逆転の哀しき窓景色(1)
作者: 麒麟   2008年11月09日(日) 18時36分29秒公開   ID:vwMtiCpyPYk
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 みぬきはそんなこと言うがどうしようもない。
 「みぬきちゃん・・俺たちに真犯人なんて分からないよ。少なくともこの手持ちの資料だけじゃ」
 そう言って法廷記録の人物ファイルを見せる王泥喜。人物ファイルには事件関係者が王泥喜たち知り合いを除けば被告の細田と被害者の金賭しかいない。
 「だ、だったら証拠品ファイルからせめて真犯人の手掛かりを・・」
 「・・そ、それがあったら苦労しないよ。何せ、警察ですらそいつの痕跡を見つけられていないんだ」
 ここで先ほど牙琉の言った言葉が頭をよぎる。「真犯人は相当計画的にこの犯罪を練ったんだろう」という言葉である。それは間違いなかった。
 「王泥喜くん、確かにあなたの主張だとその空白の30分に別の第3者が存在していたことになります。それをあたなに提示できますか?」
 「ぐっ・・そ、それは・・」
 万事休すだった。あくまで王泥喜がしてきたことは主張にすぎない。細田が争っただけだというのもあくまで推測であって根拠はない。何故なら細田が依然黙秘をしているからだ。
 (このままだと、真犯人が提示できなくてまたひっくり返っちまう・・せめて、この主張だけでも立証をして細田さんが無実だと言う可能性を認めさせないと、今までのことが無意味になる!)
 王泥喜は焦る。せめて細田に今のことが事実であることのウラを取らねば状況は逆戻りしていまうことに。
 「せめて、真犯人の痕跡を見ている目撃者がいればいいんですけどね・・」
 「!!」
 その言葉にハッとする王泥喜。本当に今日はみぬきの言葉でハッとさせられることが多い。
 (そうか・・その手があるじゃないか!!) 
 王泥喜は机をバンと叩きつける。
 「裁判長!弁護側は真犯人の提示はできません!」
 潔くこのことは認める王泥喜。
 「おいおい、おデコくん・・何開き直ってるんだい?」
 しかし王泥喜は続ける。
 「しかし、真犯人の痕跡について・・重大なことを知っている可能性がある人物を証言台に立たせることはできます」
 そう言って被告席の細田を見る王泥喜。全員の視線が細田へと向けられる。
 「お、おデコくん・・もしかして細田薬史を証言台に立たせる気かい?」
 今までずっと黙秘を続けている被告に証言をさせるという王泥喜に衝撃を隠せない牙琉。
 「もうそれしかないんじゃないでしょうか?金賭さんを気絶させてから再び侵入するまでの30分間、真犯人はその間に犯行を行い逃走をしている。言い方を変えれば弁護側は、死体の真の第一発見者は細田さんだと主張ができます。もしかしたらそこで、警察ですら発見できなかった痕跡を彼は見ているかもしれない!」
 眼を細田から逸らさず王泥喜は続ける。
 「ついでに本当のことをそこで証言してくれれば、弁護側の先ほどの被告人の行動に関する主張の立証にもなりますしね。被告にとっては有益なチャンスになると俺は考えます」
 そう言うと王泥喜は今度、裁判長に向かって言葉を続けた。
 「裁判長!弁護側は細田さんを証人として申請します!証言内容は“細田さんが本当にしたこと”と“再び現場へと訪れたときのこと”。この2つを証言してもらうために証人申請をします!!」
 自身の主張を立証するためと、真犯人の痕跡を見つけるため、王泥喜は大きな賭けに出た。
 「よろしい、本法廷は弁護側の申請を認めましょう」
 裁判長はそう言うと木槌で一喝。静まらない法廷を黙らせると係官に告げる。
 「係官、被告席の細田薬史を証言台へ立たせなさい!!」
 その言葉ですべては決まった。証言台の主役は茜から細田へとうつっていく。
 「オドロキさん!なんとか首の皮一枚繋がりましたね!」
 「まぁ・・そんなところだろうな」
 内心ホッとしている王泥喜。しかし、これからまだすべきことはたくさん残っている。
 まず、細田が口を開いていくれるかという問題がある。黙秘を続けるようであれば意味がなく、逆に検察側にとって有利なものとなってしまう。これが一番恐れていることだ。
 
 (とりあえずは、細田さんの心を何とか開かせないといけないな。真犯人への手がかりはまず、それを優先しないと掴めないだろう)

 王泥喜の裁判はまだ始まったばかりだ。
 この事件が牙琉の言う通り相当計画的に練られたものだとしたら、
 まだまだ今日のこの法廷は、長いものになるのだろう。
 
  
 つづく


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 【法廷記録】(第1章終了時現在)
 
 (証拠品ファイル)

 <弁護士バッジ>
 憧れだったバッジ。つけると身が引き締まる。
 ただ、最近は磨かないと汚れが目立つようになってきた。変な仕事のしすぎなのか?

 <金賭黒吉の解剖記録(修正あり)>
 死亡推定時刻は10月9日午前0時50分頃。死因はクラーレによる呼吸麻痺。
 被害者の首筋に注射器痕のようなものがあり。そこから毒物が注入されたと推定される。
 なお、被害者は体に数か所打撲による痣が残っており、殺害前に争ったと思われる。

 <スターセブンホテルの宿泊簿>
 被害者は事件発生前日の10月8日午後8時にツインルームの1305号室にチェックイン。
 同日の午前に予約を取っていた。

 <現場写真>
 1305号室内は争った形跡が所々見られた。カーテンは開かれている。
 死体はなかったが現場検証の様子から窓(ベランダ)側に向かってうつ伏せに倒れていたようだ

 <細田薬史の借用書>
 細田は被害者・金賭の会社から20万円を借りていたが、
 現在はそれが700万までに膨れ上がっている。
 ちなみに事件前日の10月8日は100万円を返済する予定になっていた。

 <スターセブンホテルの上面図>
 大きな“コの字型”をしており、それぞれの直線部分ごとに東・西・中央エリアに分かれている。
 客室の窓は全部“コの字”の内側部分にあり、東エリアと西エリアの客室は窓越しに覗ける構造。
 被害者のいた1305号室と細田さんのいた1405号室は共に東エリアにある。

 <懐中電灯>
 事件現場のベランダに落ちていた。
 細田の部屋に備え付けられていたもので細田の指紋がついている。

 <科捜研からの報告書>
 被害者殺害に使用された毒薬はクラーレと断定。
 クラーレは飲ませるのではなく傷口に注入するかたちで効果が出る毒物で、
 筋肉を弛緩させ、最終的には呼吸麻痺に陥らせるものである。
 被害者の正面から犯人は、針を用いて首筋を刺したものと見る。

 <細田の鞄>
 細田の部屋から発見。
 中には大量の注射器が入っていたとのこと。

 <停電記録>
 10月9日午前0時52分、落雷によりホテル全エリア停電。
 西エリアと中央エリアは午前1時8分に復旧。
 東エリアは遅れて午前1時14分に復旧した。


 (人物ファイル)

 <成歩堂みぬき(15)>
 成歩堂さんの娘で大魔術師を目指す女の子。
 最近は得意芸である“ぼうしクン”によく小突かれる。

 <細田薬史(25)>
 今回の依頼人。かなりのシャイで事件に関しては無罪を主張するがそれ以外黙秘。
 被害者の会社に借金あり。真田下製薬会社の薬品開発研究員。
 被害者と争い気絶させたのではないかという疑いがある。

 <宝月茜(25)>
 科学捜査マニアの刑事。事件の初動捜査を担当。
 今回は毒物が絡んだ事件のためか積極的に捜査をしていたようだ。

 <牙琉響也(24)>
 法曹界のスター検事でガリューウェーブのリーダー兼ボーカル。
 今回の事件の担当検事。俺のことをおデコくんと呼んでくる。

 <金賭黒吉(41)>
 今回の事件の被害者で金融会社社長。
 しかしその実態は限りなく闇金業者であり他にも悪どいことをしていた噂がある。
■作者からのメッセージ
 えー、続きの投稿を完了した麒麟です。
 というかプロローグの参照数に噴きました。読まれてたんだ。
 昔に比べて書くスピードは遅くなったもんです。それでいて質は同じなんだからタチが悪い。
 しかし王泥喜たちの裁判は書きづらいですね。成歩堂のと比べるとイマイチやりづらい。
 牙琉検事もまぁ書きづらい、書いていてなかなか爽快感が終盤まで出てこなかったわけでした。
 しかし、茜ちゃんも書きづらい。ってか不機嫌ってイメージしかないのは何故だろう?
 今更だけど、かりんとうを登場させるべきだったと後悔しています。
 というか、裁判で茜がまともに4では証言してないからこのシーンが今のところは最も苦労してます。
 ちなみに形式的には過去作「逆転のホワイトホース」と非常に似た展開になっています。知ってる人は同じ展開だなぁ・・と思われてるかもしれません。
 そのせいか今後の展開がこころなしか予想できるかもしれませんね。犯人とか。
 ただ、今回の話は犯人に関して言えば大きな大どんでん返しが予想されますのでお楽しみにです。
 
 というわけで次回は、やっと謎に包まれた被告人の登場です。
 まとめると王泥喜は被告人の本当のことを喋らせて、自身の主張を立証することと真犯人の糸口を見つけることが目的となります。
 対する検察側はまぁ・・被告人が本当のことを言っても、罪を逃れるために嘘ついてんだ!って言えばいいだけですから、牙琉さん楽なわけですね。
 というか全然人物ファイル増えてない回でした。
 個人的には伏線回収とか論理崩壊しないことをしっかりと意識しながらやってきたいです。
 皆さんも暇だったら伏線を探してみると面白いかもしれないですね。(無茶ぶり
 ちなみに冒頭の語りは真犯人の独白みたいなやつかもしれないですねー(意味深

 そういうわけで、第1章はここまでです。
 第2章でまたお会いしましょう。
 以上です、ここまで読んでくれてありがとうございました。

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