兄弟
作者: 夜空   2008年08月06日(水) 18時57分41秒公開   ID:4NpAk/iDSdA
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                                ―― 成歩堂 ――


「パパ〜!」
「成歩堂さん!」

 今日もこの2人の声で事務所が明るくなる。ぼくはソファから寝転がっていた体の上半身だけをゆっくり起こして、2人の方を見る。
 みぬきはぼくの隣に来て、頬を膨らましているし、オドロキくんはみぬきに指を指しながら馬鹿でかい声で異議を唱えている。ぼくは何事かと微笑みながらのんびり聞く。

「どうしたんだい、みぬき。それにオドロキくんも。」
「パパ、オドロキさんてば酷いんだよ!」
「異議あり! オレは悪くないだろ!?」

 みぬきが怒鳴ったかと思えば、またオドロキくんが怒鳴る。ぼくのことなどお構い無しに、向かい合って怒鳴りあう。っにしても、オドロキくんの声が無駄にでかいため、お隣さんから苦情が来るほどだ。 そういえば最近は、みぬきの声も大きくなった気がする。まったく……。

「だってねパパ! みぬきが《マジック・パンツ》の練習してて、パンツが汚れちゃったから――」
「また! だから、女の子が気安く、その……《なに》を言っちゃダメだってオレは言ってるんだよ!」
「異議あり! いいじゃないですか! パンツぐらい!」
「や、やめろよ! 恥ずかしくないのかよ!?」
「はい。全然。」
「はぁぁぁぁ……成歩堂さん!」

 さっきまでいい争いをして、顔を真っ赤にした(他の理由だろうけど……)オドロキくんがぼくにすがるように近づいてきた。みぬきは顔色1つ変えずに、オドロキくんを睨んでいる。

「まあまあ仲良くしなさい。」
「そ、それでお終いですか!?」
「じゃ、みぬきはパンツを洗ってきます。」
「だから言うな!!」

 仲良く……? あ、思い出した。大切なことを言おうと思ってたんだ。起きたら言おうと思ってたけど、すっかり忘れてたよ。思い出してよかった。ぼくはぼくに背を向け、お互い違う方に行こうとしているみぬきとオドロキくんを急いで呼び止めた。

「ちょっと待ってくれるかな……。大事な話があるんだ。」



                                ―― 王泥喜 ――


 まったくみぬきちゃんは! 女の子なのにその、《なに》を連呼して。オレの顔が毎回毎回熱くなるってのに。成歩堂さんも少しは注意してくれよ。
 そんな風に考えながら、デスクへ移動しようとした時だった。成歩堂さんがいきなりオレたちに声をかけ、呼び戻したのだ。もちろんオレもみぬきちゃんも振り返って戻る。

「何です? 成歩堂さん。」
「なあに? パパ。」
「ちょっと、こっちに来て座りなさい。」

 成歩堂さんの顔が、さっきののんびりとした顔から、少し厳しい顔になってオレたちをソファに座るように言った。別に断る理由も、「なんで?」っと聞く理由もなかったので、普通にソファに座る。オレとみぬきちゃんが隣に座って、成歩堂さんはオレたちの前のソファに座っている。オレと成歩堂さんは足を開いて腕を足においているが、やはりみぬきちゃんは足を閉じていた。当たり前か。スカートで足開いて座ってたら、それこそ本当に怒るよ。……さすがの成歩堂さんもね。

「じゃあ本題に入るよ。驚かないで聞いてくれ。」
「は、はい……。」

 オレとみぬきちゃんは息を呑んで、グッと体を前に倒した。成歩堂さんの顔から、もうあの厳しい表情は無く、すっかりいつもの柔らかい(?)笑みに直っていた。その顔のまま、成歩堂さんはゆっくり話す。




「あのね、オドロキくんとみぬきは、兄弟なんだ。」





 は? き、聞き違いだよな?
 オレとみぬきちゃんが兄弟?
 た、確かに見抜けるってことが
 できるのは同じだけど……。


「成歩堂、さん?」
「ぱ、ぱ、?」


 みぬきちゃんもオレと同じみたいだ。こんな嘘みたいな話って……!




                                ―― 成歩堂 ――


 アチャー……。
 驚かないでくれって言ったんだけどな。オドロキくんはビックリして口を大きく開けたまま閉じる気配はないし、みぬきもパッチリした大きな瞳をもっと大きくして驚いているし……。ぼくは頭に手をあてて、俯くとため息をついた。そのため息で我に返ったオドロキくんが、ぼくの方を向いて、無理やり引きつった笑顔で聞いてきた。 正直怖い。

「成歩堂、さん……? 嘘、ですよ、ね?」
「そうだよパパ……。嘘つきは、泥棒の始まり、だよ?」
「嘘じゃないよ。」

 ぼくは信じてもらえるように、一生懸命真剣な顔をする。「あはは」っとかすれた笑いをしていたオドロキくんも、ぼくを怒ったように見つめていたみぬきも、2人してぼくを真顔で見つめた。ぼくはふっと笑うと、足の上においていた手を横に移動させて、ふんぞり返るようにソファに寄りかかった。 ソファが小さく「ギシッ」っと鳴ってぼくの背中にピッタリフィットする形になった。 
 オドロキくんはキチンと座ったと思うと、少しして肘を足の上に乗せて、そのままその両手で頭を押さえる。みぬきも、ジッとぼくの顔を見ていたがまた下を向いた。
 静かな事務所に、思い沈黙が流れる。ぼくはそんな空気に耐えられなくなり、バッとソファから立ち上がった。オドロキくんとみぬきもぼくの方を見る。ぼくは2人の方は向かず、事務所のドアの方まで歩いていった。そして、ドアノブに手をかけたところで後ろを振り向いた。オドロキくんは立ち上がろうとしてたし、みぬきも部屋に逃げようとしていた。ぼくはいたずらっぽく微笑むと、言葉を残しドアの向こうに行った。

「本当だよ、みぬき。オドロキくん。それじゃあぼくは出かけるから、帰ってくるまで家に居てくれよ?」




                                ―― 王泥喜 ――


 ……成歩堂さん、なんて言った? 聞き間違い、だよな? オレとみぬきちゃんが兄弟だなんて……。

 オレは信じられなくて、引きつった笑顔で成歩堂さんを見る。成歩堂さんは、苦笑してオレの顔をじっと見た。オレも成歩堂さんの顔をじっと見る。そうだ、きっといつもの嘘だ! 見抜いてみれば……! ……動揺してない? つまり、嘘はついていない!? オレはグッと乗り出していた体を引っ込め、頭を抱えた。チラッとみぬきちゃんの方を横目で見ると、みぬきちゃんも見抜くを試したようで、ガックリと下を向いていた。
 事務所の中に、重い。そう、とても重い沈黙が流れる。オレは下を向いていて、みぬきちゃんは成歩堂さんの方を見ている。成歩堂さんがソファに寄りかかったのだろうか? 小さく「ギシッ」という音をたてた。しかし、その音だけで、すぐに事務所はまた怖いくらいの沈黙に包まれた。
 誰も、何も切り出せない。そのまま時間が過ぎる。すると、成歩堂さんがスッと立ち上がった。もちろんオレとみぬきちゃんの視線も成歩堂さんを追いかける。すると成歩堂さんはドアの方まで行って、ドアノブに手をかけると、オレたちの方を向きいたずらっぽく微笑むと呟いた。


「本当だよ、みぬき。オドロキくん。それじゃあぼくは出かけるから、帰ってくるまで家に居てくれよ?」


 そう言うと、成歩堂さんはクスクス笑って行ってしまった。オレとみぬきちゃんの間に沈黙が流れる。さっきよりも重く、暗い沈黙……。まるで、とても重い荷物を担いだようにズシンと肩に、足に腕に、心にくる。そんな重い沈黙。オレはピアノの方を向き、みぬきちゃんは俯いていた。オレたちが黙っていると、みぬきちゃんがいきなり立ち上がった。オレがビックリしてみぬきちゃんの方を見ると、みぬきちゃんは無表情だった。その顔で、ポツリと呟くと自分の部屋へ行ってしまった。

「兄弟、ですか……。」

 っと。オレは何も言わずに、デスクへ向かった。資料を眺め、仕事を再開させようとするが、まったく頭に入ってこないし仕事をする気にもなれない。そう、気になって仕方が無いんだ。成歩堂さん……、仕事盛りの時に! オレは、モヤモヤした気持ちを解決するべく、みぬきちゃんの部屋へ行った。


 ここまで来たはいいが、どうしよう? なんて声をかければいいんだ?

「オレたち兄弟なんだってな〜はは〜」

「みぬきちゃん。オレ、君のお兄ちゃんなんだよな。」

「兄弟だったら成歩堂さん、オレのパパになるのかな〜?」

 だ、ダメだ! いい言葉が思いつかない! ん待てよ? パパ? 成歩堂さんが? オレの? 嘘だろ!!?
 オレがみぬきちゃんの部屋の前で頭をかかえ、どうしよう? っと迷っていると、いきなり目の前のドアが開いた。ビクッとして、前を見る。そこには、みぬきちゃんがいた。 当たり前だけど。

「オドロキさん……。入って下さい、話しましょう?」
「あ、うん。話したくて……。」

 みぬきちゃんが部屋に入れてくれたので、オレはみぬきちゃんのベットに腰掛けた。みぬきちゃんは、机から回転イスを引っ張ってきてオレと向かい合うように座った。オレは足の上に腕を置く格好をして、みぬきちゃんは足の上で手をギュッと握っていた。

「みぬきちゃんは、信じる?」

 先に沈黙を破ったのは、オレだった。みぬきちゃんはまっすぐオレの方を向き、真面目な顔をして言った。

「パパは……、動揺していませんでした。嘘は、ついていない、と思います。」
「だよ、な。」

 オレもみぬきちゃんを見つめる。言われて見れば、オレとみぬきちゃんは少し似ていると思う。髪の毛の色とか、目も少し。見抜くが出来るのも、「アルマジキ」の力だっけ? ってことは、オレも……。

「オドロキさんは、どこか、行っちゃうんです、か? いやで、す、オドロキさんまで!」
「え……、みぬきちゃん?」

 みぬきちゃんの目には、みるみる涙が溜まっていった。オレは少し困ったようにした。でも、実際困っていたんだ。女の子を泣かせるなんて……。
 それよりもみぬきちゃん、やっぱりお父さんが居なくなったから……。あんなにすまして、平気そうな顔してるけどやっぱり……。

「真実を知ったら、もう、居なく、なっちゃう、んです、か?」
「みぬきちゃん……。」

 みぬきちゃんは俯きながら続ける。握った手に、涙が1つ。また1つと落ちていく。声も震えていた。オレも、喉から言葉を出したいけど出なくて、苦しいような感じだった。

「い、居なくならないで下さい!! いやで、す! オドロキ、さんが居なく、なる、のは!!」
「…………。」

 オレはゆっくりと立ち上がり、みぬきちゃんの前にしゃがみこんだ。みぬきちゃんが涙目でオレを見つめていた。そんなみぬきちゃんを見ていられなくなったオレは、俯いて、みぬきちゃんの頭に手をポンとのせた。みぬきちゃんは、最初はビックリしたようだったが、その後ポタポタと涙を落とした。その涙が、オレのズボンに落ちてシミを作る。膝の上で握り締めているみぬきちゃんの手は震えていた。

「オレは……、オレは、居なくならないよ。こんな泣き虫な妹が居たら、心配で。居なくなるわけ無いだろ?」
「お、オドロキさん……!」

 みぬきちゃんはますます俯いて、涙がポタポタポタポタ流れ落ちた。オレの目頭も熱くなる。オレはそんな気持ちをまぎらわせるように、みぬきちゃんの頭をおもいっきり撫でた。みぬきちゃんの髪の毛がボサボサになったけど、気にしないでガシガシとおもいっきり撫でる。撫でて、撫でて、撫でて、撫でて……。



 やっと、やっと、家族と出会えたんだ……。オレたちは、もう1人じゃない。




 その嬉しさを、おもいっきり撫でる事で伝えようとした。だって、「良かった」なんて恥ずかしくて言えるわけないだろ? みぬきちゃんもそれに気づいてくれたようで、オレの方を向き、膨れていたが、ニコッと微笑んだ。その後、自分の頭からオレの手をはずさせ、オレの頭を自分の手でおもいっきり撫でた。オレたちはそのことに笑いながら、デスクの方へと向かった。

「そうですね〜それじゃあ、オドロキさんのことなんて呼びましょうか?」
「そんなこと考えてるのかよ。」
「だって兄弟ですよ? 変じゃないですか、オドロキさんじゃ。」

 みぬきちゃんがソファに腰掛けて、オレの方を見て微笑みながら言っている。オレも緩む顔で、はははっと笑う。

「お兄ちゃん? 法介兄ちゃん? そんな感じですかね〜。もお! オドロキさんも真面目に考えて下さい!!」
「そのままがいいよ。オレもみぬきちゃんで通すし。」
「そんなあ! つまんないです!」

 みぬきちゃんが頬を膨らましながらオレのスーツの裾を引っ張る。オレはよろめきながらもクスクス笑った。みぬきちゃんは、最初それを見て睨んできたが、いつも間にか一緒にクスクス笑っていた。そんな感じで、オレとみぬきちゃんは、その日を終えた。

⇒To Be Continued...

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