逆転NOTE22
作者: 10join   2009年03月05日(木) 18時51分29秒公開   ID:yI0DTBIFyLM
「しょ、証人。とりあえず証言してください。ムジュンは成歩堂くんが見つけ出してくれるはずです」
 裁判長はカール・ムアッグウォーと倉杉さんの険悪な空気に気おされながらもそう促した。裁判長に言われなくても矛盾があったら絶対に見つけ出してやる。
「確かに証言させないと始まらぬな。まず事件があった時キサマが何をしていたのか証言してもらおう」
「わかりました。私が真犯人ではないことを証明してみせましょう」
 被告人でもないのにそう言うのはおかしくないか?ぼくもカール・ムアッグウォーも真犯人と見てるのは確かだけど。
「それでは証人。証言して下さい」

《事件当時していたこと》

〈確かに私はあの日林ビルのあたりに行きました〉
「待った!それはなぜですか?」
「なぜと言われてもこまるんですけど。理由なんて特にありませんしね」
 倉杉さんはなぜか早口でそう言った。やっぱり何か理由があるんだろう。大体その理由は見当がつく。
「どうするのなるほどくん。ここでもうつきつけちゃう?」
 真宵ちゃんもぼくと同じことを考えているようだ。
「いや、もう少し様子を見よう」
 もしかしたら必要な時が来るかもしれない。
「そう?ならいいけど」
 真宵ちゃんもそこまでここにはこだわっていないようだ。
「事件があった時間はどうなんですか?」
「それはこれから証言する。もう少し待っていろ」
 カール・ムアッグウォーの意見も最もだな。ここはもういいか。

〈それからしばらく現場にいました〉
「待った!なぜ現場に留まっていたんですか?」
「特に理由はありません」
 倉杉さんは今度もそう答えた。ここはこれ以上聞きだすことはないだろう。
「証人はしばらく現場にいた。それで?」

〈事件が起きた時間にはもう現場から離れていました〉
「待った!それを証明してくれる人は?」
「いないと思います。あそこには誰もいなかったんですから」
 倉杉さんは冷静に言った。もっと取り乱すと思ったんだけどな。
「つまりあなたにはアリバイが全くないと言うわけですね」
「そう言うことだ。証人には非常に不利ではないのか?」
 ぼくとカール・ムアッグウォーはしつこく倉杉さんを追及した。
「と、とにかく私はあの時現場から離れていたんです」
 倉杉さんはまだ言い張っている。

〈それとも私が事件が起きたとき現場にいたと言う証拠でもあるんですか?〉
「待った!つまりあなたはあくまでもあの時現場にはいなかったと言うんですね」
「はい。間違いありません」
 倉杉さんは自信マンマンで言い切った。その自信がすぐに粉々に砕け散ることも知れないで。
「異議あり!裁判長。これをよく読んでください」
「これは証言書ですね。…こ、これは!」
 裁判長はその証言書を見てかなり驚いたようだ。
「ワガハイにも見せろ。…弁護士。これは確かにヤツの証言書なのだろうな?」
「間違いなくそうです。事件が起きたとき確かに証人を目撃するどころか、あなたが被害者に殴りかかるのを止めようとして頭を殴られた人がいたんです。証人、何か言い訳があるのなら聞きますよ」
 ぼくがそう言うと倉杉さんの顔が真っ青になった。

「そ、そんなの本当かどうかわからないじゃないですか。青影なんていう連続殺人の容疑で死刑にされたのになぜか生きながらえているやつの証言なんてどうして信用できるなんて言えるんですか?」
 倉杉さんは早口でそう言い切った。
「異議あり!論点をすりかえないでください。大体どうしてあなたが目撃者が青影だなんてことを知ってるんですか?」
「そ、それは」
 倉杉さんは自分で墓穴をほったことに気がついたようだ。ぼくが言うことに全く反論ができないようだ。
「異議あり!昨日裁判を傍聴してたら知っていてもおかしくないだろう」
 カール・ムアッグウォーが言うことも間違っていない。確かに昨日傍聴してたなら知っていてもおかしくない。
「どうするのなるほどくん」
 真宵ちゃんも不安そうな顔をした。
「そ、そうです。昨日の裁判を傍聴していたから知っているんです。今思い出しました」
 倉杉さんはカール・ムアッグウォーの出した助け舟に乗った。そう主張されるとぼくにはどうしようもない。
「異議あり!やはりワガハイの話に乗ってくると思ったわ。キサマが昨日の裁判を傍聴していたはずがない。現場を捜査していた刑事全員がキサマは全く現場を離れていないと証言しているのだ」
 そう言って裁判長に刑事全員の証言書を渡した。見た所吉良警部を始め多くの刑事がそう言っていた。カール・ムアッグウォーは助け舟に爆弾を積んでいて、それがうまく爆発したようだ。そしてぼくもあることに思い当たった。
「大体本当に傍聴していたならなぜか生きていたとか言わないでしょう。すでにわかりきっているんですから」
 ぼくがそう言うと倉杉さんは黙ってしまった。これからどう出て行くつもりなんだろう?

「…仮に青影が言ったことが正しかったと過程してみましょう」
 倉杉さんはかなり負のオーラを漂わせている。そうとう追い詰められているみたいだな。
「過程も何もそれが真実でしょう」
「過程と言ったら過程です。どうして私が被害者を殺さないといけないんですか?」
 倉杉さんはいきなりそんなことを言い出した。
「つまり自分には動機がないと言いたいのか?」
 カール・ムアッグウォーは心底あきれ果てたという顔をしている。
「はい。動機もわからないのに私を犯人にはできませんよね」
 倉杉さんの目は不気味に輝いていた。
「ほう。そこまで叩き潰されたいならいいだろう」
 カール・ムアッグウォーは悪役っぽく言った。やっぱりこの人には悪役が似合うな。
「あなたたちの推理が違うことを証明してあげましょう。後悔しても知りませんよ」
 倉杉さんは妙な自信を持って言った。一体どんな言い逃れをするんだろう。

            つづく
 
 
■作者からのメッセージ
次あたりで実行犯が誰かって言うのはわかります。

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