検事さんに花束を |
作者:
カオル
URL: http://www.ab.auone-net.jp/~kaka/
2010年02月28日(日) 20時57分05秒公開
ID:P4s2KG9zUIE
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地方検事局の地下駐車場に車を留める。外来者用駐車場フェンス近くのAブロック。 以前、この場所で事件があった為、あまりこの場所には留めたくはないが…今はこの場所しか空いていないので、しかたがない…。 海外研修から早朝着の便で帰国し、不要な荷物を自宅に置いてから、一か月ぶりに検事局に出勤したのだ。そのため通常の出勤時間よりも遅めの出勤となった。もちろん、あらかじめそのように届け出てあるのだが…。 エンジンを止めて、キーを抜きシルバーのアタッシュケースを持って車を降りる。以前、乗っていた車は宝月元首席検事の事件で犯罪に使われたのがきっかけで廃車にした。 その後、この車に買い替えた。 特に“赤のボディー”にこだわった訳ではないのだが・・・結局“赤”を選んだ。 車に鍵をかけ、地下駐車場からエレベーターに乗り込み12階のボタンを押す。 (今でも、この瞬間は緊張する・・・フッ、私としたことが何を今さら・・・) 途中の階で何人かの職員がエレベーター内に乗り込んできた。 フフフッ・・・ 「んっ?!」 なぜだろう。今、私を見て笑っていたような気がするのだが…? 気のせいか? エレベーターを降りて、フロアーを歩く途中にすれ違った他の職員にも同じような反応が見られた。 「何だ? 何なのだっ?!」 自分の執務室に向かう前に、この階の男性用トイレに入って鏡を見たが別段おかしな点は見当たらない…。 なっとく出来ないまま、自分の執務室に向かって歩いて行くうちに、トンデモナイ光景が目に飛び込んで来た。 自分の執務室である1202号室の前に多くの花束と紅白の大きな花輪が置かれていた。そこには大きな文字でこう書かれていた。 『 御剣怜侍 様 “逆転検事”主役 おめでとうございます! 』 「!!!!!!!!!!!!!!!!!」 思わず、手に持っていたアタッシュケースを取り落とした。 「これは、一体どういうことなんだっ!!!!」 まるでパチンコ屋の開店祝いのような光景が、私の目の前に繰り広げられていた。ここに来てようやく自分が失笑を買っていた原因を理解することが出来た・・。 と、とにかく…この花輪や花束を何とかしなければ!いつまでもこの様なモノを飾らせておくわけにはいかない…。めまいを覚えながらも、執務室の扉を開けてデスクに置いてある電話を取り、警備室に即刻このようなモノを撤去してもらうように頼んだ。受話器を置いた後、ふと見るとデスクの上に郵便物らしきものが目に入った。よく見ると、それは全てお祝の電報であることに気がついた。 《 御剣 怜侍 様 ミツルギ 逆転検事 主役 おめでとう! オマエ ボクより女の子に人気あるからなあ… いつかこんな日が来るんじゃないかと思っていたよ 以前 ボクに代わって 特別弁護人として法廷に立ってもらった時のお礼がまだだったよな ふんぱつして大きな紅白の花輪を贈らせてもらったよ 逆転検事がこれからも続きますように… 成歩堂 龍一 》 あのパチンコ屋の開店祝いのようなモノを贈ってよこしたのは、オマエか成歩堂ッ!! 《 ミツルギ 検事 様 主役おめでとうございます!! いよいよミツルギ検事さんの時代がやってきたね! なるほどクンはイマイチぱっとしないというか…華がないというか キャラが弱いのかなあ… あっ それと美雲ちゃんとスゴクいいコンビだと思いました とにかく おめでとうございます! 倉院の里より 綾里真宵・春美 》 ・・ふっ、彼女達は相変わらずだな・・・ 《 御剣 怜二 様 よっ ミツルギ 主役おめでとう 共演者のオレとしてもうれしいかぎりだぜ! 今度はオレが主役だな 天流斎マシス こと 矢張 政志 》 矢張、私の名前の字が間違っているぞ…。 《 御剣 検事 様 お久しぶりです。宝月 茜です 少しでしたが御剣検事さんと共演出来てうれしかったです アメリカで色々な事を勉強して必ず科学捜査官をめざします… 》 ・・アメリカで頑張っているようだな・・・ 《 ミッチャーン!! やっぱりおばちゃんが見込んだだけの男だねえ〜 いつかこの日がくると思ってた アタシは とにかくイッパイ共演出来てよかったよー! あたなのカオルより 》 ・・・ぐぐぐぐっ!!・・・ 《 御剣 検事 殿 自分 三日ほど有給を使用して 田舎の親戚の結婚式に出席する事になったッス なので検事宛てのお祝のメッセージは机の上に置いておくッス! 糸鋸 圭介 》 ・・もやは、これは祝電ですらないな・・・ 「コンコン」 とドアをノックする音が聞こえた。 「御剣 怜侍、いいかしら?」 同じ検事である狩魔冥が入ってきた。 「どうしたのだ、冥」 部屋に入ってきた冥はいつもの態度とは違って、なぜか緊張している様子だった。 「・・今日あなたが、帰国すると聞いていたから・・・私も一応、姉弟子として弟弟子のお祝をしなければ・・・と思って・・」 ・・姉弟子としてか? 「とにかくハイ、これ…」 と、背後に隠していた包みを取り出して御剣に差し出した。 ・・・プレゼントか? 「開けてみても、いいだろうか?」 そう前置きしてから、ゆっくりとリボンをといて包みを開けると・・・ 「うっ・・・」 一瞬、息を飲んだ。こっ、これはアノいまわしい“タイホくん”人形ではないか! 『逆転検事』でもコイツには、散々な目にあわされてきたのだ…。 ンっ?! まて、コイツは何やら私と同じ色のジャケットを着て、フリルタイまで付けているゾ、もしかして私の服を模しているのか・・・? それは、ひと目で御剣の服と解るモノを着ているタイホくん人形だった。 「・・冥、これはいったい・・・」 「あっ、あなたは高価なモノは沢山持っていそうだし・・花は外に沢山飾ってあるから・・い、いいのよ・・別に気に入らなかったら処分してくれても・・・」 真っ赤になって懸命に釈明する姉弟子を見て、私は改めてその“タイホくん”人形を見た…。ところどころ苦心した跡が見受けられる…明らかに彼女の手作りだろう。冥が針仕事をしているところなど、今まで一度も見たことはなかったが・・・。 (・・皮の手袋で見えないが、おそらく彼女の手には絆創膏が巻かれていることだろうな・・) 「・・冥」 私は冥の肩を抱き寄せて、耳元で囁いた…。 「・・ありがとう冥、よろこんで飾らせてもらお・・・」 バシッッ!! 「御剣怜侍!勘違いするんじゃない!!調子に乗らないで!!!」 そう言い残し、姉弟子は足早に部屋を出て行った…。 ふうっ、やはり変わらないな・・・ ・・しかし・・・・ 普段、強気に振る舞い本心を見せたがらない冥の・・・彼女の気持ちを・・うれしく思った。 ・・・決して、人との関係を上手に築けるタイプの人間ではない自分にも・・・気にかけてくれる人が、これだけ周りにいるのだ・・・ 「・・私は自分が思っている以上に、一人ではないのだな・・・」 その時、先ほど電話で頼んだ警備員が外に飾られている花を片づけにやって来た。 「・・こちらから、頼んでおいて大変申し訳ないのだが・・もう少し、このままにしておくことにした」 せっかくの気持ちを無下にすることもあるまい・・・ ・・・だが・・・ 「キャー、見てみてえ〜」 「なに?あれえ〜」 「信じらんなあ〜い!!」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・」 執務中に外から絶えず聞こえてくる、このような声・・・ ついに、たえきれず再び内線をかける・・。 「ああ、私だが何度も申し訳ない。私の部屋の前に置いてあるアノ大きな紅白の花輪だけでも、なんとかしてもらえないだろうか・・・」 END |
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