、流石だ。意外と鋭いんだな… ん? 「どうしたのよ。」 「あの、これ――何ですか?」 オレはたった今見つけた、丸テーブルの下に転がっていた杯のような形をした水色の壷を手に取り、茜さんに渡す。 茜さんはそれを受け取り、不審そうな目で見つめながら答えた。 「――なんだろう。」 解らないんですか。茜さんは縦から横からそれを見つめている。 だがその不審そうな目は変わらない。――やっぱり、解らないんだろうか。 茜さんが壷をじっくり見た後、これをオレに返しながら言った。 「とりあえずお姉ちゃんに聞いてみれば? なんか、答えてくれるかもよ。お姉ちゃんはなんでも知ってるから。」 なんでも知ってるって言い方――子供ですか。 こんなことを言ったらおびただしい量のかりんとうを投げつけられそうだからやめておこう。 まぁとにかく、巴さんに聞けば何か情報がわかるかも――って言いたいのかな。 じゃあ、一応聞きに行こうか。 「解りました。じゃあ、聞いてきますね。」 「うん。あたしはここでいろいろ捜査してるね。」 調査開始。オレ達は現場を去り、巴さんにこの壷の事を聞く事にした。 その前に一応、集まった情報をまとめておこう。 <物置> 殆ど気づきにくい物置。この物置の存在を最初から知っているのは巴さん、茜さん、紫ちゃんのみ。 だが、壁を触れば物置の存在を知ることが出来る。 <水色の壷> 事件現場に落ちていた、杯のような形の壷。 一体何の意味があるんだろうか。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「パパ、聞いて!」 王泥喜と別で捜査をしている成歩堂とみぬき。 みぬきは成歩堂の腕にすがりつき、はしゃいでいた。 成歩堂はみぬきを見ながらいつものポーカーフェイスで答える。 「なんだい? みぬき。」 「この前ね、みぬきのクラスに男の子が転校してきたの。」 「ふーん、で、みぬきはその男の子に一目惚れしちゃったわけだ。そうかあ、みぬきもそんな年頃か。」 成歩堂は面白半分にみぬきをからかった。 みぬきは成歩堂のからかいに対し頬を膨らませながら怒る。 「もう、パパったら! そんなわけないでしょ。――実はね、その男の子。名前は忘れちゃったけどたしか――検事、なんだって。」 「15歳の検事かぁ。まぁ僕は13歳で検事になった人を知ってるから今では普通なのかもね。」 15歳の検事。異例の若さだった。だが成歩堂はこれまで沢山の『異例の若さの検事』を聞いて来た。 事実、成歩堂から弁護士バッジを取り上げた検事――牙琉響也はそうである。 なので成歩堂は15歳の少年検事と聞いても少しも動揺しなかった。 それは弁護士を辞めてから7年間の間、ポーカーをやっていたことにより弁護士の時に比べ 動揺し難くなったこともあるだろう。 成歩堂はその少年検事に対して、わずかな興味を抱いた。 ――みぬきと成歩堂が歩いていた、その時。人影が二人の目の前にいきなり立って、二人に言う。 「ここは関係者以外立ち入り禁止だぜ。お前ら二人、何をぶらぶら歩き回ってるんだ?」 成歩堂はその声を聞いて目の前を見た。――そこには黒い髪と暗い澄んだ紫色の瞳が特徴的な少年が立っている。 少年は黙って成歩堂を見つめていた。成歩堂はその少年の言葉の答えを返す。 「その発言に異議あり。僕らは立派な関係者なんだよ。現場主任さんに捜査を頼まれてるものでね。」 少年は成歩堂を胡散臭そうな目で見た。成歩堂は表情を一切顔に出さない。 冷たい空気が少年と成歩堂の間に流れたが、途端にみぬきが言った。 「あ、あなた――この前転校してきた!」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ―同日、午前10時16分、宝月邸。 「巴さん!」 オレは玄関に残っていた巴さんを見つけて呼び止めた。巴さんが振り返る。 巴さんはオレ達を見て言った。 「王泥喜くん。何でしょうか?」 何でしょうかと言うその質問の答えはひとつ。――この謎の壷について。 ――それだけ。今のところ。さ、そのことを聞こうか。 「巴さん。…この壷なんですけど。」 オレは先ほど見つけた、水色の壷を巴さんに差し出した。巴さんはそれを見てはっとした。 ――あ、心当たりがあるんだ! ――ところで何でだ。 「それは――ええ、私のものですね――今は。」 「詳しく聞かせていただけますか。」 「その壷は――紫が私にくれた壷です。実は『紫がくれた壷』ですが、もう一つあったはずです――それは、あの凶器の壷。あれも紫がくれたんです。」 そうだったのか…。じゃあ紫ちゃんがあれに触るチャンスなんていくらでもあったんだから、 ⇒To Be Continued... |
|
■一覧に戻る ■感想を見る ■削除・編集 |