嗚呼、運転免許!
作者: カオル   URL: http://www.ab.auone-net.jp/~kaka/   2010年02月28日(日) 20時55分21秒公開   ID:P4s2KG9zUIE
「遅せーゾ!いつまで待たせんだよー!!」
「ワルイ、ワルイ。 あ、スミマセーン!中生一つお願いします」

矢張と約束した居酒屋に30分遅れて、成歩堂はやって来た。
矢張は携帯電話を片手に弄りながら、もうすでに2杯ほどグラスをカラにしている・・・。

「アレ、御剣のヤツは?」
「ああ、今メールがあって、アイツ車を自宅に置いてからこっちに来るって」


――― 数日前 ―――


久しぶりに3人で会って飲もうという話になった。
どういうきっかけで、そういう話になったのかは忘れたけど・・・

とりあえず頼んだビールを一口飲み、
ついでにメニューの中から何品か頼む

「矢張、ボクさあ・・・今、教習所通ってんだけどさあ」
「おっ、オメエもついに車の免許取んのかよ!」

「うん、なんか車の免許くらい持ってないと肩身せまいんだよね・・・」
「オレなんか18歳で、さっさと取っちまったぜ」

「とりあえず、さっき1時間乗って来たんだ」
「オマエ今、どこまでいってんの?」

「まだ、第一段階のはじめの方だよ」
フーンと言いながら“運転免許”の先輩は串焼きを口に運んだ。

「矢張、オマエどれくらいで卒業した?」
「ウーン、そうだなあ・・・オレ、18歳の高校生の時だったから
学校終わって毎日のように通って・・2カ月位かな?」

「スゲー、優秀じゃん!」
「社会人になると、かえって時間つくるの大変だろう?」

「そうなんだよね、ハァーーー」
「なんだよ、成歩堂。ため息なんかつきやがって」

「ボクさあ、車の運転向かないような気がするんだよね」
「なんだよ、まだ始めたばかりだろう?」

そうなんだけどさ・・・と言いかけた時、青いスーツの男の肩越しに
エンジ色のスーツを着た男の姿を見た矢張が、声を張り上げる

「オーイ、御剣! こっち、こっち」
「すまない、遅くなってしまって・・・」

先ほどと同じように、とりあえずビールを頼み腰かける。


「よーし、それじゃ、あらためて乾杯しようぜ!」
矢張の音頭で、3人でジョッキをあわせる。

「ところで、成歩堂さっきオマエなんか言ってなかったけ?」
「ああ・・・ボク運転向かないかもしれない」

「初めはダレだってそんなもんだって」
「いったいどうしたのだ?」

矢張が今、来たばかりの男に事情を説明する。

「ほう・・・君もついに車の免許を取ることにしたのか」
「ボクさ、クラッチとギアの操作が上手くいかないんだよね・・・」
「オマエMT免許目指してんだ」

「うん、一応ね・・・やっぱりギアを操作するアノ動作ってカッコよくない?」
「ああ、オレもMTで免許とったからなあ、その気持ちわかるぜ!」
「・・・・・・・・・」

「でもさ、ロウギアからスタートしてスピード上げるに従ってセカンド、サード・・・
信号待ちで、いったん止まってまた、ローに戻してっていうのを忘れて
エンストするたびに教官に嫌味言われるんだよね・・・」
「ハハハハ・・・まだまだ先は長いぜ、成歩堂!」
「・・・・・・・・・」

「・・・なんだよ、御剣。さっきからミョーに静かだな」
「ンっ、ああ・・・」
「そういえば、オマエ確か乗っている車・・・スポーツタイプの車だったよな」

「ああ、そうだが・・・」
「不器用なオマエがよくクラッチ切って、ギア操作出来るなあ・・」

「矢張、最近のスポーツタイプはAT仕様が珍しくないのだよ」
「えっ、じゃもしかして、オマエの車AT仕様なの?」

「そうだが・・・」
「ダッセーーーーーーーー!!御剣、オマエの車MT車じゃねえの?!」

「ナっ、何を!! ポル●ェでも、フェ●ーリでも今はAT仕様は存在する!」
「御剣、オマエの免許もしかして、AT車限定?」


「悪いかッ!!」


だから、さっきから静かだったのか・・成歩堂はおかしくてしかたがない
矢張にいたっては、テーブルにうっぷして・・・笑い死に寸前である

「まあまあ、御剣そう怒るなよ・・・ボクおかげで元気もらったよ・・また次回から教習所通い頑張るよ」


これ以上、御剣を怒らせると帰りかねないので、気分を変える為にメニューを開きドリンクと料理を追加注文した。

「ところで成歩堂、オマエ何処の教習所通ってんの?」
「○▲教習所だけど・・・」

「オレが行ってた所と同じじゃん!」
「じゃあ、“S藤”って教官知ってる?」

「・・・ああっ、思い出した! アノ野郎まだ居んのかよ!!」
「あの教官に当たるとサイアクなんだよね・・・何で教習所の教官ってあんなにいばってるんだろう?
こっちは金払って通ってるのにさあ・・・ブツブツブツブツ・・・・」

「オレ、あいつには切れかかったぜ」
矢張は新しく注文したドリンクに手をのばした。

先ほどの怒りが収まって、二人の会話をだまって聞いていた
エンジ色のスーツの男が呆れたようにフッと笑う

「なんだよ、御剣」
「いや、わたしも○▲教習所で免許を取ったものでな」


えっ、そうだったの?


「しっかし、オマエみたいなプライドの高い野郎が、よく教習所の教官に辛抱できたなあ」
「フフフ・・・わたしは、ひどい教官には当たらなかったのでな・・・ほとんど女性の教官だった」


ハァっ?


成歩堂の記憶では、確かに自動車学校には女性の教官も何人かはいるが、決して多くはない
ほとんど男性教官だ。自分はまだ一度も女性の教官と同乗したことがない・・・。

「・・・御剣、それって・・・」
「ウム・・どういう訳か、わたしが教習の予約を入れると
女性の教官と同乗することがほとんどだった・・・」




「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」




信じらんねぇーーーーーーーーッ!!!
なんなんだよ、ソレーーーーーッ!!!






納得できない思いに包まれた、二人の男を横目で見ながら
勝ち誇ったように御剣怜侍は目の前のチューハイを飲み干した。




END


MT=マニュアルトランスミッションの略。
スポーツカーなど車へのこだわりのある方などは
お好きな仕様。クラッチとギアの操作が必要なので
運転するのはムズカシイです…。

AT=オートマチックトランスミッションの略。
現在のほとんどの車はこのタイプです。
MT車より運転はラク。AT限定免許の場合
このタイプの車のみ運転可能。








■作者からのメッセージ
以前から、ギモンに思っておりました。不器用な御剣さんがMT車の操作が出来るのか?そもそも、あのプライドの高さで教官の指導に耐えられるのか?もし、AT仕様のスポーツタイプにお乗りの方がいらっしゃいましたらスイマセン、全ては私の妄想です。お許し下さい!!

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