執務室510号より愛を込めて
作者: カオル   URL: http://www.ab.auone-net.jp/~kaka/   2010年02月28日(日) 20時56分07秒公開   ID:P4s2KG9zUIE
…ある“ウワサ”を耳にした…


『今でも、アノ検事の部屋がそのまま保存されている』と…


本当なんだろうか?
もし、それが本当なら是非一度、訪ねてみたい…



私は、ある“元弁護士”に頼み込み
彼から“赤いヒラヒラした検事”を説得してもらい…
ついに、その部屋を見せてもらう約束を、取り付けることが出来た…。


…そして…当日…


検事局の受付で名前を名乗り、渡された来客用IDを首から下げ
何点かの注意事項を言い渡された後に、職員の案内に導かれて私は局内に入った…。

エレベーターに乗り込む…
お目当ての部屋は、どうやら5階にあるらしい…

エレベーターを降り、廊下をいくつか曲がり…ようやく部屋の前にたどり着いた。
510号室 …ここが“彼”が使用していた部屋…
そう思うと、言いようのない緊張感をおぼえた…。

職員が持参した鍵でドアを開ける…
私に許可された時間は30分…。
…そういう約束だった…
「時間になったら迎えにきますから…」
私は手短にお礼を言って、さっそく部屋の中に入った…。



そこは…昼間だというのに薄暗く、そしてホコリっぽい空気が漂っていた。

…それもそのはず、
この部屋の主がここを去ってから、もうだいぶ時が経つのだから…。
明りをつけるためにスイッチを探したが、
うまく見つけることが出来なかったので
しかたなく、窓にかかっていた
開閉式のブラインドを開けることにした。

私は窓からの明かりのおかげで、やっと部屋全体を見渡すことが出来た。

…天井には大きなファンが取り付けてあり、ドア付近のハンガーには
トレンチコートとソフト帽が掛ったまま…
正面には窓を背にするようかカタチで
彼が愛用していたデスクが置かれていた…。

そこはまるでモノトーンに彩られた、
ハードボイルドの探偵小説を
思い起こさせるような情景だった。

そう、例えるなら…
毛皮のコートを着た
金髪の美しい依頼人が訪ねて来るような…。
残念ながら、
私は毛皮など着てないし、
美女でもないのだけれど…。

壁際にはファイルなどを収納する為の
棚が据え付けてあるが、
所々大きく抜け落ちていて、
その乱雑さが見苦しかった。

事前の説明では、
「…重要な書類に関してはすでに撤去してありますので…」
とのこと、…多分そういうことなのだろう…。


部屋の隅に何段か積み重ねられている
段ボールを発見した。
蓋が開いていたので中を覗いてみる。
少しホコリをかぶってはいるが…
ひとつ取り出して手でホコリを払ってみた…。
間違いない、これは白いマグカップだ!


法廷の時に現れる…


これがアノ…『ゴドカップ』!!



ズゴイ! この段ボールに入っている、
この数多くのマグカップ!!


これが全部、あの白いマグカップなのだ!!!



欲しい、欲しい、ものスゴク欲しい!!!






一個くらい、持って帰ってもバレないかも…。


私の中で、欲望と理性が激しく葛藤しはじめた…





…そして…





…私は泣く泣く、それを元に戻した…


ここで欲望に負けて、
何か持ち出した事がわかったら



私を紹介してくれた
“元弁護士”に迷惑をかけてしまうだろう…。



…グズグズしている時間はない、私に許されている時間は短い。



私は、彼の愛用していた
デスクに手を伸ばした…
薄らとホコリの積もったデスクの上には、
クラシックなデザインの電気スタンドと
白紙のメモ用紙のみが、
今もそのままの状態で置かれていた…。

デスクの脇には
3段式の引き出しが備わっている。
一番下の引き出しは、
少し開いたままの状態だった…。


…引き出しを開けてはいけない…とは、
注意を受けてはいなかった…。



私は、恐る恐る引き出しを開けてみた…。






…残念ながら、何も入ってはいなかった…




その上の引き出しもカラであった…




最後に、一番上の引き出しも開けてみる…



引き出しの隅から
2、3粒のコーヒー豆を見つけた。
思わず笑みがこぼれる…。



…ンっ?!…



この段の引き出しの奥には何か入っているようだ…


そっと、“それ”を取り出してみる…


どうやら“フォトフレーム”のようだ…



…この時点で、あえて見なくても“そこ”に誰がいるのか…
私には察しがついていた…


この女性との関わりが、彼の人生を大きく変えることになったのだ…
ある意味“運命の女”というわけだ…



私はその“フォトフレーム”を伏せるようにして元に戻した…



「…お時間です。」

先ほどの職員が私を迎えに来た。

私は急いでブラインドを元に戻し
急かされるように、その部屋を立ち去った…。





検事局を後にして
今、自分が見てきた“あの部屋が”
建物の外側から見てどの辺りにあったのか…


“あの窓”はどの辺りだったのか…


探してみたけれど、
私には見つけ出すことが出来なかった…






…それにしても…解らない…






なぜ、“あの部屋”は、今もなお保存されているのだろうか…?








…あの部屋の主が、再びあの部屋を訪れることがあるのだろうか?







…後で知ったことなのだが…


“赤いヒラヒラした検事”さんは
今は出世していて
『主席検事』におなりだとか…



彼の指示で“510号室”がそのまま保存されていることも…




…もしかしたら…




あの部屋に、彼が再び戻ってくる日があるのかもしれない…





・・・・もしかしたら・・・・





…少なくとも、私はそれを願っている…








END















■作者からのメッセージ
私はゴドーさんが大好きです。もし「逆転検事2」があったら是非復活してもらいたいです。(どんな理屈をつけても…) 妄想的作品に付き合っていただいて、ありがとうございました。

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