トカレフの孤独 |
作者:
10join
2008年07月31日(木) 12時29分26秒公開
ID:QRqdkrt8vd2
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全力を込めて右腕を振り下ろす。ボールはいつものように空を切り、狙いと寸分違わない場所に飛んでいく。でも聞こえてくるのは壁に当たって跳ね返る音や、何かが壊れる音。そして捕り損ねて弾く音ばかり。全力の球を受け止めるミットの響く音はもうしない。3年前におれの全力の球を捕れるやつはおれの前から消えた。 思えば18年前あいつがミットをはめる腕を換えて検察局の野球チームに戻ってきた時から何かおかしいとは感じていた。肩を壊したというあいつに手術を勧めても断られたからだ。でもおれは深く考えることはなかった。おれはただまたあいつに投げられることがうれしかったのだ。 お前はあの時から何を感じていたんだ?復讐が成功した喜び?それとも自分がやってしまったことを後悔して、ずっと苦しんでいたのか?あんなことをする前におれにできることはなかったのか?少しでも傷ついたお前を慰めることはできなかったのか? 疑問を球に込めて投げつける。それに答える声はない。ただ壁にぶつかった音が空しく響くだけだった。 |
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