この夢、必ず |
作者:
幸
2010年01月31日(日) 12時09分16秒公開
ID:HKDR9rnLXa2
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「さて!帰りましょうか、オドロキさん!」 「ああ、そうだね。疲れたなあ。」 「それが“みぬく”ってことです!全神経を集中させるんですから。」 「でもみぬきちゃんは元気じゃないか。」 「それは、ほら。みぬきはまだ“ヤング”ですから。」 「・・・・・・・・オレだってまだ若いぞ。」 今日は北木滝太くんの裁判だった。そしてオレの、初めてのひとりでの裁判でもあったんだ。 なんとか無罪を勝ちとることができて、北木さん親子にも仲直りの兆しが見える。 まあ、よしとするか。 「事務所でパパが待ってますよ!きっと祝福してくれます!」 「そうかなあ・・・・」 そう言って控え室のドアを開けたとき、目の前にスーツの男性がいた。 「きゃっ!びっくりしたあ!」 みぬきちゃんが隣で叫び声をあげる。 なんか・・・・スーツというよりパーティーにでも出席できそうだ。 赤いスーツに胸元のヒラヒラ・・・・ 「驚かせてすまなかった。きみがオドロキくん・・・・か?」 「え!は、はい。オレですけど・・・・」 なんでオレの名前を知ってるんだ? 「オドロキさん、知り合いですか?」 「いや・・・・覚えがないけど。」 そのとき、男性がフッと笑った。 「今日の裁判、見学させていただいた。まだ若く未熟なところもあるが・・・・すばらしかった。」 「・・・・あの、どうしてオレの裁判を?」 意味深な笑みを浮かべている男性に問いかけた。 「きみが、成歩堂が目をつけた新米弁護士、だろう?」 「な・・・・成歩堂さん?」 「パパを知ってるんですか!?」 男性がみぬきちゃんのほうを向く。 「そうか、きみがみぬきくんか・・・・」 「えっ!どうしてみぬきの名前・・・・」 「・・・・すべて成歩堂から聞いているよ。王泥喜法介くん、成歩堂みぬきくん・・・・」 驚いているオレたちに、また笑いかける。 「シツレイ。自己紹介が遅れたようだ。」 ―――御剣怜侍。男性はそう名乗った。 「あの、パパとは、どういう・・・・?」 みぬきちゃんがいささか控えめに質問した。 「今は・・・・そうだな。小学校からの親友、か。」 「“今は”っていうのは・・・・」 また男性―――御剣さんがオレに向き直る。 「きみも知っているだろう?7年前の事件を。」 7年前って・・・・成歩堂さんが弁護士をやめさせられた時期だよな・・・・ 「それまで、成歩堂と私は良きライバルであり親友だった。」 「“ライバル”って、もしかしてあなたは・・・・」 そこで黙ったオレに、みぬきちゃんが問い詰める。 「え?なんですか?オドロキさん!」 成歩堂さんが弁護士だったころのライバル、ってことは・・・・ 「検事さん、なんですか・・・・?」 みぬきちゃんが驚いて御剣さんを見上げる。 御剣さんは満足そうに微笑んだ。 「カンがいいな。さすが成歩堂が目をつけただけのことはある。」 成歩堂さんは弁護士だったのだから、検事の知り合いがいることくらい当然だけど・・・・それでもやっぱり、驚いた。 あの成歩堂さんがここまで見の内を明かす検事がいたなんて。 “弁護士と検事は敵”という考えしか頭になかったオレには、当然のことだろう。 「あ、あの!」 みぬきちゃんが声を張り上げる。 「パパは・・・・どんな弁護士でしたか?」 御剣さんを見上げて尋ねる。 「パパのこと、知りたいんです。今のパパだけじゃなくて、昔の・・・・パパのこと。」 そう言われ、御剣さんが優しく微笑んだ。 「成歩堂は、いつでも依頼人の無実を信じることをやめない、すばらしい弁護士だった。あいつは決して後ろを向かなかった。」 御剣さんはなにを思っているのだろう。オレはその表情を見つめた。 「いつもひとつの真実を探し、必ずそこへたどり着いた。優秀なだけではない。あいつが信念を絶対に曲げなかったからだ。」 大切なものを扱うように、御剣さんはひとことひとこと力強く話した。 みぬきちゃんはなにかを我慢するように唇をかみしめていた。 「時にはその真っ直ぐすぎる心に周囲は惑わされたが・・・・そのみながあいつに救われた。あいつの周りは、常に笑顔で溢れていた。」 「・・・・・・・・パパ・・・・」 下を向いたみぬきちゃんの前に御剣さんがしゃがむ。 「きみのせいではない。成歩堂だってきみに救われているのだ。」 オレには御剣さんの言葉の意味はわからなかった。 今は・・・・まだ。聞くべきじゃないと思ったんだ。 だからオレは、みぬきちゃんと御剣さんを黙って見つめた。 御剣さんが再び立ち上がり、オレを見た。 「きみも、成歩堂のようにたくさんのヒトを救う弁護士になってくれ。」 こんな言葉を、宝月刑事にも言われたのを思い出す。 そして、わかった。 御剣さん自身も、成歩堂さんに救われたひとりなんだ、と・・・・ 「成歩堂は、あんな事件で終わるオトコではない。随分時間は経ってしまったがな。」 「どういうことですか?」 「・・・・今にわかる。そうしたら、また・・・・笑顔が増えるのだ。」 御剣さんの言葉は気になった。 でも、なにも聞けなかった。聞けるわけがないじゃないか。 あんな、嬉しそうな顔をされたら――― 「法廷で戦えるのを楽しみにしている。また、会おう。成歩堂によろしく伝えてくれ。」 そう言って歩き出した御剣さんに叫んだ。 「はい!オレ・・・・頑張ります!!」 なんか、そう言うべきな気がしたんだ。 御剣さんは顔だけ振り向き、満足そうに頷いた。 オレとみぬきちゃんは、御剣さんのうしろ姿が見えなくなるまで黙って見つめていた。 その背中は、とても大きく見えたんだ――― 「・・・・不思議な出会いでしたね。」 みぬきちゃんが言った。 「そうだね。でも・・・・出会えてよかったって、思うよ。なんでだかわかんないけど。」 「みぬきも同じです!」 笑顔で言うみぬきちゃんに、オレも笑顔を返した。 「じゃあ、今度こそ帰りましょうか!」 事務所に帰るまでの道は、夕日で赤く染まっていた。 長く伸びるふたつの影を見ながら思った。 オレは、たった数ヶ月で成歩堂さんもみぬきちゃんのすべても知った気でいたけど、全然そうじゃなかったんだ、って。 まだまだわからないことがたくさんある。 それを少しでも知ることができたとき、オレは、御剣さんの言うような弁護士に近づくことができるのだろうか。 成歩堂さん―――ヒトを笑顔にすることができる成歩堂さんのような弁護士に、オレも・・・・ 「パパ、ただいま!」 みぬきちゃんが元気よく部屋に入っていく。 「おかえり、みぬき。オドロキくん。遅かったね。」 みぬきちゃんがオレを見る。オレは頷いた。 「あのね、パパ。裁判所で、御剣さんってヒトに会ったの。パパによろしくって。」 成歩堂さんは驚いた様子でみぬきちゃんを見て、そしてオレに視線を移す。 「そうか、御剣、帰ってきてたのか・・・・」 そう言う成歩堂さんの表情は、御剣さんと似ていた。 やっぱり親友なんだな、と改めて思う。 じゃあ、と成歩堂さんが切り出す。 「もう御剣から聞いてるのかな?」 その問いかけに、俺たちはふたりで顔を合わせた。 「なんだ、まだなのか。」 会ったならついでに言ってくれればいいのに・・・・とかなんとかぶつぶつ言っている。 「なあに?パパ。教えて教えて!」 みぬきちゃんに催促されて、照れくさそうに向き直った。 「いや・・・・御剣に勧められてね、もう一度・・・・司法試験を受けることにしたんだ。」 一瞬、ものすごい沈黙が流れた。 「・・・・・・・・なにか言ってくれないと反応に困るなあ。」 苦笑いしながら成歩堂さんが言う。 「じゃあ、パパ、また弁護士になるの!?」 みぬきちゃんが身を乗り出して聞いた。 「いや、まだ受かると決まったわけじゃあ・・・・」 「すごいよパパ!大好き!」 そう言ってみぬきちゃんは成歩堂さんに飛びついた。 「はっはっは。みぬきにそこまで言われたら頑張らなくちゃいけないなあ。」 オレは、ただ成歩堂さんを見ていることしかできなかった。 大きくて、遠すぎる。 オレにはまだまだ・・・・全然追いつけないと思った。 「オドロキくん、きみはどう思う?」 いきなり成歩堂さんがオレに問いかけた。 「・・・・オレは・・・・・・・・」 オレが黙っている間、成歩堂さんはオレを真っ直ぐに見つめていた。 「オレは、弁護士の成歩堂さんがもう一度見たいです。」 オレも成歩堂さんの目を見つめ返して言う。 「そして・・・・必ず、追いついてみせます。何年、何十年・・・・何百年かかっても、必ず!!」 「おいおい、ぼくに一体何歳まで生きさせるつもりなんだい?」 成歩堂さんが笑う。 その顔が、御剣さんの嬉しそうな顔と重なった。 ―――なりたい。こんな弁護士に。こんなヒトに! オレは見つけたんだ、大きな夢を! 絶対に、なってみせる。 オレが持っている、この腕輪と、不思議な“みぬく”力とともに。 必ず、ふたりと同じ法廷に立つんだ! |
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