面会室にて
作者: カオル   URL: http://www.ab.auone-net.jp/~kaka/   2010年02月28日(日) 20時54分28秒公開   ID:P4s2KG9zUIE
「よっ、久しぶりだな・・・」
「・・・・・・・・」

看守に伴われて、その男は現れた
見たところ・・・以前のソレと、少しも変った様子はない
変わったところと言えば、縦じまのベストを着ていないという点だけか・・・

「私に会いたい、とのことだがどういった用件だろうか?」


アクリル板を境にこちら側にいる男は、向こう側にいる男を
透明の板越しに見やる

数日前、刑務所から連絡が入った
私に面会を希望している、と・・・

「オイ、オイ・・・そんなに怖い目でみるなよ」
男は肘をつきながら、銀のマスク越しに笑った

「私は忙しい身なのだ」
「ああ、オレもだぜ面会時間には限りがあるからな」

「ならば、早く用件を言いたまえ」
向かい合う男より、幾分若い男が眉間にシワを寄せる

「アンタ、“逆転検事”とか云うゲームの主役になったんだってなあ」
どこから現れたのか、コーヒーを片手に話しかける
「それが、何か?」

「水臭いじゃねえか・・・なんでオレに一声かけてくれねえんだい?」
「・・・・・・・・・・・」

「あの、じゃじゃ馬は、出てたそうじゃねえか・・・」

(狩魔 冥のことか・・・)


「君はまだ、だいぶ刑期が残っているような気がするのだが―――」
図々しいことを、ぬけぬけと言ってのける相手に皮肉を込めて尋ねる

「そこんとこの理屈はどうにでもなるんじゃねえのか?所詮、ゲームなんだからよう!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


―――身も蓋もないことを云う―――


「キャラクター人気投票でも、つねに上位にランクされる
オレが出ねえのは、勿体ねえだろう?」


「第1位は、私だがな・・・」


「アンタは“逆転裁判1〜3”に出ていたんだろう?
オレは“3”のみ、でこの結果だ・・・ちょっとしたもんだとは思わねえかい?」

銀の仮面の男も・・・負けてはいない

「どうして、カプ●ンはそのことに、気がつかねえんだろうなあ」
天を仰ぐようにして・・つぶやく

「特定の企業名を出すのは、やめてもらいたい!」

これ以上、付き合っていては
この男、どんな飛びぬけた事を言い出すか解らない

「・・・まあ、過ぎたことはしょうがねえ“逆検”のパート2でも
あったら、そんときはヨロシク頼むぜ・・・御剣検事さん、よう」

名前を呼ばれた男は、座っていたイスから腰を浮かす


「これ以上、話がないのなら・・・帰らせてもらおう」

出口へと向かう


「そう云えば―――
どうして限定販売“リミッテド・エディション”のオマケに
アンタと狼捜査官の名刺を付けなかったんだい?

リアルで、名刺交換が出来たのになあ!」


「!!!!!!!!!」


アクリル板の向こうから響くような笑い声に背を向けて
御剣はその場を立ち去った・・・













「あなたは、からかわれたのよ・・・怜侍」



疲れた様子で自分の執務室のデスクに座っている御剣怜侍に
同じ検事である狩魔冥が話かける・・・

「退屈しているのでしょう塀の中のくらしに・・・別に、気に病むことはない」

別に、気に病んでいる訳ではないのだが・・・


「ところで、冥、君は、あの男を一度もムチで打った事がないようだが・・・」
「えっ?!」

「・・・何故だね・・・?」


意外な問いかけに、少しうろたえたように女が答える


「たまたま、その機会がなかっただけよ!」
「では、再び“あの男”が君の目の前に現れたら君はムチ打つ事が出来るのかね?」

「そっ、それは・・・」
「そもそも君は何故、あの男の様子を聞きにわざわざ、私の部屋まで訪ねて来たのだ?」


「・・・・・・・・」


同門の男からの、思いもかけない突然の指摘
女は何かを言い返せない悔しさに奥歯をかみしめる





「それが、あの男の“魅力”というモノだよ・・・」




「!!」










――― そして ―――









音を立てるように、部屋のドアを閉めて
狩魔冥は出て行った







・・・フッ・・・








一人になった部屋の主は、静かに立ち上がり
自分の為にアフタヌーンティーを入れ始めた










いつもなら、濃いめに淹れたオリジナルブレンドに
ミルクを使うところだが
今日は、ストレートが似合う
ダージリンの葉茶を使うことにする











マスカットのような爽やかな香りが鼻をかすめる・・・











コーヒーとは違った・・・紅茶独特の繊細なテイストを味わう










「確かに、あの男には惹かれるものがある・・・だが」









そして、確信を持って、こう答える










「私が負けることは・・・あり得ない、がな」










END








■作者からのメッセージ
本編のゲームに「ゴドー」と「御剣」が一緒にいるところがなかったので、私が書かせて頂きました! “リミッテッド・エディション”って何?と思われた方、逆転検事の公式ページで確認して下さい!! 

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