ファーストキス
作者: カオル   URL: http://www.ab.auone-net.jp/~kaka/   2010年02月28日(日) 20時52分21秒公開   ID:P4s2KG9zUIE
「・・・冥・・・」
きれいな金髪、シャープな面立ち

「・・・アクビー・・・」
そしてメガネが似合うヒト

背は・・・同じくらい、そして・・・少し大人




女の淡い色合いのその髪に男の手が触れる・・・








今から数カ月前、国際的に暗躍する密輸組織を追う為に
インターポール(国際警察)に協力を求める必要が生じた。
書類一枚で済ませることも出来たけど
どうしても、担当者に会った上で協力を得たかった。
“狩魔はカンペキをもってよしとする”当然の事だ。

インターポールの本部があるリヨンで紹介されたのは
アクビー・フィックスという若い捜査官だった。
もっとも、向こうも担当の検事が自分より若い女性だったことに
驚いた様子だったけど・・・

私は今回、自分が追っている組織について彼に話した
「西鳳民国と云うアジアの小国を舞台に
国際的な密輸を行っている犯罪組織が存在する。
どうしてもインターポールの協力が必要なの」
「ミス冥、その組織については我々も承知している」


なら話は早い・・・


「それと・・・我々はこの組織の裏には、
ある国家が絡んでいると考えている。
組織を壊滅させる為には連中を一網打尽に
しなければ意味がない。
あとは、そちらにどれだけ本気で取り組む気があるかだ・・・」

メガネの奥から、こちらの腹の底を推し量るように見入る

「私は、その為に証拠を追っている」


ここで、弱い所を見せたら相手の信用を失う
組織壊滅のために、なんとしても
インターポールの協力が必要だった。



「・・・わかった、ミス冥。協力しよう」




私は、アクビー捜査官の差し出された手を取った。









それから、幾度か連絡を取り合う日々が続いた
彼は組織が絡んでいる密輸での
ヨーロッパの調査の結果を報告しに
私がいるアメリカに立ち寄ると云ってくれた


午後の便で到着した彼を空港まで迎えに行って
検事局内のオフィスで彼と話をしてから
食事をすることになった
彼はアメリカ人だったから言葉に困ることはない、
むしろ外出先のレストランでは私がエスコートしてもらう立場だった


彼は、食事の時にグラスワインを頼んだけれど
私はまだ、お酒は飲めない年齢なのでノンアルコールで
付き合った。そんな私を見て彼が笑う

「13歳で検事になったというのは本当なんだね・・・」


それが何か?私は年齢に関係なく検事として
アメリカでも日本でも十分に仕事を
してきたわ・・・少なくとも
アメリカでは無敗で通しているのよ・・・

目の前の男が謝罪する
「君を馬鹿にしたワケじゃないんだよ・・・
ただ君がすごく若い、という事を忘れそうに
なってね・・・」






“無敗の検事”であった父に検事になる為の
教育を受け、狩魔の教えを叩き込まれた。
父の期待に応えることが私の全てだった・・・




それなのに、ある日それが少し変わった
父が、ある青年を連れてきたのだ。



今まで、父の教えのすべてを託されたのは
私だけだと思っていたのに・・・
父はその青年に私同様、むしろそれ以上に接していた
父は間違いなくその青年に期待していた・・・


それが私には悔しかった
狩魔の教えを受け継ぐのは私ひとりで十分なはず
でも、私より年上のその青年は常に
私よりも先を歩みつづける・・・
いつしか彼に追いつき、追い越すことが
私のすべてに変わった


私は歩みを止める訳にはいかない・・・
今もこの世界のどこかで
あの男は私の先を歩き続けている



「もう、ここまででいいよ」



私の運転する車で彼が宿泊するホテルの
前まで送って行った。
暖色系の街の外灯は見る者すべてを
美しく見せる


「冥、仕事以外でも・・・会ってくれる?」


きれいな金髪、シャープな面立ち


「・・・アクビー・・・」


・・・メガネが似合う人
背はあの男と同じくらい、そしてあの男より少し大人



女の淡い色合いを思わせるその髪に男の手がふれる・・・




「まさか、今まで誰ともキスしたことがないって訳じゃないよね?」




「!!」













それは、だいぶ以前のこと・・・








偶然、あの男と一緒にいた時に大きな地震があった
彼はだいぶ動揺した様子で・・・そんな彼を見て私も動揺した
・・・どうしてよいのか解らず、とにかく近づいて声をかけた










突然、彼にしがみつかれた!










彼はちょっとしたパニック状態だったから
覚えていないかもしれないけど






・・・その時、わずかに唇がふれた









ねえアクビー、あなたは笑うかもしれないけど










・・・それが私のファーストキスだったのよ!












そして、私は今この瞬間も











あの男に囚われているのよ!














「・・・おやすみ、冥・・・」

彼は、車を降りそのままホテルのロビーに
消えて行った。











これは、嫉妬? それとも愛?











なぜ私がこんなにも、あなたにこだわっているのか・・・












私は、今もってその答えを見いだせないでいるのよ

















・・・怜侍・・・!!


















「冥、君はこの男を知っているのだろうか?」
エアラインのエレベーターの中で倒れている
男を目の前にして私は言葉が出なかった


「この男は君のプロフィールを所有していたのだが・・・」
「・・・私が空港で会うことになっていた国際警察の捜査官よ」


すでに、冷たくなっていたその男を見る私に
同門の男が尋ねる
「君はこの捜査官と面識があったのかね?」








私は彼に余計な詮索をされたくなかった・・・









「・・・いいえ」








END






■作者からのメッセージ
「冥」をメインに話を書いたことがないと気付きこのような事となりました。
アクビー、イケメンなのにすぐ死んじゃうなんてモッタイナイ・・・。

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