逆転−HERO− (4)
作者: 紫阿   URL: http://island.geocities.jp/hoshi3594/index.html   2009年05月04日(月) 16時31分00秒公開   ID:2spcMHdxeYs
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 今回の時間を解く鍵のいくつかは、やはり三年前にあると見るべきだろう。三年前の事件の関係者で未だに正体が知れないのは、柚田伊須香が脅迫していた人物だ。
 愛美さんの供述から、その人物も聖ミカエル学園の三年生であったと推測される。柚田伊須香は万引きの目撃をネタにその人物を脅し、犯行に使うスズランを用意させた。
 ――何故、柚田伊須香は自身の手で用意しなかったのか。いや、この場合“出来なかった”と考える方が自然だ。殺人計画など、おいそれと他人に打ち明けられるものではあるまい。いくら相手の弱みを握っているとはいえ、相手が事の重大さに気付いて退学覚悟で警察に駆け込まれでもしたら、元も子もないからだ。
 柚田伊須香がそんなリスクを顧みずスズランを他人に用意させたのは、そうせざるを得なかった理由がある筈。例えば、今回のように温室に鍵が掛かっていたとしたら――

「御剣さんの考えた通りだったよ」
「ん?」
 見れば、真宵くんの前にあったデザート皿は影も形もなくなっていた。
「まみちゃんの頃も温室には鍵を掛けてあったって。……ただね、出入りは誰でも自由に出来たみたい」
 食後のコーヒーを堪能しながら、彼女は自分のペースで話を進める。
「……どういうことだろうか?」 
「温室の鍵は学長が持っていたマスターキーの他には事務室と用務員室に置いてあったらしいの。温室に用がある人はそのどっちかに行って、備え付けの“貸出しノート”に学年とクラスと名前を書けば貸してもらえたんだって」
「ほう、名前が記録に残るわけか」
 私の推測は、そこそこいい線を行っていたようだ。柚田伊須香はノートに自分の名前が残るのを恐れ、他の生徒を温室へ走らせた、ということだろう。
 それに、もっと都合のいいことがある。そのノートに愛美さんの名前がなければ、彼女は当時も温室に入っていないことになり、三年前の事件についての疑いも晴れるのだ。
 今の時間では確かめることも叶わないが、明日の朝一番で問い合わせてみるとしよう。
「あ〜、でもね。園芸部の子だけは温室に自由に出入り出来たって言ってたよ。園芸部の部室にスペアキーがあって、みんなで管理していたらしいから」
「園芸部?……そうか、成る程な」
 園芸部員の誰かを利用すれば、用務員室経由でなく密かに温室の鍵を入手出来る。脅迫の相手方が園芸部員だったことが、柚田伊須香の計画に幸いしたのか。
 さっそく卒業アルバムをめくる。確か後ろの方にクラブ活動別の写真が載っていた筈だ。 

「!」

 園芸部の三年生は全部で13人。だが、あれこれ考えるまでもなかった。

 初めて見る写真の中に、たった一人。見たことがある人物の顔が写っていた。

 それは――白樺の森の奥で真宵くんを突き飛ばして逃げた、ニット帽の女性だった。



<人物ファイル3>
・田代 恵理子【ただい えりこ】(17):聖ミカエル学園、学園祭実行委員。
・キリィ=ランカスト/赤間 桐人【あかま きりひと】(??):聖ミカエル学園の現在の学長。生徒には『ローズマスター』と呼ばせている。前学長、赤間神之助の息子。イギリス人の女性を母に持つ。『キリィ』が正式な名前で『桐人』は、この国での呼び名。赤間神之助が療養のためにこの国を離れた後を任され、規律で縛られていた聖ミカエル学園を改革。
・キャサリン=ランカスト(故人):キリィの母親。イギリス人。二年前に病気で他界。
・クレア=キャロル(故人):赤間神之助が大学時代に想いを寄せていたフランス人の女性。二十年以上前に事故で他界。
・ノエル(??):クレアの息子。フランス人。クレア亡き後、赤間神之助が養子に迎え入れたことをきっかけに、キャサリンとキリィはイギリスに帰国。現在はフランス在住。

<証拠品ファイル3>
・聖ミカエル学園の生徒手帳:赤間神之助が学長だった時に創られたもの。学則の内容はかなり厳しいが、キリィ=ランカストが学長就任後に全て破棄された。
・温室のマスターキー:キリィ=ランカストが所有している鍵。これを複製した予備キーが用務員室にあり、10月17日(事件時発生の日)に愛美が借りた。
・御剣の携帯電話の映像データ
@白樺林の奥で見付けた障壁の写真。真宵の携帯電話から転送されてきたもの。[撮影年月日−2XXX/10/17] [撮影時間−13:10]
A白樺林の奥で見付けた障壁の一ヶ所に取り付けてあったドアの写真。[撮影年月日−2XXX/10/18] [撮影時間−13:10]
・革の写真ケースとノエル少年の写真:二週間前にキリィ=ランカストが白樺林で拾い、ゴミ箱に捨てたものを大場カオル(オバチャン)が拾った。障壁の中の光景と思われる。
■作者からのメッセージ
 前に、ここに投稿した時に何処までアップしていたのか忘れましたが、多分この辺りまでだったと思います。長いこと途切れている間に「蘇る」が出て「逆裁4」が出て、「逆転検事」の発表があって……こちらでもすっかり蘇逆・4ネタが増えて、おいてけぼり感を感じていました。
 ちなみにこの小説は逆裁1〜3までの内容でお送りしております。「キリヒト」の名前が被ったのは偶然です。私の場合、元ネタは聖書にちなんで「キリスト」から取っています。他のキャラクターも聖書がらみの名前を付けました。夜羽〔ヨハネ〕とか柚田伊須香〔イスカリオテのユダ〕とかがそうですね。それでは次回、法廷パート二日目でお会いしましょう。

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