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作者:
楠木柚子
URL: http://kijyou.rakurakuhp.net
2010年11月10日(水) 14時46分29秒公開
ID:aTlFSZLrxAQ
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最初に彼を見たとき、彼も同じなのだろう、と思った。弁護士とはいえ、初めてあったのだから、きっとこのヒトも警察のヒトと同じ。あたしがお姉ちゃんを殺したんだと疑っている。 「ぼくが必ずキミを助ける。」 そんな綺麗事なんか並べ立てて。思わず、笑いが込み上げてきた。このヒトはあたしを信じていないし、あたしを無罪に出来ない。そんなことくらい、あたしにも分かる。 お姉ちゃんの弟子だって言ってたけど、まだ新人。お姉ちゃんとは、違う。 「お願いしますね、弁護士さん。」 それでも、笑顔を浮かべた。本当は彼のことなんて信じていない。彼もあたしのことなんか信じていない‥‥そう、決めつけてしまったから。 ガラス越しに重ねた掌は冷たかった。ガラス越しだから、当たり前なのに、それすらも彼の心が本当ではないことの表れのような気がした。 「真宵ちゃん。」 呼び掛けられた声に振り返る。姉と同じようにスーツを着こなした成歩堂だ。新人のはずなのに、その顔だけは法廷にむかう姉と同じ顔をしている。 真宵は小さく頷いた。それは、昨日下した決断。どうせ、国選弁護士を頼んでも、誰も信じてくれやしないのだ。あるいは、それならば、姉と繋がりのあった成歩堂の方が、ナニかが動き始めるのではないか、と。 この考えにたどり着いた時に、真宵は笑ってしまった。とうに無罪など諦めていたはずなのに、そんな可能性を考えているなんて‥‥。 (諦めが悪いのは、お姉ちゃん譲りだよ。) 自分の中に流れている姉の血を再認識すると、真宵は目の前にいる成歩堂の顔を見つめた。 ――――そう。これは、あたしが下した決断。だから、どんな結果が待っていようと、後悔はしない。 「‥‥今日はよろしく頼むよ。」 成歩堂は緊張の面持ちで手を伸ばしてくる。握手のつもりなのだろう。真宵も特にナニも考えず、その手を握った。‥‥‥‥安易にも、握ってしまった。 (――――うわ。) 刹那、感情が流れ込んできた。姉が死んでから、何の感情が生まれることもなかった乾いた心に、いきなり大量の感情が注ぎ込まれて、溢れだす。 手を握られることには、慣れているはずだった。姉の手、母の手、従姉妹である春美の手。 (――――でも。) こんなに優しさに溢れた、温かい手は初めてだった。 ひび割れた心が、いきなり注がれた感情に驚いて悲鳴をあげる。その痛みに、涙が溢れた。 「ど、どうしたの?真宵ちゃん?」 姉が死んでから、誰も信頼できなかった。そのことが、寂しくて、心細くてどうしようもなかった。 だから、そんな顔しないで、弁護士さん。この涙は、信頼できるヒトを見つけられたことに対する、安心の涙。 「‥‥大丈夫です。」 ――――信じよう。 掌一杯の信頼を注いでくれる彼を。きっと彼とならば、どこまででもいける。彼ならば、信じられる。 「あたし、弁護士さんを信じます。だから、弁護士さんも‥‥。」 その言葉は、自然に口をついて出た。成歩堂も当然のように、頷く。 きっと、彼が‥‥姉の残してくれた愛。ヒトを信じてくれる、本当の意味での弁護士。 そして、成歩堂は今、全力で真宵を守ろうとしてくれている。‥‥真宵の全てを信じて。 「行こうか。」 成歩堂が法廷にむかうために、背をむけた。その背中は、そっくりそのまま姉の背中と重なって、真宵は目を擦る。 ――――その大きな背中に、真宵には想像できないほどの信頼を背負って‥‥成歩堂は歩きだす。 「ありがとう。」 小さく呟いた声が彼に届いたかどうかは分からない。‥‥それでも、良かった。 ――――あたしが、彼を信じていることが、真実。それだけが、真実だから。 |
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