逆転の継承〜王泥喜 法介〜
作者: 優希   2008年09月12日(金) 22時57分53秒公開   ID:P/sHlL7DJME
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「異議あり!‥‥異議あり!」
成歩堂なんでも事務所で俺は、いつも通りに発声練習をしている。
俺の名前は、王泥喜 法介。こう見えても弁護士だ。‥‥いや、「こう見えても」って自分で思っちゃいけないよな‥‥。おとといだって、法廷に立ってきたんだからな。
そして俺が、いつものように発声練習をしていると必ず、
「オドロキさん!またバカうるさいですよ〜!」
と俺の助手・成歩堂 みぬきちゃんに、文句を言われる。‥‥いつも聞き流しているけど。
「全く‥‥自分の家でやってきなよ‥‥。」
半ば呆れ顔で、耳を抑えながら事務所に入ってきた男の人は、成歩堂 龍一さん。一応、俺の「上司」ということになっている、みぬきちゃんの「父親」だ。‥‥訳ありだけどな。
彼は元・弁護士で、俺たちの世代の弁護士で、彼を知らないものはいない。
かつては「若手実力派弁護士」と呼ばれていた。
まあ今でも、「伝説の弁護士」と呼ばれているが‥‥。
「じゃあ、オドロキくん。みぬき。ぼくは
今日行くところがあるから、留守番よろしくね。」
成歩堂さんはそう言うと、さっさと出ていってしまった。
「いってらっしゃ〜い。」
とみぬきちゃんは彼に手を振る。
「留守番って‥‥どこにも行っちゃいけないのかよ!」
小声で俺はそう呟く。
「まあ、いいんじゃないですか!」
俺の今の声が聞こえたのか、みぬきちゃんが俺の言葉をそう返す。
「はあ。‥‥やれやれ‥‥。」
俺はそう言い、ソファに座った。すると、
「ドタタタタタッ‥‥」
今、俺がいるところに、大きな足音が近づいてきた。
みぬきちゃんか、成歩堂さんだろう‥‥
そう思って振り返ってみたら、
「なるほどくん!どこにいらっしゃるのですか!」
‥‥入り口立っていたのは、みぬきちゃんと同じ歳に見える、見たこともない女の子だった。
「うわあああああっ‥‥君!どこから入って来たの?」
俺は驚きながら、その女の子に聞いてみた。すると、入り口からまた別の人がやってきた。
「はみちゃ〜ん。勝手に入っちゃだめだよ!」
そう言いながら入ってきたのは、結構綺麗で、俺より少し年上に見える女性だった‥‥。


「はい、どうぞ!」
とりあえず二人ともソファに座ってもらい、
みぬきちゃんにお茶を出してもらった。
「本当に申し訳ありませんでした。大騒ぎしてしまって‥‥。」
女の子の方がそう謝った。
俺は、「いいよ。こちらこそごめんね。」と言った。
改めて二人を見てみると‥‥妙な格好に勾玉とかいうものをつけている。
みぬきちゃんに劣らず、服装の怪しい。
髪型も変わっているし‥‥いや、俺の場合、人のこと言えないのかもしれないが‥‥。
「あの‥‥あたしたち‥‥なるほどくん‥‥成歩堂 龍一さんに会いにきたんですけど。」
女性の方がそう話し出した。
しかし、
「‥‥あなたが、あのなるほどくんの娘さんかですか!‥‥全然似ていませんけど。」
という女の子の、言葉に遮られた。
何気に凄いこと言っているよ‥‥この女の子。
誤解されたままだとなんなので、俺が返事をする。
「‥‥一応、「訳あり」です。成歩堂さんはいませんし‥‥。」

俺のその返事を聞いて、二人ともがっかりしてしまった。
「あの‥‥成歩堂さんとはどういうご関係で‥‥?」
俺は、ずっと気になっていたことを聞いてみた。
「あたしたちですか?昔、なるほどくんの助手だったんです。」
女性の方が、笑顔で答えた。
成歩堂さん‥‥こんな綺麗な人たちを助手にしていたのか‥‥
それに成歩堂さん、「なるほどくん」って呼ばれてたんだ‥‥。
俺は成歩堂さんの過去を、全然知らなかったんだ‥‥。
「自己紹介がまだでしたね!みぬき、成歩堂みぬきです!‥‥ほら、オドロキさんも自己紹介!」
みぬきちゃんに言われて、はっと我に返る。
「ああ、俺!大丈夫です!」
俺はついそう言ってしまった。案の定、
「大丈夫くんって言うんですか!」
「いい名前ですね!」
‥‥成歩堂さんと同じ勘違いをされてしまった‥‥。急いで訂正しなくちゃな。
「‥‥違います。俺は王泥喜 法介って言います。その‥‥弁護士をしています。」
ギリギリ訂正できた‥‥。
「王泥喜さん?う〜ん‥‥なるほどくんみたく、オドロキくんって呼んでもいいですか?」
女性の方がそう言い出した。
俺は、
「ああ、いいですよ!みぬきちゃんや成歩堂さんにもそう呼ばれていますから!」
と快くそう言った。
オドロキくんのって呼ばれるほうがいいからな‥‥
「じゃあ、次はあたしだね!あたし、綾里 真宵って言います。よろしくね、オドロキくん、みぬきちゃん!」
明るくそう言ってくれた、真宵さん。
俺たちは笑みを彼女に返す。
「あの、わたくし‥‥綾里 春美です!
真宵さまの従姉妹で‥‥霊媒師をしています。ふつつか者ですが、よろしくお願いします!」
春美ちゃんは、とても丁寧な言葉遣いが特徴的だ。それに礼儀正しい。
にしても、なんだ?霊媒師って‥?
「あの‥‥」
俺がそう思い、言おうとしたが、
「春美ちゃん!霊媒師って?」
とみぬきちゃんに先に言われてしまった。
まあ‥‥構わないけど。
「霊媒師というのは、死者を呼び出すことができる術、霊媒の使い手のことなのです。」
春美ちゃんの話は信じられなかった。
「死者を呼び出す」‥‥そんなことが、本当に‥‥?と思ってしまう。
「じゃあ、その服は何?」
みぬきちゃんも当然ながら、気づいていたようだ。俺はそう思いながら、真宵さんと春美ちゃんを見た。
「はい!これですか。これは、「装束」と言う、うちにいる霊媒師全員が着ている服なんです。」
今度は真宵さんが答えた。
そういうものなのか‥‥と少し感心してしまった。
「みぬき、霊媒ってテレビで見たことありますよ〜!」
みぬきちゃんが明るくそう言った。
俺は見たことないけど‥‥
いや、しかし、俺やみぬきちゃんにも人の癖を「みぬく」なんて力があるからな‥‥
「霊媒」っていうのも、あったりするのか‥‥?
その証拠に、動揺していれば反応するはずの俺の「腕輪」は、真宵さんにも春美ちゃんにも全く反応しない。
本当‥‥ってことなのか‥‥?
「みぬきはマジックやってますけど。」
みぬきちゃんは、そう呟いた。
‥‥マジックとは違うと思うよ。少なくとも俺は。
「オドロキくんは弁護士さんなのですよね?ということは、
なるほどくんの「お弟子さん」ということですか?」
春美ちゃんが、俺に尋ねてくる。
「あ、ああ。そんなところだね。」
本当は少し違うのだが‥‥今は上司(みたいなもの)だし、そういうことになるのか‥‥?
「うそ〜!あのなるほどくんに、弟子がいるなんて‥‥まさに、「オドロキ」ってやつだよね、はみちゃん!」
「ええ、ええそうですとも!」
真宵さんと春美ちゃんは、そう言って笑った。
弁護士時代の成歩堂さん、そんなにすごかったのか‥‥?
俺たちの世代の弁護士には、「伝説の弁護士」って呼ばれていて、有名なんだけどな‥‥。
そう思ったから、
「成歩堂さん‥‥そんなに「出来」が悪かったんですか?」
つい、尋ねてしまった。
「ううん。そんなことはありませんよ。何回も冤罪の人たちを、無罪にしてくれました。
‥‥現にあたしも、なるほどくんに助けてもらいましたから。」
真宵さんは、嬉しそうな寂しそうな顔をしていた。
「じゃあ、どうして?」
俺が聞くと、
「だってなるほどくん。毎回毎回、絶体絶命になっちゃって、いつも大変だったんです。
証人や証拠、そして動機も完璧だってことばかりで。」
真宵さんは今度は、笑って言った。
いつも初動捜査を担当しているアカネさんが、「ピンチになるのは、うちの事務所の伝統」って言っていたのは、そういうことか‥‥。
「真宵さん、春美ちゃん。‥‥成歩堂さんって、どういう人ですか?」
どうして、そんな質問が出てきたのか自分でも分らない‥‥‥。
ただ、今の成歩堂さんの感じと二人の話‥‥なんか、違う感じがするんだよな‥‥。
真宵さんたちも予想外の質問だったのか。二人とも考え込んでいたが、
「そうですね‥‥真っ直ぐした、正直な人でしたよ。‥‥三日前に会ったときは、本当に驚いちゃいました。‥‥一瞬、違うと人かと思っちゃいました。」
真宵さんはそう言った。‥‥とても真剣な顔だ。
成歩堂さん‥‥三日前、裁判のための調査から帰ってきた時いなかったけど、真宵さんに会っていたんだな‥‥。
「‥‥なるほどくんは、本当に凄い方でした。真宵さまのこと、いつも助けてくれていましたから。でも‥‥どうして変わってしまったのでしょう?」
春美ちゃんは、がっくりしながら小さな声でそう言った。
「‥‥‥‥‥‥。」
俺もみぬきちゃんも、何も言えなかった。
ただ成歩堂さんは‥‥変わってしまったわけではないと俺は思う。
もちろん、決定的な証拠があるわけではない。
ただ彼は、本当の「性格」を隠しているような気がしてならない‥‥。
「あの。‥‥あたしたち、そろそろ帰らないと‥‥。」
真宵さんがそう切り出す。俺ははっと我にかえり、
「ああ。‥‥ごめんね。引きとめちゃって。」
と言った。その時、
「はあ。‥‥やれやれ‥。」
そんなことを言いながら、誰かが入ってきた。
「あ〜!」
「なるほどくん!」
俺やみぬきちゃんが何か言う前に、真宵さんと春美ちゃんがそう叫ぶ。
「あ‥‥真宵ちゃん‥‥春美ちゃん!」
成歩堂さんもそれに負けない、大声で返す。
「真宵ちゃんには会ったけど‥‥春美ちゃんに会うのは久しぶりだなあ〜。」
成歩堂さんは笑顔でそう言った。
「え‥‥ええ。お久しぶりです。」
「変わった」と聞いてはいたが、会うのは初めてなのだろう。
春美ちゃんは、かなりぎこちなく返事をした。
「二人とも改めて見ると‥‥綺麗になったね。春美ちゃんはあやめさんに、
真宵ちゃんは‥‥千尋さんに似てるよ〜!」
俺には聞いたことのない、二つの名前が出てきた。俺たちがいることは、忘れてしまっているのか、三人でしゃべっている。
「‥‥うん。ありがとう!なるほどくん。じゃあ‥‥用事があるから。帰らなきゃ。」
「そうですね!」
そう言った二人を、成歩堂さんは笑顔で送り出した。
その笑顔は一昨日見た、本当に嬉しそうな顔だった‥‥。



真宵さんたちが帰ってから、みぬきちゃんは「仕事がある」と言って出かけてしまった。
だから、ここ、成歩堂なんでも事務所にいるのは、俺と成歩堂さんだけだ。
「‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥」
俺も成歩堂さんも何も話さないから、奇妙なほど静かだ。‥‥かなり気まずい‥‥。
「すまなかったね、オドロキくん。真宵ちゃんたちはが来ていた時、かけてしまっていて‥‥。」
沈黙を破ったのは、予想外にも成歩堂さんの方だった。
「い、いえ。‥‥二人と話しましたけど、楽しかったですから。」
俺はそう答えると、ふと、あの真宵さんの、
「‥‥真っ直ぐした、正直な人でしたよ‥‥‥。」
という言葉を思い出した。俺は、彼に尋ねてみた。
「成歩堂さん。弁護士にとって、大切なこととはなんだと思いますか?」
真宵さんの言葉を思い出したら、そんなことを聞いてみたくなってしまったのだ。
「そうだなあ‥‥いろいろあるけど‥‥ぼくが大切なことだと思うのはね‥‥
被告人を最後まで信じ抜くこと。そして‥‥
「真実を見つけることを最優先すること」だね。
‥‥たとえなにがあっても、有罪の被告人を無罪にしちゃいけない、‥‥無実の人に罪を被せてはいけない。
‥‥それは、弁護士として‥‥人としてやってはいけないことだから。」


そんな彼の言葉を聞いて、胸の辺りがあつくなってくるのがよく分かった。

‥‥真実を見つける‥‥か。
それは俺もこの先、大切にしていかなくてはならないことだと感じた。
無罪ではなく、真実を見つけることを最優先すること‥‥
成歩堂さんが、「若手実力派弁護士」って呼ばれていたのは、いつも真実を見てきたからなんだ‥‥
「こんな答えでいいかい?」
答え終わった成歩堂さんは、俺にそう問いかけた。
「はい!俺‥‥真実を見つけられる弁護士を目指します!」
俺のその答えに、成歩堂さんは少し笑って
「――――――――」
と何かを言った。
俺には聞き取れなかったけど、いいことだったらいいな‥‥と思う。

もちろん、俺は知らないことだけど、このとき成歩堂さんはこう言っていたらしい。
「‥‥‥彼が、ぼくの逆転の「継承者」です。彼をこれからも見守っていきますよ。‥‥なにがあっても。‥‥千尋さん。」

成歩堂さんに、そんな風に思われていたことを俺が知るのは、まだ先の話だが、これが俺が成歩堂さんから、逆転を継承した瞬間だ。
これからもいろいろなことがあると思うけど‥‥自分を信じて、がんばっていこう!

‥‥弁護士として、彼に
認められるように‥‥そして、
 
一人前の弁護士になって、真実を見ていこう‥‥成歩堂さんのように‥‥。 
俺はそう、心に誓った。

⇒To Be Continued...

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