司る者の逆転・最終話・
作者: 厄介   2007年07月29日(日) 17時41分42秒公開   ID:a2NPBN.0RBI
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   10月13日 午前11時29分 地方裁判所 被告人第二控え室 
・・・あのときから、灰汁智さんには会っていない。昨日、その担当の医師がオレの傷を治してくれたが、灰汁智さんの容態を聞くのを忘れてしまった。オレはいつものソファに、ゆっくり座り、ぽかんと、天井を眺めていた。ほとんど、静かな場所だ。だから、安心できる。ただ、人が来るときは例外なんだけども・・・。
「アンタ!ビンゴッ!」
アカネさんだ。扉をサッと開けて、ソファに座っているオレにむかって言った。
「ビンゴって、なんですか・・?」
「株水木の関連は十分で、今日、出廷されるわ。それと・・・」
ポケットから何か取り出すアカネさん。取り出したのは、バースデーカードである。
「何ですか、それは」
「あのね、あたし証拠を見せるために”タコージ”社へ行ったの。そこで、被害者のデスクにあったものを持ってきた。・・”株水木のバースデーカード”」
「え、誕生日を祝いに・・?」
「ええ。彼は、勘違いをしていたようだけど」
(株水木のバースデーカードを受け取った)
でも、これがあって、何になるんだろうか・・。オレは日にちを見た。・・・”10月10日”。事件当日である。そして・・・。
「アカネさん・・・、彼、当時19歳だったんですね・・」
アカネさんはオレが座ってるソファに座って、かりんとうを食べていた。そこで、じっとオレの目を見て、
「ウソ・・?じゃあ、20歳じゃないの・・!」
と驚いた様子だった。
「大人は”起きてもいい”ですからね」
「アンタ・・・、凄い切り札を見つけたわね・・!」
「はい!」
「行っておいで!」
「は、はい!」
と、オレはソファから立ち上がり、ここを後にしようとしたとき・・・。あの、成歩堂さんが扉を開けてきた。
「オドロキくん、いる?」
いきなりなので、声も出なかった。成歩堂さんがすっと入って、扉を閉めたとき、アカネさんもきょとんとして、驚いていた。
「な、な、成歩堂さん・・?」
「ん、久しぶり。また、会ったね」
「なななな、何の用ですか!」
そうアカネさんが言ったあと、成歩堂さんは不適な笑いを浮かべてコツコツと歩き、とうとうオレに視線を向けた。
「灰汁智稼取は、治ったよ」
・・・・・。本当なのか?治療する手段がない、”チリョーレス症候群”。やっぱり、成歩堂さん、ウソをついてるんじゃないか?
「本当だ。呼ぶよ」
と、成歩堂さんは扉を開けて、灰汁智さんを連れてきた。灰汁智さんはおそるおそる、恥ずかしながら入って来た。
「ええと、迷惑かけて・・・すみません」
「灰汁智さん・・・!」
「ひ・・あ、アクジさん・・」
成歩堂さんの言ったことは、本当であった。灰汁智さんはいつもの眼鏡をつけて、オレ達の目の前にやって来た。
「ごめんなさい・・」
「べ、別に謝ることありませんよ。悪くないんですから」
「・・僕、証言台に立ちます」
「え?」
・・・おい、それは初耳だぞ。誰も聞いてないぞ・・・。そんなのってあり!?
「誰にも言ってなくて、ごめんなさい」
「そう・・いうことか・・」
「気にしてる?」
「いや、してない。大丈夫ですよ」
「あ、ありがとう・・・」
そこで、成歩堂さんは灰汁智さんを連れて、
「オドロキ君、行こう」
と言った。
「は、はい・・!今、行きますから・・・!」

  同日 午前11時38分 地方裁判所 第二法廷
一番最初に、裁判長が『はじめます』とかなんとか言うのだが、なんか、裁判長は何も言わず、無言だった。不自然に思った裁判長に、オレが声をかけてあげた。
「あの、裁判長・・?」
「・・・・・・・・・」
ね、ね、ね、寝てる!?どうしたんだ、一体、裁判長・・・、まさか夜更かししてた!?
「全くだね、最近のオジいさんときたら・・」
牙琉検事は全く気にせず・・だ。そこで、懐からクラッカーを取り出した。
「私物はいけないんだけど・・・それっ!」
クラッカーを鳴らす牙琉検事。そのとき、裁判長ははっと目を開いた。
「ええと、開廷します・・」
「準備はそれぞれ、大丈夫みたいだよ」
かってに決めるなよ!まあ、出来てるんだけど。隣に居る成歩堂さんは、クラッカーに目を向けていた。
「あれ、あれ・・・」
まるで、玩具を欲しがる子供じゃないか。成歩堂さん。でも、どこかで”クラッカー”が関連した事件があったような・・・。まあ、気のせいだろうが。
「じゃあ、始めるよ。刑事クンの話によれば、バーのマスター、株水木氏が関連していることが分かった。まあ”オマケ”も協力してたみたいだけど」
牙琉検事にも、”オマケ”扱いされた!まあ、傍聴席の人が”オマケ”を聞こうが、何聞こうが、何も分からないんだけど。もちろん、その”オマケ”が”オレ”ってことも分からない。
「でもさ、その前に被告人から話を聞きたい。いいよ、ね?」
「・・・・・・・・・」
「・・・クラッカー、鳴らすよ」
「は、はい!どうぞ、被告人、証言台へ・・・」

「灰汁智稼取。・・・中学3年っていうところ」
まずは、ほめ言葉だよな。普通は・・・。
「あ、被告人、おめでとう」
「ありがとうございます・・・」
証言台は初めてかな、灰汁智さん。今まで、苦労してきたんだな・・・。
「今までの証言・・聞いてたね?」
「勿論です」
「一番気がかりだった、君の行動が聞きたいんだ。素直なら、出来るよね?」
あのなあ、牙琉検事・・・。簡単には喋ってくれないのは多いんだよ?でも成歩堂さんは、彼の証言を信じきっていたみたいだ。
「異議なしだよね?オドロキくん」
「は、はい。弁護側は、大丈夫です」
「じゃあ、お願いするよ。稼取くん」
「・・・はい」

      証言開始 〜自身の行動〜
「自分が、11時まで片付けをしていたのは明らかなんです。そこで2階に行ってる最中、赤城さんに呼ばれました。だから、倉庫から地下へ行って赤城さんに会ったんです。そこで、お酒がまざったものを飲まされて、お酒の味らしきものがしたので、急いで1階の階段にかけのぼったんです。そこで、棚に頭を突き破って・・・、気絶しました」

「それはとんだ石頭だね、君」
石頭って、固いのか・・?
「まあ、あの棚は素材が弱かったですから、人が手を突き破ろうと思えば、突き破れるんですよ」
「でも、被告人。オレがあの棚動かそうとしたときは、かなり重たかったんですけど・・・」
「あれ、ね。あれは、2000mlの牛乳が入ってたんだ。だから、それが錘になったんだろうね」
「ふ、ふうん・・・」
「じゃあ、その、飲ませた人って、どんな方法使ったんですか?」
どんな方法って、アイマイだぞ。それじゃあ。何やってんだ、オレ・・・。
「”話でもしようよ”とかなんとか・・。で、牛乳にまざったやつ・・」
飲まされた、っていうか、飲んだんじゃん、自分で。オレだったら断るけどな・・・。ふうん。でも、まだ足りないような気がする。
「じゃあ被告人は、そろそろ証言にうつってもらおう。いいね?」
「・・・はい」

   尋問開始 〜自身の行動〜
「自分が、11時まで片付けをしていたことは明らかなんです。そこで2階に行ってる最中、赤城さんに呼ばれました。だから、倉庫から地下に行って赤城さんに会ったんです」
「待った」「”罠”には気づきませんでした?」
「全く・・だからね。気づかなかった」
気づかなかった・・って、何だよ!言い訳じゃないか。でも、彼自身、赤城さんが”召使”として勤めていたことにも気づいてはいなかったにちがいない。
「じゃあ、お願いします。次」

「そこで、お酒がまざったものを飲まされて、お酒の味らしきものがしたので、急いで1階の階段にかけのぼったんです」
「待った」「さっき分かったとおり、自分から”飲んだ”んじゃないんですか!」
「・・・でも、自分、”牛乳”が好物ですから。つい、飲んじゃうんですよね」
・・ま、全くだ・・。裁判長はまた寝てるし、牙琉検事は空耳だ。ついでに、傍聴席の人たちも。オレはひじを置いて、うずくまるしかなかった。言う言葉もなかった。
「じゃあ、つ、次、いかせてもらいますね」

「そこで、棚に頭を突き破って、・・・気絶しました」
「待った」「やっぱり、それ、変だと思いますが」
うん。そう。変なんだ。誰も聞いてないけど、自分の意見だけは話そう。
「本当ですって。信じてください」
そういうところが信じられない。いや、むしろ信じたくない。だって、彼自身、無傷じゃないか。
「なんで、被告人は頭ぶつけたのに、無傷なんですか?」
「え・・あ・、ああ!ごめんね。現場写真にあったワ。あの天使でもないコップ、あれ、自分が飲んだやつなんだよ」
「え、ええええ・・?」
「それで、誰かに割られたんでしょうね、あのコップ。相当高かったんだろうけど。それで入れられたと・・・。うん、マチガイナイ!」
なんだ、なんなんだ・・・?確かにスジは通ってるかは不明であるけど・・・。
「お喋りはここまでだよ。おデコくんに、被告人。次は、別の人に喋ってもらうんだから」
「・・・・・・・・」
灰汁智さん、しょげてる。うん。しょげている。成歩堂さんは未だに喋らない。なんか、言ってやればいいのに・・・。
「じゃあ、次、人、入れてもらえるかい?」

「株・・なんですけど・・」
株さんといえば、よく背中に変なリュックサック背負っていたが、なくなってる。
「君、あのおデコの弁護士に呼ばれた人だからね?分かってる?」
「え、ええ、もちろん・・・」
ウソつけ。その苦笑い。おかしいぞ。・・・・と、オレは思う。
「じゃあ、素直なら言えるよね?」
「”素直”に強調しますね、アナタ。たまにはリラックスも必要だと思いますがね私にとってはいつも”完璧”な自分でいると失敗することだってあるんですよだからリラックスにしたほうがいいと思いm」

  証言開始 〜株の主張〜
「弁護士さん、僕を呼んで何もならないと思います。だって、僕には動機がありませんから。何も分かりませんし・・・・。何も知りません」

やけに、短い・・・。オレが聞いた中で、一番下だぞ、コイツ。でもまあ、尋問にうつさせたときは、何になるか分からないけどな・・・。
「じゃあ、尋問に移らせていただきます」

  尋問開始 〜株の主張〜
「弁護士さん、僕を呼んで何も成らないと思います。だって、僕には動機がありませんから」
「異議あり」「新聞記事、もらいました。これを何故、あなたが持っていたのか、不思議ですね」
「だから・・・、凄いと思っただけで・・」
凄いだけじゃ、足りないと思う。しかも、あの”タコージ”社だけなんだ。そんなの、”興味がある”にしか思えないじゃないか。
「凄いと思うだけでは足りないと思いましたね。昨夜、あなたが株価表を見た途端に、動揺が激しかった。それは”興味がある”としか思えませんがね!」
「・・・・・・」

「どう、なんですか・・?」
オレが一番気になったところだ。そう、彼の動機は・・。
「・・・御名答。僕の動機・・、分かったんですね。正直に話しましょうか。・・・、あいつがやって来たとき、僕は”株を買い取る人”と聞いて、真っ先に喜んだんだ。あの時刻、”売って欲しいと言っても、断られて・・・」
「認めるんですか?」
「ん?・・・断ります」
はあ!?動機まで言っておいて・・。ん、でも・・・。
「ところで、昨日の証人・君平氏が目撃した被告人って・・・・」
「・・・僕です」
彼は別人だった。か。あのときは雷さえ鳴っていた。しかも、暗い。見えなくて当然だろう。
「でも、認めるつもりはありません」
株さんは、やっぱり喋らなかった。動機は分かったのに、証拠がないなんて、もうだめ、なのか・・・?
「じゃあ、証拠がないってことは、帰っていいのですね。立ってると、早く疲れてくるものなので・・」

「異議あり」「待ちなさい!株水木!」
アカネさんが扉をがしゃんと開けてきた。
「裁判長、あたしの話を聞いてください!・・・裁判長?」
寝てる。寝てるんだ。遠くからでは、見えるわけもない。
「あ、どうぞ」
寝言のように、喋る裁判長。それが返事に偶然一致。アカネはステップを踏んで、証言台に立った。

「あたしが調べたところ、あの酒は”輸入品”だそうね」
アカネさんは、株さんに言う。でも、黙ったままで、誰も聞きやしない。
「お金は十分にかかった。でしょう?だから、お金を借りて、あの”輸入品”を買った。でも、株さん。20歳なんだって?認めてくれたのね」
「!どういうつもりだ!」
そのときアカネさんはこっちを向いて、合図をした。でもそれは、成歩堂さんへの合図であった。
「・・バースデーカード。だ」
「?」
「君は、わざわざご苦労なことに”大人”と認めた。つまり、”榎家の家訓”を破らずに済むんだ。そして、被害者と話していた。分かるかい?」
「分かるわけ、ないじゃないか」

⇒To Be Continued...

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