《尋問》
作者: カオル   URL: http://www.ab.auone-net.jp/~kaka/   2010年02月28日(日) 20時47分32秒公開   ID:P4s2KG9zUIE
この日が来ると、おカタイ職業の象徴であるこの建物も
幾分かまびすしくなる。日本にこのような風習があるのは知っていたけれど
なんだかちょっとお菓子のメーカーに踊らされているのではないかしら―――



何かのついでがあって、あの男の執務室を訪れた私は
彼の部屋のソファーの上に無造作に置かれているソレを見て
こんな言葉を口にした



「相変わらず人気者なのね、あなたは・・・」


カラフルな包み紙、さまざまな工夫を凝らしたリボン
一目でわかるそれらのモノが大きな紙袋に一つにされて
放置されている


彼は自分のデスクの上にある書類から眼を離さず
私の皮肉めいた問いかけに対して相手にはしない、と云った様子でこう答えた

「冥・・・用が済んだら、さっさと引き取りたまえ」

そんな物言いにカチンときた私は
ここぞとばかりに、かねてより気になっていた疑問を彼にぶつけてやった






「あなた、もしかして女性に興味がないのではないかしら・・・?」






彼の仕事の手が止まった・・・私を睨みつけるように見る
でも、彼の眼力においそれと負ける私ではない


「そんなに根拠のないことだとは思えないけど・・・」
私は人差し指を眼の前にチラつかせ反撃した

「あなた、女性に人気があるわりには浮いた話しひとつないし、それに・・・ウワサもあるし」
「ウワサ?!」


「あなたが、あの弁護士とアヤシイって・・・」



彼は完全に仕事を一時中断し、胸の前で腕を組んでこう云った
「それは・・・どういう意味だろうか?」
・・・私も切り出した以上、後には引けない・・・

「あなた、彼とは幼馴染みなんですってね。なんでも“学級裁判”で
彼を助けたそうじゃない・・・それで彼、あなたのこと
だいぶ気にしていたそうね。あなたが検事になった事を知って
連絡を取ろうとしたり、手紙を出したり、果てはあなたに会う為に
弁護士にまでなった・・・あなたにもわかると思うけど
司法試験はそんな簡単に突破出来るものではないわ!」

私はここで話しを区切って彼を見た
彼は眼を閉じて黙って聞いている

「ねえ、彼の行動は熱すぎると思わない?」
「それが、私個人とどういう関係があるのかね」

「あら、ここまで想われていて何も感じない程あなたは鈍感なのかしら?」
「・・・・・・・・・・」

「フツウあり得ないでしょう?小学生の時のことをここまで大事に
想い続けるなんて」
「・・・・・・・・・・」

「しかも、あなたは私の父にまつわる事件であの男に
助けられている・・・その時に特別な感情を抱いたのではないかしら?」
「・・・・・・・・・・」


彼は相変わらず眼を閉じて黙っている


さあ、どう出る御剣怜侍?私の尋問はカンペキなはずよ!
私の主張を“逆転”させる事が今のあなたに出来るかしら?


「くだらんっ!!馬鹿げている!!」
突然、彼は拳で机を叩いた

「怜侍、感情的になっても説得力はないわ・・・何よりも証拠が
ものを云うことを忘れたの?」
ほとんど勝利を確信した私は、彼のデスクに両手をついて
見下ろすようにして云う

「まあ、私が育った国ではこういったことは
決して珍しくないわ・・・身近な弟弟子がそうだったのは
ちょっとショックだけど―――」

そこまで云い終わった後、尋問されていた男はいきなり立ち上がり
無言で自分の執務室の内鍵を掛けた
そして、先ほどから云いたいように云ってくる女の前に向き直る


「君の云い分はよく分った・・・では
これから、私自身が身を持って反証してみせよう」



その時、私は彼が何を考えているのかを読めなかった
そして急に彼に引き寄せられる―――







彼の唇が私のソレを塞ぐ








(・・・怜侍・・・!!)








抵抗しようとする私を、彼の両腕が強く抱きしめる











逃げることも拒絶することも出来ない私は
あまりにも長く続くそれに、危うく意識を失いそうになる・・・












―――― そして
やっと解放された私は、僅かに残っていた理性で彼に云い返した










「あたな・・・卑怯よ」
そんな様子の私に彼は冷静に反証してきた


「確かに、私は女性が苦手なのかもしれない・・・しかし、それは
私の気質に寄るものだ。ウム、何と云ったかな―――たしか
『ツンデレ』だったか?今時はそんな風に表現するモノらしいが・・・
ともかく、他人が私をどう考えようと私には関係ない!」

そして自分のデスクに戻り、先ほど手放した仕事に取り掛かる男が
含みを持った視線で私を見ながらこう言い放った







「君も・・・自分の仕事に戻ってはどうかな?」









何よッ、あなたに云われるまでもないわ! 覚えてらっしゃい、御剣怜侍!!

いつか・・・必ずッ!!!!!!!!!!!!!









「ああ、それと・・・冥」
今まさに、部屋を出て行こうとする私に彼が呼びかける



「私はまだ、君から一度も貰ったことがないような気がするのだが・・・」




ナニを今さらッ!!




私は悔しさが入り混じった視線でこれでもか、というくらいに
彼を睨みつけ、部屋のドアを叩きつけるように出て行った―――


END

■作者からのメッセージ
私は最近、御剣と冥を書くことの楽しさを再認識いたしました。
(彼らは本当に書いていて楽しい♪)
今回は御剣さんの方が上手だったという事で・・・。

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