ある検事の回想
作者: 10join   2008年04月24日(木) 08時51分42秒公開   ID:WP6zqAXaJQc
2月24日 午前10時1分 検察局
 ワガハイの名前はカール・ムアッグウォー。検事だ。ある理由でこのごろ日本の法廷からは離れている。なぜ離れているのかだと?フン。そんなのキサマらに話す筋合いは…
「豪ジイ一体誰と話してんの?ボクには一人言にしか聞こえないんだけど。」
 いつの間にか後ろにいた少女が話しかけてきた。彼女の名前は神藤有希。なぜ一人称がボクなのかは不明だ。アメリカで10才の時に検事になった天才で、何の因果かワガハイの弟子になった。ワガハイにとっては孫のようなものだ。
「じゃあなんでその孫に会ってあげないの?豪ジイの顔を見たらうれしすぎて気絶するかもよ。」
 気絶する理由は他にあるような気がするのは気のせいだろうか。ワガハイとしては前どこかの双子探偵の妹の誕生会で姿を見られたからそれで十分だ。それよりユキ。ワガハイをその呼び方で呼ぶのはやめてくれ。ヘタをすればワガハイの正体がバレてしまうではないか。
「え?みんな知ってるんじゃないの?前にクモさんが暴露してたよ。」
 ワガハイは前にある机に座っている蜘蛛巣唐目をにらみつけた。やつもワガハイの弟子だ。所々罠をしかけて、獲物が法廷でもがき苦しむのを見るのが好きだというドSで、真実を導き出すためなら自分の証人でさえ手玉にとる男だ。
「おれはみんなが想像してる通りだって言っただけですよ。それにみんな忘れてると思いますよ。最後のほうが完全に消えてる小説なんてわざわざ読み返す人いないでしょう。」
 それは喜んでいいことなのかはなはだ疑問だな。
「でもなんでその白夜って人は豪ジイの事を許してくれたの?死刑が失敗したのってその人のおかげなんでしょ。」
 さあな。ワガハイにはあいつの考えなど読
めぬ。だがワガハイはやつの前に立つと奇妙な感覚を覚えた。まるで全てを見透かされているようなそんな感覚を。

1、2年前
 ワガハイは死刑の時が迫るのをただただ待ち続けていた。不思議と恐怖はなかった。死刑の日が早まったのを聞いても、早く済むならそれでいいとしか考えていなかった。ワガハイはようやくカンペキという呪縛から逃れられるいい機会だと思っていた。そう。あの弁護士を殺してしまったときから感じていたあの呪縛を。

 ワガハイはあの時カンペキな経歴に傷をつけられて自暴自棄になっていた。あの弁護士さえいなければワガハイは局長から処分を受けることはなかった。そうやってあの男を呪いながら帰る途中であの停電があり、偶然飛んできた弾丸を肩に受けた。その方向を見るとエレベーターがあり、中にはあの男と誰かがいたようだった。ワガハイはその時開いたエレベーターの床に銃が落ちているのに気がついた。ワガハイはその時我を失っていて、自分の誇りを傷つけたあの男を撃つのに全くためらいを感じなかった。やつの心臓を撃ち抜いてから、エレベーターの中にいる者たちをどうしようかと思って中を見渡してみた。そして中にいるその弁護士の子供らしき子が、なぜか娘たちと重なった。その時ワガハイは我に返った。そして自分がしてしまったことを激しく後悔した。それと同時にワガハイはここまで自分を追い詰めたカンペキという物の重さを思い知った。ワガハイは気がついたらエレベーターから走り去っていた。子供とどう考えても犯人だと疑われるだろう男を残したまま…。

 そしてワガハイは残された子供を自分の弟子にすることにした。それをあの弁護士に対する復讐だと考える者もいただろう。息子をワガハイと同じような悪徳検事にすることはあの男にとって一番の苦痛だろうと思わないでもなかった。だがワガハイはあくまで償いのつもりだった。あの男を死に追いやったのはワガハイとカンペキという名の呪縛だ。だから裁かれる時は両方打ち砕かれないといけないと感じていた。そのためにはワガハイが告発された男が心神喪失とされたせいで迷宮入りとなりかけているその事件を呼び起こす事件を引き起こし、その被告人がその子になるようにして、自分は検事として法廷に立ち、弁護士に敗北してあの事件の犯人として緊急逮捕されることを望んでいた。だがそこには問題があった。ワガハイが検事席になった時点で勝てる弁護士など現時点ではいないのだ。たとえいたとしてもその事件を引き起こす前にワガハイが負けてしまっては意味がない。だからワガハイは自分のカンペキを受け継ぐ弟子を作り、ワガハイを倒せる弁護士を見つけ出そうとした。

 だがそんな弁護士はなかなか出てこなかった。娘もワガハイのカンペキを受け継いでいたのだが、結局負けることはなかった。最初の裁判で被告人が自殺しなければ負ける所まで追い詰めた弁護士はいたのだが、1回当たっただけではなんともいえなかった。有名な弁護士にはなったが、ワガハイにも弟子にも当たることはなかったのだ。だがそれから3年、その弁護士が殺された事件で、ついに弟子が敗北した。そして次の事件でも負けた。もうまぐれだとは思えなかった 
 ワガハイはこの弁護士はその弟子が無罪である限り絶対にワガハイを倒せると確信した。ちょうどその時時効が迫っていたので、どうせなら時効の時に幕をおろそうと思い、心神喪失とされて弟子と担当弁護士を恨んでいる男を利用した。あの無免許医の申し出をけってまで肩に残した弾丸のおかげもあって、ワガハイは望み通りあの事件の犯人として緊急逮捕されることになった。

 そしてワガハイの死刑は今執行されようとしている。なぜかこの国では使われないはずの電気イスで行われることになった。ワガハイはおとなしくイスにすわり、電流が体に流れるのを感じていた。
「ボン!」
 しかしワガハイの命が尽きる前に電気イスはショートした。
「あーあ。失敗したか。検事さん。こういう場合って無罪になって釈放されるんだったよね。」
 ワガハイはその男が誰なのかもちろん知っていた。白夜警視、世間でキラが騒がれる原因を作ったと言っていい男だ。ワガハイはその時なんのために死刑執行が早まったのか悟った。
「キサマがワガハイの死刑を失敗させたのだな。」
「なんの話?ぼくには心当たりはないけど。」
 とぼけてもムダだ。キサマがデスノートとやらに名前を書くことで処刑をしていることぐらい知っている。途中で修正したら取り消されることもな。だがなぜワガハイを助けようなどと思ったのだ?ワガハイは有罪なのだぞ。
「別に。ただ自分が死ぬことで償おうっていうのが気に入らなかっただけさ。それにもうカンペキを追い求めていたあんたは死んだんだからそれでいい。」
 正直驚くしかない。まるで白夜に全て見透かされている気がしたからだ。
「もう出て行っていいよ。また会えたらいいね。」
 ワガハイとしてはもう2度と会いたくなかった。まるで自分が小さい人間であるかのように感じるからな。ワガハイはそれから家族と離れて暮らすことにした。もちろん弟子に会うこともなかった。

現在
「それで偶然あなたを見つけたおれたちが弟子入りしたってわけですか。」
 そんなところだ。日本の法廷に立つのは気が進まないが、弟子入りしたいという者を受け入れるぐらいはいいと思ったのだ。
「ボク豪ジイの裁判見たいな。昔の豪ジイの裁判しか見たことないから今どうなったのか気になるよ。」
 ユキはワガハイのフランスでの法廷を見たことがなかった。今までアメリカ以外の外国に行ったことがないからな。だが死刑判決を受けたワガハイのような検事が日本の法廷に立つと、弟子の名前に傷がついてしまう。ワガハイはこいつらの師匠の謎の検事として伝説になっていればそれで満足だ。
「そんなの気にしなくていいのに。でももし気が向いたら立ってよね。」
 作者の根性が捻じ曲がってない限りそんな時が来るとは思えんがな。ワガハイは日本の法廷に立つことがないことをただ祈るだけだ。今日本にいるが、検事の仕事が回ってこないことを願いながら、ワガハイは作業に戻ることにした。

              終わり
 
 
 

 
 
■作者からのメッセージ
大学に入ってから初めての小説です。新しい長編も出す予定です。少し設定を作りすぎたかもしれません。

■一覧に戻る ■感想を見る ■削除・編集