逆転−HERO− (8)
作者: 紫阿   URL: http://island.geocities.jp/hoshi3594/index.html   2009年05月08日(金) 15時34分47秒公開   ID:2spcMHdxeYs
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「いわゆる “正義の味方” だな」
「……御剣さん、正気?」
 北斗刑事は目が点に、真宵くんも怪訝な表情。
「キミにも協力してもらうぞ、真宵くん。ヒーローを呼ぶには、キミの協力が不可欠なのだよ。ちょっと耳を貸してくれるか……」
 けれども、私の耳打ちによって彼女の疑念は一気に晴れる。
「……ふん、ふん。なるほど、その手があったか!OK、そういうことなら任せて!」
 密命を受けた真宵くんは、早くもエンジンフル回転状態。その場で駆け足を始めた。
「何ボンヤリしてるの?行くよっ!」
 そして、未だ呆気に取られている北斗刑事のコートをぐいぐい引っ張る。
「……へ?行くってドコに?」 
「ほらぁ、急いで!お姉さんを助けたいんでしょ?!だったら走る走るっ!」
「……な、何だかよく分かんないっすけど、姉さんのためならおれ、韋駄天になるっす!」
 彼女の勢いに圧されてか北斗刑事も立ち上がり、二人して控え室を出て行った。


「よぉ」

 二人と入れ替わるようにして入ってきた長身の人影に、私は深く頭を下げる。
「阿部さん。あなたには謝らなければなりません。無罪判決を勝ち取るためとはいえ、私は無実のあなたを犯人に仕立て上げようとしたのですから」
 そう言うと、彼は決まり悪そうにボサボサ頭を掻いた。
「……いいや、謝るのは俺の方だよ。俺の偽善行為がかえってあんたを苦しめた」
 その言葉で確信する。彼が、証言台に立った目的を。
 思い返せば、昨日から彼の言動は不自然なことだらけだった。例えば、二本目の瓶。

「これも――わざと(・・・)残していったのでしょう?脚本をバナナベンチの上に置き、私の目に付きやすいよう細工までして」
「まーな。俺の指紋もしっかり付けておいたんだがなぁ……」
 置き土産を突きつけられて、苦笑する阿部氏。
「この瓶は、もともと何処にあったのですか?」
「ワゴンの中だ。あんたらを送っていった帰りに、ふとドアポケットを見たら入ってた」
「やはり――あなたは“誰か”の“身代わり”になろうとしていたのですね?」

 “他人の罪を背負う”などということを、私は検事として(・・・・・)認める訳にはいかない。

「ンな使命感なんて持ってないよ。ただ、俺が罪を引っかぶることで“あいつ”の気が済むのなら、それでもいいって思ってた。……けど、そんなに軽いもんじゃなくてさ。
 ――あいつの(なか)に渦巻く憎しみの焔は、俺なんかじゃ消せなかった」

 庇った人間も、庇われた人間にも、“救い”などありはしないのだから。

「教えて下さい、阿部さん。あなたが身代わりになってもいいとさえ思う『あいつ』――いえ、今証言台に立っている“彼女”は、一体何者なんです?」

「あいつは――」

 阿部氏の話に、私は頷く。“その人間”の存在は、病院でも聞いていた。

「審議を再開いたします。弁護人は入廷して下さい」

 廷吏が休憩終了を告げに来て、阿部氏はくるりと背を向ける。

「頼む、あいつを助けてやってくれ。……このままじゃ、誰も救われねぇよ。
 ――気付いてるだろ、あの法廷には俺と同じことを考えてる人間がもう一人いる。あの人、追い詰められてるぜ。俺なんかよりもずっと、な」

 去り際、届いた言葉には“彼女”への深い哀れみがあった。
 
■作者からのメッセージ
 さて、最後の法廷パート前半です。これだけ長いこと書いていると、結構、似た表現とか使ってしまいますね。なるべく同じような表現ばかりにならないよう気をつけてはいるんですが、やはり私の“クセ”みたいなものが、そこはかとなく漂っているなぁと思います。あと、私は関西人ではないので、関西弁は結構なんちゃってな感じです。本場の方、ご容赦のほどを。
 ……という訳で、この話も残りあと二回となりました。根気よく読んで下さっている方、ありがとございます。そして、もう少しだけお付き合いくださいませ。

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