逆転NOTE23 |
作者:
10join
2009年03月17日(火) 16時13分35秒公開
ID:U2K9NXxHIPw
|
「そこまで言うならキサマに動機がないという大ウソを言える根拠をボロを出しながら主張してもらおうか」 カール・ムアッグウォーは薄ら笑いを浮かべながら倉杉さんに言った。 「いいでしょう。それで私の疑いを晴らしてみせましょう」 倉杉さんは歯を震わせながら答えた。どんなムジュンが出てくるんだろう。 《動機がないという根拠》 〈そもそも私と彼とは面識がありません〉 「待った!それは本当ですか?」 「間違いありません」 倉杉さんは自信を持って言った。少なくともここではウソをついてないみたいだ。 「まあワガハイもこんな所でボロを出すことは期待していない。ウソをつく意味はないからな」 検事が証人がボロを出すことを期待したらダメじゃないか?今の状況なら正しい判断かもしれないけど。 「とにかく直接会ったことはなかったんですね」 裁判長が流した。ぼくもこれ以上踏み込む必要はないと思う。次の証言に行くか 〈もちろんテレビや捜査資料で見たことはありますけど〉 「待った!つまり顔を見たことはあるということですね」 「当然です。というより見たことがない人が日本にいるんですか?」 確かにいないだろう。テレビでも特集を組んでやってたし、指名手配のポスターが全国に貼られていたのはぼくも知っている。 「そういえば倉院の里でも話題になってたよ」 倉院の里でもそうだったのか。あれだけの数の人が死んだんだからムリもないか。 「だろうな。あんな大量殺人犯の顔を知らない者がいるわけがない。あれだけの犠牲者が出たのだからな」 カール・ムアッグウォーは意味ありげに言った。カール・ムアッグウォーもぼくと 同じことを考えているのかもしれない。 〈どうして会ったこともない人を殺さないといけないんですか?〉 「待った!つまりあなたは被害者にあったことがないから殺すことはないと主張するんですね?」 「そうです。会ったこともないのに殺す動機なんて生まれようがありますか?」 確かに倉杉さんの言うことは正論だ。普通は会ったこともないのに殺したいと思うわけがないだろう。 「弁護人。今の証人の発言に何か問題があるのですか?」 裁判長が聞いてきた。 「確かに普通なら証人の言う通りでしょう。ほとんどの場合会ったこともない人を殺す動機なんか生まれるはずがありません」 「そ、そうでしょう。だから私が犯人なわけないです」 倉杉さんが必死にそう主張した。 「あくまで普通ならと仮定した場合の話ですけどね」 「どういうことですか?」 裁判長はまだわかってないらしい。 「裁判長。キサマはこの事件の被害者は誰だと思っているんだ」 カール・ムアッグウォーは呆れたように言った。 「それはもちろん林ビル爆破事件の主犯…あっ!」 裁判長もようやく気づいたようだ。 「そうです。被害者はあれだけの大量殺人を犯したのです。家族や知人を亡くした人が被害者を殺したいと思っても不思議はありません」 「た、確かにそうかもしれません。ですが私が家族や知人をなくしたという証拠はあるんですか?」 倉杉さんがそう主張してきた。確かにぼくの主張では会ってなくても殺す動機が生まれないと言うことは立証できても、倉杉さんが家族や知人を失ったということは立証できない。 「弁護人。そう主張するからには証人の家族や知人を失ったという証拠はあるんでしょうな?」 「もちろんです。くらえ!」 ぼくはある書類をつきつけた。 「こ、これは15年前の事件の資料ですか。この赤線が引いてある名前はなんですかな?」 「大方証人の友人なのだろう。それに生存者の欄に倉杉影薄という名前もある」 カール・ムアッグウォーはぼくが言いたいことを全部言ってしまった。 「つまり証人は目の前で知り合いを殺されました。それで被害者になんらかの恨みを抱いてもおかしくないでしょう」 ぼくがそう言うと倉杉さんは黙りこんだ。もしかしてこれで終わりなのか?そこまでうまくいってくれればいいんだけど。 「フハハハハハハ。これはよくできた話ですね。ですが一つ重大な欠陥があります」 倉杉さんは開き直ったように言った。 「重大な欠陥?それはなんですか?」 「決定的な証拠ですよ。証人の話も動機も信用できると言い切れるんですか?」 確かに倉杉さんの言うことも最もだ。青影の証言が完全に合っているのか疑問が残るのも当然だろう。 「どうするのなるほどくん。決定的な証拠なんてあるの?」 真宵ちゃんが慌てだした。決定的な証拠なんかぼくにも思い浮かばないぞ。 「確かに決定的な証拠がないと何もできない。弁護士。キサマに何か手はないのか?」 カール・ムアッグウォーにもどうしようもないようだ。クソ。ここまで来て何もできないって言うのか。 「どうしたんです?早く決定的な証拠を出して見てくださいよ。できるものならですけど」 倉杉さんはこれまでの様子とはうって変わって余裕たっぷりという感じだった。一体どうすれば倉杉さんにとどめをさせるんだ? つづく |
|
■一覧に戻る ■感想を見る ■削除・編集 |