速攻弁護人 |
作者:
ハージュイン
2008年03月18日(火) 16時54分52秒公開
ID:GxCkm07I9RU
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「速攻弁護人〜たった10分の激闘〜」 スペースシャトル密室殺人? 最後のスペースシャトルである「ベンチャー号」が、日本から打ち上げられた。 大気圏を離脱したベンチャー号とその乗組員。 しかし20分後に、メインリーダー「カトルヤ・タッカーニ」の死亡が確認される。 被告人として捕まったフォブ=ロナック操縦士は、親友であるナバーリ・ノーツ弁護人に 弁護を依頼した。 シャトル内は、二段に分かれており、フォブは上段で操縦をしていたのである。同じ段にいたため、第一容疑者として疑われていた。 2010年七月三日。事件から三日目の午後。 検察側第一証言者「エバード・モット」副操縦士の証言は、「下段にいる誰もが目の前に集中していたため、後ろに気付かなかった。まさか、メインリーダーが死亡しているとは思わなかった」との事である。 「検察側は、指紋という証拠を提出していません。それは、どうしてでしょうか」 ヤーウテン検事は、ノーツ弁護人の質問に戸惑わない。 「指紋が見つからなかったから。としか言えないな。宇宙の無重力で指紋が離散したのだろう。それとも、被告人が手袋をしていたのかもしれない」 ヤーウテン検事の反論には疑問があった。 「宇宙の無重力で指紋が四散することは、あり得ることでしょう。しかし、提出された果物ナイフは、被害者の腹部に刺さっていました。それらには指紋があるはずです。」 どちらも憶測の域を出ていない。 「被告人は、手袋を用意していた。そうであれば、指紋はつかない。」 ヤーウテンは新人ではなかった。どちらもそうだが。 「当日の映像では、乗り込むまで被告人は手袋をしていません。」 「エバード氏は、こう言ったはずだ。下段のメンバーは前を向いて集中していたと。つまり、犯行のときの手袋は何時でも装着できた。被告人が手袋をして、回り込むことも可能である。」 「ヤーウテン検事。被告人たちの宇宙服にはポケットがない。手袋をスペースシャトルに持ってこれる要素はないのです。」 「スペースシャトル内に忍び込み、置いておけばよい。前日のスケジュール表でも、調整時間があったのだからな。」 「ならば、手袋が運べたと仮定しましょう。このスペースシャトルの内部写真を見れば、 明らかなことがあります」 「なんだというのだ」 10分が経過している。初期証拠の提示時間などを含めても、早舌である。 「被告人は上段に座っていました。スペースシャトルの天井が狭いことも、この写真で理解できます。そして、エバード氏のの証言によれば、被告人は上段に座っていた」 「どの場所に座っていようが、被告人の有罪は決定的である。」 「いいえ。先ほどヤーウテン検事は、指紋が浮かんで離散したと言いましたね。すなわち、宇宙には無重力があるんです。その影響が、宇宙服を着ても同じであることに変わりはない」 「何が言いたい?」 「わかりませんか?被告人に被害者を刺殺できるはずがない。何故なら、席を被告人が離れれば、狭い天井に頭を打ち付けてしまうのです。回り込む以前に!」 「なら、地上で殺されたということか?」 地上で殺されたとなれば、被告人が助かる保証はない。 「各クルーは、スケジュールを見ても抜け出す隙はなかった。殺せるはずがない」 側には、体力管理員が付いていた。すべてのスケジュールから目をそらすことはできないのだ。 「被害者付きの体力管理員、チセイナー?」 「打ち上げ観測所の最高責任者。ブラッガー所長ですよ・・・彼の身分ならば、スケジュールの裏に隠れて被害者を呼び出すことができる。」 「そして被害者を殺害した後、被害者の声を録音したラジカセを懐に忍ばせた。訓練と同じ音声であっても、緊張していたクルーにはわからなかっただろう。」 「ヤーウテン検事の言うとおり。それに加えて、他のクルーと被害者の宇宙服の大きさが違っていた。間違いなく、ブラッガーの指示と思います。ナイフがあることを隠すために、宇宙服の内部の隙間を広くした。」 「異論はない。この事件が解決すればな」 陪審員のすべてが合意したことで、この裁判は終了した。ノーツ弁護士の名は、この弁護で多くの新聞に載った・・・速攻弁護人として。 「異論はないって・・・最後まで立ち向かえよ。あの検事」 フォブの独り言が控え室で響いた。 |
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