逆転NOTE12
作者: 10join   2008年09月05日(金) 16時53分29秒公開   ID:QRqdkrt8vd2
同日 午後3時40分 留置所
 茜ちゃんの電話を受けたぼくらは、迎えに来てくれた無限君と零樹君と紫音ちゃんがいる車に乗り込み、全速力で留置所へと向かった。留置所につくと茜ちゃん、星歌さん、そして一足先に来ていた空悟君がいた。ちょうどその時面会の準備ができたらしく白夜さんが出てきた。
「どうしたんだ?何か聞きたいことがあるのかい?」
「凶器の鉄の棒についてた血が誰のものなのかわかりました」
 そういう茜ちゃんの声はなぜか震えていた。
「一体誰だったんだい?」
 茜ちゃんの声に何かを感じ取ったのか白夜さんが不安を和らげるように優しく言った。
「…青影です」
 茜ちゃんがつぶやくように言った。
「「「なんだって!?」」」
 聞き取れたらしい無限君と零樹君と空悟君が驚きの声を上げた。ぼくには聞き取れなかったぞ。もう一度言ってくれるかな。
「あれは青影丈の血だったんです」

鉄の棒のデータを書き換えた。
鉄の棒 凶器。被害者の他に青影丈の血液が付着

 あ、青影丈ってもしかしてあの青影丈?ウソだろ。青影丈はもう死んでいるはずじゃないのか?
「青影丈って誰?」
「私も知りません」
 そう言えば真宵ちゃんはその時倉院の里に帰ってたし、春美ちゃんとはまだ知り合ってもいなかったな。
「君たちがいない間に起こった事件の引き金になった事件の容疑者だ。茜ちゃんともこの事件で知り合ったんだ」
 確か引き金になった事件では茜ちゃんも証人になってたな。茜ちゃんも青影に怖い目に合わされていたからな。でも確か青影は前に起こした連続殺人の容疑で死刑に…まさか。
「デスノートで死刑をミスらせたんですか?」
 紫音ちゃんが白夜さんに聞いた。その言葉に考え込んでいた白夜さんが顔を上げた。
「まさかそれを茜ちゃんに知られることになるとはね。予想していた最悪のケースだ。できればこの予想が外れることを祈ってたんだけどな」
 白夜さんは青影の死刑をミスらせたことを認めた。だけど予想していた最悪のケース?なんでそんなことを予想できていたっていうんだ?
「赤坂巧がケガ人の面会に来てたって君たちが言ってたからな」
 赤坂巧?青影と赤坂検事に一体どんな関係があるって言うんだ?
「赤坂巧と青影丈は義理の親子だ」
 つまり青影の奥さんは赤坂検事の娘だってことか。それはまた意外なつながりだな。

「白夜さんはなんで青影の死刑を失敗させたんですか?」
 茜ちゃんは傷つけられたという目で白夜さんを見ていた。青影を助けた白夜さんに裏切られたという思いがあったのかもしれない。
「最後に青影が起こしたとされた事件がなんとなく捏造くさいと感じたからだ。ナイフと傷跡が一致してなかったし、証拠品リストも半分ほどしかなかった。それに壺のかけらまでなく、被害者の服の布が切り取られたようになっていた。ぼくはこれらのことから誰かの手が入ったということに思い至ったんだ」
 この人も捜査に参加していたのか。そしてぼくが事件のことを知るよりも早く捏造に気付いていたってわけか。
「青影が犯人じゃなかったとしたらあの場所にいたのは警察関係者だけだ。つまり捏造は警察関係者主導で行われたことになる。それが自分で殺したのか、誤って殺してしまった身内をかばうために罪をかぶせたのかはわからなかったけどね」
 結果的には犯人は茜ちゃんが誤って被害者
を殺してしまったように偽装し、姉の巴さんに捏造に協力するかわりに検察局で自分の操り人形として利用してたんだけどな。
「後者の場合はまだわかる。それがたとえ正当防衛だとしても身内に人を殺したという意識を抱かせなくなかったからだ。だけど前者の場合ある疑問が浮かんでくる。なぜ犯人は殺人事件を起こしたんだ?」
 確かにそれは謎だ。現場を偽装したのは巴さんを利用できるようにするためで、捏造は青影に罪をかぶせるためだということはわかる。だけど犯人に罪門巡査の弟を殺す理由がよくわからない。
「ぼくはその理由を考えた。そしてある考えに行き着いたんだ。罪門検事を殺したのは青影に罪を着せて、青影が間違いなく一連の事件の真犯人だと言う意識を裁判官や検事に植えつけるためなんじゃないかってね。本当は状況証拠だけで決定的証拠はなかった。だから青影がどう考えても犯人だという状況を作り出し、それを一連の連続殺人事件の一つとして実証することで、当然他の事件の犯人も青影だという空気を法廷に作り出したんだ」
 つまり青影が犯人だと印象づけようとした小細工が逆に白夜さんに疑惑を抱かせたってわけか。犯人にとっては皮肉な結果になったな。
「いや、あの犯人は死刑の結果なんか気にしてなかった。ただ表向きに自分の手柄が認められればよかったんだ。ぼくたち警察のデスノート保有者がどう判断するかなんてあいつにとっては気にするほどのものじゃなかったんだ」
 確かにそうだな。そのことについては否定する気はない。裏側で死刑が成功していようが失敗していようが知らない人には関係ないことだろう。
「君がぼくが青影丈を生かしたことをよく思ってないのはわかる。君はずいぶん怖い目にあったんだろうからね。でもぼくは疑わしいことが少しでもあったらその人を罰することができないんだ。確実で完全に言い切れる証拠がないと動けない。人の命を決める以上わずかな疑いがあったら取りやめる。それでどれだけの有罪のやつを逃がすとしても、無罪の人を助け損なうわけにはいけない。それがぼくのルールだからだ」
 白夜さんは心底すまなさそうな顔で言った。その顔が茜ちゃんの気持ちは痛いほどわかるが、自分の私情をはさみこむわけにも、他の人に感情移入しすぎるわけにもいけない辛さを語っているように見えた。

「それは仕方ないことはわかります。少しでも疑いがあるならできるはずはないということもわかります」
 茜ちゃんはそういいながらも声が震えていた。
「でもどうしてあたしには言ってくれなかったんですか?」
「それはあいつが生きてると教えても傷つくだけかと思ったからで」
「せめて事件の真相がわかった後にでも教えてくれたらよかったじゃないですか。それからというものあたしが余計なことをしたからお姉ちゃんが辛い思いをしてたとか、無実かもしれない青影さんを殺人犯にする口実を作ってしまったという悩みを抱えていたんですよ!」
 茜ちゃんは目に涙を浮かべて叫んだ。
「ごめん。どうやらくだらない心配をして余計に苦しませてたようだね。そこまで言えるならあの男に会わせてもいいかもしれない」
 そう言って白夜さんは証言書をまとめた。

白夜の証言書 青影のデスノート処刑が失敗したことが描かれてる。

「過去と向き合うのは辛いかもしれないけどがんばるんだよ。今の君ならそれができる」
「はい!わかりました」
 茜ちゃんは力強く答えた。覚悟を決めぼくらはクリムゾンジャック病院へと向かった。

同日 午後4時 クリムゾンジャック病院
 ぼくたちが病院についたら、クリムゾンジャック先生がいつもの位置にいた。
「また来たのか。何度言われても私には秘密をばらす気はないぞ」
「残念ながらもうわかってるんですよ。くらえ!」
 そう言ってぼくはいつも通り勾玉をつきつけた。

《入院患者の正体》
「ケガ人の正体がわかったって言うのか?じゃあ誰か言ってみろよ」
「この人です。くらえ!」
 ぼくはある人物の顔写真をつきつけた。
「だ、誰なんだそれは?」
 クリムゾンジャック先生はなんとかごまかそうとしているが動揺を隠しきれてない。
「青影丈です。あなたもそれがわかっていたから警察に教えたくなかったんでしょう」

 パリーン!サイコロックが一つ割れた。残りは3つだ。

「な、なにを言ってるんだ。青影はもう死刑になったはずだろう」
「死刑になったからと言って死んでるとは限りません。くらえ!」
 今度は白夜さんの証言書をつきつけた。
「なんだその紙は?」
「白夜さんの証言書です。彼は自分が死刑をミスらせたと宣言しています」
「まさかそんなことがあったとは思わなかった」

 パリーン!2個目が砕け散った。残りは1つだけだ。

「だけどそれだけでケガ人が青影だってことになるのか?単に生きてただけだろ」
「あるんですよ。決定的な証拠がね。くらえ!」
 そう言って血液検査の結果をつきつけた。
「これは?」
「鉄の棒についてた血の検査の結果です。データに残っていた青影の血と結果が一致しました」
「…。そこまでわかってたら隠しようがないか」

 パリーン!最後のサイコ・ロックが砕けた。解除成功だ。

「お察しの通りケガ人は青影丈だ。だけど一足遅かったようだね」
 え?一足遅かったってどういうことですか?
「どうもイトノコって刑事が暴走したらしくてね。後からやってきたメガネの警部が被告人が命の恩人の白夜だとデスノートのことも交えて説得していた。それでどうせ捨てる命だからということで証言に立つ気になったということだ」
 い、イトノコ刑事勝手に飛ばさないでくれよ。吉良警部もしっかり協力してるし。
「つまりムダ足を踏んだと言うわけか」
 空悟君がボソリとつぶやいた。確かにここまで来た意味がないな。

「なんだ。せっかく面会に来たのにあいつは連れて行かれてしまったのか」
 そう答える方を見るとやっぱり赤坂検事がいた。
「あ、赤坂検事。明日は傍聴に来るんですか?」
 真宵ちゃんがとりあえず聞いてきた。
「まあ一応聞いてもいいかもな。丈がどんな証言をするのか気になる」
 赤坂検事がそう答えるのを聞いて謎賀ツインズはニヤリと笑った。
「おもしろいのはそれだけじゃないかもな」
「他にも予想外の人がいたりしてな」
 無限君と零樹君が含みを持って言ったことに赤坂検事は反応した。
「何?一体誰がいるっていうんだ?」
「それは法廷が始まってからのお楽しみです。それでは」
 紫音ちゃんは赤坂検事の言葉を簡単にスルーして無限君と零樹君の車に乗り込んだ。ぼくたちは今度は空悟君の車に乗ることにした。そしてまた成歩堂法律事務所に戻っていった。明日の法廷はどうなるんだろうな。

             つづく
 
 
■作者からのメッセージ
次は法廷2日目です。

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