「会ってやれよッ!」 |
作者:
カオル
URL: http://www.ab.auone-net.jp/~kaka/
2010年11月06日(土) 13時13分27秒公開
ID:P4s2KG9zUIE
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《冥ちゃんムチムチ大冒険》の発売を記念して“天流斎マシスの世界展”を開催いたします。 今までに、発表された作品の中から代表作を含め、未発表の作品も公開もいたします! 鬼才マシスの世界を、どうぞご堪能下さい―――――。 「・・・成歩堂さん、お久しぶりです!」 入口で名前を名乗ると、その女性は現れた。以前の印象そのままのメガネの似合うキレイな人だ。 胸には関係者に使用されるIDカードをぶら下げている。 「お久しぶりです、華宮霧緒さん」 この辺りでは一番の格式あるデパート『高菱屋デパート』にて あの“矢張政志”が、天流斎マシスとして個展を開くようになろうとはッ!! 矢張の作品は日本国内では、まったく相手にされなかった。 しかし、今までにない一見アニメのキャラクターのようなモノをあえてアートの世界に堂々と持ち込んだ彼の作風が、 欧米や中国で高く評価されたのだ!! ・・・恐るべし、日本のサブカルチャー・パワー!!! 外国で高い評価がなされると、追随するのが日本人の性である。 今や、矢張はサブカルチャー的モダンアートの先駆者としてこうして個展を開くまでになったのだ。 「ハガキを頂いたときは、驚きました。霧緒さんが、この展示会をプロデュースしたなんて・・・」 「はい、今回発売された『冥ちゃんムチムチ大冒険』を記念しての展示会を企画・プロデュースさせて頂きました。 今日は最終日なので、少し混雑しておりますが楽しんでいって下さい」 「矢張は、今日はどうしているんですか?」 「はい、本日は当人も開場入りしております。今は、高菱屋さんの広報の方とお話し中で」 せっかく来たのだから、順路通りに作品を巡ることにする。 彼の作品を代表するような、アニメ的、俗に云う“フィギア”風の作品。手にムチを持つ女性の等身大の像がある。 スケッチブックに書かれた橋のような絵にナニかしらの“飛行物体”が描きこまれている作品。などなど。 突然、成歩堂の目に見覚えのある作品が目に飛び込んできた。 「・・・コレは・・・」 霧緒が親切にも解説をしてくれる。 「ハイ、こちらはまだ天流斎マシスを名乗る前の作品で“考える人”をモチーフにした置き時計となっております。 オリジナルの作品は事情があって手元になかったそうですが、幸い型が残っていたということで、本日の展示会の為に制作いたしました」 霧緒さんは、知っているのだろうか? この“考える人”の為に二人の人間が命を落としたという事実を―――――。 さらに進むと、そこには何処かで見たような某ヒーローを思わせる人物がいかにもモダンな技巧をほどこした装飾で描き込まれていた。 しかし、成歩堂が目を奪われたのはその絵の下にあるモノだった。 『御剣怜侍 様 売約済み』 「よう、成歩堂。久しぶりだな!」 名前を呼ぶ方に顔を向ける・・・見知った幼馴染が片手をあげて、ニヤニヤしながら近づいて来る。 「・・・矢張・・・」 「よく来てくれたな、ありがとよ」 幼馴染みが手を差し伸べる。 「オイ、矢張。御剣も来たのか」 「ああ、展示会の初日に来てくれてさあ。アイツ、オレを見て涙ぐみやがってよお」 「・・・えっ、御剣が?!」 「『事件の影にやっぱり矢張、と言われ続け・・・いい歳をしていつまでもフリーター。女運もなく、 この先どういう人生を送るのか、と思っていたがようやく君も立派に芸術家として生きていける、な』ってさッ!」 「・・・・・・・・・・・・・」 「その盛り上がった勢いで、アノ絵も買ってくれたワケよ!」 「・・・ところで、“冥ちゃんのムチムチ大冒険”だっけ? よく狩魔検事が出版を許可したなあ」 「いや〜、ソレは霧緒ちゃんのおかげよ」 「霧緒さんの?」 「霧緒ちゃんが、冥ちゃんを説得してくれたワケ」 矢張は近くにいた華宮霧緒と目を合わせ傍らに引き寄せた。 「ハイ、私が狩魔検事にお願いして実現いたしました」 霧緒は、いかにもうれしそうに矢張と目を合わせている。 そういえば以前、狩魔検事が霧緒さんに『何かあったら、相談にのる』ような、事を云っていたような。 いやいや、そんなことより・・・この二人のラブラブな雰囲気は何なんだ?! 「この展示会が開けたのも霧緒ちゃんのおかげなワケで、オレ今、霧緒ちゃんに首ったけなワケよッ!」 ―――――付き合っているのか。 「・・・そういえば、成歩堂。 先日、ある人物も来てくれたぜ」 「・・・?・・・」 「大人っぽく、なっちまったぜ!」 「・・・??・・・」 「ずいぶん、会ってないそうだなあ〜」 幼馴染はなにやら、ニヤニヤとした謎めいた笑いを浮かべた。 「パパ、なにか届いてるよ」 いつも通り遅くに起きて来た成歩堂に、学校から帰ったばかりの娘の“みぬき”が声をかける。 「あっ、成歩堂さん。先ほど宅配便が来てコレを置いていきましたよ」 成歩堂なんでも事務所の法律部門、王泥喜法介が机の上を指し示す。 包装を解き、中を確認する。 そこには、額縁に収まった一枚の絵とともに一通の短いメッセージが添えられていた。 「!!!!!!!!!!」 添えられたメッセージを握り込み、フードパーカーのポケットに押し込む。 「・・・パパ、この女の人、だれ?」 娘がのぞきこみ、その絵に描かれている髪の長い和服の女性の絵を見る。 それは素描のようなタッチの絵に薄い色の彩色をほどこされた、二十代位の女性の絵だった。 「キレイなヒトだけど変わった髪型だね“ちょんまげ”みたい」 「・・・アレ、成歩堂さん。なんで赤くなっているんですか?」 王泥喜の後頭部を問答無用にひっぱたいて、成歩堂は所長室兼、自分の部屋に引っ込んだ。法介の痛がる声と、 みぬきの父親を非難する声を背に部屋のドアを閉める。 「矢張ぃッ、余計なことを――――ッ!!」 ポケットの中にねじ込んだメッセージをゆっくり広げ、もう一度、目を通す。 「・・・会ってやれよッ、成歩堂!」 END |
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