異世界 |
作者:
ライチ
2010年12月31日(金) 13時38分47秒公開
ID:p.r9G5KHR1A
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「ん・・・」 どこだ、ここは。私は、検事局で明日の裁判の資料に目を通していたはず・・・ 「あれ?御剣じゃん」 なにやら背後から、聞き覚えのある声がした。 「よっ!」 「な・・・成歩堂、か・・・?」 声や見た目は、確かに彼だ。しかし、彼の胸元に光っているのは―― 呆然とする私をよそに、彼は話す。 「全く、検事ってのも大変だよな。」 見間違いなどではないようだ。彼の胸に光っているのは・・・検事バッチ。ど・・・どうなっているんだ・・・? 「ああ、それと御剣!狩魔弁護士が呼んでたぞ。留置所にいるみたいだから・・・」 ま・・・待った。今、なんと言った?狩魔・・・弁護士??め、冥が弁護士?そして・・・私を呼んでいた――まさか。 「じゃぁ、行ってやれよ!」 「お、おい!!成歩堂・・・」 言い終わらないうちに、彼は小走りで駆けていった。 全く・・・どうなっているんだ、ここは。この答えは・・・冥。冥に聞けば、分かるのだろうか。 とりあえず、行ってみるとするか。留置所に、な。 「御剣 怜侍ッッ!!」 ここでムチのフルコース・・・いつもならそうだ。しかし、今回―冥は、何もしてこなかった。それ以前に、鞭を持っていないではないか。 「今回貴方を呼び出したのは―」 「ちょっと待っていただきたい。冥。話を聞く前に、少しだけ、私の質問に答えてくれないだろうか。話はそれからだ。」 「・・・?う、うん・・・分かったわ。」 それから私は、冥に話した。今までのおかしいことを、簡潔に、正確に。すると、冥は― 「じゃ、じゃあ怜侍? 貴方は、この世界の住人ではないと言いたいの?まぁ・・・いつもの怜侍は、私のことを呼び捨てで呼ばないし、そんな気がしなくもないけど・・・」 彼女は、不思議そうな素振りで私に問いかける。 「あ、ああ・・・そもそも、私は何なのだ、冥。キミは・・・弁護士のようだが。」 「えっ!?何を言っているの、怜侍。貴方も弁護士じゃない!!」 「だから私はこの世界の―」 ・・・ちょっと待った。貴方も&ル護士・・・?ひょっとしたら、この世界は― 「ど、どうしたの怜侍?」 「冥。私は・・・私とキミは、私の世界では―検事、なのだよ。」 「・・・!ま、まさか・・・?」 「私は、正反対の世界から来てしまったようだな。まぁ、何もかもが正反対というわけではないが。」 「じゃ、じゃあ・・・貴方の住んでる世界では、成歩堂は、弁護士、なの・・・?」 「ああ。その通りだ。そう考えれば、説明がつく。しかし―なぜ、私がこの世界に辿り着いてしまったのだろうか。」 「不思議、よね。そして、帰る方法もわからない・・・と。」 「ところで冥、一つ、気になることがあるのだが・・・」 「?」 「この世界の―弁護士の、御剣怜侍はどうしたのだ?」 「ちょ、ちょっと待って。電話、してみるわ。」 「出ないわ。連絡が取れたら、帰る方法が分かるかもしれなかったけれど・・・」 「冥。諦めは愚者の結論だ。」 彼女はちょっと私を睨んで言った。 「じゃあ、貴方には何か考えがあるって言うの!?」 「・・・この世界の私と、あの世界の私が入れ替わったのなら・・・考えていることがある。」 「えっ・・・それは?」 私は、その作戦を冥に教えた。 「冥・・・お前は、私に用事があって、ここに呼び出したのだろう?この・・・留置所に!!」 「う、うん・・・それが、どうかした?」 「留置所に弁護士が呼び出される理由は、一つ。弁護を依頼するとき、だ。弁護の依頼があるのだろう?冥。」 「うん・・・でも、それがどういうことになるの?」 「まだ分からないのかね?私≠ェ仕事をほったらかしにすると思うか?」 「・・・!」 彼女は、しばらく考え込んだ後、ハッとした表情で私の方を見た。どうやら・・・気づいた、のか? 「なるほど、ね・・・。彼は、弁護の仕事を放っておかないために、戻ってくる・・・ということかしら?御剣怜侍。」 彼女の答えに、私は満足そうに頷く。 「そういうことだ、メイ。それに、私も検事の仕事を明日に控えているからな。この世界の私も、すぐに検事は、出来ないだろうな。」 冥も、なるほど!という表情で私の方を見た。が、すぐにいつもの真剣な表情に戻り、言い放った。 「・・・そう簡単に戻ってくるのかしら?」 「え?」 「・・・なんでもないわ。戻ってくるといいわね。」 「・・・ああ。」 「明日を楽しみにしているわ。・・・明日の貴方は、どちらの世界の貴方かしら?」 彼女はに軽く笑うと、留置所をあとにした。 私は、彼女の意味深な一言に疑問を持ちながらも、歩き出した。 ・・・ 何か、違和感がある・・・ような気がする… 異世界に来てしまったこととは、別に― 不可解な違和感の正体―なぜ、あの時の私は気づかなかったのだろうな。 冷静に装っていたつもりだったが・・・非現実的な異世界の存在を認めたくなく・・・冷静さが欠けていたのだろうか。 なぜ―あの一言の意味を考えなかったのだろうか。 このように、思っていなかった。このときの私は、まだ―― 明日には元の世界に戻れる、と思った私は、少し浮かれていたのだろうな。留置所を出たところで、足を止めた。ここで、一つ、私が忘れていたことの正体が発覚する、な。 「何処へ行けばいいのだ・・・?」 私は仕方なく、成歩堂の自宅に泊めてもらうことにした。 そして彼にも、ここまでのいきさつを全て話した―それに対する彼の反応は、冥と違い、多少驚いたものの、冷静に、そして意味ありげに。私の話を聞くのだった。うなずきながら、多少考え込みながら。私の話を聞き終えると彼は、 「ふぅん…大変だな。」 と、軽く笑いながら云う。それを見て自然と私も笑みがこぼれる。 「相変わらずだな…成歩堂 龍一」 彼に聞こえないように小声でつぶやく。彼は話し続ける。 「でもさ、そのお前の推理?なら、明日には戻っているんだろ?まぁ、なら、安心なんじゃないか?」 彼はそう云う。 「そうかもしれない。そうだと信じたい。しかし―」 私は、冥の意味深な一言のことを成歩堂に話した。 成歩堂は少し考えると、満足気な顔をして、 「やっぱり、な。」 と、彼もまた意味深に微笑んで、云う。 ガマンできなくなり、私は彼に訊く。 「どういう意味だ?今のコトバ。」 「ううん、なんでもない。狩魔弁護士のそのコトバ、深く考えなくていいよ♪」 その軽い言い方に、今まで以上に疑問を持った。 そんな疑問を抱えながらも、とりあえずうなずいておくことにした。 「まぁ、とりあえず今日は泊まっていきなよ。どうせ、今日一日だけなんだろ?」 落ち着いている―しかし、真剣な瞳で彼は、私に問う。 「あ、ああ。多分、な…。」 「・・・」 「・・・」 少しの沈黙が流れた。 「成歩堂。」 「…」 「もし・・・もし、私が明日になっても戻れなかったら―キミは、どうするのだ?」 「・・・」 彼は少し考え込んで、やがて、微笑んだ。 「そのときはそのとき、だ。」 「・・・?」 やっぱり、疑問が残るこの言い方。少し呆然としていた私に彼は云う。 「さっ、寝る準備するよ☆」 …やはり、こっちの世界より少し軽いオトコになっているようだ。 「じゃ、おやすみ」 彼が天井の照明を消そうとした。 「成歩堂…」 彼は、私のその声に反応して、手を止めた。 「何?御剣。」 …やっぱりこの目の前のオトコは、成歩堂 龍一、だ。 …なにやらあの世界の成歩堂より、少し強気で、少し軽くて、少し私に対して生意気なようだが。異世界とはいえ、―この言葉、この表情、この髪、この瞳―どう考えても成歩堂 龍一≠ナはないとは、やっぱり思えない。 そして―私の人生を、いろんなイミで狂わせてくれたオトコ。そして―私の大切な友人で―好敵手、成歩堂 龍一≠ネのだ。 こんな彼を見ていたら、私は必要のないことを彼に問ってしまった。もっと聞かなければいけないこと―この世界とあの世界の違う点を整理したり、より詳しい状況を把握したり。たくさんあったのに― 「・・・お前は―私が、小学校の頃のクラスメートだったことを覚えているか?」 「当たり前だろ。矢張も、な。」 軽く微笑んで、彼は云う。 そういえば―矢張、か。「事件のカゲにヤッパリ矢張」、の。アイツも何をしているのだろうか。こっちの世界では―絵本作家、天流斎マシスとして成功しているのだが。そんな疑問も胸をよぎる。 しかし、今はもっと問いたいことがあった。 矢張のことを頭から一掃し、彼に云う。 「では―その頃の、学級裁判―というものを、覚えているだろうか?ホラ、キミが給食費を―」 心臓が小刻みに震える。きっと―私なりに期待していたコタエ≠ェあったのだろう。 少し考えて、彼は云った。 「・・・?なんのことだ?」 しばらく、言葉が出なかった。 「そう、か。なんでもない。」 それから、2〜3分。成歩堂が少し気を使ったように口を開いた。 「・・・電気、消してもいいか?」 「結構だ。」 このときの私の声は―かすかに震えていた。この声に、彼は―成歩堂はどう思ったのであろうか。 「おやすみ。」 「ああ。」 彼が、その“学級裁判”を覚えていなかったことに、私はショックを受けているのかもしれない。でも、それは当然というべきなのかもしれない。 分かっているはず。分かっているはずだ。このオトコは、私の知っている、弁護士・成歩堂 龍一では、ない。この彼は、あの彼ではない。この世界は、あの世界ではない。 そんなこと・・・分かっているッ!しかし…ッ!私は―それが何故か―ショックだったのだ!!なぜ、だろうか? 私の中の成歩堂 龍一≠ヘ―いつの間にか大きな存在になっていたのだ。自分でも気付かぬうちに。私のプライドゆえ、認めたくなかったが、そういうことなのだろう。 今までの、成歩堂との思い出―学級裁判、DL6号事件、ひょうたん湖の事件、私を信じて弁護を託してくれた、あの事件―全てが、成歩堂 龍一≠フ存在の大切さを示している。アメリカにいるときは、気付かなかった、この気持ち―私の中で、小学校時代の同級生≠ニいう肩書きから、大きく変わっていることに、自分でも気付いた。 こんなことを考えているうちに、私は眠りについてしまったようだ。色々なことがあって―さすがの私も疲れたのだろう。 そして…夢を見た。 あの時の夢を。懐かしいあの時の夢を― |
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