私が貴方を導けるようになるその日まで |
作者:
楠木柚子
URL: http://kijyou.rakurakuhp.net
2009年10月14日(水) 17時20分51秒公開
ID:IY2jQhxUvas
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「大ドロボウのミクモちゃんです!」 「大ドロボウ‥‥‥?」 その言葉を最初に聞いたとき口をあんぐりと開けざるを得なかった。誰だってそうだと思う。ドロボウ、なんて自分から言い出す子は珍しい。‥‥‥でも、それ以上に驚いたのは‥‥‥。 その子が御剣と一緒にいる‥‥‥その事実だった。 「あかねさん‥‥‥あまり気にしないで。」 そういう御剣の顔は前に会ったときよりかなり明るくなっている。 (変わったなー、御剣検事さん。) と、茜は思う。以前の御剣なら女の子は愚か、ヒトと一緒にいることすら好まなかった。例えそれが親友の成歩堂でも。‥‥‥それが今では‥‥。 (女の子と一緒、か。) 「‥‥‥‥。」 茜は自分の心の中にえもいわれね感覚を憶えて黙り込んだ。――――これは‥‥? (―――嫉妬?) ―――違う。 それだけは即答できた。三年前、成歩堂と御剣の関係を知った時のモノとは、違う。アキラカに。 三年前の茜だったら嫉妬していただろう。幼馴染みだと宣言した御剣と同性の成歩堂にまで嫉妬したのだ。まして異性だったらどうなっていたか分からない。あの時の茜は寧ろ御剣が一人、孤独の中にいたことを歓喜したような人物だったのだから。自分しか手の届かないところだ、と。 でも、この感情は違う。――――寧ろ‥‥嬉しい、のだ。 例えその表情が成歩堂であれ、美雲であれ自分以外の誰かに向けられているモノだとしても、その表情が以前より格段に明るくなっていることが。 あの日、茜は御剣が成歩堂と再会したのは間違いだと思った。今までずっとヒトを避けてきた御剣の人生に成歩堂があまりに深く入り込みすぎたことで御剣はナニかを間違えてしまうのではないか、と。成歩堂はもちろん好感のもてる人物だが御剣と関わるべき人物ではなかったのだ、と。そう、思っていた。もちろんそこに茜自身の私的感情があったことは否定できない。 ――――でも、きっとそれは違った。今の御剣の明るい表情があるのはきっと彼のおかげ、だ。彼が御剣を正しい方向に導いてくれた、それは今の御剣の表情を見ればアキラカだった。 そして今、あたし以外の誰かに向けられる、貴方の笑顔を嬉しく思うのです。 「?‥‥どうかしましたか、あかねさん。」 暫く黙り込んでいた茜を不審に思ったのだろう。御剣が口を開く。 「いえ‥‥‥ただ。御剣検事さん変わったなー‥‥と思って。」 それがあたしに対して、じゃなくても。 御剣はその言葉を驚いたように聞いていたがやがて茜がみたこともないような笑顔で笑った。 「ナニを‥‥‥あかねさん、貴女も変わったではないか。」 「え‥‥‥?」 一瞬、ナニを言われたのか分からなくなるが、やがて意味を理解した。茜自身も、嫉妬しない御剣の幸せをただ純粋に喜べるようになったのだ。 「そう‥‥かもしれませんね。」 例えその表情が向けられなくともちゃんと見ていてくれている。御剣はそういう人物だ。 (やっぱり、諦められなくなっちゃうな。) あたしがもう少し変われるまで待っていてくださいね、御剣検事さん。あたしはまだ成歩堂さんのように貴方を導くことは出来ないから。あたしが貴方を導けるようになるその日まで。 そして今はただ祈り続けます。 貴方の、幸せを――――。 |
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