逆転の友情@ |
作者:
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2007年08月06日(月) 18時56分17秒公開
ID:00GKSe/Oc/g
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本当にきれいな青空だった。 雲一つないその空に見とれて、一瞬、自分が何をしようとしているかも忘れてしまいそうなくらい。 私は手にした小瓶をみて改めて思った。 ――たった0.15グラム。 それだけあれば人ひとり殺すことのできる猛毒、シアン化カリウム。 通称、青酸カリ。 私は今その猛毒を持っているんだ、と。 今から人の命を奪おうとしているんだ、と。 そして震える手で小瓶をあけ、あいつの水筒に猛毒を入れた。 ――大丈夫。計画は完璧だもの。ばれるはずがないわ。 そう呟いてから、最後の仕上げをした私はその場を去った。 だけど、その時私は気づいていなかった。 いや、気づく余裕がなかった。 震える手で入れた青酸カリがこぼれていたことに。 今思えば私はとんでもなく馬鹿だった。 成功したと思いこんで、やるべきことを忘れていたのだから。 失敗なんて考えもせずに、自分に酔っていたのだから。 @始まった新生活 3月1日 午後2時20分 空港 ロビー あたしは、約15時間の長旅を終え、アメリカに着いた。 時差ボケのせいか少し頭が痛い。 あたしはこれでもかというくらい重いトランクを引きずりながら、お姉ちゃんの知り合い――っていうか親友――で超凄腕の検視官、麻里香さんとの待ち合わせ場所である広場にむかっていた。 麻里香さんとお姉ちゃんは高校時代の同級生。 とっても仲がよくて、よく家にも遊びに来ていたので覚えている。 一年生で同じクラスになって、宝月と星野だから出席番号がとなりで席が近くて、趣味が一緒だったので意気投合したらしい。 高校卒業後、お姉ちゃんは日本の大学、麻里香さんは渡米と進路こそ違ったものの、二人はそれから今までずっと連絡をとりあってきた。 5年前には、アメリカから麻里香さんが遊びにきたし、お姉ちゃんも大学時代に向こうに行っている。 だから、あんなことになってしまったお姉ちゃんが、あたしを麻里香さんに預けたことは、ある意味当然のことだったのだろう。 同日 午後2時28分 空港前 広場 考え事をしながら歩いていたら、いつの間にか目的地に着いていた。 「久しぶり〜 大きくなったね、茜ちゃん」 後ろから声をかけられる。 この声は…… 「麻里香さん!」 「待たしちゃったわね」 そういって微笑む姿は、5年前日本に遊びに来たときとと同じでとってもかっこよかった。 「いえ、さっき着いたところですっ!」 と思わず敬礼してしまう。 「車はそっちに置いてあるわ。さ、行きましょう」 と言って麻里香さんは颯爽と歩きだした。 その先には、真っ赤なスポーツカーがあった。 学生時代から派手だったという麻里香さんらしいと言えばそうなのかもしれない。 だけど、正直今のあたしは赤い車を見るだけで思い出してしまう。 検事さんの赤い車でおきたこの間の事件、そして二年前のSL‐9号事件こと青影事件。 成歩堂さん達のおかげで解決したけれど、みんなを苦しめたあの事件のことを、そう簡単に忘れることなんてできない。 ――なんて思っていると、いつの間にか追いていかれていたらしく、 「どうしたの? 早くおいで」 という麻里香さんの声にあたしはあわてて後をおいかけた。 同日 午後3時 麻里香の自宅前 駐車スペース 空港から車で約30分。 高級住宅地のど真ん中に堂々とそびえたつその建物を見て、あたしは言葉をなくした。 ……大きい。とにかく大きい。 この大きさは、一個人の住宅として間違ってると思う。 そして豪華。 きらきらしているわけではないけれど、なんていうかいい物使ってるんだなって感じ。 庭にはプールやテニスコートもあったし。 こういうのを豪邸って言うんだろうな…… 麻里香さんがお金持ちっていうのは聞いてたけど、検視官ってこんなに儲かるの??? この時こんな馬鹿なこと考えずにちらりとでも表札の文字を見ていたら、麻里香さんを問い詰めることもできただろうけど。 でも見る暇もなく驚いていたあたしは、この後さらに驚くことになったんだ。 同日 午後3時2分 麻里香の自宅 玄関ホール 天井のきらきらしたシャンデリア、床の大理石にふかふかの絨毯、廊下に立ち並ぶ高級そうな彫刻や絵画。 予想を上回る豪邸っぷりにあたしは不安を感じた。 ――これから、ここで暮らすの? かたまっているあたしの前に、一人の男の人が現れた。 見るからに高そうなスーツをさらりと着こなした英国紳士って感じのその人は、麻里香さんと少し話してからこっちを見て言った。 「いらっしゃい」 ……え?日本語!? 麻里香さんとも英語で話していたし、てっきり英語だと思って身構えていたあたしは拍子抜けした。 だって、その人は…… 金髪、長身、白い肌。 どこからどうみても日本語をしゃべる様には見えなかったんだもの! 「紹介するわ。私の夫のビル。弁護士をしているの」 えええええええええええええーっ? お、お、お、夫ぉぉぉぉおおお? 麻里香さん結婚してたの??? しかも国際結婚????? 麻里香さんはあたしが驚いてるのを不思議に思ったらしく、さらりと言った。 「あれ? 知らなかった? 巴に葉書送ったんだけどな〜」 だから! そんなの聞いてませんよ!!! お姉ちゃんも知ってたのなら教えてくれたっていいのに…… 「い、い、いつ結婚したんですか?」 「あれ? ホントに知らないの? 昨年の春だけど……」 昨年の春、か……。その頃はあたし、あんな風に冷たく変わってしまったお姉ちゃんを見るのがいやで、お姉ちゃんとあんまり話してなかったな……。 「今日からよろしくね」 ようやく状況を理解したあたしに、麻里香さんのだんなさんのビルが手を差し伸べてきた。 あたしはその手を握って言った。 「こちらこそよろしくお願いしますっ!」 同日 午後3時7分 麻里香の自宅 茜の部屋 あの後、「じゃ、部屋に案内するわね」と言って階段をあがりだした麻里香さんに連れられて、あたしは三階の一室に来ていた。 ……それにしても広いなあ、この家。 麻里香さんによると、一階にはパーティー等で使う大広間とキッチン、二階には客室と超広いお風呂、三階には麻里香さん達の寝室とテレビやゲームや卓球等ができる多目的室、そしてあたしの部屋があるらしい。 「じゃ、片づけ終わったら、私達の部屋に来てくれる? ちょっと話があるの」 「はーい。わかりました」 話ってなんだろう? そう思いつつも、あたしは元気よく返事をした。 同日 午後4時42分 麻里香の自宅 茜の部屋 「ふぅ。やっと片づけ終わった〜」 あたしは軽くため息をつきながら、今まで片づけていた部屋の中を見まわした。 広々とした室内に、あたしが日本で使っていた机や本棚そしてベッドがちょこんと置いてある。 まだ実感はあまりないけれど、ここが今日からあたしの部屋なんだ。 そう思うと、新しい部屋を喜ぶ気持ちと前の部屋を懐かしむ気持ちが入りまじって、なんだか少し複雑だった。 ――あっ、大変だ! 麻里香さんとの約束忘れてた。 あたしは勢いよく部屋を飛び出して麻里香さん達の部屋に向かった。 同日 午後4時45分 麻里香の自宅 寝室 コンコンとノックをしてあたしは部屋に入った。 「あー、片づけ終わった?」 「はい! あの、話ってなんですか?」 「あのね、あなたの学校のことなんだけど」 ――学校。 あたしは麻里香さんに言われるまでその存在をすっかり忘れていた。 「私の先輩が創った学校が近くにあるの。元々捜査官だった人だから、茜ちゃんにとっては楽しいと思うわ。科学部も充実してて、その先輩自ら顧問をしてるぐらいだし」 科学部っ! しかも元捜査官が顧問! 「あの、その学校、是非行かせて下さいっ!」 「そういうと思った。実はもう手続きはしてあるの。だから、明日からいってらっしゃい。教科書とかは向こうでもらえるし、制服なんてないから」 「ありがとうございますっ!」 麻里香さん達の部屋から出たあたしはスキップをして部屋まで帰った。 明日から学校♪ そう思うと、嬉しくてあまり眠れなかった。 3月2日 午前8時15分 学校 校長室 ……はぁ。 あたしは朝からため息をついていた。 昨日は学校に行くことになってとび上がる程喜んでいたというのに、今はため息をついている原因、それは。 ――英語。 そりゃ、あたしがいくらおっちょこちょいで不器用だと言っても、アメリカに行くんだからちょっとくらいの勉強はしている。 だけど、麻里香さんと学校長の会話を聞いて驚いた。 はやっ! 今までしてた勉強はなんだったの? 全然使えないじゃない! 日本の英語教育ってやっぱり間違ってるんじゃない? そう思うくらい、本場の英語は早くて聞き取れなかった。 あたし、授業とかついていけるのかな……。 早くも現実味をおびてきた不安が頭から離れない。 「どうしたの?」 ため息ばかりついているあたしを見かねたのか、麻里香さんが声をかけてきた。 「どうしたって程でもないですけど……ついていけるかなって」 「……もしかして英語聞き取れなかったの?」 あたしは、麻里香さんの鋭さにびっくりして固まってしまった。 きっと図星ですって顔に書いてある様な表情だったんだろうな。 「図星? まあ、私も最初はそうだったからね〜」 麻里香さんが? さっきはあんなに上手に英語を話していたのに? 信じられない。 「ま、一ヶ月もすれば慣れるし半年たてば自然と喋れる様になるわよ」 本当かなぁ? あたしは不安を抱えながら教室に向かった。 同日 8時30分 学校 教室 あたしは今教室の前の方に立っていた。 担任だという男性教師が何か言っているけれどわからない。 きっとあたしの紹介でもしているのだろう。 その証拠にみんなあたしの方をみて何か囁きあっている。 その時、先生があたしの方をみて何か言った。 たぶん自己紹介しろってことだろう。 あたしは、もうどうにでもなれっ! と思って口を開いた。 「マイ ネーム イズ 茜 宝月 ナイス トゥ ミート ユウ」 自分の知ってる英語でなんとかそこまで言う。 ……はぁ、疲れた。 担任に席を教えてもらい座るとあたしは机に突っ伏した。 同日 午後5時 麻里香の自宅 茜の部屋 その後、あたしはなんとか一日目を乗り切った。 最後のほうには、話しかけてくれる友達も出てきたし、科学部の見学にも行った。 こうしてあたしの新生活は始まった。 不安なことも多いけど、何とかやっていけそうだ。 この時はあんな事件が起こるなんて思いもしなかったから、こんなのんきなことが言えたのかもしれない。 |
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