支えあって生きれたなら |
作者:
幸
2009年12月13日(日) 14時21分48秒公開
ID:HKDR9rnLXa2
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「おやおや・・・・これは珍しいお客さんだぜ。」 自分の目線からは遥か下に見える、小さな来客。 「こ・・こんにちはっ。ごどー検事さん!」 ―――綾里春美。 綾里キミ子の執念で生まれた、不幸なコネコちゃんだ・・・・ 「どうしたんだ?孤独な囚人を励ましに来てくれたのかい。」 「あ・・あの、わたくし・・・・あのとき、コーヒーをごちそうになって・・」 「ああ・・・・気に入ってもらえたかい。」 「はい!その・・お礼を言っていなかったものですから・・・・」 椅子から立ち上がり―――ありがとうございました。 どこまでも律儀なおじょうちゃんだぜ・・・・ 「それを言うために、わざわざ来てくれたのかい?」 そう聞くと、後ろめたいように唇を噛んで俯いた。 「・・どうやら、なにか悩みでもあるらしい・・・・オレに、話してみな。・・・・聞いてやるぜ。」 顔を上げてほっとしたように微笑む。椅子に座る。 「教えていただきたいことがあって・・・・」 「オレに、かい?」 小さく頷き、言った。 「・・・・強く、なりたいのです。」 小さいが、素直に届く声だ。なぜオレに聞いてくるのかは分からないが・・・・ 「クッ・・・・コネコちゃんは、強くなんかなくていいんだぜ。」 「ダメなのです!」 苦痛に声を張り上げて叫ぶ。 「弱くては・・・・ダメなのです。強くなければ・・・・」 ―――なんだ、それは。 なにがここまで、コネコちゃんを追い詰める? 「どうしたら、大切なヒトを守れるようになるのですか?ごどー検事が真宵さまを守ったように・・・・わたくしも。」 綾里真宵、か。 「オレは・・・・あの子を守ってなんていねえ。」 「いいえ!」 否定に否定を返され、少し驚く。 「違います。ごどー検事さんは・・・・真宵さまを、救ってくださいました。 だって、真宵さま・・・・あの事件の後から、とてもお幸せそうで・・・・」 少し俯き、なにか堪えているような表情をした。 「わたくし、分かるのです。いつも真宵さまを見ていたから・・・・」 ―――あたし、信じてますから。神乃木さんは、あたしのこと守ってくれたんだって。 ヒトをそこまで純粋に信じる―――それは、あのオトコに教えられたのか。 そしてそのオトコも、きっと。 ―――私は弁護士だから。信じたいんです、先輩。 何を今さら。自嘲気味な苦笑がこぼれる。 綾里と聞いて思い出したか・・・・ 「とても、悲しそうです。」 物思いにふけっていたから、自分にかけられた言葉だと認識するのに時間がかかった。 小さなコネコちゃんが見ている。 「ごどー検事のお顔・・・・悲しそうです。」 ―――この、子は。 どれだけヒトを見ているんだ。 「また、わたくしが・・・・ヒトを悲しませるのですね。」 俯きながら、静かに呟いた。 「・・・・なんだって?コネコちゃん。」 「わたくし、知っているのです。お母さまからのお手紙・・・・真宵さまのためではなかったのですよね。」 体が固まる感覚を覚えた。なぜ―――そんなことを。 「もし、真宵さまのためだったのなら・・・・真宵さまがあんなに危険な目に合わなかったはずです。 わたくしがいなければ、こんな・・・・」 幼い少女が、ここまで考える理由は――― 「コネコちゃん。」 「は、はいっ。」 いきなり呼ばれて驚いたか、勢いよく顔をあげた。 「そんなこと、言っちゃいけねえ。」 言われた意味が分からなかったのか、小さく首を傾げる。 「自分がいなければ、なんてな。生きたくても生きられない奴もいる。・・・・分かるだろう?」 言葉は発しないまま、静かに頷いた。 「オレたちには、生きる義務がある。・・・・許されないんだ、コネコちゃん。いなければ、なんて言うことは。」 ―――そうだ。 こんなポンコツの体でも、オレに死ぬ権利は与えられない。 罪を背負って生きろと。愛する女を守れなかった、永遠の罪を。 「生きるって、辛いことなんだ・・・・覚えておくといい。」 ―――まるで、自分に言い聞かせているようだ。 いくら後悔したって、戻ってこない。もう全て失っている。 「でも、わたくし。真宵さまが危険な目に合っているとき、泣くばかりでした。トノサマンさんの事件も、この前のときも。」 悲痛な表情を作って下を向く。 「なるほどくんも、ごどー検事さんも。真宵さまを助けるために、頑張って、頑張って。 なのにわたくしは、泣いていたんです。」 「コネコちゃん。」 「弱い自分がキライなのです。なるほどくんにも、真宵さまにも、迷惑をかけたくないのです。 だから、おふたりには何も心配をかけたくなくて・・・・」 ―――尾並田さん、私に“ありがとう”って言ってくれたんですよ!なのに・・・・ ―――泣くな。コーヒーがしょっぱくなっちまうぜ・・・・ ―――だって・・・・! ―――・・・・チヒロ・・・・ 「今はまだ、泣くときじゃねえ。・・・・顔を上げな、コネコちゃん。」 濡れた頬を少しだけ上に上げる。 「オトコが泣いていいのは・・・・すべてを終えたときだけ、だぜ。」 ・・・・すべて。そう、すべてだ。 「ちゃんと、自分の思いをぶつけなきゃならねえ・・・・それで伝わらなかったら、泣いていいんだ。」 「ぶつける・・・・」 「そうだ。ちゃんと伝えてきな・・・・それがダメだったら、一緒に泣いてやるぜ。」 何度も頷き、涙で汚れた顔を精一杯前に向ける。 ―――先輩、どうして私も誘ってくれないんですか。 ―――私だって、先輩の役に立ちたい。 ―――調べるなら、私もやります。私が担当した事件です! ―――どうしてひとりで背負い込むんですか。ヒトは支えあって生きていくんです! 分かってなかったな、オレも。 でもな・・・・今なら分かるぜ―――チヒロ。 お前が言いたかったこと・・・・やっと今。 「いいか、コネコちゃん。ムリして強くなろうとするな。」 その言葉に顔が真剣になる。 「ひとりじゃ生きていけねえのが人間だ。いいんだ、誰かに守ってもらって。どこかできっとコネコちゃんも、そいつを救ってるぜ。」 「わたくしが・・・・」 「綾里真宵だってそうだ。コネコちゃんがそばで支えてやってるだろう。」 あの子があるのは、コネコちゃんがいたからだ。 ―――ありがとうございました!また・・・・また、来ますね! 最高の笑顔を残して、面会室を去って行った。 なあ、チヒロ。 オレも、こんなことを言うようになったな。 どこか変わったか・・・・?オレは。 そんなことを聞いたら、きっとアイツは笑うんだろう・・・・ 思い出すことが苦痛だったあのころに比べれば、どれだけ幸せなんだろうな。 たまにこうして思い出に浸るくらいはいいだろう?・・・・チヒロ。 ―――オレも、あのオトコ変えられたひとり、みたいだな。 「クッ・・・・」 こんな感情、久しぶりだ。変なところまで・・・・つくづく似てやがる。 ―――チヒロ。お前が遺した坊や、オレが見ていくとするぜ。 ―――いつか、また会おうじゃねえか。・・・・成歩堂龍一。 |
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